今日で期末テストも終わって、学園は半ドン。
昼過ぎからボケ〜とできることが嬉し過ぎる。
テストの結果については・・・考えないようにしよう。

「最高ですか〜?」
などと思わず自分に疑問形で聞いてしまうくらいだ。
クーラーの効いた部屋でベッドに寝転がり、夏休み前から自堕落な生活が始まっていた。

思えば1学期もあっという間だった。
音夢が倒れたり、猫耳メイドさんが来たりと忙しい毎日。
だがそれも過ぎ去ってしまえば今のようにただただ暇である。
あ〜なんか眠くなって来た。最近一夜漬けばっかだったからな。晩飯まで寝るか。




「お兄ちゃん!」
うつらうつらし出したところで、突然窓が開いてさくらが顔を出した。
そしてベッドで寝ている俺に乗りかかって来る。

「ぐえっ。・・・さくら、重いからどいてくれ」
「重いだなんてレディに失礼だよ!」
「レディは窓から入ってきて人の上に乗ったりせん」
俺は当たり前の反論をする。

「仕方ないな〜。でも重いっていうのは訂正してよね、お兄ちゃん」
「わかった、わかった。訂正する。さくらは超軽い。これでいいだろ?」
「む〜。なんかいやいや言ったって感じだね」
さくらがほっぺを少し膨らましながらも、渋々降りてくれた。
さくらの体重は決して重くはないが、腹の上に乗られたら軽かろうが重い。

「そんなことないぞ。事実なんだから」
「ん〜。まぁ、そういうことにして置いてあげるよ」
「そういうことにしておいてくれ。ところで、何しに来たんださくら?」
「お兄ちゃんとお昼寝しようと思って♪」
さくらは笑いながら言ったが、昼寝?俺と?

「な、何バカなこと言ってんだ。高校生にもなって一緒に昼寝なんて出来るか!」
「冗談だよ〜。実はね、明後日は七夕でしょ?テストの打ち上げを兼ねて、みんなでパーティーでもどうかなって」
マジメに受け止めた俺がバカだった。

「打ち上げって、お前は教師だろう。あ、そういや教師なのに何でこんなに早く戻って来てるんだ?」
「それはもうボクが採点を終えてすることが無いからだよ。お兄ちゃんの点数教えてあげようか?」
「・・・遠慮しとく」
どうせ今聞こうが聞くまいが点数は変わらない。

「しかし七夕ねぇ。そんなのここ数年やってないよな〜。でも何でまた突然?」
「七夕と言えば日本の魂だよ?それをやらないなんて日本人じゃないよ」
また、さくらの変な日本感か。なんかずれてるんだよな〜、こいつの日本像って。
しかし何か不自然に明るい。こういう時のさくらは何隠してる。

「そんな理由か?何か隠してるだろ?」
「んにゃ?そんなことないよ?」
「別に言いたくないなら無理には聞かないけど、俺にも言えないのか?」
「・・・・・・お兄ちゃんずるいよ。そんな風に言われたら言わなきゃいけないもん」
確かに自分でもズルイ言い方だと思った。だがこいつは自分の中に悪いことを溜め込み過ぎる。
こうやって誰かが引き出してやらなきゃ潰されてしまうだろう。




「枯れない桜がボクの願いを過剰に叶えてたでしょ?」
「ああ」
ばあちゃんの植えた枯れない桜。そのばあちゃんの血を色濃く受け継いださくらは願いが次々と叶ってしまっていた。
まぁ今はさくら自身の手で枯らされて、初音島は夏真っ盛りって感じに緑でいっぱいだ。

「だから七夕のお願い事も気軽に書けなかったんだ」
「そうだったのか?」
「うん。お願いを考えたりしたら、そのまま叶ってしまうから」
だからいつもお願いごと書くフリして何も書いて無かったんだ、とさくらは付け足した。
さっきまでの元気さがウソのような表情だ。

「でも今はもうそんなこと気にしなくて良いからか。んじゃ今回はさくらにとって初めて叶うかどうか分からない七夕ってわけだな」
「え?」
「今までまともに願いごと書いて無いんだろ?」
「うん」
「んじゃかったるいがやらない訳にはいかないだろう」
「お兄ちゃん・・・」
しかしこいつが七夕の度にそんなことを思っていたとは。全く気付きもしなかった当時の俺をぶん殴ってやりたい。

「でね、大きな葉竹が用意出来そうなんだ。この家でホームパーティーなんて楽しいと思うけどな〜」
さくらは本当に小学生か幼稚園児かのように楽しそうにそう言った。やっぱりさくらは笑顔な方がいい。

