最早おなじみとなった2人が今日も肩を並べて校門を出て行く。
学園のアイドル白河ことりと、イベントがある事に杉並と共に警戒の目、または期待の目を向けられる朝倉純一。
その2人である。




「よう、朝倉。今日も2人で帰るのか?」
「杉並か・・・それが何か?」
「いや、今日あたり久々に教授の陰謀を阻止しに行かないか?」
杉並が「腕が鈍らん内にな」と続ける。

「断る」
純一はそれをあっさりと却下する。

「何!?お前は俺との友情より白河嬢との愛を選ぶというのか!?」
大袈裟にリアクションする杉並。

「当たり前だ!工藤とでも行っとけ!!」
「ううむ、工藤ではいささか頼りないが・・・」
「朝倉。今日は俺も入れてくれないか?水入らずを邪魔するのは悪いけど…」
杉並をさらりと流して工藤が言う。

「あぁ、別に構わんぞ。桜公園でクレープでも食うか」
「しょうがないな。今日はゲーセンを諦めて4人で帰ろうか」
杉並が残念そうな顔で言う…が。

「お前はダメだ」
あっさりと拒否する純一。

「何と!?」
「あのー・・・」
少し躊躇うような声。

「どうした、ことり?」
「私、そろそろ発言してもいいのかな・・・?」
「・・・悪かった」
ふと、何者かが純一の制服の袖を引っ張った。
振り向くとそこにいたのは。

「・・・美春?」
「あの、先輩方・・・風紀委員として言わせて貰いますと、放課後に校門前で騒ぐのはご遠慮して頂きたいです」




「う〜ん、やっぱりバナナはおいしいです!」
「・・・なんでお前がいるんだ」
「朝倉先輩。それ、5回目です。校門前で騒いでいた罰です」
美春が指を立てて言った。

「じゃあ、なんで俺だけ奢らなきゃいけないんだ!杉並は!工藤は!?」
「俺は別に騒いでないけどな」
工藤がさら、と言う。

「杉並先輩は風紀委員の敵です。敵に奢ってもらうほど美春はいやしくありませんので」
「杉並」
「ん?」
「イベントの時には誘ってくれ。俺、味方するぞ」
杉並がにやり、と笑う。

「朝倉君・・・ダメだよ。朝倉君はイベント時には私たちのマネージャーをして貰うんだから」
「・・・そうだった。杉並、さっきのは無しだ」
「何ィ!?貴様・・・自分から望んだ事を10秒もせず撤回すると言うのか!」
「あぁ、少なくともお前との事に関しては」
さら、と返す。

「なぁ、俺・・・前から思ってた事があるんだけどさ」
工藤がことりの方を見て言った。

「なにかな?工藤君」
「ことりは・・・その・・・名前で呼ばないのか?朝倉の事」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「はわわ・・・」

美春だけが声を出し、ことり、純一、杉並の3人は沈黙する。

「そう言えば・・・なんか俺もそう言われると『純一君♪』なんて呼んで欲しい気がするぞ、ことり」
「なんで『♪』まで付いてるのかな・・・」
ことりが赤くなりながら言う。

「しかしそれもそうだな、白河嬢。これだけ愛しながら名前で呼ばない理由はなんなんだ」
「えっと・・・単に恥ずかしいから・・・」
「えぇ!?」
恥ずかしい、そう言ったことりに対して美春が驚きの声を上げる。

「登校時も下校時もイチャイチャしやがって下さいやがりますくせになんで名前で呼ぶことが恥ずかしいんですか!!」
美春が怒り交じりの敬語で叫ぶ。

それに続けて。
「美春が朝倉先輩のひもじい生活を心配して余ったバナナ料理を届けに行った時も・・・」
「ひもじいって言うなぁ!!」
「美春は嘘は言っていません!!
音夢先輩がいなくなってお金の管理が出来なくなってから余計ひもじくなってるじゃないですか!!」
「ぐぼげらぁ!!?」
純一に美春による、言葉の核爆弾が投下される。

「わ、あ、朝倉君・・・」
「白河先輩がいなかったら今頃朝倉先輩は病院行き確定ですよ!
眞子先輩も『もうちょっとで朝倉が金蔓になりそうだったんだけどなぁ』って言ってました!!」
「がっ!?」
純一が痙攣を始めた。

