「聞いたぞ、朝倉」
「・・・・・・何をだ?」
今日は珍しく余裕をもって登校出来た俺に杉並が話し掛けて来た。
せっかく早く登校出来たというのに、嫌な予感しかしない。

「ふっ、惚けなくていい」
真剣に惚けてるつもりは無いんだが。

「もったいぶらずに早く言えよ」
「明日の七夕パーティーのことだ」
「・・・何でお前が知っているんだ?」
「昨日芳乃講師から聞いた。そんな楽しそうなことを黙っているなど人が悪いぞ」
「俺も昨日知ったんだよ」
どうも人の知らないところで話が進んでるらしい。
てっきり俺と音夢、さくらだけでやるのかと思っていたんだが。

あれ?そういやその音夢はどこだ?風紀委員の仕事だとかで先に行ったハズなんだが。

「朝倉妹ならまだ会議中だ」
「何故お前が答える。と言うか人の心を読むな」
「別に今のは心を読んだわけではない。辺りを見回せば大凡予想がつく」
何もかもお見通しって感じだ。それとも俺の行動が単純なんだろうか?

「あたしとお姉ちゃんもパーティーに参加するわよ」
横から眞子が会話に入って来る。

「眞子もか?何でまた?」
「芳乃先生に誘われたのよ。それに七夕なんて久しぶりだからね。もう大きい竹も用意してあるんでしょ?」
これまた寝耳に水である。近くに竹林なんて無いし、俺には調達するアテも無い。

「うむ。俺が自ら選んだ逸品だ。水越も満足することだろう」
さくらの言ってた竹が用意出来るアテはこいつのことだったか。

「何で昨日知って昨日の時点で用意が終わってんだよ」
「行動は迅速に行わなければ戦場では生き残れんぞ」
「ここは学園だ」
そして戦場なんかに出るつもりは一生無い。というか日本に住んでたら普通は出ない。

「ただ物が物だけに到着は明日になる」
「あ〜そうか。宅配便とかだと竹なんか送れないもんな」
もしかしたら送れるのかも知れないが、聞いたことが無い。




「他には誰か来るのか?」
「さぁ?あ、じゃあ美咲も誘っていい?」
「別に俺は良いけど。そうだな、どうせなら俺も誰か誘うか」
美春は多分音夢が誘うだろうし、こりゃ結構賑やかになりそうだ。

「明日が楽しみね」
「うむ。今日、明日は1日中快晴だ。天の川もよく見えることだろう」
「織姫と彦星が1年に1回会える奴だな。星は何て名前だっけ?」
「あんたねぇ。そんなことも知らないの?」
眞子はやれやれと言った感じで俺を見て来る。

「星の名前なんて知らなくても生きていける」
「そりゃそうでしょうけど、それくらいは一般常識よ」
「アルタイルとベガだ。アルタイルが彦星、ベガが織姫を指す。何故1年に1回しか会えないかと言うと・・・」
と杉並がそこまで言ったところで予鈴が鳴った。
ナイスタイミングだ。名前だけで良いのにそんな余計なことまで聞きたくない。

「ほら、チャイム鳴ったぞ。早く席に戻れよ」
「まだ予鈴じゃない」
「どうせすぐに本鈴も鳴る」
「ならば次の休み時間にじっくりと話してやろう」
「結構だ」
音夢もいつの間にやら戻って来ている。え〜っと1時間目は・・・




「ふぅ。危ないところだった」
4時間目が終わってすぐにダッシュしたお陰でやきそばパンが何とか手に入った。
まぁさくらに廊下は走っちゃダメだよ!って怒られたわけだが。
今日は土曜日でほとんど入荷が無いから、悠長に歩いていてはこの戦場で勝つことは出来ない!
・・・あれ?今朝戦場に行かないって言ったハズなんだが、案外身近に戦場はあったな。ショボイ戦場だが。

