風見学園お昼の放送(外伝)
このSSは4日目の夜から、5日目の昼までを音夢視点で見たお昼の放送です。
なので4日目を読んで、これを読んで、5日目に進むというのが時系列順になります。




「もう、兄さんったらエッチなんだから」
私はベッドに寝転がってうつ伏せになったまま独り言を言った。
今日の昼休みに兄さんがしていたゲーム。俗に言う美少女ゲームというものだと思う。

「杉並君も結局捕まえられなかったし」
お気に入りのペンギンのぬいぐるみを抱きかかえる。
兄さんがあんなゲームをしていたのを見た後の昼休みの記憶はほとんど無い。
午後の授業も内容をちゃんと聞いていたかちょっと怪しかったりする。
ノートも自信無いし、明日眞子に見せて貰おう。

「・・・あのゲームの娘、お兄ちゃんって言ってたよね?やっぱり兄さんは妹が好きなのかな?」
冷静に考えると、すごく想像が膨らんで来た。

「ってことはさくらやことりよりも私のほうが有利ってことだよね?」
多分私は今ものすごく頬が紅潮していると思う。

「それならそうって言ってくれればいいのに♪」
顔が熱くなって行くのが鏡を見なくても分かるくらいだ。
私ったら何考えてるんだろ!
ブンッ!

「あわわ。ごめんね、つい投げちゃった」
興奮して、気付くと今まで抱えていたペンギンのぬいぐるみをついつい投げてしまっていた。
拾い上げて元の位置に戻す。

「明日、兄さんと顔合わせる時ににやけないかな?」
なんてことを心配しながら私は眠りについた。




「おはよう!兄さん」
何故かリビングにコソコソと入って来る兄さんに元気よく朝の挨拶をする。
うん、すごく自然に言うことが出来た。顔も紅くなってるとは思えないし。

「あ、ああ、おはよう音夢」
でも何でこんなにビクビクしてるんだろう?

「兄さん、何かやましいことでもあるんですか?」
「え?いやいや、そんなことはないぞ。気のせいだ」
「まぁいいですけど。それはそうと頭ボサボサですから先に髪の毛直して来たらどうです?」
兄さんは手を髪にやって、苦笑しながらリビングを出て行った。




「おっにい〜ちゃん!おはよう!」
「うわ、さくら、いきなり出て来て抱きつくな。危ないだろ」
家を出て私が鍵を閉めるために振り返った一瞬の隙に、さくらちゃんが兄さんに抱きついていた。
引き攣りそうになる顔を何とか笑顔に保つ。

「さくらちゃん、おはよう。ところで何してるのかしら?」
「アメリカ式のスキンシップだよ?何か問題ある?」
私とさくらちゃんの間に、目に見えない火花が飛び散る。

「いいから離れろ。いつまで抱きついてるつもりだ」
そう言って兄さんはさくらちゃんを引き剥がすが、兄さんの顔は少し赤くなっている。
やっぱりああいう風に抱きつかれたら嬉しいのかな?
私が同じことしたら・・・ってそんなこと出来るわけない。

昨日の『お兄ちゃん』って、もしかして兄さんが好きなのはさくらちゃん?
ううん。実際はさくらちゃんの方が年上だし、そんなことあるハズがない。
兄さんの妹は私だけなんだから。

「もう、今日もお弁当作って来てあげたのに。お昼一緒に食べよう、お兄ちゃん」
私が思考している間にさくらちゃんはカバンの中から弁当袋を取り出していた。

「そうか。それには感謝するよ」
そう言ってお弁当を受け取ろうとする兄さんの手とさくらちゃんの手の間に私は自分の手を割り込ませた。

「何するの、音夢ちゃん?」
「今日は私が兄さんのためにお弁当作ったから結構です!」
「何ィ!?音夢が?オレの為に弁当を?・・・手作りで?」
何かまた兄さんが失礼なこと考えてる気がしますけど、今はそんなこと気にしてられません。
それに今日のは会心の自信作なんですから。

