「美春は一番上に括りつけます!」
「あ、じゃあ私は一番下に・・・」
美咲は一番下か。俺はなるべく目立たない真ん中辺りに付けるとするか。
結局俺が書いた短冊は全部で3つ。
学校の成績が勉強せずに上がりますように、音夢が元気でありますように、それと・・・これは見付からないように括ろう。
シスコンだとか言われそうなので音夢が元気に、の方と3枚目はみんなには教えていない。

「さて、どこに括りつけるかな。ん?」
気付くと俺の後ろに音夢とさくらがいた。何やら互いに牽制し合ってる。

「何してんだ?」
「いえいえ気にしないで下さい」
「そうそう、お兄ちゃんは早く短冊を括りつけて」
「そうか?んじゃ」
と括りつけようとした瞬間に、俺の短冊の横に4つの手が伸びた。

「・・・俺が括れないんだが?」
「さくらちゃん、兄さんが邪魔だって言ってますよ?」
「音夢ちゃんの方が邪魔なんじゃない?」
「どっちも邪魔だ!何で俺の横に括ろうとするんだよ」
「それは・・・」
「その・・・」
途端に静かになる二人。隣に付けようとした理由はチラッと見えた二人の願い事から分かる。
俺とずっと一緒にいれますようにって小学生じゃないんだぞ。

「こんだけでかいんだから違うところに括れ!いいな!」
「はい・・・」
「うん・・・」
渋々ながら二人は違うところに括りつける。それでも近いが。




さて、この短冊はどこに括るかな?
見られたくないので最後まで残してたが、もう女子は括り終わって家の中に入った。
これをサッと括って杉並に見られる前に竹を立てるとしよう。

「朝倉、もういいか?」
「あ、ああ。それでどうやって立てるんだ、これ?さっきちょっと持ったが立てれそうに無いぞ」
ちょうど括り終わったところで杉並に話し掛けられる。

「竹の先の方から少しずつ持ち上げて行けば大丈夫だ」
「ホントかよ」
「俺の計算に狂いは無い」
杉並に指示された通りに竹を起こし始める。
確かにこれなら行けそうだ。




「な、なかなかに・・・ハードな・・・ミッションだったな・・・」
「は、ハード過ぎるわ!マジで・・・危なかったぞ!」
竹を立てるまでは良かった。いや、まぁかなり重くてそこまでも順調だったとはとても言えないが。
問題はその後だ。立てた位置から庭への移動。
微風にも関わらず竹は右へ左へとしなり、危うくお向いさんの家に痛恨の一撃をかますところだった。
さすがの杉並も焦ったのか珍しく息が切れている。俺は汗と冷や汗が両方出るという珍しい体験をする羽目になった。

「兄さん、杉並君、お疲れ様」
ようやく竹を固定し終えたところで、音夢から労いの言葉と共にジュースを渡された。

「全くだ・・・。それで準備の方は終わったのか?」
「うん。私の方はバッチリだよ」
そう言う音夢の後ろにはキャンプで使うようなテーブルセットが置かれている。ちなみにこれも杉並提供だ。

「おっ待たせ〜。おお、立てると一際凄いね」
「そうだろ、そうだろ。めちゃくちゃ苦労したもんでな」
さくらに続いてことり、美咲が料理を載せた大皿を手に現われた。

「おお美味そうだな」
「そうでしょ、そうでしょ」
3人の料理はどれも色鮮やかで美味そうだ。まぁ音夢の料理も見た目だけなら美味そうなんだが。
さくらは和風でことりは中華か。んで美咲が洋風と三者三様である。

「ことりって中華も出来るんだな」
「うん。最近勉強したばかりなんだよ」
「へぇ〜」
「お兄ちゃん・・・どれが一番美味しそう?」
「え゛っ?」
さくらの一言でそれまで笑顔だったことりと美咲の顔から笑みが消えた。

「え〜っとさっきのは全部美味しそうって意味で言ったんだけど」
「だからどれのこと?」
そんなボカし方は許さないと言った感じでさくらが迫って来る。いや、ことりと美咲も近付いてきてる。

「純一さん、私のですよね?」
「朝倉君、私だよね?」
「お兄ちゃん!」
「行かんな、雲が出て来た」
そこへナイスタイミングで杉並が話題転換をしてくれる。
これほどナイスタイミングだと思ったことも無い。まぁ絶対狙って無いと思うけど。
俺達は杉並につられて空を見上げる。眞子達が来た時に出てた雲がいつの間にか増えている。
ちょうど織姫と彦星が見えると杉並が言っていた辺りだ。

