「それにしても昨日も卯ノ花さんは凄かったね」
昼休み、一緒に弁当を食べている時に虎太郎がそう言った。

「一昨日は野球でバントホームラン」
「昨日のテニスでは月輪熊落し、卯ノ花ゾーン」
と虎太郎に庵が続ける。

「あ、庵はバイトがあるって途中で帰ったから見なかったんだっけ?」
「え、何?まだ何かあったの!?」
虎太郎の言葉に庵が驚く。
そりゃそうだ、その二つだけで普通は十分だ。

「あのあとも凄かったんだよ。すずめ返しを披露して」
「す、すずめ返し!」
いや、だから鳥の種類が違うくねぇ?

「さらに黒鯨!」
「おお!」
それは鯨の色が違う。

「さらに消失するサーブ!」
「ボールが消える!?」
何で悉く俺の記憶と違うんだろう?

「蟷螂包み」
かげろうじゃなくてカマキリって・・・

「くぅ~バイトサボれば良かった!」
「おいおい」
そこまでして見るほどの・・・ものか。
あんなものプロでも出来ない。

「さらにすずめ返し、月輪熊落し、黒鯨をそれぞれ進化させたルギア返し、巨象落とし、黒龍」
ルギアってそれはポケモソだろ。

「千腕阿修羅(バーナスラ)の門番も凄かったよね」
「千の腕の阿修羅とは凄いな」
いちいち感心する庵を横目に、クラスメイトに囲まれて佐奈お手製の弁当を食べる卯ノ花の様子を伺う。
あんな大活躍をしてくれたお陰で一躍時の人だ。女子テニス部のキャプテンがわざわざ勧誘に来ている。

「月花火も凄かったんだよ」
「くそおおおマジで途中で帰るんじゃなかった!!!」
あ~あのバカみたいに打ち上げた奴ね。
落ちて来るまで1分くらい掛かったっけ?

「くそぉ、今日はサボってでも最後まで見るぞ」
「そういえば今日はどこ行くの、ハル?」
「俺が知ってる訳ないだろ。バレーとかじゃないか?」
出来ればもうこれ以上有名になることはして欲しくないんだがな。




「そのシュートは今まででもっとも美しい弧を描いた」
ナレーターのような庵のセリフが終わったと同時にボールがリングに吸い込まれた。
と、同時に凄まじい歓声が体育館内に響き渡る。
野球部、テニス部で伝説を作った卯ノ花姫を見に、今日は多数の人間が体育館に押し掛けて来ているのだ。

「ヒメさんのシュートフォーム綺麗ですね~」
「まるで1日500本打ってるみたいね」
「そりゃ神だろ」
佐奈と葵の会話にツッコミを入れる。

「いえ、これは緑間真太郎です!」
誰、それ?

「フォームを崩されない限りどんな軌道や距離でも確実にボールをゴールへ入れることができるんですよ、兄さん知らないんですか?」
「いや、普通は知らない」
「ウソ、知ってるよ、私」
「俺も」
「僕も」
「え?」
何で俺だけ知らないの!?
ってか何その超絶設定?どんな距離でもって自陣ゴール下からでも入るってか?

「兄さん、遅れてますね。これからは白子のバスケですよ」
「白子?食いものか?」
『あ~!!』
というギャラリーの声に驚いて慌てて試合に目を戻す。
それと同時にガシャンという音が体育館内に響き渡った。

「アリウープ!」
「女子のダンクなんて初めて見ました!」
・・・もう知らん。




翌日
「昨日以上に人が多い気がするんだが・・・」
「昨日で100人。今日は300人は来てるね~」
虎太郎が言う通り、大凡だがそれくらいは確実にいる。

「噂が噂を呼ぶって奴だね」
「木賊が出した号外のせいでもあるだろ」
「あはは」
今朝木賊が出した号外、白黒だがダンクを決める卯ノ花の写真付きで全校生徒に配布された。
最早この学校で卯ノ花姫を知らない奴はいないと言っても過言では無いだろう。

「あそこにいるのってこの前のテニス部の奴だよな?」
「隣にキャプテンもいるね」
「練習もしないで何やってんだ?」
「多分ヒメちゃんをスカウトしようとしてるんじゃない?あっちにバレー部や陸上部もいるよ」
木賊がそう指さす方には確かにいかにも体育会系と言った感じの面々が集まっていた。

「でもヒメさんは大丈夫なのかな?さすがに怪我とかしちゃうんじゃ・・・」
「大丈夫だろ、あいつなら。昨日も男子とバスケして何とも無かったわけだし」
「で、でもスライディングとかあるんですよ?」
まぁ確かに佐奈が心配する気持ちも分かる。
しかも今日は昨日とは違い、女子サッカー部vs男子サッカー部という本来なら絶対にしないような対戦だ。

