雪の降る季節に(ヒナサイド)

寒い冬の公園。

昼とはいえ人は少ない。

そんな人気のない公園に1人の少女が佇んでいた。

外見は4、5歳に見えるが迷子とは感じさせない落ち着いた目をしている。

しかし、それよりも目に付くのは美しい赤い髪。

その赤い髪を青い十字の髪止めで左右に止めている。

「家に・・・帰らなくちゃ」
そう言うと少女は冬の街に駆け出して行った。

クリスマス一色に染まった商店街を抜け住宅街へと入っていく・・・




「おっかしいな〜」
私、朝倉ヒナは道に迷ってしまったみたいです。

見たことのあった景色が無くなり、見たこともない景色が私の目の前に広がっていた。

「どうしよう・・・」
途方に暮れそうになった時、どこからか木琴の音が聞こえてきました。

「木琴・・・だよね?これ?」
私はなんとなく音のする方へ向かって行きました。

−チャカポコチャカポコ
−スカラチャカポコ
−ポコチャカポコ

「凄い・・・・・・音痴」
予想通り木琴を叩いていたのですが、なんと寝ながら、しかも歩きながら木琴を叩いています。
多分高校生ぐらいだと思われるその女性はゆっくりと、しかし確実にこっちに向かってきてました。

私はポケ〜っと見入っていました。
右へ左へ動くことはあっても電信柱とかは確実に避けてます。
そして木琴を叩く手は全く止まってません。

「なんで寝ながらあんなことが出来るんだろ?」
「あらっ?私・・・・・・」
その人は私とすれ違う寸前に起きました。

「え〜っと・・・何か忘れてる気が・・・・・・・・・」
辺りを見回してヒナに気付いたみたいでした。

「私が何をするんだったか知りません?」
「えっ!?分からないよ。初めて会ったのに」
「それもそうですね。でも・・・白河さんに似てたのでつい」
白河?それって確かママの前の名前だよね?
ママのパパとママの名前だ。つまりおじいちゃんとおばあちゃん。

「その人どこにいるか知らない?」
「え〜っと・・・う〜ん・・・分からないですね〜。でも、多分まだ学園にいると思いますよ」
「学園?」
学園っていうとさくらお姉ちゃんが働いてるトコかな?

「そうです。あっ!?そうでした。眞子ちゃんと約束があったんでした。ありがとうございます」
「へっ?あ、学園ってどうやって・・・」
「それでは失礼しますね」
そう言うとその人はヒナが走るのと余り変わらないスピードで走って行ってしまいました。

いつまでもここにいる訳にもいかないのでヒナは来た道を戻ることにします。
パパ譲りで方向感覚は多分バッチリです。

「きゃっ!!」
見慣れた景色が広がり出した時、飼い主に引かれた犬が私に向かって吠えました。
私は思わずしりもちをついてしまいました。
ママほど苦手じゃないですけどいきなり吠えられたら驚きます。

「あ〜、ビックリした〜」
飼い主の人が謝ってくれたけどあのワンちゃんにも困ったものです。

桜公園まで戻って来たのはいいけどどっちに行けばいいんだろう?
ヒナはよくパパとママと座るベンチに腰掛けて考えます。

「う〜ん、あっちじゃないよね」
学園っていってもその学園の場所が分かりません。

「どうしたの?」
「えっ?」
気付くと目の前にさっきとは違う制服を着た人が立ってました。
でも、どこかで見たような・・・・・・。

「迷子・・・かな?名前は?」
「ヒナ」
「ヒナちゃんか〜。どうしたのこんなトコロで?」
「あのね、ヒナ家に帰りたいんだけど、どっちに行けばいいか分からないの」
「やっぱり迷子か〜。え〜っと、交番どこだったけ?」
ふと、その人がチョコバナナを持っていることに気付きました。
それも3つ。
この公園に来るとよくママが買ってくれるのと同じです。
その人は私がチョコバナナを見ていることに気付いたのか

「・・・欲しい?」
と聞いてきました。
もちろんです。甘い物にはヒナは目がないです。

「うん」
「じゃあ1つあげるね」
「ありがとう、お姉ちゃん」
ヒナとお姉ちゃんはベンチに並んで一緒に食べました。

「ヒナちゃんはどこでお母さんとはぐれたの?」
食べてる途中だったけどお姉ちゃんが聞いてきました。

「ううん。ヒナ、家から出て来たの」
「ありっ?そうなんだ。で、帰れなくなったと」
「うん」
でも、おかしいな〜。いつもならちゃんと帰れるのに。

「美春が一緒に探してもいいんだけどやっぱり警察かな〜?」
「美春?」
「うん。そう言えばまだ名乗ってなかったね。天枷美春。よろしくねヒナちゃん」
美春・・・・・・そうだ!この前叔母さんの家に行った時に遊びに来てた人だ。
あの時もバナナくれたっけ。

