女の子のお部屋へようこそ
「ささ、上がって、上がって〜」
「お、おじゃまします・・・」
「おじゃましま〜す」
放課後、俺はこなたさんと一緒につかささんの家、つまり柊家に来ていた。
目的は俺のせいで風邪をひいて今日休んでいるかがみさんのお見舞いだ。
初詣の時にこの鷹宮神社までは来たけど、家に入るとなると初めてだ。

「あれ〜もしかして緊張してる?」
「え゛っ!?い、いやそんなこと無いよ」
「ウソつかなくてもいいよ〜。さっきからキョロキョロして全然落ち着いてないじゃん」
バレバレだ。女の子の家に来るなんて初めてだから緊張しっ放しなのだ。

「いや、その女の子の部屋入るのって初めてだから」
「そうなんだ〜。今まで悲しい青春送ってたんだね〜」
「・・・すいませんね」
「じゃあ今度私の部屋にも招待したげるよ」
「ありがとう、こなたさん」
しかしこなたさんの部屋って多分、オタグッズで溢れてるんだろうな。
俺が想像する女の子の部屋とはかなり乖離してそうだ。

「何か失礼なこと考えて無い?」
「いえいえ滅相もございません」
「あれ?誰もいないのかな?」
つかささんが誰に聞くとでも無く、独り言のように呟いた。
確かに家の中は静まり返っていて、誰かがいるような感じはしない。
まぁその方が個人的には好都合だ。ただでさえこの状態でも肩身が狭いというのに。

「お姉ちゃんの部屋はこっちだよ」
そう言って歩いて行くつかささんに付いて行く。

コンコン
「お姉ちゃん、入るよ〜?」
「いいわよ」
部屋の中からかがみさんの声が聞こえた。
どうやら思ったより元気そうだ。

「やほーかがみん、調子はどう?」
つかささんよりも先にこなたさんが勢いよくドアを開けて部屋に入った。

「こなた!って、ええ!?ど、どうしてあんたまで一緒にいるのよ!」
明らかに俺を見て言ったよな。
かがみさんは慌てて布団の中に顔しか見えないように潜り込んでしまう。

「あ〜、え〜っとお邪魔してます」
「お見舞いに決まってるじゃん。みゆきさんが用事で来れないから代わりだよ」
「はは・・・」
もう苦笑いするしか無い。

「いきなり来ないでよ。せめてメールするとかさ。こんな格好なんだし・・・」
「恥ずかしがるかがみん萌え〜。ネグリジェならともかく、パジャマなんだからいいじゃん」
「恥ずかしいものは恥ずかしいの!ケホッ」
「かがみさん、病人なんだから安静にしてないと」
「大丈夫、大丈夫。もうほとんど治ってるんだから」
そうは言うが、今咳をしたし、心配になる。
こなたさんもさすがにちょっと反省したのか、無言になった。

「お姉ちゃん、熱はどう?」
「さっき測ったけど、37℃ちょうどだから微熱よ」
「そう。それなら良かった♪そういえばお母さん達は?」
「さっきちょっと買い物に行って来るって出て行ったわ。お父さんと姉さん達は仕事と大学でしょ?」
そういえばお姉さんが二人いるんだっけ?4姉妹とはなかなかお父さんの肩身が狭そうだ。
と、そこまで考えてから、かがみさんの部屋を目だけ動かして見回した。
めちゃくちゃ女の子っぽいって訳じゃないが、女の子らしい小物や色合いでまとめられた部屋だ。
この目の前にあるボン太くんを除けば。いやまぁ、これもぬいぐるみと考えれば普通なんだけど。
ふとそこで横からの視線に気付いた。

「な、何、こなたさん?」
「いえいえ別に〜。どうぞ存分に観察したまへ」
「ちょ!あんまりジロジロ見ないでよね。恥ずかしいでしょ」
「ごめんなさい」
相変わらず布団の中に亀のように潜ったままのかがみさんが文句を言って来た。
可愛いとか言ったら怒られるな。

「それじゃあ私は着替えてお茶入れて来るね」
「私オレンジジュースね」「あ、どうぞおかまいなく〜」
ほぼ同時にこなたさんと俺はつかささんに言っていた。

     ・
     ・
     ・

「・・・私もお茶でいいや」
気まずい沈黙が流れた後にこなたさんはポツリと言った。

「あはは・・・。それじゃあオレンジジュース入れて来るね」
そう言ってつかささんは部屋を出て行く。

「あの・・・こなたさん、ごめんね」
「謝らないで〜!私が痛い子に見える!」
「そうそう。大体こなたはいつもこんな感じだし、誰も気にしないわよ」
「かがみ、酷っ!」
俺達はつかささんが戻って来るまで、かがみさんに今日学校であったことを話したりした。




「お待たせ〜」
5分もしないうちにお盆を持って、私服に着替えて来たつかささんが戻って来た。
お茶ではなく、お盆の上には氷を入れた冷たそうなオレンジジュースが乗っている。

