ジリリリリリリ・・・・
「うーん…もう朝か。」
やかましく鳴り響く目覚まし時計に手を伸ばし時間を確認する。

「よし、今日も余裕だな。」
叶と付き合ってから3か月…。
なぜだか自然に早起きになっている気がする。

「やっぱり、叶と一緒に学校行きたいもんな。」
自然に顔がにやけてきてしまう。音夢がいなくてよかった。

「さてと、ベッドでこうしていても仕方ない!さっさと着替えて飯にしよう!」
そう思って、学生服に手を伸ばしてから気づく。

「あれ?今日から夏休みじゃん。」




「おはよう、朝倉君。」
「…おはよう。叶。何故我が家にいるんだ?」
居間に降りると、ものすごいほど普通に叶が朝食を作ってくれていた。

「んー、なんでだろう?」
唇に人差し指を当て、にっこりほほ笑む。つまりは内緒らしい。

「…まぁ、叶のご飯が食えるならよしとする方向で。」
「さすが、朝倉君。話がわかる!そこで待ってて、すぐできるから。」
ぱたぱた…とスリッパの音を立てながらキッチンに戻っていく叶を見送り、
しばし、ぼうぜんとしてから。

「あ、新聞っと…。ちょっと新聞取ってくるな。」
「はーい。」
なにやら新婚みたいな会話をかわしてから、玄関に出てポストを確認する。

「あれ?手紙?…って音夢からか。」

兄さんへ
お元気ですか?ちゃんと勉強していますか?
私は寮で生活してからというもの病弱も直ってきたみたいです。
やっぱり、花粉症だったのかな?
もう少ししたら帰ります。今週の日曜日くらいかな?
かわいい妹が帰ってくるんだから、部屋はきれいにしといてくださいね。
音夢。

「音夢のやつ、帰ってくるのか。日曜って…明日だよな。なんか買っといてやるか。」
家の中に戻ろうとしてもう一枚の紙に気づく。
「…ん?」

PS
そういえば、彼女ができたそうですね。美春から聞きました。
誰なんですか?
胡之宮さんですか?白河さんですか?眞子ですか?まさかとは思いますが美春ですか?
まさかさく…

音夢の怒った声が頭の中によみがえりそうで、そこで読むのをやめた。
「…その中の誰でもないけどな。」
ぼそりと呟いて居間に戻ると朝食の支度が終わっていた。

「うわっ!うまそう!」
「口に合うかな・・・?」
叶が照れながら箸を置く。
焼き魚を中心とし、卵焼き、和え物などなど…
まさに「日本の朝ごはん」であった。

「いただきます。」
箸を手に取り、玉子焼きをほおばる。

「うまい!」
「よかったぁ・・・。」
叶が嬉しそうに微笑む。そんな叶を見て思わず頬が緩んでしまう。

「あ、そうだ。」
「?どうしたの、朝倉君」
ほおばっていた玉子焼きを飲み下してから、しゃべる。

「実は明日、音夢のやつが帰ってくるんだ。」
「ホント?」
叶に手紙を渡して見せる。

「・・・なんか、怨念こもってるね。特にPSのあたり。」
「そこは気にするな。それでさ・・・・」
俺はある考えを叶に話した。

「・・・ああ、なるほど!それなら音夢さんも喜ぶし、驚くんじゃない?」
「だろ?よーし、飯食い終わったら早速行動だな。手伝ってくれるか?」
叶がくすくすと笑ってから、呆れたような『男』声で答えた。

「ったく、断ったって付き合わされるんだろ?任せとけって。」

「・・・という訳なんだ。」
眞子と杉並に連絡をいれ、うちに来てもらい事情を話す。

「ふ―ん・・・。面白そうね!いいわ、手伝ったげる。」
「うむ!この杉並が、ライバルの凱旋を大いに盛り上げてやろう。」
「サンキュー、恩に着るよ。」
「朝倉君!叶ちゃんから聞いたよー!」
「ことりもきてくれたか!いやぁ、助かる!」
えへへ、とことりが舌を出して笑う。

「杉並君がいれば、大抵のことはできそうだけどね。」
ふふふ・・・と杉並が不適に笑う。

「まかせろ、朝倉。いざとなったら、この家を宇宙船くらいには・・・」
「そこまでは頼んでない。」
「むう・・・他にもいろいろあるんだがなぁ。」
ったく、いったい何する気だったんだ?