「天枷さん・・・俺は君の言葉で朝倉が病院に行く事になりそうな気がするんだけど・・・」
「うぅむ、敵ながらあっぱれだぞ。わんこ嬢」
そんな間にも美春による攻撃は続いていた。




夜。
白河家。

「叶ちゃん…アレはちょっと酷いよ・・・」
電話で話している相手は・・・工藤叶だ。

『もう、さっきから謝ってるでしょ?ごめんって。それにまさか天枷さんがあんな攻撃を始めるとは思わなかったから』
「そうだけど・・・」
『でも、朝倉君ってそんなにひもじい生活してるんだ?』
「う〜ん、・・・どうかな。・・・私がお料理作りに行った時にカップラーメンしかないのはよくあるけど」
『それをひもじい、って言うのよ』
「・・・」
『それで、何で名前で呼ばないの?』
改めて、という感じで聞いてくる。

「えっと・・・はず・・・かしい、から」
『・・・告白』
「え?」
『あの告白の方がよっぽど恥ずかしかったと思うんだけど』
「そ、それは・・・」
ことりは言葉に詰まる。
顔が赤くなって、火照るのがわかる。

『あ、もう寝なきゃ・・・じゃあ、ことり。頑張ってね』
そう言って電話が切られる。

「もう・・・」
そう言って、ことりも寝るための準備を始める。




・・・翌日。


「よ、ことり。おはよう」
「あ、おはよう。朝倉君」
ことりを見つけた純一が肩を叩いて声をかけた。

「・・・」
ことりの返事に対して純一は黙っている。

「・・・どうしたの?朝倉君」
「ことり」
純一がことりの顔を見る。

「なに・・・かな?」
「あのー、そのだな。昨日の話の続きで…」
と、そこに。

「やはりか・・・」
「・・・みたいだな」
「・・・杉並、工藤」
純一が嫌そうな声で名を呼ぶ。特に前者に嫌味を込めて。

「おはようございます。工藤君、杉並君」
ことりがあいさつをする。

「おはよう、ことり。それと朝倉。・・・どうしたんだ?立ち止まって」
「ふふん、大方昨日の事であろう?」
「ぐ・・・」
「昨日のって・・・」
ことりが聞こうとしたところで、工藤と目が合った。
それだけで、ことりはその目が何を言いたいのかを理解した。
そう言えば、内容は読めないが杉並の目も最初からニヤついている。

「思い出したか?白河嬢」
「ぅ、ぁ・・・えーと、なんでしたっけ?」
「・・・ことり」
「?」
「名前で呼んでくれないなら俺、マネージャーしない」
「え?そ、それは困るんだけどなぁ…」
「しないったら、し〜ない」
甘えるような声になった。

「朝倉、貴様っ・・・!」
「・・・その声は気持ち悪いと思うぞ」
杉並と工藤が、退きながら言った。




「おーい、ことりー。帰ろ・・・あれ?」
ホームルームの挨拶が終わりことりの方へ向かいながら声を掛けると・・・既にいなかった。

「・・・っかしーな、トイレか?」
「・・・浮気かも知れんな」
「あぁ・・・」
「杉並、工藤。お前ら相手がいないからってそんな妬みを・・・」
「ふっ、俺は可能性のひとつとして言っただけだ。何せ相手が朝倉なのだからな。ありえなくは・・・ウボォッ!?」
杉並に純一の裏拳がヒットする。

「朝倉・・・それはっ・・・」
驚く工藤。その声には半分恐怖が入り混じっている。

「フッ・・・夢を追いかけ本土へ渡った愛しき我が妹。音夢直伝の必殺技だ・・・まさかこんな所で役に立つとはな」
「それは強力だな・・・」
工藤が少し強張った声で言う。
と、そこで純一の前に田端がやってくる。

