クラスでのことりの赤ちゃん発言。それはその日の放課後のうちに広まり、

「朝倉と白河さんが赤ちゃんを作るんだって」
「違うわよ、もう出来たのよ」
「白河さんに赤ちゃんが出来たんだって」
「父親はやっぱり朝倉らしいぞ」
と人から人へ、たちまち本校の校舎から附属の校舎へと。

噂と言うのは恐ろしいものでどんどん誇大化されていく。




翌朝には、

「聞いた?朝倉先輩と白河先輩が結婚するんだって」
教室に入ってきた女の子は美春にそう言った。

「えっ!? い、今なんて言ったの、さっちん?」
すでに教室で友達と話していた美春が驚き尋ねる。

「だから、噂だと朝倉先輩と白河先輩ができちゃった結婚するんだって」
さっちんと呼ばれた女の子は美春にそう言った。

「本当なの、それ?」
美春と話していた女の子、洋子がさっちんに尋ねる。

「噂だけどね。でも、もう風見学園中に広がってるみたいだよ。先生が話してるの聞いたもん」
「美春?」
洋子に呼ばれても美春は全く聞こえてないらしく何の返事もしなかった。

「美春?お〜い」
さっちんも返事をしない美春が気になり顔の前で手を振る。

「・・・はっ。こ、こんなことしてる場合じゃないです。音夢先輩に報告しないと」
そう言うと美春は携帯を取り出し、音夢にメールを送ろうとする。

美春の指が素早く動き、メールに文を作ってゆく。


題名:音夢先輩!一大事です

本文:朝倉先輩と白河先輩ができちゃった結婚するらしいです。

と1度ここで手が止まる。

「さっちん、その結婚式っていつ?」

いつになく真剣な表情で尋ねる美春。

「えっ?いつっていわれても、まだ噂だし・・・」
「そうそう、噂だし本当に結婚するのかも分からないよ?」
と美春の真剣な顔に驚きしどろもどろになるさっちんに洋子が付け足す。

「・・・ならあの人に聞いてみましょう」

美春はそう言うと音夢へのメールを1度保存し、新たにメールを打ち始める。

数分後、

「突然の呼び出し&質問だがお答えしよう」
「はい。それで本当なんですか、できちゃった結婚?」
と美春は呼び出した男、杉並に尋ねる。

「教えてやるが・・・。俺のクリスマスパーティまでの自由つきだぞ」
「分かってます。そのくらいのことなら、なんとか呑みますから教えてください」
美春は鼻息を荒くしながら杉並に詰め寄った。

「俺の調査では上級生たちの間ではこうなっている。ミスコンで今度はプロポーズするらしいと・・・」
「ふむふむ、それで?」
と美春は杉並の言葉を聞きながらさっきの音夢宛のメールに付け足していく。

「下級生では手芸部がタキシードやらウェディングドレスを用意して結婚式をするとなっているらしい」
まぁ、本校のほとんどの噂は嘘だと分かって消えてしまったがな、と小さく誰にも聞こえないように付け足す杉並。

「や、やっぱり、結婚を?」
美春の顔が更に強張っていく。

「ふむ。そうなるな。で、だ。他にも俺が司会をするのだの、お色直しは3回だの、全校生が強制参列だの・・・ケーキはバナナケーキだの」と言って杉並はニヤリと意味ありげな表情を浮かべた。

「ば、バナナケーキですかぁ?」
とさっきまでの顔はどこへやら、美春の顔が一瞬にして輝きだす。

「おお、そうだ。全校生で食べるような巨大特注バナナケーキだそうだぞ。材料は超一流。
もちろん、コックも超一流だ。食べたいか、わんこ嬢?」

「そ、それはもちろん。特注の巨大バナナケーキ・・・・・・じゅる」
「よだれ出てるよ」
と美春に注意するさっちん。

「はっ!」
慌ててよだれを拭う美春。

「それに、それはいくらなんでも嘘ですよね、杉並先輩?」
と洋子が杉並の方を振り返ると

「もういない・・・」
あいかわらず神出鬼没である。

「じゃあ音夢先輩に送信っと」
「ちょっと待って、美春。朝倉先輩に直接聞こうよ。まだ噂なんだし」
と送信ボタンを押そうとしていた美春を洋子が制そうとする。

しかし・・・ピッ

「あっ」
と、口が開いたままになる洋子。

「送っちゃった・・・」
と美春は携帯のディスプレイを2人に見せた。




初音島から離れた本州にある看護学校の寮の一室

ブルルルル、ブルルルル

「あっ、マナーモードにしたままだった」
音夢は机の上で震える携帯を手に取った。

「音夢ちゃん、メール?」
と同じ部屋にいた女の子が音夢に尋ねる。

「うん」
美春からか、そう小声で言って、少し残念そうな顔になる。

「どうしたの?」
「えっ?あ、ううん。なんでもないよ」
音夢はそう言いメールを開いた。

すると、

「音夢ちゃん?ど、どうしたの?こわいよ?」
それもそうであろう。音夢は必死に笑顔を作ってはいたが携帯電話を持つ手は震え、
額には今にも血管が浮き出しそうになっている。そして体全体から立ち上る凄まじいほどの殺気。

