何度でも、この桜の下で・・・

うららかな春の日。

春休みと言う学生専用の休みを満喫する俺。

「あ〜、平和だな〜」
11時を過ぎているというのに、俺はベッドの上でダラダラとしていた。

春休みで音夢が帰ってきていたが、今日は美春と買い物に行ったので、この行為をとがめる物は誰もいない。

朝に一度起こされて飯だけは食ったのだが、あまりの眠たさにもう一度ベッドに戻って来ていたのだった。

「春眠暁を覚えずとはよく言ったもんだ」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?


なんかフサフサしたものが俺の腕に当たっている気がする・・・・・・

「・・・・・・・・・うたまる?」

俺の手に当たっていたのは、杉並曰く初音島の神秘、うたまるであった。

まぁ十分、俺から見ても神秘なんだが・・・・・・

「にゃ〜」
その神秘が俺の腕に体を擦り付けてくる。

「御主人様はどうしたんだ、うたまる?」
普通の猫なら返事は来ないのだが、うたまるは特別だ。

人語では返って来なくても、その動作で分かることがある。

しかも最近では、俺もうたまるの言いたい事が大体分かるようになってきた。

もちろん、さくらほどではないが・・・・・・

「にゃにゃ、にゃ〜にゃにゃ」
「ふむふむ、さくらは学校に行ってるのか」
普通に理解してしまった。何で分かるかな〜?

「先生ってのも大変だな〜」
「にゃ〜にゃ〜」
俺の言葉にうたまるが相槌を打つ。

「にゃ〜」
「そうだな、さくらの様子見に行くのもいいか」
うたまるに誘われて俺は制服に腕を通した。




「ん〜、気持ちいい天気だな。毎日こうならいいのに」
この季節にしか咲かなくなった桜の木も、もう満開。

「桜の木も新鮮な感じがするな〜」
心地よい風に吹かれながら俺とうたまるは学園を目指す。




そして、正午前に学園に到着した。

「さくらは職員室だろうな・・・・・・」
休みの間にあまり入りたい場所じゃない。休みじゃなくても入りたくは無いが。

しかしさくらの様子を見に来たのに、このまま帰るわけにもいかない。

学園内へ足を踏む入れる、俺とうたまる。

「お〜、お〜。休みだってのに感心だね〜」
運動部の連中を見やりながら俺たちは校舎内へと入ろうとする。
本当に休みだってのに熱心な奴らだ。まぁさすがにもう昼だし、そろそろ帰るんだろうが。

「あれ、お兄ちゃん?」
いざ、校舎内へ入ろうとしたところで俺に声がかかる。

「何ださくら、もう今日は仕事お終いか?」
声の主は他でもない目的のさくらのものだった。

「うん、そうだけど。・・・・・・どうしたの?お兄ちゃん補習なんてないでしょ?」
「うたまると一緒にお前の様子を見に来ただけだよ」
「あっ、そうだったんだ。でも、仕事終わっちゃったし・・・・・・」
「散歩でもしながら帰ろうぜ。今日は天気もいいしな」
「うん!」
そう言うとさくらは満面の笑みで俺の手を握った。

「・・・ここ学園だぞ?」
「知ってるよ」
「俺達は?」
「教師と生徒だね」
そこまで分かってて手を繋ぐか。
かと言って俺が振りほどけばこの笑顔が消えてしまうだろう。
誰にも見付からないことを祈ろう。




桜並木の下、今度は2人+1匹で歩いていく。

「今日は風が気持ちいいね〜」
「そうだな。ホント眠たくなる天気だ」
「お兄ちゃん、さっきまで寝てたんじゃない?」
「何故知っている!?」
「うたまるが言ってたよ。ね〜うたまる」
うたまるはにゃ〜と肯定した。まさか猫にチクられるとは。

「・・・枯れない桜の方に行くか?」
「うん。お兄ちゃんと一緒に行くのも久しぶりだし、いいかもね」


道なき道を歩き、俺たちは枯れない桜と呼ばれていた巨大な桜の前に出た。

「やっぱ凄いよな」
俺たちの目の前にある桜の大木。

一度は枯れてしまった桜の大木は、今は普通に桜の花びらを芽吹かせていた。

去年、さくらが音夢を助ける為にこの木を枯らせて一年中咲くことはなくなった。

普通の桜と同じように春にだけ咲くようになったのだ。

他の桜の木も同じ。今の初音島は他の島と何ら変わらない、普通の島。

気付くとさくらはいつの間にか桜の幹に近付き、手を当てていた。

「知ってる、お兄ちゃん?」
さくらは顔をこちらに向けず、俺に話し掛けて来た。

「何をだ?」
「おばあちゃんがこの木を魔法の木にした理由」
「・・・・・・知らないな」
そんなこと気にしたことも無かった。

「この木はね、ボクとお兄ちゃん、音夢ちゃんの思い出の木であると同時に、おばあちゃんの大事な思い出の木でもあるんだ」
「ばあちゃんの思い出の木?」
「うん。この間、夢におばあちゃんが出てきてさ、そう話してくれたんだ」
「俺はまだ今年は会ってないな」
他人の夢を見ることが無くなり、夢自体を見ることが少なくなったと思う。

「きっと、今夜にでも願えば会えるよ」
「そうか?」
「うん。きっと・・・・・・・・・」
風が吹き桜の花びらが舞う。まるで夢のようで夢でない光景。

「それでね、おばあちゃんが言うにはここの木でおじいちゃんにプロポーズされたんだって」
「へぇ。それじゃかなり印象深い場所だな」
「えへへへ、お兄ちゃんもボクに同じような事を言ってくれたよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

俺なんて言ったけ?

