風見学園お昼の放送(5日目)
「う、う〜ん・・・」
「気付いたか?」
ぼやけた視界の中にごく最近見たような天井と杉並が見えた。

「えっ?・・・す、杉並。あれ、俺はどうしてここに?」
「朝倉妹に毒を盛られたところを俺が救出してやったのだ」
「・・・・・・・・・なるほど」
今さらながらに記憶が鮮明に甦ってくる。気絶してた俺をご丁寧にPCルームまで運んでくれたらしい。

「今日は来るつもりじゃなかったんだろう?どうする、教室に戻るか?」
「・・・事態は常に移り変わりゆくもんなんだ。だからその時々の決断が大事なんだよ」
今日は朝からとんでもなかった。
ただでさえ朝から妙に音夢がにやにやしてて不気味だった上に、さくらやことり、美春にあげくは眞子までおかしかった。
そして、音夢とさくらのW手作り弁当。

「おお。ようやく朝倉にも自覚が出来てきたか」
「自覚って何の自覚だ?」
「気にするな。こっちの話だ」
・・・これ以上訊くと逆に余計なことに巻き込まれそうな気がするのでやめておこう。

「・・・俺はここにいてもいいんだよな?」
「もちろんだ。一昨日のメールに書いただろう?歓迎すると」
「そりゃどうも」
「さて、いる以上は色々と手伝って貰うぞ。5日目ともなると相手もこのシチュエーションに慣れてるからな」
「へいへい。昨日と同じでいいんだろ?」
俺は昨日と同じ椅子に座り、指示書の通りマウスを操作する。

「それもあるが、今日はこれも頼む」
「何だ、これ?」
「見て分からんか?」
「いや、分かるけど、何でトランシーバー?」
俺の手には普通のトランシーバーが乗っかている。

「メールでも傍受されていると悟ったらしく、今日はトランシーバーで更に暗号も駆使してるようなのだ」
「・・・マジかよ」
「何。名前はα1やらβ1やら至って単純だ。時間、場所などの解読表を渡しておくから今日は解読も頼む」
「へいへい」
すでにトランシーバーではすさまじい勢いで指示が飛び交っていた。こいつら暗記してんのか?

「しかし、お前なら別に俺に任せなくても大丈夫な気がするがな」
「人間に耳は2つしかないのだ。無茶は言うな」
よく見るとすでに杉並は片方の耳にイヤホンを差し込んでいた。
こいつなら聖徳太子みたいなことも出来るような気がするけど。

「で、何で俺をわざわざここに連れて来たんだ?まさかトランシーバーの為だけか?」
「まぁ、多少疲れるがプログラムを組めば出来んことはないな」
やっぱりやろうと思えば出来るんじゃねぇか。

「それこそ俺を担いでまでして、ここまで連れて来た意味が分からん」
「まあ、聞け。今日掴んだ情報によると、朝倉妹が今日は妨害に来ないようだったのでそれでは面白くないと思ってな」
面白くない・・・ね。

「お前をエサに釣ってみた」
「エサ扱いかよ・・・。で、ちゃんと釣れてるのか?」
通信をよく聞け。朝倉妹の声がちゃんと混じってるだろうが。
・・・この冷静に指示を出してるのが音夢か。怒ってるよりなお怖い。

「風紀委員は回線2つ使ってんのか?」
「他にダミーが3つある。朝倉妹が指示を出してる2つがこの回線だ」
「あら、そう」
「片耳は開けておかんと有事の際困ることになるからな。主回線変更などの指示は聞き落とすなよ」
「へいへい」
と言ってる側から回線変更だ。俺は3チャンネルから7チャンネルに変更する。

そして時刻はもはやお馴染みとなった放送開始時間になる。
恒例の「ピンポ〜ンパンポ〜ン」の音。

「生徒のみなさん、こんにちは。1週間続いた私杉並プロデュースのお昼の放送も今日で終わりです」
そういや最初の放送の時に1週間だけって言ってたっけ?

