「おはようございます、兄さん!」
「ん~もう5分寝かせてくれ~」
「何を言ってるんですか。早く起き・・・て・・・」
朝、昨日も昨日とて夜更かしした俺はすももに起こそうとされるが、まだ起きる気がしない。
朝の5分の睡眠は貴重なのだ。って、あれ?すももの声が途中で途切れた気がする。

何事かと眠気に負けて閉じていた瞼を頑張って上げる。
と、そこには机の上を見たまま静止しているすももがいた。

「どうかしたのか?」
机の上にエロ本なんか置きっぱなしにした記憶は無いんだが。
というかこの家の中にそんなもん置いていたら、かーさんに満面の笑みをされることになってしまう。
探し当てられて机の上に設置、そういう展開が待っているだろう。
あいにくそんな羞恥プレイをされるような趣味はMなハチと違って持ち合わせていない。

「に、兄さん、こ、これは一体?」
そんなことを考えていたら、ようやくすももが声を出した。
促されて机の上を見てみると、寝る時には確かになかった箱が鎮座している。パッと見、ケーキの箱のようだが。
何か嫌な予感がしてきた。すももをよく見ると胸に綺麗にラッピングされた袋を持っている。

いつの間にかある箱
      ↓
昨晩から俺以外誰も来てない部屋
      ↓
今日はバレンタイン
ここまでくれば答えは一つだ。

「やっぱり」
ベットから抜け出た俺は、箱の上にあるメッセージカードを見て確信した
そこにはSuzuriと書かれていた。母さん、つまり御薙鈴莉先生からのものである。

「わざわざ魔法で送りつけて来たのか、あの人は・・・」
どうやら転移魔法で送って来たらしい。
実の息子にキスマーク付きのメッセージカードを送る母親がどこにいるんだ?

「ひ、酷いです、兄さん。兄さんに一番にあげようと思って、昨日頑張って作ったのに」
「す、すもも?」
気付くとすももは今にも泣きそうな表情になっている。俺か?俺が悪いのか?

「昨日はお楽しみでしたね、だったなんて~!」
「ええ!?ちょっと待て、どこをどう間違ったらそう解釈するんだ!?しかも表現が古い!!」
「うわ~ん、兄さんのバカ~!!」
すももは泣きながら部屋を出て行ってしまう。
どうやら壮大な勘違いをされたらしい。母さんからのだって気付いてないのか?
とりあえずこのままでは下にいるかーさんに何を言われるか分かったもんじゃない。早く誤解を解かないと。




「な~んだ、御薙先生のだったんですか。私はてっきり兄さんが昨日そういうことを・・・」
「そういうこと?」
「いえいえ、何でも無いです!」
「それにしてもすももちゃんの早とちりにも困ったものよね~」
「その早とちりを信じたかーさんにビンタされたんだけど・・・」
俺の頬にはくっきりとかーさんの手形がついていた。
降りて早々に誤解を解く間も無く、かーさんにプレゼントされたものだ。
学校に着くまでに消えるんだろうな、これ?

「あはははは、ごめんね~。でもすももちゃんを泣かせたのは事実でしょ?」
「いや、まぁ・・・ね」
そりゃまぁそうだけど。しかしそれは間違っても俺のせいじゃないと思うんだが。

「それじゃあ誤解も解けたところで、はい、雄真くん」
「ありがとう」
俺はかーさんから差し出されたチョコを受け取る。
すもものチョコと似たようなラッピングがされていた。

「あ~!まだチョコレート渡してないのに!お母さんにも先を越されちゃいました・・・」
そういやまだ貰ってなかったな。

「でも鈴莉はチョコケーキか。何か負けた気がするわ」
「負けたって何?」
チョコレートに勝つも負けるも無いだろうに。
敢えて言うなら両想いになれれば勝ちか?

