風見学園お昼の放送(2日目)
「昼飯確保っと」
俺は昨日の反省を生かして4時間目が終わると同時にダッシュでパンを買い、中庭の目立たないベンチに腰掛けていた。
「走ったかいもあって焼きそばパンだしな」
俺の手には勝利者のみが手にするアイテムがあった。
このパンはレアモノで男でも手にするのが難しいのだ。

「全く昨日は参ったよな〜」
誰に言うわけでもない独り言。
結局昼飯は食べ損ねるし、杉並は捕まえられないしで何の得もなかった。
ま、杉並を捕まえたからって俺にとっては得でも何でもないけど。

「それにあいつは簡単に捕まるタマじゃないしな」
昼休み後の杉並は凄かった。
チャイムが鳴ったので仕方なく教室に戻ると平然と席に着いてたし、5時間目、6時間目が終わると一瞬で教室内から姿を消していた。
あの後の音夢には話しかけられなかったよな・・・
誰が見ても怒っているのが分かるほどで、俺には身体からオーラみたいなものが出ているのが見えていた。
今日も朝から不機嫌だったし、杉並は朝から逃げ続けてるし、今日はどうなるんだ一体?

「俺には関係ないけどな」
昨日も確かこの時間ぐらいに放送が流れ始めたよな〜

「おっにいちゃん!」
「おわっ!?」
いきなり後ろから首に抱きつかれてしまった。
ふむ

「この凹凸のない感触とこの声はさくらだな」
「・・・前半が余計だよ」
「事実だろ?」
俺は焼きそばパンの袋を開けつつシレっと答える。

「ピンポ〜ンパンポ〜ン」
「・・・今日もやるのかよ」
音夢から逃げつつやるとは見事なもんだ。

「昨日の音夢ちゃん歌上手かったね〜」
「そうだな〜。俺はそのせいでえらい目にあったが」
「うにゃ?えらい目って?」
「ま、色々だ」
俺は適当に誤魔化して焼きそばパンを一齧りする。
うん、やっぱり焼きそばパンは最高だ。

「みなさん!お待たせ致しました。今日もお昼の放送をお送りします。担当は今日も私杉並でお送りします」
「今日は何するんだろうな」
「楽しみだよね〜」
さくらは楽しそうにスピーカーの方を見ている。

「今日の歌の時間は、話題の新任教師、芳乃さくら先生です」
「へ?」
「お前だな」
「え、え、ええ〜!?」
さくらの笑顔が一瞬で崩れて慌てふためく顔になる。

「本日の企画は『芳乃さくらがお送りする歌の時間です』」
当然杉並にはさくらの声は聞こえない訳で、ドンドン喋りまくっている。

「実に楽しみじゃないか。お前の歌聴いたことないし」
「ちょ、ちょっとお兄ちゃん?なんでそんなに冷静なの?」
さっきまで楽しみにしてたくせに。

「だって俺は関係ないし」
「うにゃにゃ〜。だ、だってボクが歌うことになるなんて思わないでしょ?」
まぁ、もっともな考えだ。

「芳乃先生と言えば去年までは私杉並と同じく付属生だったのですが、元々アメリカで博士号も取っておられ、今年からは付属生、
本校生の為に教鞭を取っておられます。特徴的な金髪碧眼に加え、小学生のような・・・、と失礼」
「杉並君、覚えててよ・・・」
さくらも音夢と同じように闘気を発している気がする・・・
これはサッサと退散した方がよさそうだ。

「平均よりも小さい身長のため、女子生徒と一部の男子生徒に絶大な人気を誇ります」

「止めに行くからお兄ちゃんも付いて来てよ」
「い、嫌だ」
「むぅ。・・・通知簿が悪くなっても知らないよ?」
「なっ!?横暴だ!職権乱用だぞ!」
「・・・別にそれ以外にも方法はあるけどね」
な、何だ?まだ何か脅し方法があるってのか?いや、ハッタリに決まってる。

