「卒業式の次の日に結婚式とはね〜」
「それだけ2人とも待ち望んでたんですよ」
通路の先に竹内と美咲が見えた。あいつらが卒業してからもう2年。早いもんだ。

「麻巳先輩、菫先輩、こんにちは〜!」
「あら、萩野さん、田丸さん。こんにちは」
「お久しぶりです」
感慨に耽っていると萩野と田丸まで来た。
あいつらが卒業したのもつい昨日のことのように思える。

「先生方もほとんど出席してますね」
「そりゃそうでしょ。一応撫子の先生なんだし」
萩野・・・

ゴンッ

「いった〜い!」
「誰が一応だ。れっきとした教師だぞ、俺は」
今月まで、と心の中で付け加えておく。

「「「上倉先生!」」」
「おう。よく来たな」
「お久しぶりです」
「今日はお招きいただき、ありがとうございました」
「お元気でしたか?」
「ああ。お前らも元気そうで安心したよ」
竹内、美咲、田丸にそれぞれ挨拶を返す。
去年の春に一緒に花見をやって以来だから、ほぼ1年ぶりである。

「「「ご結婚おめでとうございます」」」
竹内、美咲、田丸はうやうやしく頭を下げて俺にそう言った。

「ありがとう」
一方萩野はまだ頭を抱えてうずくまっている。

「そんなに痛かったか?」
「痛いよ!久しぶりに会ったっていうのにセンセーひど〜い」
「悪い、悪い。久しぶりで力加減を間違えた」
萩野の頭を撫でてやる。

「うぅ〜」
そんな恨みがましい目で見られてもな〜

「悪かったって」
「じゃあ許してあげる。センセー、おめでと〜」
「ああ。ありがとう」
「もう先生は準備は終えられたんですか?」
美咲は俺の姿を見て聞いて来る。

「もちろん」
準備が終わって、うるさいお袋たちから逃げて来たのだ。
朋子と結婚することは大賛成なのだが、教師を辞めることを思い留まるよう未だにうるさいのだ。

「上倉先生カッコ良いです」
「馬子にも衣装って奴ですね」
「あ・り・が・と・う・よ」
美咲は素直に誉めてくれたというのに、竹内と来たら。

「竹内さん・・・」
「冗談です。似合ってますよ」
白いタキシードは正直自分では似合ってるとは思ってない。
そもそも朋子がこれが良いって言うからこうなっただけで、個人的には黒が良かったんだが。
ま、朋子の要望に沿うのが俺にとっても一番良いから、別にいいんだけど。

「田丸と萩野はどうだ?」
「本当に素敵です」
「萩野は?」
萩野の方を見るが何やらボーッとしている。

「萩野?」
「・・・ふえ?あ、あはは似合ってるよ。うん」
「さてはこの俺に見惚れてたな?」
「ち、違うよ。ただ小説のネタに使えそうだな〜とか思って見てただけ」
それはどっちにしろ見惚れてたと思うんだが。
呆けてたと言うかも知れないけど。

「お前らもいい服着てるじゃないか」
「そりゃまぁ結婚式だからね〜」
自慢気に無い胸を張る萩野。

「・・・なんか今失礼なこと考えなかった?」
「まさか」
「そう言えば上倉先生。先ほど鳳仙さんに聞いたんですけど、教師を辞めてしまわれるんですか?」
「え、えええええええええええええええええええええええええ!?」
「そ、そうなんですか?」
「声が大きい!」
萩野ほどでは無いが、田丸も驚いている。
驚かないところを見ると、美咲はどうやら竹内と一緒に聞いたようだ。

「センセー、センセー辞めちゃうの?」
「何だ、その聞き方は?まぁ正確に言うとあと1ヶ月ほどでだな。だから今年度で教師は終わり」
「それでどうするのセンセー?まさかニート!?」
ゴンッ

「また叩いたぁ〜!」
「画家を目指されるんですか?」
「ああ。まだ何の実績も無いけど、自信はある。この2年間、その努力はして来たつもりだ」
「そうですか。私、応援してますね」
田丸はそう言って微笑んでくれた。

「もちろん私もです」
「わたしだって応援しちゃうよ」
「私も応援します」
「ありがとう」
こうやって応援してくれる人がいるのは嬉しいことだし、幸せなことだ。

「おっと、早く行かないと時間が無くなるな」
「朋ちゃんのところに行くんだよね?わたしも行くよ」
「同じく、です」
竹内、美咲の方を見ると二人も付いて来る気満々らしい。