「ありがとう、つかささん」
家の外は寒いが、部屋の中は暖かい。
こういう状況で食べるアイスが美味しいように、冷えた飲み物はたまらなく魅力的だ。

「そういえば、何でかがみは風邪ひいたの?昨日から調子悪かったの?」
「えっ!?」
思いがけない質問にかがみさんも、質問の受け手じゃない俺も一瞬止まってしまう。

「ん?どうかした?」
「う、ううん。別に何も無いわよ。ただちょっと外にいる時間が長くて冷えただけよ」
「昨日お姉ちゃん帰って来るの遅かったもんね〜」
「あ、つかさ、コラッ!余計なこと言わない」
「あぅ。ごめんなさい・・・」
つかささんの言葉にこなたさんは、顎に手を当てて考え込むポーズを取った。

「・・・なるほど〜」
「な、何がなるほどなのよ」
10秒ほど経ってから、こなたさんはニヤ〜とおもちゃを見付けた子どものような笑みを浮かべて、かがみさんを見た。
もしかしてバレた?
かがみさんには恥ずかしいから、俺達の関係はもう少し内緒でって言われたんだけど。

「つかさ、一応聞くけど、かがみが帰って来るの遅かった理由は?」
「何でそれをつかさに聞くのよ!」
慌ててベッドから起きあがったかがみさんは、怒鳴るようにこなたさんに言った。

「え?忘れ物したから途中で引き返したって・・・」
「へぇ〜。じゃあかがみ〜、その忘れ物って何?」
「け、携帯よ、携帯!!何か文句あるの!?」
犯人を自白に追い込む探偵のように、こなたさんがかがみさんを追い詰めて行く。
何か見てるこっちの心臓まで痛くなって来た。まぁ俺も当事者の一人だから当然か。

「携帯か。てっきりチョコだと思ってた」
「はぁ?何言ってんのよ。私は作って無いって言ったでしょ」
「うん確かに言ってたね。義理チョコは作って無い、って」
かがみさんが驚愕の表情でこなたさんを見た。

「昨日そう言ったよね?つまり本命チョコは作ってたわけだ」
「あうっ・・・」
「あれってそういう意味だったんだ〜」
心底感心したような声をつかささんは出した。

「ってことは、昨日放課後に誰かに渡したんでしょ?ね、誰、誰?」
そこまでは分かって無いのか、かがみさんに『教えてよ〜』と抱きついて尋ねている。

「は、離れなさいよ。風邪うつるでしょ」
「教えてくれるまで離さないから」
かがみさんは必死に引き剥がそうとするが、案外あの小さな身体に見合わずこなたさんはそこそこ力が強い。
全く離れる気配は無かった。

「あ、そういえば」
「どうしたの、つかさ?」
「昨日の夜、お姉ちゃんが帰って無いかって電話して来たよね?」
そう言ってつかささんは俺を見た。
もうどうしようも無い。

「おやおや〜。これってそういうことかな〜?」
まるで獲物を見付けた獣の目だ。

「うう〜。あ〜そうよ!そう!付き合うことになったの!文句ある!?」
半ばヤケクソ気味に叫ぶようにかがみさんは言った。

「そんな怒鳴らなくてもいいじゃん・・・」
ちょっと戸惑った後にこなたさんはそう言った。

「わ〜そうだったんだ。え〜っと、おめでとう?」
疑問形にするところがつかささんらしいな〜

「ありがとう、つかささん」
「でも何で隠してたの?どうせバレるのに」
「それはその・・・」
かがみさんはもごもごと口籠る。

「何で?」
こなたさんは俺の方を向いて、尋ねて来た。
恥ずかしいから、らしいんだけど、これを言ったら多分俺が後で怒られる。

「え〜っと、そのみゆきさんもいるところで言うつもりだったんだよ。ね、かがみさん」
「え?あ、うん」
「ふ〜ん。じゃあそういうことにしといてあげる。で、キスした?」
「ゲホッ!ゴホッ!ゴホッ!」
飲んでいたオレンジジュースでむせてしまった。

「だ、大丈夫?」
つかささんが心配そうに聞いて来る。
噴き出さなかっただけでもマシだと思おう。

「あ、あ、あ、あんたは何言ってんのよ!?」
「あれ?まだなんだ。てっきり告白してキスしたのかと思ってたのに・・・」
「ゲームのやり過ぎよ!」
「いやいやゲームなら学校でそのまま・・・」
「そんなこと言うな〜!!」
「ぶえっ!?」
こなたさんが続きを言う前にかがみさんの投げた枕が顔面にクリティカルヒットした。
まぁ何を言うか俺にも大体想像がつくけど。




「それじゃかがみ、また明日ね〜」
「はいはい。ちゃんと明日の英語の予習するのよ」
「・・・気が向いたらね」
絶対しないだろうな。
そこでふとニヤニヤと俺の方を見て来るこなたさんに気付いた。

