音夢が投げて散らかした辞書を回収し、居間でココアを飲みながらくつろぐ純一と音夢。
ちょっとした近況報告をお互いにしあう。久しぶりに過ごす兄妹二人だけの時間。
そして話すことも少なくなった時にインターホンが鳴った。

「誰だろう?郵便屋さんかな?」
「さぁな」
すぐにもう1度インターホンが鳴った。

「はいはい。今出ますよー」
と言って、純一は印鑑を準備しつつ居間から声をかける。
それでももう1度インターホンが鳴った。

「出るってば」
純一はそう言いながらドアを開けた。

「誰もいない・・・イタズラか?」
辺りを見回すが誰もいない。

すると、
「いるよ〜」と言う声がする。

「どこだ?」声の主を探し純一は視線を下に向けると

そこにいたのは・・・

「パパー!」
「は、はぁ!?」
純一は少女を見るなり驚きの声を上げる。そして足に引っ付いた少女を観察する。

「ちょ、ちょっと、誰ッ?」
「パァパ?」
さらに困惑する純一。

「そ、それ・・・・・・どこの子?」ナイスな(?)タイミングでことりが現れる。
「え、あ、わ、こ、ことり!?」
ことりもまた少女を見て驚いている。

「ゆ、誘拐?」
「んなわけあるかー!」
「まさか、食べるとか?」
「食えるかーッ!意味の取りようによっちゃ、そっちもヤバイ〜!」
ことりのギャグともつかない突っ込みを否定しながら、純一は少女を引き剥がす。

「・・・・・・なーんて、親戚かなんか――」
「あーん、やめてよう、パパぁ」
「親戚かなんか――パッ、パパ!?」
少女の一言でことりの顔にタテ線が入る。

「やっ、ちょっと待てッ!俺がこの子のパパな訳ないだろッ!よく考えろ・・・・・・」
純一は慌てて弁明と言うより潔白を証明しようとするがすでにことりは聞く耳を持たない。

「そんな・・・・・・、朝倉くんが私以外に・・・・・・いやーッ、サイテイよー!」
「一体どうしたんですか兄さん?」と音夢が家の中から出てくる。
純一があまりに遅いので気になったのであろう。と、突然。

「音夢〜、あ、朝倉くんが浮気を〜」
とことりは言いながら音夢に抱きついた。

「しら、じゃなかった。ことり?ど、どうしたんです?」と言って純一の方を見ると。
再び純一に抱きついているヒナが目に入った。

「浮気って、あんな小さな子にやきもち焼いてるんですか?」
「ち、違うの・・・・・・あの子、パパって。隠し子なのよ〜」
と音夢の胸の中で鳴くことり。

「ちょっと待て〜!誰が隠し子だ!」
必死に否定する純一。

「隠し子って、まさか。ねぇ、兄さん?」
しかし、次の瞬間音夢の態度は一変した。

「パパ〜」
と言う少女の言葉に音夢の顔にもタテ線が入る。

「に、に、兄さんの・・・・・・」
震える音夢の声。

「待て〜!!ご、誤解だ。音夢もことりも落ち着け」
必死の訴えも届かず鉢植えを持ち上げ始める音夢。

「違う、違う、違うっての。これは誰かの陰謀だ!」
「不潔、変態、バカ、浮気者〜女の敵〜〜〜」
と鉢植えを投げようとした瞬間。

「あっ、ママだぁ!ママー」
と少女が音夢の方へ走ってゆく。

『ママ?』3人の声が見事に重なる。

そして少女はことりに抱きついた。

「えっ?マ、ママって、ママ?!
「ことりが・・・・・・」
「ママですと?」
さらに混乱する3人

「パパ、ママ、ようやく会えたねー」
と少女は言い、ことりの手を引っ張り純一の側に連れてゆく。

「ど、どういうことですか?2人とも私をからかってるんですか?」
と音夢が植木鉢を持ったまま、純一とことりをジト目で睨む。

「ま、待て。落ち着いて考えろ。この子明らかに4、5歳だぞ?俺の子供の訳ないだろ?」
「そう言えば・・・・・・そうね」
音夢は少し納得したのか植木鉢を地面に下ろした。