「まことに悲しいことですが、仕方ありません。時間の許す限りみなさんの心に残る放送をお届けしようと思います。
いまや生徒だけでなく先生方からも熱烈な支持を受けています。それでは時間も惜しいのでサクサク進めて行きましょう」
心に残る・・・ね。

「当の本人たちにはトラウマが残りかねないがな」
俺は誰に言うでもなく、ぼそりと呟いた。

「今日は歌ではなくフルートの独奏から。水越眞子さんのソロでハンガリー田園幻想曲です」
・・・今日の第一の犠牲者は眞子か。

「お前昨日盛り上がらないとか言ってなかったか?」
「いや、投函箱に熱狂的な水越ファンが大量のハガキを入れてな。一部が盛り上がればいいかと」
「あ、そう」
とりあえず今日は眞子に話し掛けたりしない方が良さそうだ。

「男子だけでなく、むしろ下級生の女子に圧倒的支持を誇る女傑です。いや〜まさに漢の中の漢」
視線も合わせない方が良さそうだ。

「そういえば、朝倉?」
「ん?なんだ?」
「どうして毒と分かってて食べたんだ?」
「・・・・・・食わなくていいって選択肢がありゃ間違いなくそれを選んでたよ」
「で、結局食べて殉職したということか」
「自分で命日を決めるようなことをする趣味は無いんだがな・・・」
食っても食わなくても地獄が待ってるんだから仕方ない。
杉並が買ってくれていたパンを齧りながら無線に耳を傾ける。

むぅ、音夢はまだ本格的に動いてないみたいだな。中庭でなにかしてるみたいだが。

「昨日の私のうかつな発言で傷ついた皆様いかがでしたでしょうか?フルートだけは上手いんですよねえ。
続いては朝倉音夢さんで第2ボタンの誓い〜Candy morning Ver.〜で」
また音夢かよ・・・。火にどれだけ油を注げば気が済むんだ、こいつ?
通信で音夢が静かな声で指示を出してるのが余計に怖い・・・

「なんで各教室のスピーカーの電源を消してるのに音が出るの?」
続けて音夢の声がイヤホンから聴こえてくる。
教室操作で消えないんじゃ、もう、どうしようもないだろ。

「どうします?」
「やっぱり本人を押さえるしかないみたいね」
「どうしましょう、音夢先輩?」
お、美春が会話に入って来た。

「仕方ないわ。最終手段、学園中の電源を一度落とします」
「そんなこと出来るんですか!?」
マジかよ・・・

「これじゃお手上げだな。学園中の電源落とすみたいだぞ」
隣の杉並を見るがさも予測の範疇だとばかりの笑みを浮かべる。

「お前、どれだけ用意周到なんだよ」
「ありとあらゆる事態を想定しなければ朝倉妹の裏をかくことは出来んからな」

「放送止まりませんね」
美春の小さい声がイヤホンから聞こえてくる。
落としたらしいが、この部屋のPCが消える様子は全くない。

「予備電源まで用意してたみたいだね」
あり?ことりまでいつの間にか参加してるし。




「続いての曲の前に最後のお便りコーナーへ」
風紀委員があれこれしている間にあっという間に曲が終わった。

お便りのコーナーも何のトラブルも無く進んで行く。

「あ、おい。いつの間にかこの校舎に風紀委員が集結してるぞ?」
「むぅ、さすがに気付いたか。よし、一時移動するぞ。お前はこれらを持って上に上がれ」
と言って杉並は機材を渡して教室隅を指差す。

「どこを上がれと言っとるんだ?」
「そこのカーテンの裏に梯子がある。それに昇って天井を押せ」
「天井裏かよ?って、学校に天井裏なんてあるのか?」
「甘いな。上の放送室のロッカーと繋げてあるのだ」
「・・・・・・・・・」
梯子に登り、天井を押すと普通に開いた。どれだけ改造されてるんだ、この学校?