「・・・なんだ?」
扉の方を指差して去って行く。相変わらず寡黙な奴である。

「あれは・・・みっくんとともちゃん?」
どうやら2人とも怒っている風だった。




「朝倉君っ、マネージャーをしないってどういう事ですか!?」
「話を詳しく聞かせてください」
「・・・」
怒っていた。それも物凄く。

「(マネージャー・・・あぁ、朝のか。ことりめ・・・刺客を差し向けて来るとは・・・)」
「「朝倉君っ!」」
2人が同時に声を荒らげる。

「(ことり・・・やってくれるな。しかし・・・それは失敗だ)」
「「・・・・・・」」
「みっくん、ともちゃん。事情を話そう。中庭で」




「そん・・・な」
ともちゃんが手で口を抑える。

「それって・・・朝倉君はちっとも悪くないじゃないですか」
みっくんが少し怒ったような顔で言う。怒っているのはことりに対してだ。

「あぁ、・・・だからだ。2人にも・・・是非協力してもらいたい」
事情を話した上で協力を求める純一。

「わかりました。マネージャー確保のためでもあります」
ともちゃんが強く頷いた。

「私も。出来る限りの事をします」
みっくんも。

「みっくん、ともちゃんありがとう」
ことりの差し向けた刺客は、事情を話すだけですんなりと純一の側についた。
ここに・・・ことりにとって最も厄介と思われるメンバーの同盟が・・・成立したのだ。

3人の手が重なり「えい、えい、おー!」の声が中庭に響く。

「それで・・・ここからどうするんですか?」
みっくんの何気ない一言。
この同盟は計画性が皆無だった。




ピンポーン、と白河家のインターホンが鳴る。
3人がとった行動は。


特攻だった。


「はい、どちら様ですか?」
「「ことり!!」」
「わ!?」
ことりの声だと確認した瞬間、みっくんとともちゃんの怒声が響いた。

「び、びっくりしたぁ・・・どうしたの?朝倉君を説得出来・・・」
「「ことりが悪い!」」
「そうだ!」
みっくん、ともちゃんの後に純一が続く。

「ま、まさか・・・」
その声からことりが動揺しているのがわかる。

「「「同盟結成!!」」」
3人が同時に大声で言う。近所の犬が吠え出した。

「そ、そんな・・・」
「フッ、ことり。2人の説得には成功した。大人しく出てくるのだな」
「朝倉君、それじゃ悪役みたいですよ?」
ともちゃんが言ってみっくんがコクコクと頷く。

「ぅ…まぁ、ことり。とにかく出て来てはくれまいか。話し合おうじゃないか」




ことりが玄関から出てくる。

「えっと、みっくん。ともちゃん。それと…じゅ…じゅん…純一君、何かな?」
「・・・」
「・・・」
「・・・・・・・・・」
3人の顔が驚きに変わる。と、次の瞬間。

「ことりーー!!」
純一がことりを抱きしめた。

「あ、朝倉く」
赤くなることり。
と、
「「だりゃあぁ〜〜!!」」
スパコーン!
グサッ!!

爽快な音とともに純一が吹っ飛んだ。

「ふ、2人ともな、何を・・・?」
「ここでイチャつくのは禁止です」
「そうです、私たちまで変な目で見られちゃうじゃないですか」
みっくんとともちゃんが真剣な顔で言う。

「っていうか、そのハリセン・・・いや、みっくんのは針千と言うべきか?ど、どこから・・・」
ともちゃんの持っていたのは普通のハリセン。
みっくんのは何故か針がついていた。

「そんな小さい事を気にしてたらことりに嫌われますよ?」
ともちゃんがニッコリ、と笑顔で言い放つ。

「わ、あ、朝倉君。大丈夫ですか!?」
「あぁ、ことり。最後に、もう・・・いち、ど・・・」
そのまま意識は失われた。




「うー、頭がまだズキズキする…」
「なんか包帯を頭に巻いた人とデートするのって色々と微妙だね」
「じゃあ、今日のデートはやめにするか?」
「でも、私は純一君と居れればそれでいいから」
ことりが笑う。

「うーん、これからはやっと『純一君♪』と呼んで貰えるのか……」
何故か感慨に浸る。

「あ、でもきっと5年もすればまた呼び方変わっちゃうよ?」
「え、なんで?」
ことりがととと、と少し純一の前に出てから振り返る。

「結婚したら『あなた』って呼ばなきゃいけないからだよ♪」





終わり

翔菜さん後書き
ことりーーーっ!!(;´Д`)

管理人感想
分かる人には分かるタイトルになってますw
まぁ隠す必要も無いので書きますが、魔法少女リリカルなのは1期最終話のなのはのセリフですね。
しかしこれはニヤニヤせざるを得ない。ことり可愛過ぎる。



                                       

名前を呼んで

inserted by FC2 system