「そうですよ。だからさくらちゃんのお弁当はいりません」
「むっ。そんなことないよね、お兄ちゃん。音夢ちゃんのお弁当なんかよりボクのお弁当の方が食べたいよね?
音夢ちゃんのお弁当なんか食べたらお兄ちゃんが倒れちゃうし」
「それはどういう意味ですか?」
「他に意味があるの?」
再び私とさくらちゃんの間で見えない火花が飛び散る。
さくらちゃんの料理が上手いことは認めてる。でもここで引くわけにはいかない。

「兄さん!」
「お兄ちゃん!」
「は、はい」
そしてほぼ同時に兄さんの方を向いて

『どっちのお弁当を食べるの!?』
兄さんに問いただしていた。

「両方頂きます・・・」




「はい、お兄ちゃん、あ〜ん」
「はい、兄さん、あ〜ん」
「やめろ!一人で食べれる」
昼休み、私たちは屋上に来ていた。
別にさくらちゃんは付いて来なくても良かったのに、付いて来ている。
昼休みが始まってすぐに兄さんと教室を出たのに、廊下で既に待ち受けていたのだ。

「もう、誰も見てないのに」
「そういう問題じゃない。恥ずかしいものは恥ずかしい。それよりお前ら、いいのか?今日も杉並は放送するだろ?」
「いいんですよ。聞こえなければ」
「そうそう。気にしたら負けだよ、お兄ちゃん」
「変なところで同調しやがって・・・」
2時間目に風紀委員長が教室までわざわざ作戦の打ちあわせにやって来たが、私はもう今日は気にしないようにしたのだ。
そんなことしてると、さくらちゃんに兄さんを一人占めされちゃいますし。

それなのに・・・
「さくらちゃん!いい加減兄さんから離れてください。兄さんが嫌がってるの分からないんですか?」
「違うよ!音夢ちゃんの料理食べるの嫌がってるんだよね、お兄ちゃん?」
「何故そこでオレに振る・・・」
そう言いながら兄さんは私達から距離を取った。

「兄さんは妹が好きなんです!」
「音夢ちゃん正確には義妹じゃない。ボクの方が血の繋がった妹っぽいよ」
「さくらちゃんこそ従姉弟じゃない。姉キャラなのに何言ってるの?」
「姉キャラって・・・」
兄さんが茶々を入れた気がしますが、今はそれどころじゃありません。

「ボクは妹キャラだってば!」
「3ヶ月どころか4ヶ月くらい年増じゃない!」
「たった4ヶ月でしょ!年増って言わないよ!」
「言います!」
「音夢ちゃんは耳年増の癖に・・・」
「なっ!?」
「何か文句あるの?!」
      ・
      ・
      ・
『ふんっ!!』

「朝倉先輩も大変ですね〜」
「ああ。全くだ。って、美春!?お前どっから沸いて出て来たんだ?」
「どこからって、杉並先輩じゃないんですからそこの扉から」
「まぁちょうどいいや。オレが入ると余計こじれるから、お前あの二人止めてくれないか?」
「はい!朝倉先輩のために一肌脱ぎますよ。まぁまぁ2人とも落ち着いて下さいよ」
いつの間に現れたのか、美春が私とさくらちゃんの間に割って入る。

「どうでしょう?ここは二人とも妹ってことで?」
『後輩キャラは黙ってて!!』
「ひ、酷いです・・・。美春も昔は朝倉先輩のことお兄ちゃんって呼んでたのに・・・」
「今は先輩って言ってるでしょ、美春ちゃん?」
「美春は私の味方よね?私が妹でしょ?」
「ボクだよね!?」
私とさくらちゃんが美春にジリジリと迫る。

「え、え〜っと美春はその・・・」
「ボクの方が妹っぽいよね?そうだよね?」
「で、ですから〜」
『どっちなの?!』
「う、うわ〜ん!!!」
『あっ、逃げた!』
美春はあっという間に屋上の扉を開いて逃げていった。
そして再びさくらちゃんに牽制をしようとしたところで兄さんが口を開く。

「それより弁当食っていいか?このままじゃ昼休みが終わるぞ?」
「あ、そうですね。それじゃ、あ〜ん」
「は無しな。自分で食うから箸貰うぞ」
「はい、お兄ちゃん」
「サンキュー」
私があ〜んの構えをしていた分、さくらちゃんが先にお箸とお弁当を渡してしまった。