「よっと」
天井裏に上がると埃っぽいこともなく、わずかに明るい。
と、付けたままのイヤホンから美春達がこの真下の教室にいることが聞こえた。

「おい、美春がこの教室の真下にいるみたいだぞ?」
「こちらの通信でも上の放送室に数人集まってることを掴んでいる」
「もしかしなくても、バレてないか?上と下にいるってことは何かするつもりだろ?」
これだとすでにPCルーム外の廊下に何人か待ってそうだ。

「案ずるな。あらゆるシュミレートはしてある。まもなく突入して来るハズだ」
そう言いながら杉並も上がって来る。
こいつが言うからには大丈夫なんだろうが、昨日みたいに俺だけが犠牲になるのは勘弁だ。

「ちゃんと俺も逃げられるようにしといてくれよ」
「任せておけ」

「では次の曲へ進みましょう。芳乃先生が歌う『銀の泡沫』です」
いつの間にやらお便りコーナーも終わっていた。
再びさくらが犠牲か・・・

「むぅ、突入を遅らせるようだな」
「・・・今の通信は聞かなかったことにしよう」
ん?・・・げっ、この通信さくらも聞いてたのかよ。また音夢とケンカしてるし・・・

「芳乃嬢がいい撹乱をしてくれている。朝倉、お前では瞬時に逃げることは無理だ。そこでだ、両手を後ろにしろ」
「両手を?・・・こうか?」
「そう、それでいい」
ガチャ

「・・・って、おい!?何だこの手錠は?」
ガチャガチャ

「風紀委員御用達の緊急用手錠だ」
「そんなことは分かってるよ!これじゃ、なんの為に隠れてるんだよ!?」
「万が一のためだ。これで共犯扱いは免れれるのだぞ?」
くそっ。マジで外れないぞ、これ?本当に大丈夫なんだろうな?

「むぅ。トランシーバーでの指示は囮だな。携帯でもないようだし、どうやら直接指示を出しているらしい」
「風紀委員の連中もよくやるよ」
「曲ももう中盤だ。終了と同時に突入してくるかも知れん。気をつけろ」
「お前のお陰で気をつけるに気をつけられんがな」
そして曲が終わりにさしかかったころ、何かの音が鳴った。

プシュー

「ん?な、なんだ一体何の音だ?」
「さてな。ここからでは良く分からん」
そう言いいながらも杉並は覗き穴からPCルームを見る。俺もその横の穴からPCルームの様子を探った。

「煙?・・・火事か!?」
「バルサンだな。昨日買い込んでた理由はこれか。朝倉、息を10分ほど止めておけ」
「んなこと出来るか〜!!」
「仕方ないな。じゃあこのガスマスクを付けておいてやろう」
・・・どこで手に入れたんだ、こんなもん。

「俺はこの隙にさらなる段階の為に屋上に上がる。おそらくお前は見つかるが、知らんふりでもしておけ」
まだ何かするつもりなのか・・・
そう言うと杉並は振り向いた時にはすでに消えていた。
相変わらず神出鬼没な奴だ。

「それではお別れの曲です。主に取り上げた朝倉音夢さん、芳乃先生、白河ことりさんでサクラサクミライコイユメです」
放送は止まることなく続いている。しかし、すでにバルサンによってPCルームは1m先も見えなくなっていた。
どんだけ焚いたらこんなことになるんだよ・・・

ガラッ

ダダダダダダダ

ん?突入して来たのか?こんな視界の中?
PCルームの入り口が開いたことによって若干視界が晴れた。
うわっ!あいつらもガスマスク付けてるのかよ。

「目標いません!」
「・・・了解!必ず探し出します」
トランシーバーは杉並が持って行ってしまったので何を喋ってるのか分からないが、探すつもりらしい。
そうそうここが見つかるとは思えないがな・・・

ガラッ、ガラッ、ガラッ

「ん?」
どうやら突入して来た風紀委員が窓を全開にしたらしい。段々教室の様子がハッキリと見えるようになってきた。
ってあのドアから入って来るシルエットは妙に見覚えがある。あのアンテナと小さな身体は・・・

「いいですか。ここにいるのは間違いないんです」
「そうそう。ボクの作戦のお陰で追い詰めてるんだから」
げっ!音夢とさくらだ・・・

「どこかに間違いなく扉があるハズなので、ちゃんと探して下さい。どんでん返しになってる可能性もあります」
「床と天井は必ずチェックしてね」
『分かりました!!』
くっ。このままだと本当に見つかるぞ?かと言って手は使えないし。
・・・よし、やっぱり被害者顔で行くか。
自由に動く足を使い地面というか天井裏を叩く。

「今の音・・・」
「天井だね・・・。風紀委員さん、ちょっとあの辺見てくれる?」
こんなもんかな?