「キックオフ!」
ピピーッとホイッスルの音が鳴り響き、試合が始まる。
卯ノ花がボールを蹴り出し、あっという間に二人抜き去る。

『おお!』
という歓声がギャラリーから上がったのも束の間、詰めて来た相手をまた一人抜き去る。
サイドに広がっていた二人が中央に集まろうとするが、卯ノ花はフェイントを掛けて更に一人を抜き去り、追いつけそうも無い。
残りはキーパー含めて6人。

「さっきのは直角フェイントだ!」
「見て下さい!次はオーロラフェイントですよ」
相変わらず佐奈がマニアックな知識を披露してくれる。
それにしてもヒラヒラするスカートに男共は釘付けだ。
あり得ないことだが、今日も卯ノ花は制服姿。
こっちは見えはしないかとハラハラしているというのに。

「そしてこれはまさか伝説の!」
『リバウルターン!』
なんかモデルの人物の名前に近くなったな。
などと考えているうちに、最後の一人もループシュートのような感じで抜き去った。

「って・・・うわぁ、バカ、そんな格好でオーバーヘッドキックなんてしたら!」
さすがにここまでは見えはしなかったが、これはどうしようも無い。
男子生徒が全員注視しているのが分かる。

「ああ、あれは太陽が真後ろに!」
「ま、眩しくて見えない!」
気付くとボールはゴールネットに突き刺さっていた。

「て、鉄壁のスカートだ」
お~い、誰かオーバーヘッドキックに突っ込もうぜ。




「ホークショットだ!!」
「鷹!?鷲じゃなくて!?」
その後も卯ノ花の独壇場は続いた。
どうやら相手はちらちら見えている卯ノ花の白い太股に釘付けらしい。
動きに全く精彩が無い。
しかも何やら前屈みな奴もいるし、試合中に何考えてやがるんだ?




「フライングドライブシュートです!」
高く舞い上がったボールは美しい孤を描いてゴールネットに突き刺さった。
どころか何やらネットを突き抜けて行った気がするんだが、見なかったことにしよう。
それと同時に凄まじい歓声と試合終了のホイッスルが鳴り響く。

10-0で女子サッカー部の圧勝。
だが男子サッカー部はどことなく満足気である。

「お疲れさまです、姫さん」
そう言って佐奈がハンドタオルを卯ノ花に渡した。
相変わらず佐奈はこういうことに気が利く。

「少しは満足したか?」
「うむ。それで明日なんじゃが・・・」
「まだ行く気かよ!」
その後も卯ノ花の体験入部は続いた。

バレーや卓球などと言った球技はもちろん、剣道、柔道などの格闘物でもその才能を遺憾なく発揮。
剣道部の全国ベスト8の男子すら叩きのめしてしまった。
スポーツに置いては敵無しで、体験入部してない部からすら勧誘が毎日のように続いた。




「満足したか?」
「うむ。大変面白かったぞ」
「それにしても今日は凄かったね~。ヒメを見に他所の学校からまで人が来てたよ」
日を追うごとにギャラリーは増え、教諭どころか校長、果ては他校の生徒まで来るようになっていた。
正確には数えていないが、多分1000人は超えていただろう。

「卯ノ花姫伝説も今日で終わりか~。そう考えるとなんだか寂しいね~」
などと虎太郎が言っているが、これ以上噂が広がらなくて本当に良かった。
下手したらプロからでもスカウトが来そうだ。

「でも伝説は学園が続く限り永遠に語り継がれますよ」
一刻も早く風化して欲しいところだ。
まぁ余りにも凄過ぎるので、実際見てない来年の1年生くらいからはガセだと思われるだろうが。

「卯ノ花姫伝説は終わらないってわけだね。ううん、ボクがヒメちゃんの伝説を終わらせないよ」
「頼むから積極的に終わらせてくれ・・・」
そんなことを思いながら空を見上げる。
最近は毎日体験入部していたせいで夕焼けを見ることが多くなった。
太陽が眩しい・・・

「どうしたんじゃ、ハルキ?」
「ん?いや別に」
「おかしな奴じゃのう」
この日々はいつまで続くんだろうか?
突然やって来た卯花之佐久夜姫というこの神様との生活は・・・

「兄さん、どうしたんですか?早く帰りましょうよ~」
立ち止っている間に皆は先に行ってしまっていた。
俺は慌てて後を追いかける。
色々なことがいきなりあって驚いたけど、きっと今年は今までと違う楽しいことが起きる。
そんな予感が俺はしていた。





終わり

天神乱漫SS第二弾でした。
今回のも体験版見て書いただけなんですが、今回はさすがに本編とは被らないだろ。
本当は他の部活の対戦風景も描きたかったんですが、いまいち上手く行かなかったので止めました。
次に書くとしたら本編プレイ後ですが、いつプレイ出来るかな~



                                         
卯ノ花姫の仮入部体験記
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