完璧なタマ姉でも唯一の弱点がある。
タマ姉と俺の二人だけが知っている秘密。
このみの飼っているゲンジ丸が教えてくれた、犬が苦手だという弱点。
タマ姉の過剰反応を生まれて初めて見た。
あの衝撃を、俺は永遠に忘れることはないだろう。
生理的に受け付けないというから生まれつきなのだろう。
だけど、このままってのもタマ姉もゲンジ丸も気の毒だ。
ゲンジ丸だってタマ姉と遊びたがっているから。
そこで俺はタマ姉と一緒に帰ってる時に俺は言ってみた。
「タマ姉。頑張って克服してみない?」
「・・・嫌」
人目を考えて、大きな声で言わず、犬というキーワードも伏せる。
それでもタマ姉には十分に伝わって顔色が悪くなった。
よっぽど苦手なんだな、タマ姉。
「タカ坊の意地悪」
「別に意地悪で言ってる訳じゃ・・・」
「わ、分かってるわよ。た、タカ坊なりに心配してくれるのよね。そ、それは嬉しいけど・・・ダメなのよ」
「ゲンジ丸があんなにはしゃいだのは、タマ姉だけでさ。ホント、ビックリしたんだよ。ナデナデとかしたらきっと喜ぶと思う」
「や、やめてよ、思い出せないで」
「ま、無理にとは言わないけどね」
俺だって女の子が苦手だから、強引に克服しようと言われてもちょっと無理だし。
このみとタマ姉は家族みたいなものだから平気だけど。
とりあえず、一応、言いたいことは言ったからこれでいいや。
この話はこれで終わり、タマ姉の家まで来ちゃったし。
ところがタマ姉が門の前で足を止めて俺に言った。
「ねぇ、タカ坊」
「なに、タマ姉?」
「克服できたらご褒美くれる?」
「ご褒美?」
「うん・・・くれたら頑張れるかもしれないから」
おっ、タマ姉・・・やる気になってる?
でも褒美って何でも言う事を聞くって意味合いがありそう。
まぁ、言い出したのは俺だし、出来る範囲で協力したい。
「う、うん、いいよ。出来る範囲だったら」
「じゃあ、協力して。勿論、このみ達には内緒よ」
「わかってる」
「それじゃあ、後でタカ坊の家に行くから」
「うん、待ってるよ」
タマ姉の家だと雄二に見つかる可能性がある。
俺の部屋で克服する方法を考える事になった。
まぁ、雄二が知ったら、弱味を握ったと大喜びするに違いない。
そんな事態になったら、タマ姉は雄二をどんな目に遭わせるか。
想像するだけで恐ろしくなったので、すぐに思考をストップさせた。
「ん〜、タカ坊の部屋に入るのって久しぶり♪」
「前に俺を起こしに来なかったっけ?」
「それ以来は来てないわよ。綺麗に片付いてるわね」
「元々、物が少ないから」
物が少なければ散らかりようがない。
とりあえず、どれだけ犬が苦手なのか?
その境目ってものを調べてみたいと俺なりに思った。
「よしっ、じゃあやってみよう」
「な、なにを?」
「タマ姉ぇ〜、なにしにこっちに来たの?」
「わ、わかってるわよ」
あのタマ姉が怯えた様子を見せるのはとても新鮮だ。
それだけ犬が恐いって事なんだろうけどね。
まずは基準を調べてみる必要がある。
「犬のぬいぐるみとかは大丈夫?」
「どうかしらね・・・子どもの頃は外で遊んでばかりだったし。転校してからは習い事が中心だったから見る機会がなかったわね」
「わかった。ちょっとこのみから、犬のぬいぐるみを借りてくる」
「た、タカ坊」
「大丈夫だって。タマ姉との秘密はちゃんと守るから」
「う、うん」
とりあえず、俺はこのみの家に向かう。
呼び鈴を鳴らして、しばらく待つとこのみが出てきた。
「タカくん、どうしたの?」
「ああ、ちょっとこのみに頼みがあって」
「え?どんな?」
「このみ、お前、犬のぬいぐるみを持ってないか?」
「え〜と、子どもの頃に買ってもらったのならあるよ」
「悪いんだけど、それをちょっとだけ貸してくれ。頼む」
「う、うん。わかった。ちょっと待ってて」
このみは犬のぬいぐるみを取りに部屋に戻ったようだ。
おばさん、もとい春夏さんは買い物とかに出てるのかな。
いたら出て来て話しかけてくるだろうし。
「はい、お待たせタカくん」
「サンキュー」
「でも、なんで犬のぬいぐるみなの?」
「ちょっとデッサンをな・・・じゃあな」
「あ、う、うん」
不自然になりそうだったのですぐに退散。
まさかタマ姉の克服のために、なんて言えないし。すまんな、このみ。
機会があったらととみ屋のカステラ奢ってやるから。
「タカ坊、おそい!!」
「そんなこと言われてもまた5分ぐらいじゃない」
寂しがり屋の子どもが文句を言ってるような感じだな。
とにかく、俺は犬のぬいぐるみをタマ姉に突き出してみた。
「どう?タマ姉?」
「・・・」
「タマ姉?もしもし?」
「あっ・・・ぁ・・・っ・・・」
なんかヤバくないですか?