すぐに風紀委員が天井裏に上がる梯子を見つけて上がって来る。
手早くガスマスクを外されてご対面。げっ、本校3年の風紀委員長だよ。

「朝倉純一か。怪しいな・・・。お前もブラックリストに入ってるし」
「ちょっと。俺は被害者なんですよ?気絶してるところを杉並に無理矢理連れて来られて」
まくし立てるようにして被害者を装おる。・・・これで騙されてくれるか?

「何をしてるんですか?早く連れて降りてきて下さい」
「了解です」
先輩のハズのこの男が音夢に素直に従う。どんな権力持ってんだ、一体?

「手錠も付いてるし、一応は被害者のようなんですが・・・」
風紀委員・・・え〜っと顔見たことあるんだけど名前が出て来ない。・・・まぁいいや。Aがそう言った。

「いえ、こいつは杉並の悪行に何度と無く付き合ってる朝倉純一ですよ?グルだと思います」
さっき俺を連れて降りたB、つまり風紀委員長がそう言う。

「大体なんでこんなトコにいるんだか、拉致られでもしたのか?」
「正確に言うと気絶してて気付いたらあそこにいました」
「気絶?怪しいな。何をしたら気絶なんかするんだ?」
「それは本当だよ〜。音夢ちゃんが・・・うにゃ」
「おほほほほほ。さぁ、肝心の杉並君が見つかってませんよ。包囲網を突破されたとしか思えないんですから急いで探して下さい」
音夢に口を押さえられたさくらの顔がどんどん赤から紫になっていく。

「お〜い、そろそろ離さないと窒息するぞ?」
「えっ?あ、ごめんなさい、さくらちゃん」
「げほっ、こほっ。ひ、酷いよ音夢ちゃん」
他の風紀委員がいなくなったPCルームに俺と音夢、さくらだけが残った。

「兄さん」
「お兄ちゃん」
「あ〜、まずはこの手錠を外してくれると助かる」
「でも、鍵は杉並君が持ってるんじゃないの?」
「そうですね〜。風紀委員会の使う手錠と同じようですが、どの鍵も合いませんし・・・」
と持っていた鍵を一通り試し終わった音夢がため息をつく。
って、あの野郎。風紀委員御用達でも鍵は自分しか持ってないんじゃないか。

「おい、頼むから早く杉並を見つけてくれよ。さもないと午後の授業受けないぞ?」
「どんな脅迫の仕方ですか・・・」
音夢は呆れてるがこっちは大真面目だ。
杉並のことだ、このままじゃ明日までずっとこのままなんてことになりかねない。

「こっちは真剣なんだよ。確か屋上に行くとか言ってたハズだ。頼む!」
「分かりました。屋上ですね」
音夢はトランシーバーを取り出すと素早く指示を出す。

と思ったら、
「全隊に通達、杉並君は中庭にします。私はPCルームから向かいます」
こんな時までちゃんと偽情報流してるし・・・

「「「「「伝令部隊到着しました!」」」」」
「ご苦労様です。全隊に通達して下さい。星はこの校舎の屋上です。パターンβ2で対応するようにと」
「「「「「了解であります」」」」」
一瞬にして集まった伝令部隊とやらは、一瞬にして散って行った。
おそるべし、風紀委員。

「さぁ、私たちも行きますよ」
「行こっ、お兄ちゃん」
「・・・・・・このまま!?」
「もちろんです。さ、行きますよ」
とオレは音夢に片腕を組まれて引き摺られて行く。

「じゃあボクはこっち〜っと」
「ちょっ、おい引っ張らなくてもちゃんと行くから」
「ダメです。まだ兄さんの疑いが晴れたわけじゃないんですから」
「そうそう、容疑者はちゃんと確保しとかないと、ね?」
そんなことを言いながら二人は満面の笑みだ。

