夢は一つだけ・・・
「か・み・く・ら先生〜」
「待て!話せば分かる!そのイーゼルを下ろせ部長」
「何度言えば分かるんですか?」
「いや、今回のはちょっと忘れてただけでだ、今日中には電話しとくから」
「全く。今度忘れたら承知しませんからね」
そう言うとようやく田丸部長はイーゼルを地面に下ろした。
と同時に浩樹は大きな息をつく。

「全く。誰だイーゼルボンバーなんて考えた奴は・・・」
独り言を呟いて浩樹は椅子に座り込んだ。今日はまだ朋子は来ていない。
普段は真っ先に来るのだが、今日はクラスで何かあるんだろうか?
そんなことを考えていると美術室の扉が開き、特徴的な髪を揺らして朋子が入って来た。

「噂をすれば影だな」
部員達に挨拶をしながら入って来る朋子を横目に見ながら、浩樹は木炭を手に取った。
さて、今日は何を描こうか・・・と考えたトコで背中に誰かが乗っかかって来た。
誰か、などと考えるまでもなくこんなことをするのは朋子だけなのだが。

「待たせちゃった?」
「いや、別に待ち合わせしてたわけじゃないんだし」
「もう。こういう時は『ううん、今来たトコ』でしょ?」
「だから待ち合わせじゃないって」
朋子は頬を膨らませて不満げな表情をしている。
こういう場合の対処法は慣れたもので、浩樹は自分の胸の前に来ている朋子の手を取って囁いた。

「朋子が来るのが待ち遠しかったんだよ」
ボンッと音がしそうなほど朋子は顔を真っ赤にする。

「そ、それなら最初からそう言ってよね・・・」
「悪かったな、気が利かなくて」
少し前までこんなことを言うのは恥ずかしかったのだが、朋子の反応が可愛らしいので今は楽しくて仕方ない。
さて、いつまでもこの状態じゃまともに絵も描けないし、そろそろ部員の目も痛い。

「ほら、朋子。そろそろ離れてくれ。デッサン出来ないだろ?」
「あ・・・うん」
名残惜しそうに朋子が背中から離れる。

「しかし電話するの面倒臭ぇな〜」
「電話って何のこと?」
「人物デッサンするからそのモデルを依頼するための電話」
「へぇ〜、そういうこともやるんだ」
「そう言えば朋子が入部してからやったことなかったっけか?」
思い返すと入部してからと言わず半年ほどした記憶が無い。

「それで、どんな人が来るの?」
「そうだな指定した日が暇な人とか・・・」
「上倉先生〜?」
「じょ、冗談だって。ちゃんと肉付きのいい若者に頼むから」
再びイーゼルを手に持とうとする部長に対して浩樹は即座に否定する。

「ふ〜ん。それってその・・・ヌードデッサン?」
「今回は別に脱いで貰う気もないんだが、藤浪がどうしてもって言うならそれでもいいぞ?」
「ちょっ、違うわよ!別にそんなこと一言も言ってないでしょ!」
美術室に部員達の笑い声が響き渡る。

「あれ?もしかして先生って女の人のヌードデッサンとかしたことあるの?」
「ん?当然だろ。美大時代はそれこそ毎週とは言わないまでも、よくしたもんだぞ?」
「・・・・・・・・・・・・」
朋子は急に黙りこくると浩樹から顔を背ける。

あれ?何かマズイこと言ったか?

あたし以外の人の裸見るなんて・・・
「いや、そんな昔のこと言われても・・・」
慌てて何か言おうとするが、上手い言葉が思いつかない。

「プッ。あははは、何慌ててんのよ。あたしだってそこまで言わないわよ」
「な、何だよ。慌ててなんていないぞ。大体芸術の為なんだから仕方ないだろ?」
「そんなこと言って男より女のモデルの方が嬉しいんでしょ?」
「そりゃ・・・目の保養になるからな」
オレのいきなりの居直りに、否定すると思っていたのだろう、朋子は何も言えなくなってしまう。

「それでも、朋子より可愛い奴なんてどこにもいなかったって」
反撃が来る前に朋子の耳元で呟き、オレはキャンバスに向き直った。

「も、もう。いつもそれ言えば良いと思ってるんじゃないでしょうね?」
「思ってないって」
さて、何を描こうかと再び思考を巡らせようとした所で放送が流れ始める。

「上倉先生、上倉先生。職員室までお越し下さい」
「また教頭かよ・・・」
今度は理事長室じゃないので今度こそ嫌味を言われるのかも知れない。
気付かなかったことにしたい所だが、そんな訳にもいかないよな・・・