ぬいぐるみだけでダメなのかな?
犬を連想させるものがNGって事なのでしょうか?
でも負けず嫌いなのか、平気なフリをしてるみたい。
「じゃあ、タマ姉。これはどう?」
俺はアルバムからゲンジ丸の移った写真を見せた。
その時、タマ姉がビクッと反応していきなり布団の中に逃げ込む。
ちょ、ちょっと!!それは反応しすぎ!!
これで本物が来たら間違いなく奇声を上げてるだろうね。
声を上げてないのは、それだけ我慢できてる証拠だと思う。
「タマ姉、布団から出てよ〜」
「い、いやぁ・・・」
「俺のベットを占領しないで」
とりあえず、犬を連想させるものはダメだと判明した。
しばらくすると、タマ姉は猫みたいにゴロゴロしてしまう。
俺のベットが凄く気に入ったみたいだ。
「ふふっ♪タカ坊の匂いがいっぱい♪」
「あらかさまに言わないで」
「じゃあ、タカ坊も一緒に寝る?」
「だ、だからぁ!!」
「冗談よ、もぉ〜、タカ坊ってホント可愛いんだから♪」
「ぐあぁ!!」
猫みたいにじゃれついて抱きしめられて。
タマ姉って胸が大きいから息苦しくてたまらない、危うく窒息してこの世から去ってしまうところだった。
地道な克服作戦を色々と試し、タマ姉は顔色を悪くしながらも頑張っていた。
それなりに成果が出てきたみたいで免疫がついたのか、実物でなければ、ある程度は平気になったようである。
「タマ姉、ゲンジ丸を触りにいこう」
「えっ!?で、でも!?い、いきなりすぎるわよ!!」
「大丈夫だって、ゲンジ丸、ちゃんと紐に繋いでるし」
「このみの家の前ではしたくないわ」
「じゃあ、人目のつかない河原とかでどう?俺がゲンジ丸を連れてくるから」
「・・・」
「どうする?」
「・・・うん、河原って子どもの頃に遊んだ場所よね?」
「そうだよ。あ、そうだ、タマ姉、ハンカチ持ってない?」
「持ってるけど、なんで?」
「それ貸して、ゲンジ丸をおびき寄せるのに使うから」
「・・・」
タマ姉は嫌そうな顔をした。
ゲンジ丸に使われるという事に不快感を抱いたのだろうか?
しばらく硬直していたタマ姉だが、渋々ながらもハンカチを俺に渡してくれた。
理想的にはゲンジ丸を散歩させたり遊べたら言うことはない。
だが、そこまで高望みしてはいけないと思う。
とにかく、タマ姉はゲンジ丸を触りに行く事に決めた。
俺は、春夏さんからリードを借りてゲンジ丸に繋げる。
ゲンジ丸は一向に動いてくれる気配がない。
散歩するので動かないナマケモノみたいだ。
そこで俺は、タマ姉から借りたハンカチを差し出す。
「ゲンジ丸、ほらっ、タマ姉のハンカチだぞ」
「ハッ!!ハッ!!ハッ!!」
「おっ!!やっぱり、反応があった!!」
ゲンジ丸にハンカチを見せると凄い反応だ。
立ち上がって今にも飛び掛りそうな勢いである。
タマ姉の匂いを覚えてるみたいだ。
そのまま河原までゲンジ丸をおびき寄せたのだが。
「あれっ?タマ姉がいない?」
待ってる間に恐くなって逃げたのかな?