ってなわけでオレは二人に腕を組まれて屋上へと連行されて行っている。

「あら?」
「ん、どうかしたか?」
いきなり音夢が止まったので必然腕を組んでるオレも止まることになる。

「んにゃ?音夢ちゃん、早く行かないといけないんじゃないの?」
「そうなんですけど、このパターン一度あったような・・・」
と音夢は携帯を取り出して電話を掛ける。

「・・・美春?一小隊を一応中庭から出る為のポジションに配置してくれる?」
了解です〜とオレの耳にも聞こえるぐらい元気のいい声が返って来る。

「私達も中庭に行きましょう」
「中庭でいいのか?」
「ええ」
「女の勘って奴だね」
「それだけじゃなく、経験から基づくものもだけどね」
我が妹ながらつくづく恐ろしい・・・

いつの間にやら曲は終り、杉並がこの企画について正当性を訴えている。
ってか学校公認なら風紀委員が動く必要は無いんじゃ・・・

「それでは最終企画へ参ります。みなさん、しばらくお待ち下さい」

「いい予感はしないね〜」
「まだ何をするって言うんでしょうね?」
「ロクでもないことだろ」
その言葉を言ったところで中庭に着く。上から見た限りじゃ杉並はいなかったようだが。

「ようこそ、朝倉兄妹に芳乃先生」
「なんで待ってるんだよ」
「杉並君、素直にお縄を頂戴するってわけじゃなさそうですね」
「もちろんだ、朝倉妹よ。では最終企画へ移るとしよう。若干時間がズレてしまったので早めにな」
杉並がポケットからアンテナ付きのボタンらしきものを取り出す。

「ポチっとな」
「懐かしいセリフを・・・」
押すと同時に再び放送が流れ出した。

「長らくお待たせ致しました。今回の歌のほとんど、実はこれは先日春休み中に行ったカラオケを録音していたのです」

「そうだったのか?」
「そうなんだよ〜。全く一体どうやって録音したの?」
「それは企業秘密ですよ、先生」
「そんなことはどうでもいいんです。まだ歌を流すつもりなら強攻策に出ますよ?」
と音夢が片手をかざすと、草むらから風紀委員が出て来て杉並を囲んだ。

「追い詰めましたよ、杉並君」
「ことり・・・どこにいたんだ?」
「まぁまぁそれは置いといて。年貢の納め時ですよ、杉並君」
杉並を挟んでオレ達と正反対の位置にことりが立っていた。

「白河嬢もせっかちだな。ちゃんと放送は最後まで聞くものだぞ?」
と杉並は中庭にあるスピーカーを見る。

「まぁ、それはどうでもいいのですが、そこには裏があったのです」
放送はこの状況とは関係無しに続いている。
歌はもう終わったってのに裏って何だ?

「ま、まさか・・・」
「それまで知ってるの・・・?」
「そ、それは言っちゃダメです!」
と3人が妙に慌ててるし。
って、ようやく腕離してくれた。正直この場面で両手に花状態は絵的におかし過ぎる。

「ちなみに言っておくが、このボタンをもう一度押したところで放送は止まらんぞ」
と言って杉並が先ほどのボタンを投げ付けて来る。
ようやく両腕が解放されたオレがそれを受け取りボタンを押すも反応なし。

「その裏とは!・・・ここでCMです」

「さて、オレの言わんとすることは分かるだろう?」
「オレにはサッパリだ」
と言うより杉並、音夢、さくら、ことり以外もどうしたらいいのか分からず顔を見合わせあってるが。

「桜公園で買い食いと言えばバナナンボー!お帰りの際は是非お立ち寄り下さい。春の新作キャンペーン中!」
マジでCM入ってるし。

「誰かオレに何がどうなってるか教えてくれないか?」
「兄さんは黙ってて下さい!」
「はい、すいません・・・」
ここは沈黙は金だな。

「さて、今回のものは元から学校公認なんだが、それを正当なものと認めてくれるのかな?」
「まだその裏とやらを知ってるとは限らないんじゃないですか?」
「でも、音夢ちゃんこれは知ってるっぽいよ?」
「そうですよ。ここは悔しいですけど引くしかないんじゃ?」
と3人だけで会議を始め出した。

「CMは長くないし早めに決めた方が得策だと思うぞ?」
「大丈夫、始まっても多少の余裕は持たせてあるハズなんですから」
「そうだね。で、どうするの?やっぱりここは・・・」
「あと30秒。さすがに鋭いがどの程度か分からんのではないか?」
全く話が読めて来ない。何か弱みでも握られてるんだろうが、一体なんだっていうんだ?