「どうしたの?」
ヒナが急に黙ったから不思議に思ったみたい。
この美春お姉ちゃんはこの前会った美春お姉ちゃんと違う。
この前観たこの美春お姉ちゃんはもう少し髪が長かった。
名前の同じ別の人なのかな?ヒナのこと知らないみたいだし・・・

「ううん、なんでもないよ」
「そう?ならいいけど。そうだ、ヒナちゃんのパパとママってどんな人?」
「う〜んとね。パパもママもすっごく優しくてヒナは大好きなの。この間もね」
ヒナはパパとママと一緒に出かけた所の話を美春お姉ちゃんに話しました。

「でね、そのイルカさんにパパが水かけられちゃって大変だったんだよ」
「あははは、すごく仲のいい両親なんだね?」
「うん。パパとママはすっごく仲良しなの。・・・・・・でも」
「でも?」
パパとママがケンカしてるのを思い出しちゃった・・・・・・

「ヒナちゃん?」
「ううん。なんでもないよ。・・・あれっ?」
とそこまで言ったところで桜公園を横切る金髪が見えた。
あれは間違えるはずもない。さくらお姉ちゃんの髪だ。

「ヒナ帰れると思うから帰るね。チョコバナナありがとう、美春お姉ちゃん」
「えっ?あ、うん。気をつけて帰ってね」
「うん」
ヒナはさっき見えた金髪の方へ向かって走りました。

見失いそうになったけど、さくらお姉ちゃんの髪の色はとてもきれいな金色なのですぐに見つかった。

「あ〜、うたまる。迎えに来てくれたの?」
「にゃにゃにゃ〜にゃにゃ」
「えっ?おかしいな〜。確かにこの間買ってきたと思ってたんだけど・・・・・・」
さくらお姉ちゃんはうたまるさんと話してるみたいです。
いつも思うけど、猫語とか分かるのかな〜?
パパはさくらお姉ちゃんは特別だからって言ってたけど。
取り敢えずここで見てても仕方ないよね。

「さくらお姉ちゃん?」
「えっ?君は・・・・・・」
さくらお姉ちゃんはヒナを見て何か戸惑ってるみたいです。
でもさっきの美春お姉ちゃんと違ってさくらお姉ちゃんは同じです。
間違いなくいつものさくらお姉ちゃん・・・だと思うんだけど。

「ヒナ、お家に帰りたいんだけど、お家がどこか分からなくて・・・」
黙ってても仕方ないからそれだけ言ってみました。
それでも、さくらお姉ちゃんは少しの間黙ってました。

「・・・・・・うん。じゃあ一緒に行こうか?」
と、さくらお姉ちゃんは笑顔で手を差し出してくれました。

「うん」
ヒナはさくらお姉ちゃんと手を繋いで歩き始めました。
最近はパパもママも手を繋いでくれてなかったので凄く暖かいや。

途中さくらお姉ちゃんは何故かパパの話ばっかりしてた。
中には知ってるのもあったけど、聞いた事がない話もあって凄く楽しい。

「さくらお姉ちゃんはパパのこと大好きなんだね〜」
「もちろん。ヒナちゃんもお兄ちゃんのこと大好きでしょ?」
「うん!パパもママも大好きだよ」



「ここからは分かるよね?」
お家まであと少しというところでさくらお姉ちゃんは立ち止まりました。

「ボクはやることがあるからここで。さ、家に帰るといいよ。きっとお兄ちゃんがいるはずだし」
「うん。ありがとう、さくらお姉ちゃん」
「ううん。じゃあ。早くホントの家に帰れるといいけど・・・・・・」
さくらお姉ちゃんはそう最後に呟いて来た道を戻っていきました。

「あったぁ〜」
私はついにお家の前に到着しました。
パパとママが心配してるはずです。
仲直りしてくれたかな・・・?

ピンポ〜ン

「・・・・・・・・・・・・あれ?」

ピンポ〜ン

「・・・・・・・・・・・・おかしいな〜?」
もう1度押すと同時にパパが出て来ました。

でも、このパパにとってもよく似てる人はパパであってパパじゃなかったの。
ヒナはお家に帰れるのかな〜?





前編に続く

全く更新してない音夢&さくら視点交換SSのリハーサルみたいな感じで書きました。
ヒナサイドからの朝倉家へ辿り着くまで。かなり短いので機会がありましたら加筆しようと思います。
ホワイトシーズンも長くやってないのでゲームプレイしながら書きました。
アフターバナナもやりたくなって大変でした(笑)
ヒナ視点ってのが想像以上に難しかったんですが、どうだったでしょう?
次のSSに生かせればと思います。
それでは雪の降る季節に後編をお楽しみに。



                                         
inserted by FC2 system