「せっかくの七夕パーティーなのにねぇ〜」
「大丈夫、きっと晴れますよ、眞子ちゃん」
いつの間にか水越姉妹が鍋と簡易コンロを手に出て来ていた。

「まぁまだ暗くなり始めたばかりです。夜は長いですよ」
確かに美春が言う通りまだ西の空が赤い。月は見えるが星が見えるのはもう少し先だろう。

「今は料理を楽しみましょう」
「あ、お兄ちゃん!それで誰なの結局?」
「私ですよね、純一さん?」
「私だよね?」
せっかく話が逸れかけてたのに!美春のアホ〜!仕方ない。

「美春だ!美春の料理が一番だ!」
「へ?・・・・・・ええ!?美春のですか?」
この際バナナ料理だろうが知ったことか。一番角が立たなさそうなところにしておこう。




「月や他の星は見えるけど・・・」
「肝心の星が見えないですね」
「本日の月齢は26.1で若潮だ。観測には絶好なのだが」
杉並が専門的な言葉で説明してくれる。良く分からないが、天の川が見やすい日ってのは分かった。
美味い料理に舌鼓を打ち、テストの打ち上げを兼ねたパーティーは楽しく進んだ。
だが肝心の織姫と彦星がサッパリ見えない。ちょうど雲で天の川を含めたその辺りが隠れてしまっている。

「織姫と彦星、1年に1回だけしか会えないなんて悲しいよね」
「そうだな」
「もし兄さんと私が1年に1回しか会えなくなったらどうする?」
「そりゃ困るな。掃除洗濯をしてくれる奴がいなくなると」
「私は真剣に聞いてるんですけど?」
いかん、軽い冗談だったのにマジに怒ってる。

「冗談だよ、怒るな。しかしそんな現実にありえない仮定を真剣に聞かれても困るんだけどな」
そんな起こりもしないことを聞かれても、想像するのは難しい。妹の日じゃあるまいし。

「そうですよね。どうせ私は兄さんにとって炊事、掃除、洗濯くらいの価値しか無いですもんね」
「悪かったって。それとさり気なく炊事を足すな」
全く油断も隙も無い。炊事だけは音夢がいたところで何ら変わりはしないのだ。
いや、むしろ悪化すると言った方が正しい。

「そんな仮定は無意味だと思うけどな。俺もお前も、今ここにいるだろ」
「兄さん・・・」
「さくらもことりも萌先輩も眞子も美春も美咲もみんなここにいる」
「・・・相変わらずデリカシーが無いですね」
・・・何で怒られなきゃいけないんだ?ただ事実を言っただけなのに。

「もういいです!兄さんのバカ!」
「ええ?ちょ、何で怒ってるんだよ」
「知りません!」
そう言うと音夢はスタスタと家に向かって歩いて行ってしまう。

「おい、ちょっと待てって」
「お兄ちゃん!」
「うわっ」
音夢の後を追い掛けようとしたところで、さくらにしがみつかれた。

「さくら離してくれ。音夢が何故か怒ってて、放っておくとロクなことにならない予感がする」
「もう遅いと思うよ〜」
「は?それってどういう・・・」
「兄さんのバカー!!」
という言葉が聞こえたかと思った時には、目から火花が飛んでいた。

「ぐおっ」
突然の出来事に膝から崩れ落ちてしまう。ホントにロクなことにならない・・・




「良かったね。広辞苑じゃなくて古語辞典だよ」
「た、大して変わらんわ・・・」
直撃した後頭部をさくらにさすられつつ立ち上がる。

「コブになってるね」
「なんてことしやがる。それでその犯人の音夢は?」
「お家の中に入っちゃったよ」
「ホントに訳が分からん」
何でこんな酷い目に遭わないといけないのか誰か教えて欲しい。

「さっきのお兄ちゃんのセリフを取ると、今はボクとここに二人っきりだね」
「どこをどう見たらそうなる!?すぐそこにみんながいるだろ!」
「ん〜じゃあ直径1m以内にはボク達だけ」
そう言ってさくらが腕にしがみつく。そんな小さな範囲で二人きりなら、常日頃でもしょっちゅう二人きりってことになるが。

「音夢ちゃんもきっとそう思ってたんじゃないかな?」
女心って言うのは本当に分からん。俺なんかには一生理解することは出来そうにない。
しかしまぁこんな俺でも分かることが一つある。音夢とさくらは似てないようで似てる。
その割にはあんまり仲が良くなかったりするんだよな。同族嫌悪って奴か?