「よ~し、かーさんが雄真くんへの愛で鈴莉に負けてないってことを見せてあげる」
「何する気?」
「んふふふ、夜を楽しみにしてて」
全くもって良い予感がしない。

「それじゃわたしは先に行くわね。雄真くん、今年は何個持って帰ってくるのかしら?」
「そんな楽しみにされても困るんだけど。ところでかーさん、それはやっぱりチョコ?」
「もちろん。毎年先行投資しないとね~」
かーさんは両手に紙袋を持っている。中身は大量のチョコ。毎年配って回って1ヶ月後にはウハウハというわけだ。
何しろかーさんのファンクラブなんてもんも存在するらしいからな~
俺は見たことないけど、会報なんてもんもあるらしい。一体何を考えてるんだか。

「それじゃあ、いってきま~す」
「いってらっしゃい」
「いってらっしゃい、お母さん」
かーさんは出て行ったが、まだ学生が登校するには早い。もう少しゆっくり出来るな。

「兄さん、発想の転換です!」
「はい?」
リビングに戻ったと同時にすももがいきなりそんなことを言ったので、少々マヌケな声を出してしまう。

「一番に兄さんにチョコをあげれませんでした。だからここは逆に考えるんです。最後でもいいじゃないか、って」
何だかよく分からないがすももの中でそんな変な公式が完成したらしい。

「というわけで兄さんには帰って来てから渡しますね」
「あ、ああ。楽しみにしてるよ」
「はい♪」
すももは満面の笑みを浮かべてそう言った。




「おっはよ~雄真、すももちゃん」
「おっす」
「おはようございます、準さん、ハチさん」
「はよ~っす。何だハチ、今年はうるさく言わないんだな」
「ふふふ、今年の俺は違う!違うのだ」
ハチは自信満々にそう言いきった。何か秘策でもあるのか?

「さぁすももちゃん、俺にチョコを!」
「え?ハチさんはチョコレートいらないって準さんに聞いたんですけど・・・」
「何イイイイイイイイイイイィィィィィィィィィ!!!!!!!準てめぇ~~~!!!」
「チョコレートなんかいらないって言ったじゃない」
準は襲いかかるハチを鮮やかに躱す。そしてポケットの中から携帯電話を取り出した。

「ほら証拠」
そう言うと準は携帯のレコーダーを再生した。

「チョコレートなんかいらないぜ!」
「ハチの声だな」
「違う!その前に『お前の』が入ってるんだ。
「そうだったかしら?」
明らかにワザとだ。そんなこと知らないわ~と言って準はそっぽ向いている。
ハチがそんなこと言う訳は無いと思っていたが、純粋なすももはそれにあっさり騙されたらしい。

「そうだよ、ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
ハチはそう叫ぶと学園の方へ疾走して行った。マジ泣きしてたな。

「ハチってば今年は材料費まで出すからチョコ作ってくれって言ってるのよ」
「何を考えてるんだ、あいつは・・・」
さすがにそこまでして欲しいと思う奴はそうそういないだろう。

「余計にどん引きされてたけどね」
「そりゃそうだろう」
ああいうタイプは義理チョコだろうが、本命チョコだと思い込むだろうし。

「私も作ってくれって言われました。でも準さんがその作らなくて良いって言うから・・・」
「そりゃ間違いじゃない。作らなくて正解だぞ、すもも」
「そうですか?さすがに悪い気がして来たんですけど・・・」
「すももちゃんが気にすること無いわよ。というわけで、雄真にあたしからのほ・ん・め・いチョコ♥」
そう言うと準は、カバンの中から綺麗にラッピングされた箱を取り出して、俺に差し出した。

「今年は手作りにしたのよ。感想聞かせてね♥」
これ自分でラッピングしたんだよな?男がやったとは到底思えない。

「はいはい、ありがとう」
「ああ~ん。雄真ってばつめた~い」
「いい加減ムキになるのにも疲れた」
そうムキになって否定するから余計に周りから怪しまれるんだ。
自然に流してしまえばいい。

「それよりいつまでもここにいたら遅刻する。早く行こうぜ」
「そうね」
俺達は学園への道を3人で歩いて行った。




「あ、あそこにいるの姫ちゃんですよ」
すももがそう言った先、校門の前を見ると春姫がいた。
校門をくぐる奴ら、特に男がチラチラ見ている。相変わらずの人気だ。
よく見るとその横に石像と化したハチがいる。見えないフリしよ。

「姫ちゃん、おはようございます」
「あ、おはようすももちゃん」
「おっはよ~、春姫ちゃん」
「おはよ」
すももに続いて俺と準も春姫に挨拶する。

「おはよう、雄真くん、準さん」
「こんなところでどうしたんだ?誰かと待ち合わせ?」
春ならともかく、まだ寒い真冬だ。こんなところで待っていたら凍えてしまうだろう。

