その男悪運につき(前編)

私、朝倉純一。
ただいま御祓いを受けております。
祓ってくれているのは俺の恋人でもある巫女の胡ノ宮環。

「なんでこんなことになったんだか・・・」
話は遡ること正月。

元旦。妹の音夢と共に初音島に1つしかない神社でのことだ。
新年早々かったるかったが、可愛い妹のお願いと環に会いたいという想いから出かけたのだった。
予想通りの混雑だったが、なんとか賽銭を放り投げ手を叩いてお願いをしておいた。
まぁ、お願いの内容は置いといて。

で、帰る前に定番のおみくじを引こうとしたわけだ。
そこからこんなことになるとは・・・

「さぁさぁ引いていってよ、おにいちゃん」
「・・・何してんだ、お前?」
「さくらちゃん可愛い・・・」
そこには巫女服を着たさくらがいた。

「でも、さくらちゃん先生だよね?アルバイトとかしていいの?」
そういやそうだった。曲がりなりにも教師がアルバイトなんてしていいはずがない。

「にゃはははは。問題ないよ音夢ちゃん。だってアルバイトじゃないもん。お手伝い」
「ボランティアでやってるのか?」
「うん。もう1度巫女さんの服を着てみたかったんだよ〜」
そういや前にも着てたっけな。

「まぁ、どうでもいいや。それはそうと環はいないのか?」
「さっきまでいたんだけどね〜。社務所の方に戻ってると思うよ」
「タイミングが悪かったみたいですね」
「ま、戻ってくるまで待つか。さくら、おみくじ引かせてくれ」
「はいは〜い」
さくらがおみくじと書かれた箱を俺に渡す。

「よっしゃ。いいのが出ますようにっと」
カラカラカラ・・・
「壱拾六」

カラカラカラ・・・
「私は捌だね」
「はいは〜い」
そう言ってさくらは後ろの数字が書かれた棚から紙を取り出す。

「はい、お兄ちゃん、音夢ちゃん」
差し出された紙を受け取り中身を開くと・・・・・・

「大吉だ。え〜っと、うんうん。いいことばっかり書いてあるよ。兄さんは?」
「・・・凶。学問、最低、勉強をしないと落第あり。病気、季節の変わり目ごとに危険」
「あ、あはははは。だ、大丈夫だよ。これから良くなるって」
「友、親友との絶縁。恋愛、別れの危険あり・・・」
「今が最低なら今から運も上がるよ。なんなら本当はダメだけどもう1回引く?」
「・・・そうしよう。凶はあまりにもヒドイ。せめて末吉でも・・・」
カラカラカラ・・・

「こ〜っい!」
「兄さん、声出さないでくださいよ。恥ずかしいじゃないですか」
確かにかなり注目を浴びている気がする。
しかも2回も引いてるせいで後ろにも人が待ってるし。

「壱だ!!」
「はいは〜い」
パタパタとさくらが再びくじを取りに行く。

「今度こそっ!」
カサカサ

「・・・・・・・・・マジ?こんなのあるのか?」
「・・・・・・大凶だね」
「紛れもなく大凶だね」
こんなもん初めて見たぞ。2回引いたからバチが当たったのか?
それとも大凶に近い凶だったとか?
ブツブツ考えてる俺を音夢が現実に呼び戻す。

「ま、まぁ兄さん。木に結び付けに行こ。きっと大吉にはならなくても吉ぐらいにはなるよ」
「そ、そうだな。・・・さくら、もう1回だけ」
「止めといた方が良いと思うんだけど・・・」
3度目の正直と言う奴だ。これでダメなら諦める。

「捌だ!」
「あ、私と一緒だね」
「ということは大吉だな」
「はい、お兄ちゃん」
さくらが素早くくじを取り出し、渡してくれる。

「何でだ〜!?」
「ご、極凶?」
「こ、これは伝説の極凶!環ちゃん曰く10年に出るか出ないかのレアな運勢だよ。ある意味ラッキーだね、お兄ちゃん」
「そうだよ、兄さん!ある意味ラッキーだよ」
「全然ラッキーじゃねぇ!」
3度目の正直ではなく、2度あることは3度あるだった。
次こそは・・・止めよう。くじなんかでいくら使う気なんだ、俺は。もうそれだけである種不幸だ。

「じゃ、さくらまたな」
「あ、うん。また後でね、お兄ちゃん」
さくらに別れを告げ、俺達はそこから離れた。




「全く信じられないよな。極凶なんて入ってるか普通?」
冷気でかじかんだ手を息で暖めつつ、木に凶のおみくじを結びつける。

「兄さんも運がいいと思えばいいんですよ。何しろ10年に一度しか出ないんですから」
音夢がにこやかに微笑みながら俺にそう言う。
ま、物はいいようだな。

「そう思うことにしとく」
言いながら俺は大凶の方を結びつける。
とは言ってもさすがに凶3連チャンは精神的に来るものがある。

「あ、あれ?」
「どうしたんですか、兄さん?」
「極凶のおみくじが無い・・・」
「ええ!?」
さっきまで確かに手に持ってたハズなんだが。

「もう知るか!行くぞ、音夢!」
「あ、はい。じゃあ、さくらちゃんのところに戻りましょう。甘酒とかもあるって言ってましたし。身体も暖まりますよ」
「ああ」
ここから俺の今年は最悪になっていた。