「こういう時は普通新郎新婦だけにするもんじゃないのか?」
「気にしない、気にしない。さぁレッツゴー」
「やれやれ」
俺達は連れ立って新婦の部屋へと歩いて行く。




「ささ、センセーど〜ぞ」
「こんな時だけ譲りやがって」
俺は一呼吸置いて心を落ち着かせる。
心臓の鼓動が早くなっているのを感じたからだ。

「上倉先生?」
「・・・よし」
俺は控室の扉を軽くノックした。

「どうぞ〜」
部屋の中から透き通った聞き慣れた声が聞こえて来る。
一拍置いて俺は扉を開けた。

「うわぁ〜」
「綺麗・・・」
部屋に入るとそこにはウェディングドレスを身に纏った朋子が座っていた。
美しい純白のドレスに包まれたその姿は女神のようにすら見える。
そう、それはまるで一枚の名画のようにすら思えた。

「久しぶり〜朋ちゃん♪」
「こんにちは、藤浪さん」
「可奈先輩、田丸先輩に竹内先輩、菫先輩も」
4人は朋子の方に近付いて行くが、俺は朋子を見つめたまま、その場で立ち尽くしていた。

「それでは私はこれで」
「はい。ありがとうございました」
メイクの人が俺の横を軽く頭を下げて出て行く。
だが、俺の視線は朋子に釘付けのままだった。

「どう、浩樹さん?」
「・・・・・・・・・」
「浩樹さん?」
再度言われてようやく話し掛けらていることに気付いた。

「え?あ、ああ凄く似合ってるよ」
「見惚れちゃった?」
「ああ。余りの可愛さに目を奪われた」
「もう、浩樹さんってば」
微笑む姿がまた可愛い。

「あ〜暑い暑い。まだ3月になったばっかりだっていうのに」
「冷房掛けた方がいいよね〜」
「サウナみたいです」
「南極で結婚式した方がいい気がしますね」
4人は手うちわでパタパタと扇いでいる。

「ふん、なんとでも言え」
「浩樹さんも素敵よ」
「面と向かって言われると照れるな」
「すっごくカッコイイよ」
頬が紅潮しているが分かる。
顔がニヤけるのを堪えるのがやっとだ。

「完璧に二人の世界ですね」
「そうですね」
「じゃあそこに割って入ろっと。朋ちゃん、このウェディングドレスってセンセーが描いた絵と同じだよね?」
普段ならタイミングが悪い、と言うところだがニヤけそうになってる今はナイスタイミングだ。

「そうなんです。わざわざ作って貰ったんですよ」
「ええ!?じゃあレンタルじゃなくてオーダーメイドなんですか?」
田丸がドレスをマジマジと見る。

「それにしても萩野、よく覚えてたな」
「だって朋ちゃんの部屋にいつも掛けてあったでしょ?忘れないよ」
そういやこいつは撫子学園時代は結構俺の家に遊びに来てたな。
正確には俺の家の朋子の部屋に、だけど。

「上倉先生、オーダーメイドなんて高かったんじゃないんですか?」
「まぁ・・・な」
竹内の質問に曖昧に答えておく。
ボーナスよりは安かったわけだし、結婚式自体金が掛かるもんだからそこまで気にして無いが。
それにデザイン費は浮いてる訳だし、一から作るよりはかなり安い。

「一生に一度の結婚式だからな」
「それにしてもセンセーはよくこんなウェディングドレスデザイン出来たね」
「それもそうですね」
俺をなんだと思ってるんだ。

「雑誌か何かを見て描かれたんですか?」
「確かに雑誌に載ってたドレスを参考にしたけど、デザインはオリジナルだぞ?」
「ふぇ〜、センセーってデザイナーの才能もあるんだね〜」
「そ、そうか?」
そこまで誉められるとさすがに恥ずかしい。

「とても素敵なデザインだと思いますよ」
「美咲にまで言われると照れるな」
なんと言うかむず痒い。

「私もそう思います。是非私の時もデザインして欲しいです」
「ひかりちゃん、予定あるの?」
「今は無いけど、萩野さんもそう思わない?」
「それもそうだね〜。じゃあわたしの時もよろしくね、センセー!」
「お、おお。よし、任せとけ!」
ん?

「朋子?」
「・・・な〜に?」
「何で怒ってるんだ?」
「・・・別に怒って無いわよ」
口でそう言ってるが、明らかに怒ってる。
どうやら機嫌を損ねたらしい。

「朋ちゃんってばヤキモチ〜?」
「ち、違いますよ。ただデレデレしてるのがムカついただけです」
「それをヤキモチって言うんだと思うんだけど・・・」
竹内も苦笑している。

「別にデレデレはして無いだろ」
「してるわよ。作って、って言われてその気になっちゃって」
あ〜それで怒ってたのか。

「分かった、分かった。俺がデザインするのは朋子にだけだよ」
「え〜朋ちゃんだけズルイ〜」
「ズルくないだろ。朋子は俺の妻なんだから」
「つ・・・つま・・・」
金魚みたいに口をパクパクさせつつ、朋子は顔を真っ赤にした。