「や~ね~。雄真ってば相変わらず鈍~い」
「え?・・・俺?」
「う、うん。雄真くん、ハッピーバレンタイン」
そう言って春姫はこれまた綺麗に梱包されたチョコを差し出して来る。
周りから殺気を感じるのは、間違いなく気のせいじゃないだろう。

「あ、ありがとう」
「今年はその・・・手作りなの。だから口に合わなかったらごめんなさい」
「きっと春姫のチョコなら美味しいと思うし、大丈夫だって」
「む~雄真ってば私の時と態度が違う~」
準が不満そうな声を出すが、そりゃ態度が違って当たり前だろ。お前は男だ。




「雄真、よく来たわね!」
「何で仁王立ちしてるんだよ・・・」
準、すももと別れ、春姫と一緒に魔法科の教室に入ると、そこには杏璃が立っていた。
いつもは遅刻間際だってのに珍しいこともあるもんだ。今日は吹雪か?

「って、春姫!?何で雄真と一緒にいるわけ!?」
「え?それは・・・その・・・」
「春姫とは校門で会ったんだよ」
「あ~!!じゃあ春姫先に渡したのね!?」
「う、うん」
「せっかく先に渡そうと思ったのに!!」
チョコレートが入ってるであろう箱を杏璃は持っていた。
どうやら杏璃も俺にくれるようだが、今年は早く渡すことが流行ってるのか?

「もういいわ。インパクトで勝負よ!!」
「・・・は?インパクト?」
「じゃ~ん!まじかるバニラエッセンス、味仙人のイチゴ、プ○のはちみつを使って作った特製チョコよ」
杏璃はそう言って自分でラッピングを破り、箱を開けた。
せっかく丁寧にラッピングしてあったというのに。まぁ端の方はよれてた気がするが。
しかしイチゴに・・・ハチミツ?確かに単体なら美味しいものだが、杏璃がチョコに入れたとなると話は別だ。
杏璃の料理は想像を絶するからな~

「何よ、その顔?味見もしたし大丈夫よ!」
「あ、ああ。ありがとう。家で食べるよ」
「今食べて感想聞かせなさいよ」
「今・・・」
杏璃も味見したんなら大丈夫・・・だよな。
俺は箱からチョコを一つ取り出した。極端に硬かったり、柔らかかったりはしない。
匂いもチョコそのもの。俺は意を決して口に放り込んだ。

「・・・どう?」
「うん、うまい。中からハチミツが出て来るってのは新鮮だな」
ハチミツなんか合うのか?と思ったがなかなかに合う。
イチゴも出しゃばり過ぎず、いい感じにチョコと混ざり合っていた。

「ホント?」
「ホントだって。マジで美味しいよ」
杏璃にそう答えると、不安そうだった杏璃の顔が満面の笑みへと変わった。
味見したとは言っても、何だかんだで不安だったらしい。

「ハチミツ入れたりするってのは、どうやったんだ?」
「これは・・・」
「雄真くん!」
そこへ春姫が横から割り込んで来た。

「私のも今食べて感想聞かせて」
「へ?」
「春姫、それは私と勝負ってわけね?」
「別にそういうわけじゃ・・・」
「いいわ!雄真、春姫のチョコも食べてどっちが美味しいかいいなさい!」
何でそんなことになるんだ?

「私はそんなつもりじゃ・・・」
「じゃああたしの方が美味しくて、その・・・好みってことでいいわよね、雄真」
「いやまだ春姫の食べてな・・・」
「いいわ!杏璃ちゃん、勝負しましょ」
俺の意思は一体・・・

「あらあら小日向君ってば朝からモテモテね。でももうチャイム鳴ってるわよ?」
いつの間に来ていたのやら、御薙先生が教壇に立ってこっちをニヤニヤ見ていた。
そして周りの男子生徒からの殺気&女子生徒からの白い目。
朝から頭が痛くなって来た。俺今日はもう帰っていい?




「この寒いのに何故屋上で食べるんだ?」
「それがですね、伊吹ちゃんが是非と」
俺はすももと共に普通科屋上への階段を上っていた。
なんでも一緒に昼飯を食べる伊吹がそこを指定したらしい。

予想通り屋上への扉を開けると、冷たい風が吹いていた。
こんなところで食べてたら身体が凍えそうだ。

「来たか、すもも、小日向雄真」
「お待たせしました、伊吹ちゃん」
屋上には伊吹だけでなく、沙耶ちゃん、信哉もいた。

「こんな寒いところで食うのか?」
「その・・・だな。教室は人目が多くて恥ずかしいのでな」
そうボソボソ言いながら伊吹は後ろ手に持っていた箱を差し出した。

「これはその・・・いつも世話になってる礼だ」
「あ、ありがと・・・」
伊吹のものも、これまた綺麗にラッピングされている。
だが、杏璃の同様プロのラッピングには見えない。

「これってもしかして伊吹の手作り?」
「そ、そうだ。別に嫌なら食べなくてもいいぞ!」
「そんなことないよ。有り難く貰うよ」
伊吹の手作りか。どんなチョコなんだろう?