あのタマ姉が逃げ出すってのもある意味で新鮮だ。
しばらくすると、ゲンジ丸が動き出した。
「ぐあぁ!!」
ゲンジ丸がタマ姉の匂いをたどって走ってるようだ。
俺はズルズルと引きずられてしまう。
河原の奥まで進んで、ゲンジ丸はタマ姉を発見する。
「た、タマ姉!!」
「えっ!?」
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」
嬉しそうに尻尾ふってタマ姉に向かっていくゲンジ丸。
好物の魚肉ソーセージでもあんなに喜ぶ姿はあり得ない。
「待て待て!!ゲンジ丸!!ストップストップ!!」
メチャクチャに引きずられてしまう俺。
あまりにも情けなく思えてしまったが、それでも必死に止めなければならないと思った。
だって、タマ姉が――。
「ぎ、ぎにゃーっぁーーーーーーーーーーーーーー!!」
「こらっ!!止まれ!!ゲンジ丸!!止まれって!!」
「ハッ!!ハッ!!ハッ!!」
「うぉーーーーーーーーーーーーーー!!」
「ぎにゃーっ!!ぎにゃっーっ!!ぎにゃぁーーーーーーー!!」
奇声を上げながら逃げまくるタマ姉。
メチャクチャに懐くように追いかけるゲンジ丸。
一生懸命にゲンジ丸を止めようとリードを引っ張る俺。
でも、俺はズルズルと引きずられてしまう。
「ワンワン!!ワンワン!!」
毛むくじゃらの物体が猛スピードで駆け出す。
鬼気迫って逃走するタマ姉を追いかけているのだ。
手が痛いし、引きずられるからすり傷も増える。
リードを手首に巻きつけるようにして思い切り引っ張る。
「ぬぉーーーーーーーーーーーーーーー!!」
本気で引っ張ってるのにゲンジ丸はお構いなしだ。
その内にタマ姉が転んで追い詰められて、ゲンジ丸に顔を舐められた瞬間に泣き出してしまった。
「うえぇーーーーーーーーーーん!!」
「クゥーン」
めちゃくちゃシンドイです。汗まみれ、傷まみれ、土まみれ。
最悪です、大失敗間違いなしです。
ため息をつきながら、俺はゲンジ丸をこのみの家に戻した。
ゲンジ丸が名残惜しそうに鳴き声を上げたが仕方ないだろ。
そして俺は急いで泣いているタマ姉の所まで戻ってきた。
「タマ姉、もう泣かないでよ」
「ひぐっ・・・タカ坊・・・えぐっ・・・バカァ・・・」
俺に向かって涙をこぼしながらパンチしてくる。
ポカポカとした軽い打撃だけど、スナップがきいてるので、顎先に喰らった時はマジで意識とびそうになりました。
とにかく何とかしたくてギュッと抱きしめたのだけど。
「うえぇーーーーーーーーーーーん!!」
俺の胸の中で再び泣き出した。自然とタマ姉の頭をナデナデしてしまう。
本当に悪いことしたなぁ。良かれと思ってしたことがアダになってしまった。
夕日になって泣き止んだ後、俺はタマ姉をおんぶして家まで送る事にした。
タマ姉は嫌がっていたけど、腰が抜けて立てないらしい。
大人しく俺の言う通りに背中に乗ってくれた。
この状況では何を話していいのやら、検討もつかない。
とにかく謝ろうという気分になった。
「ご、ごめん。タマ姉」
「・・・」
沈黙が重たいです。でもこれ以上なにも言うことはできない。
スタスタとおんぶしてタマ姉に家に向かうのみ。
「・・・タカ坊」
「何?」
「重くない?」
「前にも言われた事だね、それって」
「・・・重くない?」
「ノーコメント」
「・・・」
「ぐぎぎぃ!!お、重くない重くないって!!」
タマ姉のスリーパーは結構キツイんだって。この場で俺の意識を沈める気か?