「発音が違うよ。Thank youだよ」
「頼むから昼休みくらい勉強のことは忘れさせてくれ」
そう言いながら兄さんはさくらちゃんのお弁当をどんどん食べて行く。

「うわ〜、お兄ちゃんいい食べっぷり。早起きして作ったかいがあるよ。美味しい?」
「見りゃ、分かるだろ?美味いぞ。特にこのひじきが絶品だ」
「あ、ひじきなら私も作ったんですよ。食べ比べてみて下さい」
そう言って私はお弁当を差し出す。

「い、いや今はさくらのお弁当食べてるしな。そう楽しみは後に取って置きたいんだ」
すごく爽やかな笑顔で兄さんがそう言った。
楽しみを後にとって置きたいなら、仕方ないかな〜と思ったところでさくらちゃんが余計なことを言う。

「お兄ちゃんはどっちかと言うと、先に好きなの食べるタイプだけどね」
「あっ!余計なことを・・・」
「兄さん、どうぞ食べて下さい」
「い、いや今日は後に残しておきたい気分なんだ」
「お弁当冷めちゃいますよ?」
「いやいや最初から冷めてるから・・・」
「嫌がる人に押し付けるのってボクはどうかと思うな〜」
またまたさくらちゃんが余計なことを言う。

兄さんはそんなに私の料理食べたくないのかな?
そりゃ確かに何度となく失敗して、今度は大丈夫って言葉で兄さんに食べて貰い、その度に兄さんが倒れて来たけど。
今日こそは大丈夫・・・なハズ。だって、ちゃんとお弁当の本に載ってるレシピ見ながら作ったんだし。
これでミスってたらどうしようもないと思う。

「兄さんは・・・嫌・・・なの?」
「うっ・・・。分かった。分かったからその目をやめてくれ。オレも男だ。作ってくれた弁当を食べないというのは失礼だよな。いただきます」
神妙な顔つきで兄さんが私の作ったひじきを箸でつまむ・・・

「兄さん?」
「何だ?」
「何で一本しかつままないんですか?」
「これはアレだ。ひじきに対しての礼儀だ」
「さくらちゃんのはもっとたくさん取ってましたよね?」
そう言うと兄さんはひじきをつまみ直す。
そして・・・

モグモグ

「どうですか?」
「甘・・・いや辛・・・いや苦・・・う、う〜む。独特の味が・・・うっ!」
そう言った瞬間、兄さんの身体が傾き始めた。

「お兄ちゃん!?」
「兄さん!?」
そしてレジャーシートの上に倒れてしまった。

「音夢ちゃん、何てことするのさ!まだボクのお弁当残ってたのに」
「今はそういう問題じゃないでしょ?兄さんを保健室に連れて行かないと」
「どうやって?」
そういえばそうだ。身体の小さいさくらちゃんが兄さんを運べるわけがない。
私も兄さんを運べるほど力があるとは思えない。

「さくらちゃん!先生か誰か呼んで来て」
「先生はボクなんだけど」
・・・そう言えばそうだった。

「男の先生じゃないと兄さん運べないでしょ。それか知ってる男子生徒」
「音夢ちゃんが行けばいいじゃない。ボクがお兄ちゃんの看護してるから」
「兄さんは私が見るの!」
「ボクが見る!」
これじゃ全く進まない。でもさくらちゃんと兄さん残して行くのはありえない。

「それじゃ二人で呼びに行きましょう」
「それもそうだね。このままじゃお兄ちゃん死んじゃうよ」
「死ぬわけないでしょ!」
そんなことを言いながら私達は保健室へと階段を降りて行った。





5日目へ

お昼の放送シリーズ外伝完成です。製作開始が2年前。清書時間は今日と昨日。
内容がほとんど完成していてこれほど時間が開くとは・・・
覚えてない方がほとんどでしょうから1日目から5日目まで続けてどうぞ。
D.C.のSSっていつ以来だ?と思ったら、それこそお昼の放送5日目以来なので1年半ぶり。
お昼の放送から一切D.C.SS書いてませんでした。正確には書いたけど、完成してないが正しいですが。
2ヶ月ぶりのSSですが、楽しんでいただけましたでしょうか?
それでは次回SSが今年中に完成することを祈ってw



                                         
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