「お〜い、大丈夫か?」
「あ、あう・・・」
プシューと蒸気の音がしそうなくらいに顔が赤くなっている。

「全くしょうがない奴だな。少なくとももう戸籍上は俺らは夫婦なんだぞ?」
「で、で、で、でも、まだその・・・心の準備が・・・」
結婚式直前に心の準備も何も無いと思うんだが。

「もう婚姻届出されたんですか?」
「ああ、ついさっきな」
尋ねて来た美咲にそう答えた。
別に結婚式の後に出せというルールは無いしな。

「で、朋子の心の準備はいつになったら終わるんだ?」
「うう・・・あと、ちょっと・・・」
「じゃあそのちょっとを待たせて貰おうかな」
「ええ!?」
そう言って俺は椅子に腰かけた。
本当は準備に戻らないといけないんだけど、あと5分くらいなら大丈夫だろう。

「あ〜もう南国みたいだし、お暇しましょうか」
「外の空気吸わないと身体に悪いですね」
竹内はともかく、美咲までそんなこと言うとは。

「じゃあまた後でね、センセー、朋ちゃん」
「お邪魔しました」
「ああ、後でな」
そう言ってぞろぞろと控室から出て行く。




4人が部屋から出て行った後、俺は何も話さず朋子を見ていた。
相変わらず顔は真っ赤なまま。一体いつまで赤いままなのか知りたいな。
などとどうでもいいことを考えたりしていた。
対する朋子はちらちらと俺の方を見て来る。

「あ、あの・・・」
5分くらい経っただろうか?静寂を破り、朋子が口を開いた。

「ん?どうした?」
「本当にあたしでいいの?」
「・・・・・・・・・は?」
一瞬質問の意図が掴めずマヌケな返事をしてしまう。

「今さら何を言ってるんだ、一体?」
「マジメに答えてよ」
「って、言ってももう婚姻届出しちゃっただろ」
「うっ・・・」
全く本当に何を気にしてるんだか。

「だ、だって、あたし・・・」
「俺は朋子のことが大好きだ。世界中の誰よりも。だから結婚したいと思った。朋子は違うのか?」
「・・・ううん」
そう首を振る朋子の瞳に涙が浮かぶ。
俺は慌ててポケットからハンカチを取り出して涙に当てた。

「全く。せっかく綺麗に化粧して貰ったのに、泣く奴があるか」
「ごめんなさい」
「泣き虫は昔からず〜っと変わらないな」
「え?」
朋子が不思議そうに俺の顔を伺って来る。

「俺と最後に会った日の夜に泣いてたんだろ?」
「な、何で知ってるの?」
「一晩中泣いてりゃ顔がぐちゃぐちゃになるだろ。お前の伝言を教えてくれた看護師さんが言ってたんだよ」
「そうだったんだ・・・」
今から10年も前の記憶だ。
ちゃんと伝えてくれた看護師さんにも感謝しないとな。

「朋子は俺がいないとダメだな」
「・・・うん」
冗談交じりで言ったのに、普通に肯定された。

「あたしは浩樹さんがいないとダメ。世界中の誰よりもあなたのことが大好き。だからずっと一緒にいて」
「ああ、もちろんだ。俺も朋子のことが大好きだ」
「大好き!」
そう言って胸に飛び込んで来た朋子を俺は優しく抱き締めた。




「汝上倉浩樹は、この女藤浪朋子を妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、
他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」
「誓います」
静かな教会に俺の声が大きく響いた。

「汝藤浪朋子は、この男上倉浩樹を夫とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、
他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、夫を想い、夫のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」
「誓います」
今度は朋子の声が響き渡る。

「それでは誓いの口付けを」
朋子の方を向き、ヴェールを頭の上に上げると、そっと朋子の瞳が閉じられた。
まるで世界中に俺と朋子しかいないような、そんな気にさえなる。
俺はそっと朋子の肩に手を置き、囁いた。

「愛してるよ」
「愛しています」
お互いにかろうじで聞こえるくらいの声量。

だがお互いの気持ちが十分過ぎるほど伝わるのを俺は感じていた。

そして俺達は誓いの口付けを交わした・・・






イラスト:あおぞら工房 すかいじゅ様




終わり

なんか書いてて鬱になって来た、と言うかなった。
デレデレだだあまは精神衛生上大変よろしくありません。
ってことでようやく藤浪朋子SSの最大の目標点であった結婚式まで到達。
構想から丸3年経って、3も出たのに今さらCanvas2?って感じだけど気にしない。

本当はエリスと朋子の話もこの前にあるんですが、そっちまでやってると何年掛かるか分かったもんじゃないのでこっちを先に書きました。
1年半前にすかいじゅさんに貰ってたこの絵を使わせて頂く時がついに来ましたw。マジですいません。
それにしても朋子可愛いよ、朋子。今度の朋子の誕生日までに新作書けるといいな〜



                                      
純白色の結婚式
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