「はぁ〜、とにかく、ごめん。安易な事をしちゃって」
「ううん・・・タカ坊は悪くない。私のためを思ってしてくれたから」
「でも、結果がこれじゃ・・・」
「ううん、それは私が悪いわよ。色々と面倒かけてごめんね、タカ坊」
「気にしないで」
ちょっと喋っただけなのに思ったより早く戻れた。
「タカ坊、寄っていきなさい。傷の手当てもしないと」
「べ、別に俺は――」
「いいから来なさい」
「あ、はい」
逆らえない、逆らってはいけない。
子どもの頃から植えつけられている服従の心。
夕飯までご馳走されて色々と疲れる日だった。
タマ姉が克服するまでの道のりは険しい。
一緒に下校してる時、俺はタマ姉に言った。
「タマ姉、ゲンジ丸についてアイデアがあるんだけど」
「えっ?」
いや、そんな動揺する顔しないで。
心の中でそう思うも口には出さないでおいた。
タマ姉からすれば平静を装ってるつもりだろうから。
「あの河原に大きな木があるでしょ?」
「う、うん」
「あそこでゲンジ丸を固定して、タマ姉がそこから触るというのはどう?ほらっ、この前は、食い止められなかったから」
「・・・」
「やっぱ、ダメか」
「・・・やるわよ。タカ坊のご褒美を貰うために、私は負けない」
ほ、本当にどんな褒美を要求するつもりだろう。
めちゃくちゃに不安になってきた。
俺は一旦帰ってから、以前と同じようにゲンジ丸を河原に連れてくる。
デカイ木のある所で持ってきたリードをくくりつけた。
ほどけないよう、念入りに確認を繰り返す。
「よし、これでいいかな」
あとはタマ姉を呼びにいくだけだ。
タマ姉にメールして、河原まで来てもらう。
「ハッ!!ハッ!!ハッ!!」
ゲンジ丸は大喜びでタマ姉に向かおうとするが、固定された紐が厳重でタマ姉には近づけない。
「どう、タマ姉?これなら怖くないでしょ?」
「・・・」
顔色が真っ青で返事がない。
ホントに大丈夫なのだろうか?
下手したら気絶してしまいかねない。
だけど、タマ姉は必死になって、ゆっくりと亀みたいにゲンジ丸に向かって歩く。
「た、タカ坊、て、手を繋いで」
「え、う、うん」
タマ姉の要求どおりに右手を繋いだ。歩調もタマ姉に合わせていく。
恐る恐るという感じでタマ姉が手を伸ばす。
「ワンッ!!」
「きゃぁ!!」
手を引っ込めて倒れそうになるタマ姉。
反射的に俺はタマ姉の身体を支えた。
「タマ姉、大丈夫!?」
「う、うん。へ、平気よ」
「やっぱ無理しないほうが」
「だ、大丈夫だから!!」
声が強気だけど全身は震えている。
克服しようと一生懸命なのは伝わってきた。
「じゃあ、一緒に触ろう」
「えっ?」
「俺も一緒にゲンジ丸を触るから。繋いでる右手はそのままで、空いてる左手を使うから」
「タカ坊・・・うん♪」
俺は俺の出来ることをやりたい。タマ姉の苦手克服を応援していきたい。
嬉しそうな笑顔を見せてくれるタマ姉。
二人で一緒にゲンジ丸に触ろうと手を伸ばした。
「ワンッ!!ワンッ!!」
やっぱり大喜びで吠えてしまうゲンジ丸。
だけど、今度は引いたりしない。
ゆっくりと、焦らずに、落ち着いて。
そして・・・一瞬だけ・・・ほんの一瞬だけ。
触れた、確かに触れた。
ゲンジ丸の頭をほんの一瞬だけ触れた。
もう一度やってようとタマ姉が手を伸ばす。
俺もタマ姉に合わせるようにして手を伸ばした。
「タマ姉、大丈夫?」
「うん、タカ坊がいるから、平気」
ゲンジ丸が尻尾ふってタマ姉に近づきたがっている。
リードで固定してあるので、ゲンジ丸がタマ姉に近づく事は出来ない。
ゲンジ丸には悪いとは思うけど、これも苦手克服のためだ。
「はぁ〜はぁ〜」
思い切ってゲンジ丸の頭にタマ姉の手が触れた。
俺の手もゲンジ丸の頭の上だ。
ゲンジ丸が頭を動かしてタマ姉の手をペロッと舐めた。
「ううっ!!」
「タマ姉!?」
ビクッと震えるタマ姉が逃げ腰になっていた。
「お、お願い、タカ坊。このままで」
「あ、う、うん」
ギュッとしがみついてきて、かなり苦しんだけど、そう言われては断れない。
胸とか当たってるけどそれ以上に腕の力が強くてキツイ。
ああ、これって相撲のさば折りって技かな。
ミシミシと骨が悲鳴を上げてるんだけど気のせいでしょうか?
