このみは妹のような幼馴染。

ずっとそう思うことで距離を保とうとした。

そうしなければいけないと漠然に考えていた。

お互いに色々とぎこちなかった時もあった。



でも今は違う。

幼馴染から恋人へと発展したから。

漠然と恐れていたような変化なんてない。

あるとすれば、お互いに心が通いあって、前以上に正直になれた事。

ただ、それだけのことだ。

ちょっと踏み出しただけで何て事もないって思ってしまう。

それが嬉しくもあり、ちょっと物足りないと感じるかもしれない。

「タカくん♪あーんしてぇ♪」
「このみ、今はいいけど、親の前ではやるなよ」
「ふえっ?なんで?」

あれは忘れもしない先日のこと。

春夏さんからの招待で夕食をご馳走になった時、おじさんとおばさんのいる手前なのに、このみのあーんして♪があったのだ。

あの時の羞恥心は未だに癒えず、衝撃的な過去の脳として息づいている。

いくら幼馴染でお互いに家族知り合ってる者同士とはいえ、やっぱり親しき仲にも礼儀ありというものがあるだろ?

おじさんだって、やっぱ複雑じゃないか。

大切な娘を俺に取られたって感じになるだろうしさ。

だから、両親の前では遠慮した方が・・・と、このみにそれらしく言ってみたが効果はゼロである。

まぁ、今は素直に応じておこう。

「あーん」
「えへぇー♪タカくん、大好き♪」
「俺もだ」

断っておくが、別に嫌って訳じゃない。

ただ、人目がある時だと恥ずかしいと思うだけだ。

特に親の前ってのが一番キツイです。

「ほらっ、このみも、あーんして」
「あーん」

親から餌を貰う雛鳥をイメージしてしまう。

随分と食欲旺盛な雛鳥だなぁと感心した。

テレビをつけてみるとありきたりなニュースが流れている。

放映されているテレビの端で時間表示されているが、登校するまでの時間にはまだ十分にゆとりがある。

制服着てるし、鞄も既に玄関に置いてあるからいつでも出れる。

「タカくん、タカくん」
「はいはい、わかってるよ」
「えへー♪」

恒例な儀式ともいうべき事を今からする。

まぁ、そんな大げさなものでもないのだが。

ソファーに座って、座ってる俺の足の間にこのみが入ってくる。

このみ曰く、タカくん椅子だそうだ。

女の子の背中は華奢で柔らかくて心から守ってあげたくなる。

女の子の甘い髪の香りが漂って、どこか安心する気持ちもあるけど、
男としての性的な興奮をもたらして抑制するのがちょっと大変だったり。

最初にこれをやられたのは、修学旅行の日だったな。

頑張ってるこのみの褒美として、このみが望んだのがこれだった。

ま、あのときは家の時計が止まり、遅刻して大変だったけどな。

「マッタリしていいけど寝るなよ」
「うん・・・へいき・・・ふあぁ〜」

平気と言いながらあくびするなよ。

まぁ、それだけ気を許してるって事だから悪くないけどさ。

そう思ってる間に寝息が聞こえてきた。

「zzzzZZZ」

寝るの早っ!!

早寝のギネス記録があったら更新できるよ。

まぁ、いつも早く起きて頑張ってるからな。

好きでやってる事とはいえ眠くなるのも当然だ。

両腕を回して密着すると心臓がバクバクしている。

きっと俺の鼓動も伝わってるんだろうなぁ。

ま、まぁ、欲情しないように気をつけているよ。

さ、さすがに寝てる所を襲うなんて出来ないし。

ヘタレでもいいから、この場は抑制しなければな。

「このみ、そろそろ起きてくれよ」

そろそろ登校する時間だ。

寝てしまったこのみを起こすのは一苦労する。

こういう安心した寝顔のこのみは寝つきが良いから、眠りの世界もさぞ深いところまで到達してるのだろう。

カバンを前に持つように工夫して、このみをおんぶする。

外に出て登校すれば、自動的に起きる仕組みだ。

案の定、外の空気と太陽の日差しがこのみの目を覚ました。

「お、おはよう、タカくん」

ちょっと気まずそうに目を覚ますこのみ。

でも、降りる気配が一向にない。

人目のある通学路に来るまではこんな感じである。

「タカ坊、このみ。おはよう」
「おはよう、タマお姉ちゃん」
「おはよう、タマ姉。あれっ?雄二は?」
「ほらっ、雄二。モタモタしてると置いてくわよ」
「わかってるよ、姉貴。よっ、貴明――っあたたた!!」
「ちゃんと挨拶しなさいって、いつも言ってるでしょう」
「わ、割れる割れる割れるぅーーーーーーーー!!」
「あわわ、ゆ、ユウくんが・・・」