「それでは芳乃先生で、『記憶のゆりかご』です」
前奏が始まる。今日こそは昼飯を食うんだ。負けてたまるか。

「そ、そんなもんあるもんか。・・・言ってみろよ」
「音夢ちゃんに秘密バラしてもいいの?」
顔を伏せてさくらが俺に小さな声でそう言った。
本当に何か脅す文句がありそうだ・・・

「ひ、秘密ってなんだよ?」
裏返りそうな声を出しながら尋ねる。大丈夫、俺は音夢にバレて困るようなやましいことはしていないハズだ。

「ボクとお兄ちゃんが昔したお医者・・・」
「分かった!!分かったからもう言うなよ」
「やった〜。さすがお兄ちゃん」
「脅してんじゃねぇか」
「さ、行くよ」
さくらが俺の手を引く。

「と、その前に焼きそばパン・・・」
俺の手にあったハズの焼きそばパンは・・・

「うたまる!?お、お前・・・」
「にゃ?うにゃにゃ〜」
俺の手にあった焼きそばパンだったものは見事にただのパンになっていた。

「もう、早く行くよ。お兄ちゃん?」
「分かったよ、もう。うたまる覚えてろよ!」
あ〜あ、なんでこうなるんだよ。

「かったりぃ」




放送室に着くと、美春がいた。
「なんで風紀委員がいて放送が止まらないんだよ?」
「そ、それがですね・・・」
「早く止めてよ〜」
さくらは必死だ。だが曲はもう1分も残ってないし、いまさら止めたところで意味ないとおもうけどな〜

「テープも回ってないですし、ここから発信してないみたいなんです」
「はぁ?じゃああいつはどこから・・・」
「そ、そんな〜」
さくらががっくりとうな垂れる。

「音夢はどうしたんだ?」
「そ、それがその。言いにくいんですが・・・・・・」
「言いにくい?」
「多分杉並先輩を探してると思います」
「多分?どういうことなの美春ちゃん?」
美春が中々喋らないので曲が終わってしまった。

「曲終わったな」
「お兄ちゃんが早く動いてくれないから」
「また俺のせいかよ」
全く、こいつらは・・・

「みなさんいかがでしたでしょうか?見た目と同じ抜群のロリ・・・失礼。お子ちゃまボイスは?」
言い直す意味が全くない。絶対にわざとだ。

「・・・お兄ちゃん?」
「な、何だ?」
さくらから音夢並の威圧感を感じる・・・

「わざとやってると思うのボクだけかな?」
間違いなく気のせいじゃないだろう。

「多分・・・わざとだろうな。そ、そうだ、音夢はそれでどうしたって?」
「そうだよ、音夢ちゃん!一体どこにいるの?」
「あ、あのですね。音夢先輩と美春はここに昼休みが始まってすぐに張り込んだんです」
「いや場所が知りたいんだが・・・」
「え、え〜っと。放送が始まるまではすっごくピリピリしてたんですが」
妙に美春が喋りたがらない。音夢は何をしているんだ?

「今日は音夢先輩じゃないって分かった途端、いきなり笑顔になって・・・」
「なって?」
「美春にここに残るように言って、他の風紀委員のみなさんと一緒に探しに・・・」
美春が俯き加減でそう言った。

「なんで美春だけ?それより笑顔って・・・」
それはつまりこう解釈すればいいのか?

「今日はさくらだから別に急がなくてもいいよねってこと?」
「そう、それ」
言ったのはさくらだ。俺の背中を冷たい汗が流れるのが分かる。
音夢とさくらの仲は決して良くないが、ここまでとは。
まぁ今回の場合、昨日自分が被害にあってるから道連れ的なものってのもあると思うけど・・・

「ね、音夢もきっとその悪気が・・・」
あるよな、これは。

「そ、そうですよ。きっと今も必死に杉並先輩を探してますよ」
「ふ、ふふ。いいんだよ、お兄ちゃん、美春ちゃん。こうなったら風紀委員より先にボクが杉並君を捕まえるよ」
「美春も今から手伝いますから」
「俺も手伝ってやる」