心のどこかが他人事を装ってるみたいだ。
「だ、大丈夫!?タカ坊!?」
「あぁ・・・だ、だ、だいじょうぶ・・・」
「タカ坊!?しっかりしなさいよ!?」
ゲンジ丸をかろうじて触れるようになった。
意識を闇の底に沈めながらもタマ姉の進歩を感じていた。
タマ姉は克服するための秘策を思いついたらしくて、2週間ほどの時間が欲しいという事でそれまで待つことになった。
そして約束の2週間後。
タマ姉に頼まれた通り、ゲンジ丸を三度河原に連れていった。
するとタマ姉はその場で堂々と立っている。
逃げも隠れと言わんばかりの勇ましい姿だ。
「ハッ!!ハッ!!ハッ!!」
ゲンジ丸はタマ姉を見た途端に猛ダッシュ。
油断してた俺は不覚にもリードを手放してしまう。
「しまった!!」
「タカ坊はそこにいて!!」
なんか、タマ姉が構えてる?あれって拳法の構えか?
ちょっと待て、ゲンジ丸を倒すつもりか!?
「ワンッ!!」
タマ姉に向かってくるゲンジ丸。
ギリギリまで引き寄せてヒラリとタマ姉がかわした。
「おおっ!!」
俺は思わず感動の声が出してしまう。
まるで闘牛士を演じてるかのように華麗な動きだ。
突進してくれるゲンジ丸をタマ姉はヒラリと避ける。
ゲンジ丸からすれば、遊んでもらってるような気分だろう。
タマ姉は拳法みたいな構えを維持しながら回避を続ける。
その動きには一切の無駄というものがない。
スローなのに流水のような動きが素人目からでも凄いと思う。
どれだけ時間が過ぎたかわからない。
気づけば、カラスの鳴き声が聞こえて夕日が見えた。
ゲンジ丸はうつ伏せでグテェーとダウンしている。
遊び疲れて満足しているようにも見える。
「タマ姉、すごいよ」
「どうってことないわよ、これぐらい」
「2週間いったい何してたの?」
「ちょっとエクストリームをかじっただけよ」
エクストーリム。
総合格闘技同好会として当時作られたが、実績を得て今では正式な部活として認定されている。
学校内では有名な部活の一つだ。そこで修業でもしたのであろうか?
タマ姉は、合気道みたいな事が出来るし、格闘センスの素質はズバ抜けて持っていると思う。
2週間でここまでやるなんて・・・驚きだ。
タマ姉は満面な笑顔を俺に向けてくる。悪戯を思いついた子どもの頃と変わらない目。
獲物をとらえる猫の目と同じ感覚で悪寒が走る。
嫌が予感がする。でも俺は逆らえないし、逃げられない。
冷や汗を流しながらも俺はタマ姉と視線を交わした。
「さぁ〜て、タカ坊。約束は守ってもらうわよ♪」
「・・・えっと、な、なにをするのかな?タマ姉?」
「ふふふふっ」
その笑い方やめてください。ものすごく恐いですから。
あれで克服したというのは微妙だけど、頑張った事には違いない。
一体なにを要求してくる気なんだろうか?
今、俺の部屋にいる。タマ姉も目の前にいる。
今、時間帯は夜ぐらいかな?
両親は海外に出てるからいないし、タマ姉の親も仕事の多忙で家に戻ることは少ない。
「タカ坊、かわいいぃ♪」
もう一度、現実逃避してもいいですか?
るーるるる♪って頭の中で変な歌が聞こえてきました。
ううっ、ハズイ、恥ずかしすぎる。
現実を見つめるのがここまで辛いとは・・・
「女の子として十分通用するわよ、タカ坊」
タマ姉への褒美、すなわち要求を受け入れた俺。
女の子の服を着せられてスカート穿かされて。
ロングヘアーのカツラまで装着させられてしまって。
昔あったな、無理やりに女装させられたこと。
それを今になって再現させられてしまうとは。
「た、タマ姉、写真撮らないでよ!」
「いいじゃない、一生の思い出ってことで♪」
さっきからタマ姉が悶えてる。満面の笑顔で頬を赤らめてウットリしてるらしい。
とにかく、タマ姉の気が済むまで、俺は女の子の格好をさせられ続けたのである。
その地獄を俺は永遠に忘れることはないだろう。
終わり
都波心流さんから頂きました、タマ姉ラブラブSSでした〜
まさかこんな褒美だとは思いもしませんでしたw
しかしタマ姉の犬嫌いは筋金入りですね。
自分は犬も猫も好きなので、どうにも犬嫌いの人の気持ちが分かりません。
とりあえずめでたし、めでたし・・・かな?