タマ姉の十八番、アイアンクローを喰らっている雄二。

無謀に歯向かってアレを喰らってる事は数知れず。

雄二専用のお仕置きといったところだな。

ま、そんなこんなで相変わらずの登校をしていった。




授業は眠いけど、サボッてばかりもいられない。

適当にノートを取って講師の話をそこそこ聞いておく。

これが出来るだけでも大したものだと思ってくれ。

以前の俺だったら寝てるのがオチだったが、このみと一緒になってからは考えを改めることにした。

とはいえ、キツイものはキツイが。

何度、頭をコクコクと繰り返して耐え抜いたことか。

こんな試練を乗り越えた先には昼休み。

屋上でタマ姉や雄二も一緒して食べることになった。




「はい、タカくん」
「おっ、いつもサンキューな」
「えへっ♪」

このみ特製の弁当を受け取ってから頭をナデナデ。

こうすると、このみがスッゴク喜ぶんだよな。

心が和んでしまうというか、そんな笑顔を浮かべてくるからさ。

「あ、そうだ。タマ姉」
「んっ?なに、タカ坊?」
「い、いや、何か今更って感じもするけどさ。ちゃんとお礼を言っておきたいと思って」
「お礼?」
「このみと一緒になれたのもタマ姉のおかげだ。ありがとう、タマ姉。本当に感謝してるよ」
「タカくん、タマお姉ちゃんに何かしてもらったの?」
「激励をしてもらっただけだよ」
「ふふっ♪タカ坊って意外と義理堅いのね。ちょっとビックリ」
「ていうか、鈍すぎるんだよ。ま、おかげで俺にとばっちりが――あだだだぁ!!」

タマ姉は弁当を端でつきながら、片手で雄二の顔面をわし掴みしている。
握力がどれぐらいあるかは謎だけど、相当恐ろしいみたいだ。

「このみ、先に言っておくがあーんは却下な」
「えぇっ!?」
「じゃあ、私があーん、とやって――」
「だ、ダメぇ!!いくらタマお姉ちゃんでもあーんはダメぇ!!タカくんにあーんしていいのはこのみだけだよぉ!!」
「そうそう、このみにはちゃんとタカ坊を守ってもらわないとね。いい、このみ。
タカ坊を他の女の子に奪われないように、ちゃ〜んと、見張ってないとダメよ。油断はできないんだから」
「了解であります」
「あ、あのさ、タマ姉」
「なに?タカ坊?」
「雄二、ピクリとも動かないんだけど?」
「あぁ〜、大したことないわ。すぐに起きるから」
「ががぁーーーー!!わ、割れる割れる割れるぅーーーー!!」

雄二、色々と苦労してるみたいだなぁ。

ま、俺は一切関わらないで傍観させてもらうから。

後で薄情者だと言われてもスルーしていくよ。

結局、このみに押し切られてあーんをやられてしまった。




放課後になると校門前でこのみが待っている。

たとえ、このみとの関係が知られているとはいえ、教室に迎えに来られるのがあまりにもハズカシ過ぎる。

その辺りは幼馴染という事もあってこのみなりに配慮してくれている。

「ねぇ、タカくん」
「なんだ?」
「お母さんがね、今日も遅くなるから
タカくんのウチに泊まっていくようにって」
「ああ、昨日、電話で春夏さんから聞いているよ。着替えとか既に家に置いてあるんだろ?」
「うん、さすがタカくん。このみの事、何でもお見通しだね」
「んで、夕飯は必殺カレーとか?」
「うんうん♪凄い凄いタカくん♪エスパーだよぉ♪」
「買い物、行く?」
「うん♪やったー♪タカくんとデートだぁ♪」

