風見学園お昼の放送(1日目)
いつもと変わらないお昼の放送のハズだった。
だが、食堂に音夢と来て天ぷらうどんを受け取った時にそれは始まった。

ピンポ〜ンパンポ〜ン
「なんだ今日の放送は?妙に古臭いな」
「デパートか何かの呼び出しみたいだね」
と俺が思ったことをそのまま音夢が口にしてくれる。

しかし、その音の後に続いて聴こえて来た声に俺は妙に納得してしまった。
「みなさん、こんにちは。今日のパーソナリティーはつまらない日常生活を楽しくさせる杉並がお送りします」
「す、杉並君!?」
「何やってんだ、あいつは」
俺はさして驚くほどのことでもないので空いてる椅子を探す。
杉並はラジオ放送の前置きみたいなことを言っている。それにしてもあいつ、いつから放送部に入ったんだ?
窓側に空いてる席を見つけ俺達はそこに向かった。

「ほら、音夢も座れよ。放送するだけだろうし、特に何か出来る訳でもないだろ?」
「それはそうですけど・・・」
音夢は立ったまま不安そうにスピーカーを見つめている。

「全く心配性な奴だな」
今日はちょっと豪勢に天ぷらうどんなこともあって、杉並のやることにさして興味も持たず食を進める。

前置きが終わり杉並が話を進めだした。
「さて、みなさん。私杉並が本日お送りするのは、独自にとったアンケートで見つけた企画です」
「何を見つけたんだか・・・」
ようやく座った音夢に話掛けたわけでなく独り言のように呟いた。

「もう、兄さんは他人事だと思って」
「だって事実そうだし」
杉並のすることにいちいち驚いていたらこの学園では生活できない。
周りの暇人共は結構放送を気にしているようだが。

「本日の企画は『朝倉音夢がお送りする歌の時間です』」
一瞬杉並が言ってることがよく分からなかったが、俺の目の前にいる音夢が歌うってことか?

「音夢、今からなんか歌うのか?」
冗談半分で一応聞いてみる。
食堂の視線がこのテーブルに集まってるような気がするが、無視の方向でいこう。

「まさか。学園で歌ったりしませんよ」
「音夢先輩!どんな歌、歌うんですか?」
能天気そのものとしか言えないわんこがどこからともなくやって来る。

「だから私は歌わないってば」
「え〜じゃあなんで杉並先輩はあんなことを?」
「私に聞かれても知らないよ」

「本日お送りするのは先週独自に収録した朝倉さんの歌です」
ご丁寧に杉並が教えてくれた。

「だそうだ。音夢そういえばこの間俺や杉並とカラオケ行ったよな?」
「そういえば・・・」
「ええ〜!?なんで美春も誘ってくれないんですか〜?」
「いや、そんなこと言われても・・・」
その時こっそり収録でもしたのか?
杉並はさっきから音夢について説明している。新入生は知らないし当然か。

「2度のミスコンで2度準優勝という鮮やかな活躍を見せる名実共に風見学園のアイドルの1人です」
まぁ、間違ったことは言ってないわな。裏を知らない奴は音夢の外面で判断するわけだし。

「それでは説明はこの辺にして。お送りしましょう、朝倉音夢さんで『幸せレシピ』」
「音夢の声だな」
予想通りこの間カラオケで音夢が歌ってた歌だ。

「音夢先輩の歌はいつ聴いても上手ですね〜」
「な、な、な、なんでそんなに冷静なんですか、2人とも!」
完全に音夢は慌てふためいているが、別に音痴でもないんだし堂々としとけばいいのに。

「さすが音夢は歌上手いよな。ことりに比べるとアレだけど」
「悪かったですね。・・・じゃなくて!兄さん!放送止めに行きますよ」
「は?なんで?」
「なんでじゃないです。私の歌が全校生に聴かれてるなんて考えただけで恥ずかしいじゃないですか」
確かに音夢の顔は耳まで真っ赤になっている。

「そんなことないですよ〜。音夢先輩の歌上手いんですから」
「美春は黙ってて!」
「は、はい」
叱られたわんこは縮こまっている。

「分かった、分かった。ちょっと待て。食べ終わってからだ」
「なんでそうなるんです!放送は始まってるんですよ?今すぐです」
「うわっ」
俺は腕を引っ掴まれて椅子から立ち上がらせられる。そして、そのまま引きづられだすのだった。
こんな時になんでこいつはこんなに力が強いんだ?