「こなたさん・・・」
「何?」
「先に外出てて」
「酷っ!」
そう言って俺は部屋の外へこなたさんを押し出して扉を閉めた。
つかささんは先に外へ出てたので、部屋の中は俺とかがみさんの二人きりだ。
自分でこの状況を作ったのに、急激に恥ずかしくなって来た。
かがみさんも恥ずかしいのか、頬を染めてこっち見てないし。

「え〜っとその・・・」
「うん・・・」
「好きだよ・・・」
「えっ!?・・・そ、そんな急に言わないでよ。・・・恥ずかしいじゃない」
かがみさんは一瞬だけ俺と目を合わせて、また目を伏せてしまう。

「それじゃまた明日ね」
「あ、ちょっと待ちなさいよ」
出て行こうと振り向いた俺をかがみさんが引き留める。

「その・・・」
そこまで言ってからまた少し沈黙が流れる。
でもこういう沈黙は嫌いじゃない。
嫌な空気じゃなくて、何とも言えない高揚感がある。

「私も好き・・・」
かろうじで聞こえるくらいの声量でかがみさんは確かにそう言った。
胸のうちが暖かくなるのが分かる。

「うん。帰ったらまたメールするね」
「待ってるね・・・」
出来る限りの笑顔で俺はかがみさんに答えた。
かがみさんも同じように笑顔を返してくれる。

「おまたせ、こなたさん」
「いや〜ラブラブですな〜」
「・・・聞いてたの?」
「つかさと一緒に扉に耳を当ててね」
「ええ!?わ、私はその・・・ごめんなさい」
つかささんは思いっきり頭を下げる。
まぁ聞くなって方が無理か。

「別に気にして無いよ、つかささん」
「ところでかがみが何言ったのか聞こえなかったんだけど・・・」
「じゃあそれは秘密ってことで」
「え〜」
ブーブーと文句を言うこなたさん。こっちはとっくに反省もしてないらしい。
まぁそれがこなたさんらしいってことで、別に嫌いじゃないんだが。




「おじゃましました〜」
つかささんにも別れを告げ、こなたさんと駅を目指して歩いて行く。
もう日が沈みかけてるし、家に着く頃には真っ暗だな。

「それでね、先生ったら寝落ちしちゃってさ〜」
「こなたさん、よくそれで次の日学校来れるね」
こなたさんとゲームやアニメの話をしつつ駅まで歩いて行く。
ネトゲーか。ハマると怖いから敬遠してたけど、こなたさん面白そうに話すし、一度やってみようかな。

「・・・・・・かがみのこと好き?」
「・・・・・・は?」
唐突にそんなことを言われて一瞬頭が真っ白になった。
こなたさんは見たことも無いマジメな顔で俺を見ていた。

「・・・好きだよ」
その表情に気圧されつつも、目を逸らさずにそれだけ答えた。
目を逸らすとウソをついてるように思えたからだ。

「そう・・・。かがみのこと、大切にしてあげてね」
急にそんなことを言われて、俺はこなたさんの顔をマジマジと見た。

「そんな見つめられると、私でも照れるんだけど」
「いや・・・その・・・」
「私には似合わないって言いたいんでしょ」
「うん」
迷いもせずに俺は言い切った。

「今日は私をいじめる日か何かですか〜?」
暗闇に向かって少し大きな声でこなたさんは言った。

「俺が不審者扱いされるから止めて〜」
「ここでキャー痴漢〜って叫んだら人生終わるよね」
「シャレになってないよ」
しかしホントに似合って無いことを言ったんだから仕方ない気もする。
でも・・・

「こなたさんって友達想いだね」
「・・・よくそんなセリフ恥ずかしがらずに言えるね」
「さっきのお返しだよ。約束する。絶対にかがみさんのこと大切にするって」
「うん。かがみのことお願いね。あれで結構寂しがり屋だから」
そう言ってこなたさんは右手の小指を出した。
俺もそれにならって同じように小指を出して、こなたさんの小指と絡ませる。

「指きりげんまん嘘ついたら針千本の〜ます」
「指切った」
「これって傍から見ると恋人同士みたいだね〜」
ニヤニヤと言った顔で俺の様子を伺って来る。

「・・・分かっててやったんでしょ」
「さぁね〜。ほらほら早く帰らないと晩御飯の時間だよ」
「はいはい」
小走りで駆け出したこなたさんを追う。
なんかまた傍から見たら危険な図になってそうだ、なんて考えながら・・・





終わり

書きながら最後に女の子の部屋行ったのいつだったっけ?と考え泣きたくなった。
消防の頃です、本当にありがとうございました。
リアルの女子高生の部屋なんて見たことねぇよwww
前回『ツンデレな彼女』の翌日のお話でした。
続くかどうかは未定。らき☆すたSSのラブラブ物は結構書くの大変なんですよね。



                                          
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