「そうよ、まずは恋愛対象にならないことにはどうしようもないわ」
中学生は子供だとか散々馬鹿にしてくれているが、要は少しでも上条をドキッとさせればいいのだ。
実際には美琴は何度か上条をドキッとさせていることはあるのだが、美琴がそれを知る由はない。
ただ、恋愛対象に上がっていないのは確かなので、その部分を改善するという意味では非常に的確だったりする。
「……名前で呼んでみようかしら?」
いきなり女の子から名前で呼ばれれば意味は別としてドキッとするだろう。
美琴から上条の場合はビクッかも知れないが、少しでも好意が伝わるならしめたものだ。
「きるぐまーで練習しよっと」
愛用のぬいぐるみをベッドの下から取り出し、正座をしてベッドの上で向き合う。
片目を眼帯で隠し、あちこちに包帯が巻いてある中々に個性的なぬいぐるみである。
「と、当麻?」
わー、きゃーと、顔を真っ赤にした美琴はぐるぐるとベッドの上を転がり回る。
「お姉様〜?どうかなさいましたか〜?」
「な、な、何でも無いわよ!」
バスルームから聞こえて来た白井の声に何とか平静を装って答える。
「でしたら良いのですが……」
「ふぅ。……もうちょっと静かにやらないとね」
夢という名の妄想の中では幾度となく呼んでいるが、実際口に出すと顔から火が出るかと思うほど恥ずかしい。
「もう一度」
きるぐまーに相対して緩みきった顔を何とか整える。
更に一度深呼吸して気分を落ち着かせた。そして首を傾げながら尋ねるように口に出した。
「当麻?」
うへへへへ、と白井さながらの怪しい笑みを美琴は浮かべる。
もし誰かが見ていればあっという間に寮内どころか学校中でも噂になりそうなレベルである。
「と、当麻!一緒に映画観に行かない!?」
「当麻、一端覧祭なんだけど、その……一緒に回ろ?」
「あの、もし当麻が良かったらクレープの食べ比べしない?」
慣れというものは恐ろしいもので、美琴は今までの妄想で考えていたセリフをすらすらと紡いでいく。
この流れなら行けるかも知れない、と美琴は考える。
口に出すのも恥ずかしいあの言葉を。一度深呼吸してからきるぐまーの顔をジッと見つめる。
「わ、私当麻のことが世界で一番す、す、す、す、す、す、す、す、す、す、す、す……」
あと一文字が出ずに、真っ赤になったまま美琴は「す」を繰り返す。
ぬいぐるみ相手だというのに、恥ずかしさで漏電しそうだった。
「ふぅ、いいお湯でしたの」
「わーーーーーっ!!!!!の、ノックしなさいよ!」
「ノックって、わたくしはお風呂から出ただけなのですが……」
相変わらず際どいネグリジェを纏った白井は困惑気味に答える。
しかしふと何かに思い至ったのか、顔が一気に輝き出した。
「はっ!ま、まさかお姉様、電撃使いの自家発電を!それならば、わたくしもお手伝い……」
「それ以上言ったら超電磁砲でぶっ飛ばすわよ?」
「じょ、冗談ですの」
パジャマのポケットからコインを覗かせる美琴に割と本気で恐怖し、白井は改めて美琴の様子を伺う。
「しかし、ぬいぐるみと向かい合って何をしていらっしゃったんですの?」
美琴はベッドの上で正座して、きるぐまーと向かい合っている。
相手が人ならば話しているというのが普通だが、きるぐまーが相手ではそんな訳は無いと白井は結論づけた。
「え!?あ、ああ。きるぐまーのここがほつれてるな〜と思ってね」
「修繕すればよろしいのでは?お姉様は裁縫もお得意だったと思いますが」
「う、うん。まぁでも余り気にならないから別にいっかな〜って。アハハ」
その何とも要領を得ない返答に、はぁ、とだけ白井は生返事をする。
「わ、私歯磨きするわね!」
そう言って美琴は、呆然とした白井を残しドタドタと洗面所へと駆け込む。
洗面所の鏡で見る自分の顔は不自然なほどに真っ赤であった。
(聞かれてなくて良かった……)
「……当麻」
唇に指を当てて、ボソッと呟くように口にする。
たったそれだけで幸せな気分になれる魔法の言葉。
鏡の中の自分は本当に嬉しそうな顔をしていた。
終わり
とある魔術の禁書目録SS第5作です。
今回もラブラブじゃないから精神的に大丈夫。
というかそれ以前に短いから楽勝w
4作目から繋がってるつもり。こういうモジモジする美琴って超可愛いと思うんだ。
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part11に投稿した分そのまま。
余りに短すぎて加筆修正するところが無いw