「はぁ〜。行って来る」
「早く帰って来てね♪」
「そりゃ教頭次第だな。全く・・・」




浩樹が美術室を出て下の階に降りるとそこには霧が立っていた。
「よぉ。模範教師が部活サボりとは珍しいな」
「あんたと一緒にしないでよ。それよりちょっと来て」
「え?あ、ちょっと待てよ。オレは今教頭に呼ばれてるんだが?」
「呼んだのは私だからいいの!ほらっ、サッサと来る」
霧に首根っこを掴まれ引き摺られるようにしてオレは空き教室に連行された。

「けほっ、けほっ。全く相変わらずのバカ力だな」
「何か言った!?」
「いや、別に・・・」
余りの剣幕に思わず萎縮してしまう。

「それで、一体何なんだよ?わざわざ教頭に呼び出させてまでオレを呼んだ理由は?」
「これよ、これ!」
バンっと教室中に音が響くと同時に1枚の紙が机に霧によって叩きつけられた。

「何の紙だ、これ?」
「いいから見なさいよ」
「・・・・・・・・・いや〜全く担任は大変だね。進路相談とかしなくちゃいけないわけか」
「頭かち割って欲しいわけ?」
ポキリポキリと霧の拳が音を上げる。軽いジョークなのに。

「う〜ん明確な目標が決まってて良いんじゃないのか?」
「良くないわよ。あんたこのまま提出されたら職員室呼び出しじゃ済まないわよ?」
「まだどこかに提出するのか?」
「学年主任に提出して生徒の希望まとめなきゃなんないのよ。あんた本当に教師?」
「仕方ねぇだろ。美術教師が進路指導なんかに美大以外の進路で携わるわけねぇし」
事実、進路相談自体去年の美術部部長竹内麻巳の分しかしたことがないのだ。

「それで、これを訂正するよう朋子を説得しろってのか?」
「そういうこと」
「自分で言えよ。何でオレが言わなきゃならないんだ?」
「もうさっき言ったわよ。藤浪さん遅れて行ったでしょ?さっきまでその話してたの」
「あ〜なるほど」
どうりで今日は来るのが遅いと思った。

「しかし相当ね、藤浪さんのあんたへのラブラブ度は」
「全くもって嬉しい限りだな」
「あんたね〜、教師と生徒の恋愛なんて本来御法度なのよ?分かってる?」
「分かってるって。霧のフォローにも感謝してるよ」
「どうだか。それじゃこれが新しい紙だから明日までには提出させてよね」
別に本人に書かせなくても自分で適当に書けばいいのに、と思いつつ今日の霧は何故か相当苛立ってるようなので口には出さない。
まぁマジメな霧らしいっちゃ霧らしいんだがな。

「用件は終わりか?そんじゃオレは部活に戻るとするよ。お前もこれから部活だろ?」
「えぇ。総体も近いしビシバシ鍛えないとね」
「部員に同情するよ」
教室を出たところでオレはふと浮かんだ疑問を霧に尋ねた。

「ところで、何でわざわざ教頭に呼び出させたんだ?」
「私が呼んだりしたら来るまで時間掛かるかと思って。藤浪さんってすっごいヤキモチ妬くじゃない?」
「そりゃ正解だな」
霧に呼び出されたりなんかしたら抜け出すのに余計に時間が掛かるだろう。

「ほんじゃ部活頑張れよ。今年は全国まで行けるといいな」
「1年鍛えたんだからね。全国に行くだけじゃなく制覇するわよ!」
霧は元気にそう言うと体育館の方に向かって早足で歩いて行く。

「さて、朋子に何て言って説得するかな・・・」




第1回第2学年進路希望調査

第3希望:可愛いお嫁さん
第2希望:上倉先生のお嫁さん
第1希望:浩樹さんのお嫁さん

久しぶりのショートSSです。もうちょっと続けても良かったんですが、これ以上書くと普段通り長くなりそうなので省略。
霧の苛立ってる理由とかは入れる場所が難しいですし。
「はぁ。あんなストレートに気持ちが表せてたらもっと違ってたのかな・・・」
ってのをどっかに入れたかったんですが、どうも上手く行かないのでここで補足。

しかし、どうも下書きと大分完成図が違うな〜。会話しか書いてない下書きじゃ上手くいかないですね。
ってことで初音島の音色初のD.C.以外SSはどうだったでしょうか?
朋子大好きな方々に受けてくれると大変嬉しいのですが・・・
それではまた次のSSで。次もD.C.SSになるか大変怪しいですけど。
むしろエリス&朋子SSになること請け合い(ぇ



                                      
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