「さてと、それじゃあ具体的な案を出すぞ。各員、それを実行するように!」
「「「おー!!」」」
ピンポーン・・・ピンポンピンポンピンポピンポピピピピピピピピ・・・・・・

「・・・美春か。」
「ひどいですよ、朝倉先輩―。美春に黙って音夢先輩を迎える会を開こうだなんて・・・」
いや、呼んだぞ?さっきだけど。

「それ以前に、その背中に隠しているものは何だ?爆発物か?」
ああ、これ?といった具合で美春がそれを見せてくる。

「天枷研究所特製!・・・えーっと、杉並先輩の頼んだ品です。」
「おお!来たか!特製クラスター爆弾!」
・・・マジで爆発物かよ。

「ちょっと、杉並!なによそれ!」
「なぁーに、クラスター爆弾はうそだ。正確には、空中拡散型蛇花火、俗称”冥府護摩”だ!」
「あきらかにあぶないですよ、それ・・・」
ことりが珍しく引いてる。確かにあぶねえ・・・。

「安全は確保してある。あ、ちなみに手持ち型だが、誰か持ってみるか?」
「誰が持つか!さっさと片付けてこい!」
残念だ、などとつぶやく杉並を部屋の外に追い出し美春に向き直る。

「それじゃあ、美晴は眞子と一緒に食事の買出しを頼む。
音夢のやつが帰って来るのは明日の夕方だから、今のうちに買っとけるものだけでいいよ。」
「はい!お任せください!」
「あれ?そういや、工藤君・・・じゃなかった、叶さんは?」
「呼んだ?水越さん。」
ずいぶんと懐かしい『男』声で叶が反応する。ドアから出てきた叶が着ていたのは・・・

「うわぁ・・・懐かしいね、『工藤君』」
「ちょっと、きついかな?でもまぁ、いけるよね?」
学生服姿の叶を見てことりが感嘆する。

「たしかに、いまだにこっちのほうがしっくりくるな。」
いつの間にか戻ってきていた杉並が叶を見てつぶやく。

「・・・それは、うれしくないかなぁ・・・。」
「ははは、すまんすまん。ん?このボタンは・・・」
杉並が叶の学生服のボタンの一つを見る。

「ははぁ・・・朝倉の第二ボタンだな?」
「へっ!?なんでわかったの?」
ふふふふ・・・・と意味ありげな笑いを残して杉並はドアから出て行った。

「いいなぁ、叶ちゃん。」
「・・・朝倉の・・・第二ボタン・・・」
ことりと眞子もなにやら意味ありげな目線で叶を見る。

「どーしたんだ?二人とも。」
「へ?あ、ううん。なんでもない。」
眞子がなにやら中途半端な反応をする。まぁ、いいか。

「じゃあ、美春、行きましょ?」
「あ、はい。水越先輩。」
「頼んだよ、二人とも。」
任せなさいよ、と言い残して眞子と美春が玄関から出ていく。

「じゃあ、俺たち4人でここの飾り付けだ!」
「了解っす!」
「任せろ。朝倉妹が泣き崩れてしまうほど感動的に仕上げよう。」
…こういう時の杉並は頼りになるようで心配が増えるだけなんだよなぁ
杉並の張り切る姿に一抹の不安を感じつつ、俺たちは居間の飾り付けを頑張っていった。




次の日。
「…お、あの船か?」
「ああ、間違いなかろう。時間的にあの船以外ありえん。」
俺と杉並は音夢を迎えるべく、港に来ていた。
しかし、何で杉並と二人肩を並べにゃならん。

「まぁ、まぁ、そこは我慢せい。」
とかなんとか言ってるうちに船は港に到着。碇が下され、完全に停泊した。
船から降りる人ごみの中、黄色いリボンを見つける。

「おーい、音夢―。」
「あれ?兄さん?それに杉並くん?」
「久しぶりだな、朝倉妹よ。」
きょとんとした顔で俺たちを見る音夢だったが、気がついたように近づいてくる。

「久しぶり!兄さん!」
「第一声がそれじゃなかったからびっくりしたじゃないか。久しぶり。」
「だって、兄さんがあんまりにも変わってないんだもん。」
人間が3か月程度で変わってたまるか。

「あー、感動の再開中スマンが…朝倉、あまり余裕はないぞ。」
杉並がずいぶんともったいぶって言う。

「そうだな。よし!帰るぞ!パーティーをやるんだ!」
「ええっ!?」
急にどうしたの、とでも言うように音夢が俺を見る。

「ん?どうかしたのか?」
「あの、めんどくさがりな兄さんが…迎えに来てくれただけでなくパーティーまで…」
感極まったように眼をうるませる失礼な妹の頭に手をやる。

「音夢?」
「え?」
あどけない視線でこちらを見つめる音夢ににっこりとほほ笑む。そして…

「俺は爬虫類か何かかっ!必殺鷲掴みっ!」
「いたたたたたっ!ごめん、ごめんなさーい!」
そんなこんなで結局、家に三人で向かう。
その間に音夢は二、三度俺に何かを聞こうとしていたがそのたびに杉並が話題を変えていた。

「ただいまー。」
「音夢センパーイ!おかえりなさーい!」
予想道理美春が一番乗りで飛び出してくる。

「美春!久しぶりね。元気だった?」
「はい!美春はいつでも元気です!」
忠実なわんこは飼い主に会えて嬉しがってるようだな。

「音夢、おかえり。」
「お帰りなさい、音夢さん。」
「おかえり、音夢さん」
眞子、叶、ことりの三人は一歩引いた感じで挨拶する。
.
「眞子!工藤君に白河さんまで?」
「みーんなおまえを待ってたんだぞ?」
音夢のびっくりした顔を見れただけでみんなに来てもらった甲斐があったな。