好きだ、だけじゃなかったか?

「うにゃ?お兄ちゃん?」
「い、いや。何でもないぞ」
なんか同じような事言ったか?マズイぞ、ちっとも思いだせない。

「お兄ちゃんもボクにプロポーズしたようなもんだよね?」
「えっ!?そ、そうか?」
「そうだよ。すっと好きでいてくれるんでしょ?」
あ、ああ。確かにずっと好きだって言った記憶がある。
なるほど、ずっと好きだってことは=死ぬまで一緒ってことだ。
俺が気付いてなかっただけで、さくらにプロポーズだと捉えられても不思議じゃない。

「お兄ちゃん?大丈夫?さっきからボーっとしてることが多いよ?」
「大丈夫だ。・・・・・・・・・・・・・・・ずっと好きだぞ、さくら」
「・・・・・・あの時、ボクはちゃんとした返事しなかったから言うね。ボクもずっと、ずっと、ず〜っと好きだよ、お兄ちゃん」
「俺もずっと、ずっと、ず〜っと好きだ、さくら」
言ってて恥ずかしいが誰もいないし良いだろう。

「それはプロポーズと受け取ってもいいよね?」
さくらが満面の笑みで訊いてくる。

「まぁ、仮のってことで」
「じゃあ、本番楽しみにしてるよ、お兄ちゃん」
「場所だけは決定だな」
「うん」

「にゃ〜」
腹が減ったと言いたいのであろう、うたまるが短く鳴いた。

「さて、腹も減ってきたことだし帰るとするか」
「うん。うたまるも行くよ」
「にゃ〜」
暖かな日差しを受けながら俺たち2人+1匹は家路をつく。

「今日のお昼はボクがご馳走するよ」
「おっ、そうか?そりゃ助かるよ。音夢の奴が帰ってきてからやけに料理を作りたがってて迷惑してたんだ」
「あははは、お兄ちゃんも大変だね〜」
「へ〜、それはどういうことですかね。兄さん、さくらちゃん?」
「どうもこうも、とても食えたもんじゃな・・・・・・・・・」
「そうそう。音夢ちゃんには料理の才能ないよね〜」
俺は聞き覚えのある声に硬直していた。こ、この声は・・・

「それに冬休みの時だって、モガッ」
咄嗟にさくらの口を塞ぎ、後ろを見ずに尋ねる。

「美春・・・・・・・・・いるか?」
「は、はい。います」
さくらもようやく気付いたのか、不安げな顔になっている。

「音夢の料理って・・・まぁ、癖になる味ではあるよな」
「じゃあこれから作りますよ。材料も買ってきたし」
俺は脳をフルスピードで回転させ、窮地を切り抜けようとするが、どっちも地獄だった。

後ろでビニール袋のカサッという音がする。
精一杯のフォロー失敗。しかも状況は最悪に。

「で、でも今日はボクが作るって言っちゃったし・・・・・・・・・」
「別に今晩でもいいですけど?」
またまた失敗。と、なればやることは一つしかない。

「すまん。今度買い物付き合うから許してくれ〜」
「ボクも付き合うから〜」
そう言って俺はさくらの手を引いて全力疾走で逃げる。

後ろで音夢が何か言ってるようだったがよく聞こえなかった。

季節は春。

すぐに桜は散るだろうけど、来年の春にはまた咲く。

季節はまた巡る。

それはダ・カーポのように。

「音夢ちゃんの料理の腕だけは一生変わらないね」
走りながらさくらが俺に言って来た。

「そうだな。ま、それも音夢らしいって事でいいんじゃないか?」
「それもそうだね」
そして俺たちは声を揃えて笑い出す。

今日はいい夢が見れそうだ。





終わり

さくら誕生日記念SSです。
すいません!本当にすいません!入院してたせいでSSを作ること忘れてて、かなり適当になってしまいました。
製作期間2日。下書きほとんど無し。アドリブ満載。文章いい加減。過去一番の手抜きです。
機会があれば直したいと思います。プロポーズの話は勝手に作りました。本編には関係ないことですし許してください。
次の誕生日は萌。今度は自分でも納得のいくものにしますので楽しみにしててください。
その前にななこ完成させないといけないけど。
それでは次回作にご期待ください。

2008年11月25日
オンライン初音島閉鎖に伴うカウントダウンSSとして加筆修正。大体300字ほど追記しました。
タイトルも『さくらと過ごす春の日』から『何度でも、この桜の下で・・・』に変更。



                                          
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