「わたし・・・帰る・・・」
と音夢はポツリと呟き荷物をまとめ始めた。

「音夢ちゃん!?クリスマスパーティしていくんじゃなかったの?」
女の子は慌てて音夢に尋ねる。

「ごめんなさい。すごく大事な用事思い出しちゃって」
音夢はそう言いながらどんどん荷物をバッグに詰めてゆく。

「用事って?もしかしてさっきのメールに関係あるの?」
「なんでもないよ。ただ・・・」
音夢はそこで一度言葉を止める。

「ただ?」
「人として間違ったことは見逃せなくて」
音夢は飛び切りの笑顔でそう言うとバッグを閉じ、コートに袖を通し始める。

「は、はぁ」
女の子はよく解らないといった顔でそれだけ口にした。

「じゃあみんなによろしくね」

音夢はそう言うとバックを持ち部屋から出て行った。




「さすがに学園から一直線だと退屈だな・・・」
純一はそんなことを言いながら鍵をカバンから取り出そうとする。

しかし、
「開いてる?」
まさか泥棒?とその考えは一瞬で消えた。ドアを開けると音夢がいたのだ。

「何だ音夢、帰って来てたのか・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
音夢は何も喋らない。

「言ってくれれば迎えに・・・音夢?どうした・・・・・・どうかなさいましたか?」
ただならぬ音夢の雰囲気と横に積まれた本の山に思わず敬語になる純一。

「兄さんの・・・・・・・・・」
「俺の?」
「バカーーーーーー!!!!」
音夢の叫びと共に古語辞典が飛んでくる。

「うおっ。一体俺が何をしたってんだ?!」
間一髪かわして音夢に尋ねる純一。

しかし、
「自分の胸に聞きなさい!!」
と言う声とともに飛んできた第2弾は見事に腹にヒット。

「ぐおおおお。お、俺が何をしたってんだよ?」
「美春に聞いたわよ。白河さんと・・・」
そこで音夢は1度口籠る。

「ことりと俺が喧嘩したことか?」

ピクッ

「白河さんを妊娠させて」
「えっ!?いや、何を言ってんだ?」
「でき婚かと思えば妊娠したらポイ?この・・・」
音夢には純一の言葉はまったく聞こえていないようだった。

「待て〜!!話を聞け〜〜〜!!!」
「人間のクズ!!」
植物図鑑が純一の右足にヒットする。

逃げることが出来ないようにするためにまず機動力を奪う。

「ま、待て音夢。話せば」
「女の敵!!!」
国語辞典が左足に。

「ケダモノ!!!!」
電話帳が顔を隠した両手に。

「だ、だから話を・・・」
純一の訴えもむなしく、

「問答無用!!!!!」
とどめの広辞苑が脳天に炸裂する。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
音夢は息を切らしながら玄関に倒れている純一を見ている。

しばらくして音夢の呼吸も整い始めた頃。

「だ、だから違うんだよ」
「まだ言う?」
音夢は百科事典を振りかざす。

「俺はことりを妊娠させてなんかない!!」
地にひれ伏した純一は力を振り絞りそう言った。

「へっ?えっ?えっ、えっ、えーーーーーーっ!?」
音夢は訳が分からず混乱しているようだった。

「だ、だって。結婚式をするんでしょ?25日のクリスマスパーティにできちゃった結婚」

と、死にかけている純一に音夢は尋ねた。

「出来てもないし、結婚もしない」
「だ、だって美春が」
そう言って音夢は美春からのメールを純一に見せる。

「・・・どこでどうなりゃこんなことになるんだ?」
純一はようやく立ち上がり、首を傾げる。

「な、なんだ。よかった〜。私てっきり兄さんが人としての道を踏み誤ったのかと・・・」
「おい。何がよかっただ。散々辞書やら何やら人にぶつけといて。」
「あ、あはははは。おかえりの挨拶?」
と、笑顔でごまかそうとする音夢。

「大体考えろよ。俺はまだ15だぞ?もうすぐ16になるけど日本の憲法じゃ18まで結婚できないんだからおかしいとか思えよ」
「そ、それもそうだったね。私ったらついうっかり・・・」
アハハハハと乾いた声で笑う音夢。

「そのついうっかりに殺されそうになったっての」
「・・・ごめんなさい」
音夢の顔が今にも泣きそうになる。

「全く、それに・・・・・・」
「それに?」
「俺だろうが、おかえりを言うのは」
一瞬ポカンとした顔をした音夢だったが

「うん。ただいま、兄さん」
次の瞬間にはとびきりの笑顔になっていた。





続く

ホワイトシ−ズンのもしもシリーズです。
かなりのネタバレですので未プレイの人はこれ以上見ない方がいいと思います(もう手遅れか?)。
ことりのシナリオでもしも音夢が帰って来ていたらです。
音夢が他のヒロインのイベントの時に帰ってくるのはさくらの時だけなんですけどね。
ここで出せば面白いかな?と考えて出しました。前・中・後編の3部作になる予定です。
多分今年度中に完成する冬の物語です。今は夏ですが完成する頃には冬というネタです。
それでは中編までしばらくお待ちください。



                                         

雪の降る季節に(前編)

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