「じゃあ私から。はい、伊吹ちゃんへの友チョコです」
「これが
そう言って互いにチョコを交換し合う。
そういやすももと準も朝交換し合ってたな。男と女だけど。
その様子を見ていた俺に上条さんが声を掛けて来る。

「雄真様。初めてチョコレートを作ったもので、美味しいか分かりませんが、どうかお受け取り下さい」
「ありがとう」
小さな可愛らしい袋を渡される。
この音と形って・・・

「クッキー?」
「はい。チョコクッキーです。チョコレートばかり食べられるのは大変かと思いましたので、クッキーにしたのですが、いけなかったですか?」
「いやいや、ありがとう。確かにチョコばっかは結構キツイから嬉しいよ」
「良かったです」
さすが沙耶。気遣いが身に染みる。確かに既に5個もチョコレートあるわけだし。
そしてすももの分も増えるのは確定事項。それまで含めれば6個もある。

「小日向殿」
「信哉・・・。ど、どうかしたのか?」
何やら凄い迫力で俺を見ている信哉に思わず萎縮してしまう。

「今日のイベントは社会の陰謀と言うのは本当だろうか?」
「・・・・・・は?」
「今朝高溝殿に聞いたのだが、何やらバレンタインデーと言うのはお菓子業界の陰謀だと」
何教えてるんだ、あいつは?そんなにすももから貰えなかったのが悲しかったのか?

「そのような巨悪は断じて許されるものでは無いと思うのだが、どうであろう?」
「ハチの話も間違いじゃないけど、みんな楽しんでるから良いと思うぞ?」
「そうだろうか?高溝殿の話では、1ヶ月後には3倍にして返さないといけないという日が来ると言っていたが」
ホントにロクなこと教えないな、あいつは。

「大丈夫だって。そろそろ昼飯食べようぜ。昼休みが終わっちまう」
信哉を落ち着かせ、弁当の方へ話を持っていく。
ちゃんと説明してたら弁当に食いっぱぐれそうだ。
・・・?そこでふと伊吹にじっと見つめられてることに気付く。

「何だ?」
「チョコレートは今食べないのか?」
「今!?いや、今から昼飯食べるんだし、家に帰ってから食べようかと」
「出来ればその・・・先に食べて貰いたいのだが」
そんな上目遣いされて、お願いされると大変困るんですけど・・・

「あの・・・私も今食べて欲しいです」
結局伊吹と沙耶のチョコレートを全て食べ、その後に弁当も全て食べたもんだから少し気分が悪い。
二人のチョコレートも、すももの弁当も美味しいことは美味しかったんだけどな~




屋上から降り、すもも達と別れたところで、見なれた顔とすれ違う。

「ハチ、どこ行くんだ?もう予鈴鳴るぞ」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
という叫び声と共に、ハチはそのまま疾走して行った。
何なんだ、一体?
そしてその後をこれまた見知った顔が追って来た。

「準、どうかしたのか?」
「ハチ来なかった?」
「今すれ違った」
「今日Oasisで特別定食が出てる、って言ったら慌てて走って行ったのよ」
特別定食?かーさんは何も言って無かったが、そんなものがあるのか。

「そんなに美味しいのか?」
あのハチの慌てようを見ると、相当美味しいのか?

「そうじゃないのよ。特別定食はAランチ+おまけ、Bランチ+おまけの2種類」
「おまけ?」
「音羽さんの手作りチョコレートが付いてるの」
真剣に目の前が真っ暗になった。

「ちょっと待て。金取ってチョコあげるわけ!?」
「まぁ言い方変えるとそうなるわね」
「・・・売れてるのか?」
「それが10分で売り切れちゃったのよ。それで帰ってその話してたらハチが走って行っちゃって」
10分で売り切れ・・・。売る方も売る方だが、買う方も買う方だ。
そこまでしてかーさんのチョコが欲しいのか?