買い物なのにデートというのか?
微妙だけど、ま、このみが喜んでるならそれでいいか。
けどな・・・。

「えへへ♪デート♪デート♪タカくんとデート♪」

俺の手を繋ぎながら歌って行進するこのみ。

人目があるからもうちょっと声を抑えて欲しいのだが。

俺たちのいる家の近所にあるスーパーまでやって来た。

あ〜、近所のおばさん達が微笑ましそうに笑っているよ。

絶対に春夏さんにも情報が漏れるだろうな。

こういうときはチャッチャと動くに限る。

晒し者になる前に買い物を済ませてしまおう。

「よっしゃ!!材料を調達するぞ!!このみ二等兵!!」
「了解であります、隊長!!」

ノリの良いこのみと一緒に食料の売り場までやって来る。

材料の良し悪しはこのみの専門であり、俺の出る幕はない。

買い物の台車を引いてこのみの後を追うだけである。

荷物持ちとなるのは俺の役目だ。

片手で買い物袋を持ちながら、もう片方でこのみの手を繋ぐ。

家に戻った後、台所のテーブルに買い物袋を置いた。

「それじゃあ、タカくん。出来るまで待ってて」
「ああ、わかった。何かあったら遠慮なく言えよ」
「うん♪」

このみのやりたいようにやらせよう。

このみなら安心して料理を任せられるし、本当に困った時はちゃんと言ってくるだろうしな。

「・・・」

俺はテレビをつけてリビングのソファーで待つ。

こうしてると、あの時を思い出すよな。

このみを幼馴染以上に意識してしまって避けたあの日を。

泊まりだって結構あったのに、その時だけは意識が強まって、戸惑って。

色々とこのみを悩ませてしまった。

それは、今でも忘れないし、忘れてはいけない。

「タカくん♪出来たよぉ♪」
「ああ、わかった」

前から思っていたが、何故、カレーに必殺がつくんだ?

必ず殺すと書いて必殺と呼ぶ。

・・・なんて物騒なネーミングだ。

カレーに青酸カリのような某事件を思い出してしまった。

無論、このみがそんな馬鹿な事する訳がない。

まぁ、得意料理だという風に解釈しておこう。

このみ本人に尋ねた事があるけど答えになってなかったしな。

「いただきます」
「たくさん食べてね♪タカくん♪」

言われるまでもない。

何だかんだと腹が減って仕方ないからな。

うん、このみの必殺カレーは一段と腕が上がったようだ。

「どう?タカくん、おいしい?」
「ああ、美味いぞ」
「えへ♪よかったぁ♪」

あまりに美味しいからおかわりまでしてしまった。

ホント、このみは色々と俺に良くしてくれる。

今度、このみの大好物、ととみ屋のカステラでも買ってやるか。

そういう機会があればの話だがな。

「ごちそうさん。洗い物、俺がやろうか?」
「ううん、このみがやるよ。タカくん、お風呂はいちゃって」
「もう沸いてるのか?手際がいいな」
「えへー♪」

多分、夕飯の支度をしてると同時に風呂を沸かしたのだろう。

この家のことは幼馴染だけあって知り尽くされているな。

じゃあ、お言葉に甘えて風呂に入るか、と、その前に言うべきことを言わねば。

「このみ、先に言っておくけど、一緒に入ろうってオチはなしだからな」
「っ!!!!」

しまった・・・地雷を踏んでしまった。

このみは意識してうつむいてしまっている。

一緒に入るという考えはしてなかったみたいだ。

い、言うんじゃなかった・・・でも言わねば入ってた可能性だって。

「えっと・・・こ、このみ、あ、洗い物してくるぅ!!」
「あ、ああ」

ぎこちない空気が漂ってしまった。

風呂に入ってサッパリしてしまおう。

脱衣所で服抜いて洗濯機の中にほうりこんで風呂で体を洗う。

やっぱ、まずかったな。このみを誘うような言い方になってしまって。

早めに出るべきかなっと思ったんだけど人影が・・・。

「こ、このみか!?」
「う、うん・・・ゆ、ゆかげん・・・どうかな?」
「ちょうどいいぞ」
「そ、そう・・・」

やっぱぎこちない。

さっきの事をちゃんと謝ってしまおう。

「あ、あのさ!!ご、ごめん!!お、俺さ、てっきり!!」
「・・・」

このみの人影が何かモゾモゾしている。

脱いでるように見えるのは俺の気のせいか?

って、入ろうとしてる!?