「あの・・・・・・朝倉くん、これはどういうこと?」
「俺の方が知りたいくらいだ」
 3人は女の子を見つめる。





「でも、この子ことりにそっくりですよ?」
と音夢が沈黙を破った。

「そうなんだよな。どう見てもことりそっくりなんだけど、ことりの子供のわけないし」
と純一も付け足す。

「迷子・・・・・・かな?」
とことりは少女を見る。

「ママって呼んでるぞ?」
「パパとも呼んでるよ?」
「何がどうなってるんですか?」
さすがの音夢も混乱したままだ。

「パパ、ママ、変な顔してどうしたの?あっ、音夢お姉ちゃんだ〜」
と少女は今度は音夢の方に飛びつく。

「はいっ?」
と間の抜けた声を出してしまう音夢。

「音夢・・・」
「お姉ちゃん〜〜〜?」
3人は顔を見合わせたままである。
しかし、これでは話が進まない。

「まぁ、とりあえず分かることは、俺はお前のパパじゃないぞ」
と純一はヒナに言った。

「私もあなたのママじゃありませんよ」
とことりも続けて少女に言う。

「お姉ちゃんって・・・何だろ?」
音夢だけは空を見上げて考えている。

「お姉ちゃん・・・・・・・・・か」そう言う音夢の顔はどこかにやけていた。

「そうなんだ。・・・じゃあ、ヒナのパパとママはどこ?」
「お前はヒナっていうのか」
「そうだよ、ヒナだよ」
「ヒナちゃん、どこから来たの?」
ことりはしゃがみこみヒナの目線に合わせた。

「・・・・・・わかんない」
 ヒナはぼそりと呟いた。

「どうしてここに来たんだ?」
「だって、パパのおうちだもん」
「・・・ことり、この子は誰かと俺達を間違えてるみたいだな」
純一は口に手を添えながらことりに囁く。

「当たり前ですよ。私だって、こんな子知らないもの」
ことりも同じようにぼそりと囁く。

「どっちにしても、この子の親を捜さないと」
「そうだね」
「よし、そうと決まったら早くしようぜ。日暮れまでには見つけてやりたいし」
「うん。ヒナちゃんの両親も心配してるだろうしね」

「と言う訳で、お姉ちゃんと一緒に行こう」
そう言ってことりがヒナに手を差し出すと、ヒナはすぐにその手を握った。

「音夢、俺たちこれからこのヒナの親を捜しに行くけど、どうする?」
しかし純一の言葉が聞こえていないのか音夢は空を見上げたままである。

「うふふふ。お姉ちゃん、か」

「お〜い、音夢?どうしたんだ?」

「えっ、あっ、わっ。な、何でもないよ。うん。」
目の前で手を振られてやっと気付く音夢。

「じゃあ俺たちは行くからな」
「へっ?ど、どこに?」
「だからヒナの両親を探しに行くから、行かないなら留守番しといてくれ」
「探すってどこを?」
「まぁ、最初は商店街のほうにでも行こうかと思ってるんだが」
「商店街だと人も多いしね」
とことりが付け足す。

「じゃあ、私もついてくね。夕飯の買い物しないと」
「・・・・・・買い物?」
純一の声が引き攣る。

「そう。久しぶりに私がご飯作ってあげるよ」
「ダメっ。絶対にダメ」
「な、何でダメなの?もしかして夏休みのことまだ根に持ってるの?あれから私練習したし大丈夫だよ」
「お前な。あの時どうなったのか忘れたのか。3日だぞ、3日。貴重な夏休みを3日も潰されたんだぞ俺は」
純一の声はどこか震えていた。

「あの時は大変だったよね。何も食べれなくなったから水だけ飲んで」
「今度は大丈夫だよ。・・・・・・多分」
「勘弁してくれ。冬休みまで無駄にしたくない」
「音夢お姉ちゃんの料理って少し変わった味がするもんね」
ことりと手をつないでいたヒナがいきなりそう言った。

「音夢の料理食べたことないだろ?ヒナは知らないだろうが音夢の料理は舌の上で魔界の交響曲を奏でるんだぞ?」
「そこまでいいますか?」
微かに音夢の声が引き攣っているが子供の前で暴力は振るわないだろう。
と、思ったがヒナには見えないように俺の尻を思いっきりつねった。

「うん。私が知ってる音夢お姉ちゃんの料理がそうだよ」
「ヒナちゃんにも音夢って知り合いがいるんだ」
「ま、まぁヒナもそう言ってるし、今日は出前にしよう。俺のおごりでいいから」
「・・・・・・わかりました。でも冬休み中に一回は食べてよね兄さん」
「出来れば冬休み最後の日にしてくれ・・・・・・」





続く

今年度中に完成だとか言ってもう更新してしまいました、中編です。
七夕SSが7月中のはずが全然進んでいません。
大分前から温めておいたこのストーリーと違い、一時閉鎖後に考えたものなので思うように進みません。
さて、このストーリーですがヒナとの交流をそこまで深く書くつもりはありません。
知りたい方はW.S.をプレイして下さい。(つまりネタバレをものともせず入った方)
メインはことりですが、やっぱり音夢もメイン?って書いてて思ってしまいます。
それでは次回後編をお楽しみに。



                                         

雪の降る季節に(中編)

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