「さ〜て、どこで食うかね」
購買から離れつつ食べる場所を考える。教室は暑いし、屋上・・・まで上がるのはかったるいな。
それに日陰の無い屋上では干物になってしまう。よくもまぁあの二人はこのクソ暑いのに鍋なんか食べれるもんだ。

「中庭にするか」
木陰になった涼しそうなベンチを探すが、既に部活の弁当組が占拠してしまっている。
直射日光の当たるところは勘弁して欲しいところなのだが・・・と思ったところで身知った顔を見付けた。

「ことり、隣いいか?」
「朝倉君。良いですよ。どうぞ、どうぞ〜」
ことりは笑顔で承諾して俺に座るよう促す。

「この後何かあるのか?」
「うん。中央委員会の仕事があるんだ」
ことりは普段教室で友達と弁当を食べてるからな。
弁当を持って来ない俺とこんな風に一緒に食べる機会はほとんど無い。

「朝倉君は?」
「俺は特に何も無いけど、家に帰って食うのも『かったるい』と思って」
見事に俺とことりがハモった。互いの顔を見合って笑い合う。
しかし音夢やさくらだけでなく、ことりにまで俺が何を言うか理解されてるとは。

「それにしても、外で食べるなら誰か友達を誘えば良かったのに」
「最初はそう思ってたんですけど・・・」
「けど?」
「朝倉君が来たからいいですよ♪・・・あれ?どうかした?」
「え?い、いや、何でもない。それじゃ一緒に食おうぜ」
無邪気に笑うことりに見惚れてしまった。さすが本校付属含めて名実ともにNO.1の学園のアイドルである。
杉並調べによると男子生徒の4割はことりファンらしい。ちなみに音夢ファンは3割5分、そして何故かさくらファンも1割いるらしい。




「そうだことりって明日の夜暇?」
「・・・デートのお誘いですか?」
「ち、違う。みんなで俺の家で七夕パーティーをしようって話が出てるんだ」
予想外の言葉にどぎまぎしてしまう。確かにデートにでも誘ってるみたいだ。

「そうなんですか。残念
「え?何か言った?」
「いえいえ、何でもないですよ。明日暇です。何時に行けばいいんですか?」
どうしよう、知らない。誘っといて何だが、ホスト側のくせにパーティーの詳細については全く知らない。

「いやまだ時間は決まって無いんだ。決まったらメールするよ」
「了解っす。それじゃ明日楽しみにしてるね」
さて、これで俺を含めて9人か。あの庭の広さを考えるに、これくらいが限界かな。




「でけぇ・・・」
「凄いですね・・・」
「beautiful!杉並君、見事な竹だね」
今俺達の目の前には10mはあろうかという竹が横たわっている。
当然庭に入るわけもないので、さくらの家の前からうちの家の前までを使ってだ。

「そうでしょう。某所にある有名な竹林から伐採して来た一級品です」
「お前な、こんなでかいの用意してどうすんだよ」
「何を言う。この家のサイズを考えて小さめのものを見繕ったぞ」
これでか?確かに竹は大きいものだと20mを超えるとも聞くが。
おそらく立てれば家の屋根よりも高くなるであろう。周辺住民の注目を浴びそうだ。

「それにしてもどうやって運んで来たんだ?」
「トップシークレットだ」
「余り聞かない方が良さそうですね。それでさくらちゃん、パーティーの方はどうするんですか?」
「うん、ボクと白河さん、水越さんとまこちん、美春ちゃん、美咲ちゃんで料理を作る予定だよ」
要するに女子の音夢を除く全員じゃねぇか。しかしうちのキッチンはそんなでかく無いんだけど。

「さくらちゃん?私が入ってない気がするんですけど?」
「え〜っと、その音夢ちゃんはこの家の人だし、テーブルとか用意して欲しいかな〜何て。にゃはは」
笑って誤魔化そうとするさくらだが、全く誤魔化せてないぞ。