「さすがに死人に鞭打つようなことは悪いかな?と思って止めようとしたんだけど」
「もう遅いだろ」
「そうよねぇ~」
Oasisの方を見たところで予鈴が鳴った。
もう魔法科の校舎に戻るなら駆け足で帰られなければならない。

「じゃあまたな」
「うん。じゃあ放課後ね」
何か遠くで叫び声が聞こえた気がするが、聞こえなかったことにしよう。




「チョコ売るなんてよくやるよ」
「あら?商売は何事も挑戦よ?」
挑戦・・・ね。聞こえは良いが、純情な青少年の心を利用しただけに思えるが。
放課後、俺とすもも、準、灰になったハチの4人はOasisに来ていた。

「それじゃあ、みんな、ごゆっくり~」
そう言ってかーさんは厨房の方へ戻って行く。

「ところでさっきからやたら殺気を感じるんだが、何故だろう?」
「あら、雄真ってば相変わらずニブイわね~」
「何で?」
「じゃ~ん!」
そう言うと準はどこから取り出したのか、テレビに出て来るようなボードを机の上に置いた。

「準ちゃん調べ、チョコレートを貰いたい人ランキング!」
「何やってんだ、お前?」
「いいじゃない。ちょっとした知的好奇心よ。すももちゃんはもちろん興味あるわよね?」
「え?あ、はい」
すももが準に押されて肯定する。すももは押しに弱いからな。

「まず彼女とか、あたし達の知らない人が10%」
「10%!?じゃあ90%は知り合いなのか?」
「それだけ雄真の周りは美人揃いなのよ」
確かに春姫はもちろんとして、杏璃もかなり可愛い部類に入る
だが、あの二人だけで90%も取るのか?

「まず、杏璃ちゃん、小雪さんが10%ずつ」
「あ、小雪さんもか」
でも杏璃と小雪さんで20%ってことは春姫で70%?

「すももちゃんとあたしが20%ずつ」
「・・・・・・・・・は?」
「ええええええええええええ!!!???」
思わず間抜けな声を出した俺とは対照的に、すももが驚きの声を上げる。
すももが20%?5人に1人がすももからのチョコを欲しがってる?
つまり、すもも狙いの男が5人に1人もいる?

「どこのどいつだ!?」
俺は殺気を送って来ていた奴らに睨みを効かす。
さっきとは逆にこっちを見ている男は皆無となった。

「どうどう、落ち着いて」
「これが落ち着いていられるか!!」
「すももちゃん、雄真止めてよ~。・・・すももちゃん?」
すももの方を見るとどうやら余りの驚きで放心状態らしい。
確かにすももは可愛い!可愛いが、そんな目で男どもに見られるなどあって堪るか!

「ガルルルルルルルル」
「雄真がおかしくなっちゃった~」
数分後、ようやく落ち着くまで俺の周りに対する威嚇は続いた。
杏璃にうるさい!とシルバートレイで叩かれたからなんだが。




「雄真さん」
「小雪さん、こんにちは」
殺気が消え失せたテーブルに小雪さんがやって来た。
ちなみにハチはずっと灰のまま。すももはまだちょっとボーッとしているようだ。

「こんにちは・・・」
「あら、渡良瀬さん、お疲れですね」
「ええ、ちょっと雄真の獣を沈めるのに疲れてしまって・・・」
「何だその変な表現方法は!?勘違いされるような言い方をするな!」
「いいじゃない。雄真とあたしの仲でしょ?」
全然良くない。が、抗議しても無駄なのでスルーする。

「ところで小雪さん、どうしたんですか?」
「今年は雄真さんを女難から救うチョコを用意して持って来たのです」
かなりの確率でもう遅いです・・・

「出来れば朝頂きたかったんですが・・・」
「すみません、納得がいかなくて作り直していたもので」
「そうだったんですが、ありがとうございます。って、学園は!?」
「もちろんちゃんと出席しましたよ?この時期の3年生は暇なんです」
そう・・・なのか?とりあえずはそれで納得しておこう。
どこで作ったのかも聞かない方が身の為だろう。

