男性が年下の女性に惚れてしまう瞬間8パターン
「黒子もまだ帰って来ないし、暇だわ」
 夕食もシャワーも済ませた御坂美琴は常盤台中学学生寮二〇八号室で一人呟いた。
 門限はとっくに過ぎているが、ルームメイトの白井黒子は風紀委員の仕事のため、まだ戻って来ていなかった。


「テレビ観ても面白いのやってないしな〜」
 先程まで勉強をしていたのだが、それも一区切りつきPDAを手に何か無いかと適当に画面をスクロールさせていた。
 そこでふとPDAをいじっていた美琴の手が止まる。
 その目に映っているのはある一つの記事とも言えぬただのコラムであった。


「『男性が年下の女性に惚れてしまう瞬間8パターン』か……」
 まさに今の自分に最も必要なことでは無いかと思えてしまうタイトルであった。
 こういうコラムは話半分に受け取るのが正解なのだが、藁にも縋りたい美琴にとってはまさにその藁である。
 早速美琴はそのコラムに目を通してみることにする。


『年上の男性とどうやって接すれば良いかわからないという方もいらっしゃるのではないでしょうか』
「全くもってその通りだわ。あの馬鹿とどう接すればいいのか全く分からないし」
 美琴としては罰ゲームと称したデートに誘ったり、色々とアプローチをかけているハズだが、全く効果は出ていない。
 まぁその手段も内容も、対象である上条当麻からすればデートとは思えないようなものばかりなのであるが。


『しかし、難攻不落に見える年上の男性も、上手に急所をつけば必ず落とせるはずです』
「急所?」
 一瞬そういう男性の肉体的急所を美琴は思い浮かべ、瞬間沸騰した顔をブンブンと左右に振った。


『若々しいカラダを見せつけられたとき』
「ちょっ!?か、身体ってそんなん見せられるわけ無いじゃない!」
 そもそも高校生相手に若々しいカラダは通常長所にはならないであろうが、今の美琴にはそこまで考えは至っていなかった。
 いきなり最初の項目からハードルが高過ぎた為、美琴はもう読むのを止めようかとも考えるが、一応続きを読むことにする。


『仕事で頼られたとき』
「仕事、じゃなくて勉強かしら?でも年下に教えられるのはプライド的な問題が〜とかアイツ言ってた気がするんだけど……」
 夏休み最終日の出来事を思い出し、美琴は首を傾げる。
 だが美琴としては上条に勉強を教える=同じ時間を過ごせるということなので願ったり叶ったりだ。


「今度勉強で分からないところがあるか聞いてみようかしら。次は……」
『冗談っぽくタメ語で話されたとき』
「…………次」
 冗談っぽくどころかタメ口がデフォルトであり、むしろ敬語で接した記憶が無い。
 ギャップを狙って逆に敬語で、とも一瞬考えたが、上条に驚き慄かれるのがオチであろう。
 それに今更敬語で接するのは美琴としてもむず痒い。


『知らない知識を教えてくれたとき』
「これはさっきの勉強と似たようなもんね。敢えて言うなら電子ロックのアレかしら?」
 ロンドンから上条が電話を掛けて来た時のことを思い出すが、どうにもアレでときめいてくれたとは到底思えない。
 むしろ「そんなことまで知ってんのか、お前?」と引き気味だった気がする。


『元気いっぱいの挨拶や返事をしたとき』
「…………次」
 出会い頭に電撃をぶつけるのはやっぱりマズイわよね、と判断しまた次の項目へと目を移す。


『おねだりされたとき』
「おねだり、か……」
 美琴は頭の中で、恋人同士の定番過ぎる「あれ買って〜」という遣り取りを、上条と自分に置き換えようとしたが、
あまりの恥ずかしさに想像の時点でギブアップする。

「無理無理無理」
 そもそも最初からそれが出来るならば、ペア契約の時にも罰ゲームを盾に取ったあんな回りくどいことをしているハズが無い。

「しかしこの上目遣いってのは使えそうね。……妹の奴もやってたみたいだし」
 自分と同じ顔の妹が使って上条がドキリとしたかは分からないが、上目遣いの効果が高いというのはこのコラム以外でもよく見かける。
 だが今は上条と目を合わすのですら『ふにゃー』となりそうで到底実行出来そうには無かったりするのだが。


『仕事で活躍したとき』
「ここでの仕事…って言うと戦い?……全然女の子らしく無いんだけど」
 上条の役に立つというのは嬉しい限りだが、命を懸けた血生臭い戦いで役に立ってアピール出来るのは戦闘能力だけだろう。


『励まされたり、心配されたとき』
「アイツのこと励ました記憶って一切無いわね。心配は……」
 ほぼ告白と言っても差し支えの無い第二十二学区の出来事を思い出し、美琴は本日何度目か分からない瞬間沸騰を起こしていた。




「な〜んか役に立つのか立たないのか分からないコラムだったわね」
 最初から藁のつもりで縋り付いたが、それでもその藁が役立たずではやはり落胆せざるを得ない。
 PDAの電源を落とし、椅子に座ったまま軽く伸びをする。勉強から続けて座りっ放しだった為、かなり身体が固くなっていた。

『上手くやれば女神のような存在になれるはず』
 最後の一文を思い返し、美琴は自分と上条の関係を考える。

「女神……か。アイツにとって私って何なんだろ?……ケンカ友達くらいにしか思って無いんだろうなぁ〜」
 上条の傍を付いて回るシスターは?銭湯で会ったあの女は?上条にとって何なのだろうか?

「はぁ、やめやめ。私らしく無いわ。そうよ、私にとってアイツはピンチの時に助けに来てくれるヒーローで……」
 まるで白馬の王子様で……私が世界で一番好きな人……

 今は口に出すことも憚られるような恥ずかしいセリフ。だが、その言葉を否定することは決して無い。




「ただいま帰りましたの」
「おかえり、黒子。遅くまでお疲れ様」
「お姉様のご尊顔を拝見すれば疲れなど吹き飛びますわ!」
 余りに真剣な白井の表情に美琴は苦笑いを浮かべる。

「ところでお姉様、何か良いことでも?凄く機嫌が良さそうに見えますの」
「ううん、何でも無いわよ。それよりシャワー浴びれば?汗かいたでしょ?」
「ではお姉様もご一緒に!」
「アホか!」
 飛びかかろうとする白井をバスルームに放り込み、先程まで考えていた言葉を反芻する。

『世界で一番好き』
 今はまだ口に出すことも出来ない言葉。しかしいつか必ずこの想いを直接伝えたい。
 真っ直ぐ自分を見てくれる、優しくも強い意思を秘めたあの瞳を見て……





終わり

とある魔術の禁書目録SS第4作です。
今回も相互ラブラブじゃないからギリギリ精神的に大丈夫。
こういうもどかしい感じの奴が好きだったりします。
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part11に投稿した分に少しだけ加筆修正しました。
感想で指摘されて気付いたんですが、『仕事で頼られたとき』は当麻が美琴に頼られた時、なんですよね。何で間違ったんだか・・・
上手いこと書き換えられそうに無かったので現状維持で。細けぇこたぁいいんだよw



                                           
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