「ふんっ。別に良いですよ。私が料理下手なのは分かってます」
そりゃみんな知ってるとは口が裂けても言えない。

「こんにちは〜」
「来たわよ〜」
「萌先輩、眞子ももう来たのか」
「ええ。それにしても今日って快晴じゃなかったっけ?」
と眞子が空を見上げる。確かに快晴のハズだったのに、少し雲がある。

「ホントだな。まぁ大丈夫だろ」
「だといいけどね。それにしても大きい竹ねぇ〜」
「全くだ」
「どうやって立てるんですかぁ?
・・・どうやってだろう。萌先輩に言われるまで竹の大きさに目が行って全く気付かなかった。

「杉並」
「俺とお前で立てるに決まっているだろうが」
「これを?」
「うむ」
「俺とお前で?」
「うむ」
始まる前から嫌な予感しかして来ない。とりあえず明日は筋肉痛だな。




「じゃあみんな揃ったところで短冊にお願いごとを書こうか♪」
さくらはそう言って短冊を取り出す。
約束の17時に全員がちゃんと揃って朝倉家のリビングにいた。
9人いるのでテーブル側とソファ側に分かれている。ちなみに俺はソファ側だ。
本当はテーブル側だったんだが、ある二人のせいでこっちにいる。まぁ誰かは言わずもがなだが。

「折り紙じゃないのか?」
「うむ。せっかくなので和紙の短冊を用意した」
「へぇ〜風流ですねぇ〜。でも何で黒なんてあるんですか?」
美春の言う通り短冊には黒がある。これじゃ修正ペンでも使わなきゃ書けそうにない。

「五行説にあてはめた五色で、緑・紅・黄・白・黒を用意した」
「五行説?」
「説明しよう」
「いや、いい」
杉並の申し出を即答で断って黒の短冊を手に取る。折り紙なんかとは違った和紙独特の手触りだ。
せっかくだから黒に書くか。

「じゃあ美春は黄色で」
「言うと思ったよ」
「ほえ?」
どうせバナナ色だからとかそう言う理由だろう。

「じゃあ私は白にしますね」
「美咲はもう願いごとは決まってるのか?」
「あ、はい。毎日学園に行けますようにと」
美咲らしい願いだ。よく考えると美咲って本当は萌先輩と同学年なんだよな。

「純一さんは決まってるんですか?」
「まぁ一応ね。美春は・・・聞かなくてもいいか」
「何でですか!?」
別に聞かなくても大体分かる。バナナがたくさん食べれますように、とかそんな感じだろう。

「朝倉君、いじわるしたら天枷さんが可哀相ですよ〜」
「すみません」
萌先輩に窘められてしまった。・・・しかしこの人も何となく願い事が分かるな〜
思うに鍋関連だろう。何か珍しい食材が手に入りますように、とかだと思う。

「眞子は?」
「上手く吹けない曲があるから、上手くなれますようにとかよ」
「眞子らしい願いだな」
「それって誉めてんの?」
「別に誉めてはいないが、貶したりバカにしたりはしてない」
あっちのテーブルは・・・聞かないでおこう。何か火花が飛び散ってる気がする。





続く

前編が2004年7月7日公開、そして今は2008年12月31日。
正直なところ、自分でも続きが書けると思ってませんでした。
そしてヘッドスライディングでD.C.SS5年連続更新に成功。もう今年は出来ないかと思ってましたが、何とか間に合いました。
序章で止まってる『音夢とさくら』や『親友』、『君とここで』もいずれは完成させたいですね〜
後編ももう完成してるので、4年半掛けて完結という他に類を見ない超大作(笑)に。

内容についてちょこっと。2002年7月7日は日曜日です。ってかD.C.の世界って6年半も前か。考えたくねぇな。
珍しく初期ヒロインしか出て来ないお話になってます。ちなみに中編でことりの出番が多いのは作者の趣味です。
当初、というか当時は音夢SSの予定だったんですが、完全にさくらSSになってます。まぁ細かいことは気にしない。
一応全員エンドなんで、誰かと恋人同士ってわけじゃないです。



                                         
星に願いを(中編)
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