「以上お便りのコーナーでした。放送時間がまだまだ余っています。それでは2曲目」
全く聴いていなかったが、杉並の放送はまだ続いていた。

「お兄ちゃん、美春ちゃん」
「ん?な、何だ?」
「な、何でしょうか?」
「走るよ」
「へっ?」
言うが早いかさくらは階段に向かって走っていた。

「それでは『月の魔法で恋したい』をどうぞ!」
再び前奏が流れ出す

「ど、どこに行く気だ?」
階段を凄いスピードで駆け下り2階に到達する。

「他に発信出来る場所はここしかないよ」
さくらが止まった場所の前には最近完成したPCルームがあった。

「なるほど、ここなら放送室の真下だしな」
「芳乃先生すごいです」
「入るよ」
そう言って扉を開けようとしたさくらの手を音夢が掴んだ。

「なんでここに音夢が?」
「うにゃ!?音夢ちゃん、何すんのさ!」
「声が大きい!」
「お前の方が大きいぞ」
「あ、もう。仕方ない、全員突入!!」
「へっ?」
音夢の掛け声と共にどこに隠れていたか大量の風紀委員がPCルームに入って行く。

「な、何がどうなってんだ?」
訳も分からず俺達3人は呆然としていた。しばらくして中から声が聞こえて来た。

「朝倉先輩、発見出来ません」
昨日と同じくこれは俺のことじゃない。

「そんな・・・。出入り口は封鎖していたのに・・・」
音夢が報告を受けて俺達の方を向く。

「もう、兄さん達のせいですよ」
「また俺かよ・・・」
「どういうことなのさ、音夢ちゃん」
さくらが音夢に問い詰める。

「私は杉並君を捕まえるチャンスだと思ってここで張っていたんです。それなのに杉並君に気付かれるようなことをするから」
「でかい声出したのは音夢じゃないか」
「何かおっしゃいましたか、兄さん?」
「何も言ってません」
ボソリと呟いただけなのに、地獄耳だな。

「それはつまり放送終了まで捕まえる気はなかったってこと?」
「そうですね。その方が杉並君も気が抜けているでしょうから」
「ボクのことは?」
「それは尊い犠牲ということで」
なんか空気が凍り付いてきた気がする。
いつの間にか歌が終わったのか、再び杉並が軽快なトークを飛ばしている。

「音夢ちゃん?」
「はい?」
2人から立ち上るオーラが龍と虎に見えるのは目の錯覚だと思いたい。

「ではアンコールと言う声が聞こえるのでもう一曲」
あ、あのバカ。これ以上さくらを刺激するな!

「もう、行くよお兄ちゃん」
なんとか激突は回避したものの、その後も俺はさくらに付いて走り回ることになってしまった。




キ〜ンコ〜ン カ〜ンコ〜ン

「・・・予鈴鳴ったし早く教室に戻ろうぜ。さくらも授業あるだろ?」
放送はとっくに終わりを告げ本鈴まで鳴ってしまった。

「杉並君、音夢ちゃん、覚えててよ。絶対後悔するからね」
さくらの表情を見ることは出来ないが、見ない方が良さそうだ。
俺はさっさと教室に戻ることにした。




この日も杉並は音夢&さくらから見事に逃げきっていた。
しかし、授業が終わって振り向くと消えてるってのはどういうトリックだ?
グ〜
「・・・かったるい」
美春とチョコバナナでも食いに行こうかな?
まだ火曜日。今週は長く感じそうだ。





3日目へ

これほど早く更新したのは今年入って初めてですね。
ってことで風見学園お昼の放送2日目いかがだったでしょうか?
音夢とさくらの確執が見てとれたかと思います(笑)
設定的には純一に彼女はいなくて音夢もさくらも純一を狙ってる本校生活ってところです。
記述はありませんが、杉並ENDつまりBAD ENDと工藤ノーマルENDでは音夢は本校に進学しただろうと思い書いてます。
土曜日にお昼の放送はないのでこのシリーズは5日目に終わる予定です。
次の3日目はまだ全然書いてないのでいつ更新になるかは分かりません。
多分今週中は無理です。来週も厳しいかも・・・
気長にお待ち下さい。では3日目でお会いしましょう。



                                  
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