「さ、さっさとはじめようぜ。腹ペコだよ。」
「オッケー!私と美春が腕によりをかけて作った料理があるのよ!」
ささ、早く、と言った具合で俺たちは居間へと入っていった。




「「「「「「「カンパーーーーイ!!」」」」」」」
七人の声が朝倉家の居間に響いた。

「あ、これうまい!」
「あ、美春のバナナコロッケですね。」
「工藤君、そこの巻き寿司とってもらえる?」
「あ、これ?音夢さん。」
ほんわかとした空気が流れる中、音夢がふいに切り出してきた。

「ところで、兄さん?」
「ふぉうひは?へむ(訳:どうした?音夢)」
口いっぱいに巻き寿司をほおばっていた俺はろくにしゃべれないんだが。

「彼女が出来たって・・・本当ですか?」
「・・・。」
それ来た―――

「ああ、本当だけど?」
音夢の目がさりげなくここにいるメンバーを見る。
当然のように叶と杉並は飛ばしている。

「で、誰なんですか?その彼女さんは?」
「それがなぁ・・・、恥ずかしがっててさ。」
こまったもんだよな、と叶を見る。

「あ、俺が連れてくるよ。ここまで来てあわせないのもまずいし。」
そういって叶がドアから出て行く。

「工藤君のお知り合いなんですか?」
「ああ、一応な。」
知り合いじゃないなんてことはありえないよな。

「で?どんな人なんです?」
「お前もよく知ってる子だよ。」
音夢がわからない、といった風に首をかしげる。すると。

「おまたせー。つれてきたよ。」
ドアが開いて、
その向こうにいたのは―――

「え・・・?」
「はじめまして、音夢さん。」
着物姿の叶だった。
はじめて『彼女』を見た音夢は誰なのかわからず困惑しているらしい。

「え、えーっと・・・」
その困惑した姿が俺が始めてあったときの反応のようで笑えた。

「・・・ったく、兄妹そろって鈍いよな。俺だよ、音夢さん。」
あきれたような声で叶が答えを話す。

「え、ええ!?く、工藤君?」
「はい、正解。」
「どうだ?びっくりしたろ?」
音夢の頭に手を置きながら、話しかける。

「に、兄さん・・・」
「ん?」
「ホモだったの!?」
・・・・・。

「だれが、ホモだっ!いいか、叶は正真正銘の『女』だっ!」
「だ、だって!え、そ、そうなの?眞子」
「あたしも最初は信じられなかったけどね。ホントらしいわよ。」
「現に、今は女生徒として学園に通ってますしね。」
叶が付け加えるようにしていった。

そのあと、叶はすべてを音夢に話した。
自分が家の家訓で男として暮らさねばならなかったこと。
学園に入ったばかりの時、俺に勇気をもらったこと。
偶然、俺に女だということがばれたこと。
そして・・・

「私が今、こうしてここにいられるのは朝倉君のおかげなんです。」
「・・・。はぁ・・・」
音夢がなにやらため息を吐いて俺をにらんだ。

「な、なんだよ。」
「・・・べつに?」
さーて、と杉並が立ち上がった。

「いまから、花火といこうではないか。天枷研究所製の新作花火が満載してあるのだ!」
・・・天枷研究所ってロボット工学じゃ?
そのあと、俺たちは桜公園の開いているスペースで花火をして遊んだ。
杉並のいう”クラスター爆弾”もなかなかきれいだった。
・・・上から蛇花火が降り注いでくるのをのぞけば。

「朝倉君、今日泊まっていい?」
帰る段になって叶が急にそんなことを言い出した。

「え、でも部屋無いぜ?」
「大丈夫!私の部屋に泊まってもらうから。」
音夢がやけに元気な声で言ってくる。つまり、音夢公認らしい。

「それなら、かまわないけど・・・」
「やった!ありがとう、朝倉君。」
その後、家に帰る途中、叶にさりげなく聞いてみた。

「・・・なんか、音夢のやつに聞かれたのか?」
「ううん、将来の『姉』とじっくり話したいらしいよ。」
・・・マジか?音夢のやつが?

その夜、音夢が叶と夜遅くまで話し込み、なんだかんだで俺も結局呼ばれた。
叶との婚約の件を音夢に話さなかったことが原因で怒られたが、普段よりはやさしい怒りだった。
なんだかんだで、音夢も姉が出来て嬉しかったらしい。
まったく、人というやつは。
ほんと、かったるい。





終わり

倉西相馬さんから頂いた叶SSです。
開設5年間近にして『初音島の音色』初の叶SSです♪
叶を音夢に紹介する、当然なことなんですが、ネタが思いつかなくて自分には書けませんでした。
一度男の姿を見せてから、女の子として登場。大変インパクトがありますね。
杉並の弾け具合も久しぶりに見れて大変面白かったです。



                                        
叶と音夢
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