その日の帰り。財布が失くなっていることに気付く。
階段からズリ落ち足を捻挫。
翌日、テレビが壊れる。
宿題を丸まま新年明けの廃品回収に出してしまう。
録画していた深夜映画が肝心のところでテープ切れ。
買ったばかりのCDのケースを踏み潰す等など。

「なんだ?この運の悪さは?」
そう尋ねずにはいられない。
道を歩けば水をかけられるわ、公園に行けばガキの蹴ったサッカーボールが後頭部にクリーンヒットするわ。
それは新学期が始まってからも一緒だった。

学校でも手洗いの水が突然吹き出したり、
中庭にいて、頭の上にいきなり黒板消しが落ちてきたりとロクなことがなかった。
特にテストの解答欄のズレは悲惨だった。あと少しで1ケタになるところだった。
これは俺の落ち度かも知れないが、ここの所の運の悪さから考えるとそうは思えなかった。

環とのデートも水族館の予定だったのだが、臨時休業の文字を見たときには泣きたくなった。
俺だけでなく周りにも不幸を撒き散らしているらしい。

そして、今日はコレだ。
「ゴメンね〜。やきそばパン今売り切れちゃったよ」
申し訳なさそうに言う購買のおばちゃん。
いいさ、おばちゃんが悪いわけじゃない。
せっかく授業が少し早く終わっても、靴紐が両方切れればこうなるさ。

「俺には貧乏神でも取り憑いてるのか?」
俺はカレーパンをほおばりながら空を仰ぐ。
なんか先生に当てられるのさえも大凶のせいのように思えてくる。
しかも最近、周りから見ればやつれて見えるらしく、環、眞子はおろか杉並さえ心配してくる。
杉並にまで心配されるとは俺も終わりだな・・・




「朝倉先輩の不運ぶりは美春たちの間でも有名ですよ〜」
土曜日の昼下がり。俺は桜公園内のベンチに座って美春とチョコバナナを食べていた。

「さっきのを見るとすっごく納得出来ますよね〜」
「もう言うな。ますます惨めになる」
さきほどもチョコバナナを買う際に500円玉を、あろうことか排水溝に落としたのだ。
見兼ねた美春が奢ってくれたのが唯一の救いだろうか・・・

「色々噂が流れてますよ。先輩に配られたプリントだけしょっちゅう破れてるとか」
「事実だ。他には?」
「落としたごとに消しゴムが失くなるとか」
「すでに3つ失くした」
「胡ノ宮先輩に愛想つかされたとか」
「ちょっと待て」
なんか聞き捨てならんことを言われたぞ?

「へっ?違うんですか?これは今日流れてきた噂なんですけど・・・」
「根も葉もない嘘だ。そもそも誰がその噂流してるんだ?消しゴムのことなんてそんなに・・・・・・」
行き着いた。もっとも想像したくない顔の奴に行き着いてしまった。

「あ、あの〜先輩?」
そもそもあいつが俺をまともに心配する方がおかしい。大方振られてやつれたとか推測したのだろう。

「美春はおみくじ引いたりしたか?」
俺は強引な話題転換に講じた。

「え?ええ。それはもう。大吉でしたよ。アレで大凶を引ける朝倉先輩が凄いんですよ」
さすが美春。話題が変わってもちゃんと対応してくる。

「誰が引きたくて引くか。凶で妥協しておけばこんなことにはならなかったのかもな〜」
でも、凶に書いてあったこともかなり悲惨だった気がする。

「あ〜もう。今年は最初から散々だ・・・」
ん?待てよ?なんか忘れてないか?

「美春、今日は何日だっけ?」
「18日ですよ」
今日は1月18日で・・・環の誕生日は・・・・・・

「3日後じゃん」
ここの所の運の悪さに完全に忘れてた。

「何が3日後なんですか?」
「悪い、すっかり忘れてたことがあった。じゃあな美春、チョコバナナありがとう」
「いえいえ。これで朝倉先輩の不幸が少しでも失くなればいいですね」
俺は残っていたチョコバナナを食べ桜公園の出口に向かって歩き出した。

「って、金が無ぇ」
両親が不在で親戚が来ることなどありえない朝倉家。
当然お年玉などと言うありがたいものは存在しない。

「どうりで美春の羽振りが良かったわけだ」
ひとりで納得しながら財布の中身を再度確認する。
お札は当然のようになかった。
小銭はと・・・

「マジ?」
全部併せても400円足らずだ。
誕生日プレゼントどころか飯代も危ない

「音夢に買った誕生日プレゼントも痛かった・・・」
年末に音夢と環にプレゼントすりゃ金も失くなるわな〜
家にある金も大して無かったような気がする。

「銀行に引き出しに行くか」
残額は・・・考えたくないな。




「って、なんでこうなるんじゃ〜〜〜!!!」
俺は必死に走っていた。どこをどう間違ったかもろに犬のシッポを踏んでしまったのだ。
しかもアレは狩猟犬で有名なシェパード。噛まれたら間違いなく痛い。