「お、俺の天ぷらが・・・」
まだ全く口を付けていない天ぷらが遠ざかって行く。こんなことならサッサと食えば良かった。

「今度奢りますよ!」
「本当だろうな!」
「そんなくだらないことで嘘つきません。美春それ食べていいから」
「あ、はい。どうもありがとうございます」




俺たちは放送室へと疾走していた。一応廊下は走っちゃいけないハズだが、風紀委員が走ってるんだ、問題ないだろう。
放送室は特別教室棟にある。走ったら普通は1分もかからないのだが、昼休みで想像以上に生徒が多く余分に時間が掛かった。

「放送室は3階か」
食堂は1階にあるので当然3階まで駆け登らなければならない。すでに息が切れかけてるってのに全く。
音夢の後に付いて走って行く。時々信じられない力出すな〜

「ゼェ、ハァ、ゼェ、ハァ」
放送室の前に着くころには当たり前だが息が切れていた。

「そ、それにしても鍵閉まってるだろ?どうすんだ?」
「だ、大丈夫。もうすぐ来るハズだから」
と音夢が言うと同時に声が聴こえた。

「す、すみません先輩」
と、廊下を駆けて来る女生徒がいた。音夢や美春と何度か一緒にいるのを見たことがあるから風紀委員なのだろう。
どうやら放送室の鍵を持って来たらしい。一体いつの間に連絡したんだ?

「ありがとう。もう帰っていいわよ」
「い、いえ。私も風紀委員の一員として立ち会います!」
「そう?じゃあ兄さん、開けるからね」
「へいへい」
と、俺が返事をした所で曲が終わった。

「曲終わったぞ」
「あ〜もう。兄さんがすぐに動いてくれないから」
「俺のせいかよ・・・」
すっごい理不尽なことを言われたが何を言っても無駄だろう。

「みなさん。いかがでしたでしょうか?さすがは学園のアイドルの1人。歌も抜群に上手いですね」
「アイドルねぇ・・・」
とてもじゃないが、いま俺の隣にいるのはアイドルじゃないな。

「この曲に色々感想が来てますので読んでみましょう」
「まだ続ける気か?」
杉並は俺達が放送室前にいることを知ってか知らずか続けようとしている。

ガチャ
音夢が鍵を開ける。
「ほら、兄さん。入りますよ」
「かったるいな〜」
俺は無意識にそう言っていた。

放送室の中に入るのは初めてだ。

「あれ?杉並は?」
そこはもぬけのカラで誰もいなかった。
テープレコーダーが動いている音だけがする。
放送は何事も無いように続いている。

「さて、たくさんのお便りを何枚か紹介しましょう」
「どうなってんだ、これ?」
「最初のお便り『ズバリ朝倉さんの3サイズは』」
・・・誰が書いたんだよ?

「ミスコンでも聴かれてた質問ですね。3サイズは知ってるのですが・・・」
ポチッ
と、そこで音夢がテープレコーダーの停止ボタンを押した。
杉並の声は途切れ、放送室内に静寂な空間が訪れる。
音夢は後ろから見て分かるようなオーラを醸し出していた。

「・・・・・・ふふふ」
「ね、音夢?どうかしたか」
「もうお仕置きするには十分なことをしましたよ、杉並君」
人前なのに猫をかぶっていない・・・
俺の経験上これは非常にまずい。

「ふふふふ」
相変わらず音夢は不気味な笑いを浮かべているが、ここで逃げたら俺の生命も危うい。

「あ〜、君?」
「は、はい?」
「お昼の放送が終わったこと言ってくれないか?」
音夢の不気味な笑いはまだ続いている。杉並がこの後どうなるか俺には分からない。
とりあえず俺に飛び火しないことを祈っておこう。多分無理なんだろうけど・・・




なんてことは言ってみたが、杉並がそうやすやすと捕まるタマではないのは分かっていたことだ。
昼休みは当然のように先生と同時に現れ、5時間目が終わって振り向くと音夢もすでに消えていた。
それは6時間目の後も一緒で、振り向くと2人とも影も形もなかった。で、HRにはちゃっかりと戻って来ていた。
しかし、音夢から殺気が見えるのは俺の気のせいだろうか・・・

放課後は風紀委員が走り回る様子が見れたわけだが、帰って来た音夢の顔を見たら取り逃したのは明白だった。
で、俺には杉並からこんなメールが来ていた。
『明日の放送もお楽しみに』
こんなメール見せたら音夢に携帯潰されかねないので黙っておこう。
明日も駆り出されそうだ・・・・・・
「かったるい」





2日目へ

久しぶりの更新です。
GW中に書き上げるつもりが気付いたらもう5月も半分でした。
色々なSSが中途半端で止まってる中新しい連続物SSを書き始めてしまいました。
他の連続物待ってる方すみません。
とりあえず、このSSを中心に書いてことり誕生日SSに繋げようと思います。
誕生日SS書いてないヒロインのはいつか書きます(多分)
それでは風見学園お昼の放送2日目で会いましょう。



                                  
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