「やっぱり無理だよ。どう考えても知ってるとしか・・・」
「ことりはそれでいいの?」
「ここは引いておいた方がいいと思うよ?」
「同感だね。あとは音夢ちゃんなんだけど・・・」
「・・・・・・分かりました。それじゃあ放送が始まるまで待ってて。本当に知ってるかの最終確認をするから」
どうやら結論が出たらしい

「放課後の雑談などに花より団子をご利用下さい。長らくお待たせ致しました」
CMが終わったらしい。オレは音夢の指示通り黙っておこう。

「実はとある人物とのデートが賭かってたんですが」
「っていきなりほとんど言ってるじゃないですか!分かりました、引きます!引けばいいんでしょ!」
「契約成立だ」
と杉並が携帯を取り出してどこかに電話を掛ける。
デートね・・・それって賭けるものなのか?

「最初にデュエットで喉を慣らした後、3人はソロで得点勝負を始めた訳です。しかし意外や意外、優勝したのは」
プツッ

「放送の途中ですが風紀委員との契約により放送はここまでとさせて頂きます」
「ギリギリセーフ・・・だったのかな?」
「完璧に知られてたね」
「・・・・・・杉並君、次は絶対に無いですからね!全員撤収です!」
と音夢が語気を荒げて風紀委員に指示を出す。

「どうだ、何も問題なく終わっただろう?」
「どこが?」
と杉並はオレの肩に手を回し薄ら笑いを浮かべる。

「それじゃあ教室に戻るとするか。もう予鈴も鳴るころだ」
「一体どういうことだったんだ、オレにはサッパリなんだが?」
「猫に負ければ誰でも恥ずかしいだろ?そういうことだ」
「はぁ?」
ますます訳が分からない。

「もう少し分かるように言ってくれ。全く分からん」
「同感ね」
「ん?・・・眞子!何でここに・・・って拳が燃えてるような気がするんだが?」
「気のせいじゃないわよ」
音夢のように殺気が身体から迸っている・・・

「おお、水越。どうだったさっきの生演奏は?」
「感想を教えてあげるわ」
ドゴッ
鋭いボディブローが杉並に突き刺さった。
一瞬にして崩れ落ち、沈黙。フルート奏者よりボクサーにでもなった方がいいんじゃないか?

「ふんっ!著作権侵害よ」
「まぁ、悪には天罰が下ったってことだな・・・」




「完全に筒抜けだったね〜」
「最初からこの手で取引するつもりだったんでしょうね」
「カラオケBOXに盗聴器でも仕掛けてたんでしょうね。犯罪ですよ」
放課後、音夢、さくら、ことりは桜公園にのベンチに座ってチョコバナナを食べていた。

「でも、私は別にいいかな。お陰で日曜日にデートの約束しちゃったし」
「「え〜っ!?」」
「ひ、酷いよ、抜け駆けだよ白河さん」
「ことり、ズルイですよ。日曜は私が約束しようと」
「でも、約束したものはしちゃったから仕方ないよ」
返事は取り付けてないけど、と心の中で付け足す。

「むぅ、白河さんの成績表悪くても知らないよ」
「それは職権濫用ですよ、芳乃先生」
「うるさい、うるさ〜い!教師も女の子なんです!」
やいのやいのと騒いでる内に周りはもう暗くなり始めていた。

「はぁ、でも言えないよね」
「そうですね〜」
「まさかうたまるに負けただなんてね」
はぁ、と3人の美少女の溜め息が春の夕闇の中に消えていった。





終わり

お昼の放送シリーズ最終日どうでしたでしょうか?
4日目から半年掛かりました。待ってて下さった奇特な方々、本当にすみません。
出来るだけ早くとか言って書き始めてから5ヶ月ほど全く触れなかったですね。
1日目から11ヶ月。とりあえず完結した長編(?)3作目です。
4月にもう1回ぐらい更新したいですが、どうなることやら・・・
まぁ、4日目と5日目の音夢の激変ぶりを説明する外伝も構想してますが。こっちはいつになるかな〜?
では次回作で。



                                     
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