「七夕パーティーねぇ。まぁ、音夢がいいって言うんなら俺も別にいいけどな」
一応音夢にも話しておかないと後で何を言われるか分かったもんじゃないからな。

「じゃあ、お兄ちゃんは参加決定だね。それなら、早速準備に取り掛からないと。じゃあね」
そう言うとさくらは早々と窓から出て行ってしまった。 相変わらず台風みたいな奴だ。

「あ、お兄ちゃん」
「うおっ!いきなり戻って来るな。何だ」
「ありがとう」
それだけ言うとさくらはあっという間に見えなくなってしまった。

「・・・せわしない奴だな、ったく」
ありがとう、か。
最後に短冊を書いたのはいつだったっけ?などと考えつつ、俺は眠りに落ちて行った。




その日の夕食時。

「と言うわけなんだ。別にこの家でやっても問題ないよな?」
「別に私はいいですけど。七夕ですか。随分久しぶりだよね、兄さん?」
と音夢はラーメンの汁を啜った後に言った。
今日も今日とてリビングで出前のラーメンを俺と音夢はすすっている。
相変わらずの貧しい食生活である。

「本当にな。最後にしたのって、一体いつだったけ?」
「小学校の時は学校で行事としてやってたじゃないですか」
言われれば思い出して来た。毎年小学校の行事としてやってたな。

「あっ、思い出した」
「何を思い出したんです?」
「あの時、音夢とさくらが高いところに短冊を付けた方が願いが叶うって言う俺の言葉を信じて、
わざわざ用務員の人に梯子まで出して貰って、高いところに頑張って付けようとしてたんだよな」
そこそこ大きい竹で、すでに立てられた後だったのでそんなことになったのだ。
普通は竹を立てる前に括りつけとく。まぁその括り方が甘いと、いざ立てる時に短冊が落ちて笑われるわけだが。
って、あの時さくらは願いごとを書いてたのか?あの様子だと書いてたよな?

「全く、兄さんのせいでとんだ恥をかいちゃいましたよ」
「お前な〜。俺が途中でウソだって言ったのに、さくらには負けたくないとか訳分かんないこと言って続けたんだろうが」
梯子なんかに登ったら危ないからと止めたのだが、どっちも聞きやしなかった。

「そ、そうでしたっけ?覚えて無いですね」
「都合の悪いことは忘れやがって」
軽い冗談のつもりで言ったのに、マジに受け止められ、妹をからかうなと先生に怒られる羽目になった。
ちなみに俺は早々に短冊に願いを書いて、一番高いところに括りつけといた。
あの頃はバカと煙は高いところが好きってのを地で行ってたな。




「そういやあの時音夢もさくらも何を願ったのか教えてくれなかったよな?」
「・・・そんなことないですよ。兄さんが忘れてるだけです」
「そうか?・・・いや、しつこく聞いて二人に涙目になられてまたまた先生に怒られた記憶がある」
うむ、絶対に間違いない。嫌な記憶ってのは消そうとしても残ってるもんだ。

「はぁ、変な時だけ記憶力がいいんですね」
音夢は少し呆れ気味にそう言った。

「ふっ、記憶力の鬼と呼んでくれ」
「それが少しでも勉強に生かせたら良いんですけどね」
少し自慢気に言う俺に対して音夢はため息を吐いた。
人が気にしていることを。

「悪かったな。で、何か書いたんだ?もう教えてくれたっていいだろ?」
「えっ?あ、だ、ダメです!これだけは絶対に言えません!」
「はぁ?子供のときの願いだろ?別に教えてくれてもいいだろ?」
「ダメなものはダメなんです!」
と音夢はかなり興奮しながらそう言った。一体何書いたんだ、音夢は?
この様子だと今でも何書いたか覚えてるみたいだけど・・・俺は何書いたんだっけ?
とりあえずこれ以上突っ込んでも無意味だろう。それにこんなことで機嫌を損ねられても事だ。

「まぁ、言いたくない物を無理に聞くのもなんだし別に言わなくてもいいぞ」
「うん。ありがとう、兄さん」
「ありがとうと言われるほどの事は言ってないぞ?」
「それでもありがとうなんです」
ただ引いただけなのに感謝されても困るんだが。

「・・・まぁいいけどな。それより早く食べないと麺かなり延びちまってるぞ?」
「えっ?あ、あわわわ」
ホントに何書いたんだろうな、一体。
さくらは教えてくれるかな?明日聞いてみるか。





続く

全3話構成になりそうな七夕SSです。テスト中だし完成はいつになることやら。
初期ヒロイン総出ですがメインは音夢なので、音夢の欄にあります。
1年ごとの更新で再来年の七夕完成を目指して頑張ります。

2008年12月20日に加筆&修正
2つ目に公開されたSSだけあって、見直すとかなり酷かったので結構手直ししました。
近日4年半の沈黙を破り中編を公開予定です。



                                      
星に願いを(前編)
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