「リードくらい付けとくのは常識だろうが〜〜〜!!!」
俺はときおり和菓子を投げつけながら走り続けた。
和菓子の味を覚えたのか、わざとゆっくり走ってるように見える。
追いかければ和菓子が貰えると思ったのだろうか?
こっちは全力疾走+和菓子生産で眩暈がしそうだというのに。




「しばらく犬恐怖症になりそうだ」
なんとか家に逃げ戻った俺は、ヘソクリが無いかと1時間近く金を探したが全く見つからなかった。
銀行に行くつもりが、家に戻って来てしまい、腹が減り過ぎてもう今さら出掛ける気はしない。
さっきポテチを食べたが、あれだけ量産した和菓子分のカロリーには到底足りない。

「こんなに貧乏だったか?俺は」
冷静に考えてみる。
財布さえ失くなっていなかったらもう少しは裕福だったものを。
そうか、銀行の残高を含めて少ないのは、年末に帰って来てた音夢に定額貯金をさせられたせいだ。
無計画過ぎるから貯金した方が良いと言われたんだった。

「月曜日に引き出して買えばいいか」
結局はそういう結論に至った。
明日引き出すと手数料が掛かってしまう。手数料の金もケチらないと。
仕送りはまだ先。にも関わらず貯金は誕生日プレゼントでほとんど消えるレベル。

「今更バイト出来ねぇしな〜」
明日いきなりバイトしたいんです、なんて都合よくは行かないな。

「待てよ。それより俺は月曜日の昼まで384円で過ごさないといけないのか?」
慌てて1階に降りる。
冷蔵庫の中、空っぽ。カップラーメンなど、なにもなし。菓子類、すっからかん。

「見事になにもない・・・」
またまた不運炸裂だ。とことん何かに取り憑かれてるとしか思えない。

「単純計算、1食64円」
ファーストフード店のハンバーガー1つか。

「・・・・・・さくらのところにたかりに行こう」




「お兄ちゃんが急に晩御飯食べたいなんて言うから変だと思ったよ」
「何を言うんだ。可愛い生徒が貧窮していたら助けるのも担任の役目だろ」
俺はさくらの家で晩御飯を頂いている。
そういやここで食べるのなんか何年ぶりだろう。

「はぁ〜。それにしてもお兄ちゃんは取り憑かれてるとしか思えないよね〜」
「全くだ。貧乏神に目を付けられたみたいだぞ。そもそも3度も引いたのが悪かったんじゃないか?」
「あ〜そうかもね〜。神様に罰当たりなことしたんだよ、きっと」
「お前がもう1回引くか聞いたんじゃないか」
「うにゃ、ボクのせいにするの?それに3回目引いたのはお兄ちゃんじゃない」
そりゃそうだが、2回目奨めたのはさくらなのに。

「べ、別に引いたのは俺だからいいけど、今日だって大変だったんだからな」
「そうなの?」
「靴紐は切れるわ、500円落とすわ、極めつけはシェパードに追い掛け回されるわ」
「よく逃げ切れたね〜」
「だから余計に腹ペコなんだよ」
俺は次々に口の中へ料理を運ぶ。

料理を食べ終わる頃、さくらがふと何か思いついたように俺に言ってきた。
「お兄ちゃん元旦から運が悪いんだよね〜」
「そうだ」
「ならさ、環ちゃんにお祓いでもしてもらえば?」
「お祓い〜?お祓いって悪霊が憑いた時とかにする奴か?」
祈祷師とかが棒を振っているのがふと頭に浮かんだ。

「う〜んと、それもあるけど厄年とかにも祓ってもらったりするから、どうかな〜って」
「・・・・・・なるほど。環なら効果もありそうだしな。よし、明日にでも頼んでみるか」
さくらからの思わぬ助言を受けた俺は早速環に電話して了承を得た。

「でも、さくらも魔女だし。厄払いくらい出来そうだけどな〜」
ジャンルが違うのかな?とか勝手な解釈をしつつ俺は眠りに落ちていった。





続く

え〜っと、とりあえずすみません。
新年初のSSがクリスマスの続きでも、音夢の誕生日記念SSでもなく環の誕生日記念SSで。
しかも、もう2月も中旬。眞子の誕生日は明日って状況です。
最近はSS書こうにも納得の行く文が書けずにいたのですが、正直これも上手い出来だとは思えません。

2ヶ月ぶりのまともなSS、これまで待ち続けていて下さった稀有な読者の皆様、後編にご期待下さい。
ちゃんと完成させたいと思います。あと、環ファンの方ごめんなさい。後編にはもっと出て来ますので。



                                       
inserted by FC2 system