「ちなみに効果は今日限定です」
「そうですか・・・」
もう今日と言われても1/3くらいしか残っていないんだが。

「しかしこれ、何でこんな大きいんですか?」
俺が小雪さんから受け取ったチョコは立方体で、かなりの大きさがあった。
って、待てよ?このサイズやたらと見覚えが・・・

「タマちゃん形にしたので♪」
「やっぱりぃ!?・・・爆発したりしないですよね?」
「・・・・・・さぁ?」
「何で疑問形なんですか!?って逃げないで下さい!準も逃げるな!」
結局中身はただのタマちゃん形のでかいチョコだった。
まったくもって心臓に悪い。




「じゃ~ん!」
「な、何これ?」
夕食が出来たと呼ばれたハズなのだが、俺の目の前には巨大なチョコケーキとチョコフォンデュがあった。

「これが今日の夕食よ」
「せっかくのバレンタインデーなので張り切りました!」
かーさんとすももは満面の笑みである。だが、俺は正直顔が引き攣っているだろう。
テーブルの上には、見ただけで胸やけを起こしそうな量のチョコレートケーキ。
その横にたっぷりのチョコフォンデュ。

「何でこんなに作ったの?」
「鈴莉のチョコなんかには負けてられないから、母の愛を表現したのよ」
「量で表現してくれなくていいよ・・・」
「雄真くんってばつめた~い」
と口先を突きだすかーさん。とてもじゃないがいい大人のやることじゃない。

「とりあえず食べよう」
「あ、兄さん」
「何だ?」
「最後になりましたので、私からのチョコレートです♪」
そういやすもものチョコも残ってるんだった・・・

「兄さん?」
「え?ああ。ありがとう」
「待った!」
すももからチョコレートを受け取ろうとしたところで、かーさんが俺の手を掴んで止める。

「かーさん?」
「雄真くん、ちょっと待っててね。すももちゃん」
「なんですか?」
そう言うとかーさんはすももに耳打ちする。
ロクでもない予感しかしない。そしてかーさんはすもものチョコレートを開封した。
って、せっかく包装してたのに、渡す前に開けちゃうのか?
そしてようやくかーさんがすももから離れた。

「もう受け取っていいの?」
「もっちろん。ねぇすももちゃん」
「は、はい。どうぞ、兄さん!」
そう言うすももの顔を見て俺はどんな顔をしていたのだろう?

「ど、どうぞ」
「何してらっしゃるんですか、すももさん?」
「あの・・・口移しを・・・」
聞いといて何だが、説明されると余計に恥ずかしい。
そう、すももは今チョコを咥えていた。

「かーさん!」
「やぁ~ん。睨んじゃ、いや~」
「娘に何させてるんだよ!」
「雄真くん、嫌なの?」
「嫌って言うか、何で口移ししなきゃいけないんだ!?」
ポッキーゲームなら、唇が接触する前に回避することが出来る。
だが、今すももが口にしているチョコは普通の小さいハート型のチョコ。
とてもじゃないが、鮮やかにチョコレートだけ取るなんて芸当は出来そうに無い。

「兄さん・・・ごめんなさい。嫌・・・ですよね・・・」
そんな風に涙目になられたら俺が悪いみたいなんだけど。
え?俺が正しいんだよな?

「雄真くん、また泣かした~」
「元凶作ったのはあんただ~!」
「雄真くんがな~かした」
まるで小学生のように俺を責め立てて来る。
そして事実すももが泣きそうなので、これ以上反論も出来ない。
こうなったらもうやるしかないのか?

「って、危ない!どうして母親の前で兄と妹がキスしなきゃいけないんだ!」
「ちっ!」
「今舌打ちした!?」
「兄さん・・・やっぱり嫌なんですか?」
「すももしっかりしてくれえええええええええええ!」
そういや小雪さんのタマちゃん形のチョコ、どさくさに紛れて食べ忘れたな~と現実逃避するしか無かった。
来年のバレンタインデーは平穏でありますように、そう願わずにはいられなかった。





終わり

はぴねす!SS第3弾にしてようやく伊吹、沙耶も登場させることが出来ました。まぁちょい役ですが。
初のバレンタインSSですが、いかがでしたでしょうか?
何か書き方が定まらなくて読みにくいかも知れませんが、勘弁して下さい。
本当ははぴねす!で節分SSも書きたかったんですけどね~
次回の時節ネタは雛祭りを考え中。D.C.になりますが、さくらSSかヒナSSのどっちになるか決まってません。
そもそも書けるかどうか分からないんですけどね!期待せずにお待ちください。



                                          
バレンタインもはぴねす!
inserted by FC2 system