咄嗟にこのみを見ないようにして湯船に入り続けた。

出ようにも出られなくなってしまう。

「こ、このみ・・・」
「ダメ・・・なの?一緒したら・・・ダメ?」
「ふ、風呂場は・・・さすがにヤバイだろ?」
「なんで?タカくん、このみの事・・・嫌い?」
「嫌う訳ないだろ!!あっ・・・」

思わず振り向いてしまった。

バスタオルだけ巻いてるこのみの姿。

すごく可愛くて理性がふっとびそうになる。

目を逸らせず、このみが潤んだ眼差しを浮かべた。

そんな捨てられた小動物のような目で俺を見るなよ。

わかったから、もうわかったからさぁ。

「このみは・・・タカくんの、恋人だよね?」
「ああ」
「このみは、タカくんの事が好きだよ」
「俺も・・・好きだよ。なぁ、このみ」
「なに?タカくん」
「背中を流してくれないか?」
「タカくん・・・うんっ♪」
「その前にバスタオル一枚とって」
「了解であります」

我ながらすっごく理性入ってると思う。

このみをメチャクチャにしたいという欲望。

理性という戦いで打ち勝つのが苦労の極みだ。

このみと背中の流しっこをする羽目になり、そのたびに抑制をするのが一苦労であった。

まぁ、純粋に一緒にいたいという気持ちはわかるけどな。

湯船で二人一緒に入った時なんて大変だった。

具体的なことについては自主規制させてもらう。

ただ、何もなかった、それだけは間違いないから。




「じゃあ、そろそろ俺は寝るよ」
「あ、う、うん」

本気で好きだから手が出せない。

このみを大切にしたいという気持ちは本当だ。

だけど、メチャクチャにしたいという欲望もある。

ぶつけてしまえば、このみが壊れてしまいそうで恐い。

女の子が苦手である俺はこのみやタマ姉は例外だった。

妹や姉のような家族として意識していたから。

だけど、今は違う、このみは俺の恋人なんだ。

好きな女の子と一緒に寝ること。

それが何を意味するか、このみだってわかってるハズ。

実際に抱いたのはあの時だけ、それ以後は一度もしていない。

キスだって・・・あっ・・・そういえば、あの時から俺・・・

「タカくん?」
「このみ・・・ごめん」
「どうして?どうしてタカくんが謝るの?」
「俺・・・また戸惑ったみたいだ。あの時と同じだな」
「・・・タカくん、大丈夫だよ。このみ・・・タカくんの事が好きだから」
「俺も・・・好きだよ・・・あはは、もう我慢できそうにない」
「んむっ!!」

抱きついて不意打ちに唇を奪う。

舌まで絡めてエッチなキスまでしてしまう。

どれだけそうしていたのかなんて覚えてない。

長い間してたようにも思えるけど。

吐息がこぼれて、悶えるこのみがすっごく可愛い。

可愛くて、本当にメチャクチャにしたくなって。

気づけば、このみを抱きかかえてベットまで運んだ。

そこで俺は硬直してしまう。

やっぱり恐いなって心のどこかで不安なのだろう。

このみに嫌われるなんて、そんな気持ちが出てきて。

その時、このみが笑顔で大丈夫って励ましてくれた。

「このみはね・・・タカくんを受け止めたいの。
全部・・・大好きなタカくんだから・・・」

きっと俺の心なんてお見通しなんだろうな。

それでも俺のことを待ってくれていたんだ。

だから、もう・・・俺は逃げないし、素直になりたい。

このみの嫌がることだけはしないと誓いながら、俺はこのみの全てを求めていった。

「えへーっ♪」

幸せそうな笑顔が俺の気持ちを満たしてくれる。

事が済んでからも、余韻が凄く残ってて気持ちが良い。

満たされているってこういう事を言うんだなぁ。

布団の中でモゾモゾと擦り寄ってくるこのみ。

本当に猫みたいに懐いてる感じが可愛い。

頭を撫でたりすると目を細めて気持ちよさそうにするしさ。

「これからもよろしくな、このみ」
「うん♪ずっと一緒にいようねタカくん♪」
「ああ、ずっとずぅ〜と俺の傍にいろよ」
「やったー♪タカくんからのプロポーズだぁ♪」
「お、おいおい、気が早いって」
「えぇ〜、違うのぉ〜」
「俺らまだ学生だし、そういう話題はまだ先の話だって」
「そうかなぁ・・・」
「そうだよ、ほらっ、おやすみ、このみ」
「う、うん。おやすみ、タカくん」

色々あったから寝つきはすごく良かった。

大切なこのみと一緒にいられる時間。

これからもずっと続いていくことを願っている。

ずっと、ずっと・・・





終わり

都波心流さんから頂きました、このみラブラブSSでした〜
小動物みたいなこのみはホントに可愛いですね♪



                                        
日常の幸せ
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