「んにゃ?お兄ちゃんどうしたの?頭打ってバカになっちゃった?」
さくらが怪訝な顔をしてそんなことのたまった。

「だ れ が だ?」
「んにゃにゃにゃにゃ痛い、痛いよ〜」
ホントにアイアンクローのし易い小ささである。




「んにゃ〜」
「全く。・・・今年は見えないのかな。また来年も七夕パーティーするか」
「・・・そうだね。でも見える見えないに関わらず再来年も、再々来年も、その先もずっとしよ」
「そうだな。願い・・・叶うといいな」
「うん。そう言えばお兄ちゃんのお願いって何だったの?」
「さっき教えたろ」
「3枚書いてたの見てたよ。教えてよ〜」
何て目ざとい奴だ。この調子では音夢にも見られてそうだ。
2枚目はともかく、3枚目については余り知られたくない。

「教えない」
「教えてよ〜」
「教えないって」
「教えて〜」
「あ、それ私も気になるな〜」
俺の腕にしがみついたまま教えろ教えろと連呼するさくら。
そこにことりまでもが教えて欲しいと言い出した。

「隠してないであたしにも教えなさいよ」
「私にも教えて欲しいです〜」
「美春にも教えて下さい!」
「あの・・・私にも出来れば」
いつの間に集まって来たのか、完全に囲まれて逃げ場が無い。
あ〜もう何でこんな目に遭うんだ?と空を見上げて気付いた。

「あ!」
「誤魔化そうとしたってダメだよ、お兄ちゃん」
「バカ、違う。雲が・・・」
空から目を離していた間に雲が流れ、織姫と彦星が見えるようになっていた。

「わぁ〜綺麗ですね」
「音夢。いつの間に戻って来たんだよ。って、その手の広辞苑は何だ!?」
「え?いえいえ。別にもう一撃喰らわせようとかそんなこと考えてませんよ?」
絶対に嘘だ。明らかに俺にトドメをさそうとしていた。そうじゃなきゃ背後にいる訳が無い。

「織姫と彦星は幸せかな?」
「きっと幸せだと思うぞ」
何の根拠もない。だが1年のうちに1日会えるなら幸せだと思う。
100年続けば100日、1000年続けば1000日会うことになるのだから。




片付けも終わってみんな帰った後に俺はさくらと竹の前にいた。
ちなみに音夢は今風呂に入っているハズだ。

「そういやさくら」
「どうしたの、お兄ちゃん?」
「お前小学生の時に願いごとしてたろ?音夢と一番上争った奴」
「そ、そんなことあったかな〜?」
目が完全に泳いでる。

「もう一度アイアンクローを喰らいたいようだな」
「んにゃ!?そ、それだけはご勘弁を〜」
「じゃあ言え」
「お兄ちゃんは言わないのに」
・・・ヤブヘビだったか。せっかくみんな忘れてたのに。

「俺も教えてやるから言えよ」
「ん〜でもこれは言えないよ。あ、これだけは教えてあげる。音夢ちゃんと争ったのは同じ願いごとだったから」
「そうなのか?」
「うん。そうなんだよ。これだけは絶対に譲れない願いごとだったんだ」
譲れない同じ願いごとか。そういやさっきもこいつら同じこと書いてたもんな。

「・・・みんなの願いが叶いますように」
「え?」
「俺の願いごとだよ。お前が教えたから言ったんだ」
「お兄ちゃん・・・」
「何だ、バカにする気か?」
「そんなことしないよ〜。・・・優しいね、お兄ちゃんは」
そんなことを真顔で言われたら照れてしまう。

「来年もまたこうやって一緒に見ような」
「うん」
さくらと見上げた夜空にはさっきと変わらない美しい天の川が見えた。





終わり

中編書き始めてからわずか2日で後編も完成。
ってことで2008年中に出来てたんですが、他に公開するものがあった関係上年明けになりました。
ちなみに1月7日公開にしたのはこの日でちょうど前編公開から4年半だからです。
久しぶりのD.C.SSいかがでしたでしょうか?とりあえずこれで2009年度も更新に成功w

月齢については2002年7月7日をしっかり調べましたよ。こういうくだらないことは気になる性質なもんで。
中編でも書きましたがプロットでは音夢SSでした。どこをどう間違ってさくらSSになったのやら。
いちいち説明するのは蛇足かと思いますが、音夢とさくらの昔の願いごとは『お兄ちゃんのお嫁さんになれますように』です。



                                         
星に願いを(後編)
inserted by FC2 system