幸せな一日

この世に生を受け早16年。
数々の出会いと別れを繰り返して(それほど大層な事でも無いが)今、俺こと朝倉純一の前には最愛の子が居る。

「お待たせしました、純一さん」
鷺澤美咲。
何かの運命に導かれる様にして出会った女の子。

「・・・?どうしました?」
あどけない赤い瞳でこちらの顔を覗いてくる。
彼女の全てが愛しい。

「・・・いや、何でもないよ。じゃあ、行こうか」
「はい」
嬉しそうに、笑顔で答えてくれた。
・ ・・今日は、美咲とのデート。
美咲は、この島でも有名な(と言っても俺は当初知らなかったが)良家の息女。
父親は厳格で、家庭は厳しく、普通だったら俺のような(俗みたいな言い方をすると庶民)
どこの馬の骨とも知らないような奴とは出会わなかった。

しかし、出会った。
この春、正確には美咲という名前ではなかったが、俺の家で世話をしてくれた。
当初は保護している様な感じだったが、徐々にそんな感じでは無くなり、いつしかお互いが好きになった。
そして今は。




「今日はどうしましょうか?」
「そうだな・・・そうだ、桜公園にでも行こうか。丁度晴れてるし、弁当でも買ってさ」
「ふふ・・・実は、お弁当は用意してあるんです」
「お。用意が良いな」
「純一さんに食べてもらいたいから・・・」
「私的には美咲を食べたいが・・・」
「え・・・」
「あ、いや、悪い!今のは忘れてくれ!」
しまった・・・つい変な本音が・・・
少し沈黙が続いた後、沈黙を破ったのは美咲の方だった。

「でも・・・」
「え?」
「・・・いつか・・私を食べてくださいね」
「・・・・・・・・・」
真っ赤な顔をしながら美咲はそう言った。
我ながら何とまあ変な事を・・。
とにもかくにも、取り敢えず桜公園へ。




見まごう事なき素晴らしい青空の下、桜公園に着き、俺と美咲はしばらく桜公園を歩いた。

「ここの桜も、すっかり枯れてしまいましたね・・」
「ああ。もう新緑の季節だからな」
あれだけ飽きていた桜も、いざ枯れると淋しい気持ちになる。

「今考えたら、桜綺麗だったな・・・」
「そうですね・・・」
俺の気持ちを悟ったのか、美咲も同意してくれた。
そして。

「純一さん」
「ん?」
彼女は言った。

「あの場所へ・・・行きませんか?」
・ ・・あの場所。
それは間違いなく、島で一番大きな木がある所。
さまざまな願いを聞き入れ、叶え、認識し、この島の人々を見守っているあの木がある場所。
かつて秘密基地と呼んでいた、あの・・・

「・・・ああ。行ってみようか」




そしてたどり着いた。
そこには前の様な辺り一面桃色・・という訳も無く、ただ丸坊主になった大きな木がそこに在るだけの風景となっていた。

「やっぱり、枯れちゃってますね・・・」
「まあ他の桜の木が全て枯れてるんだから、この木だけ枯れてないという事はないだろうしな」
こう見ると何だか改めて実感させられる。
本当に枯れてしまったんだと。

「ここから全て始まったんですね」
「ああ。ここからな。・・・頼子さんと出会って、いっしょに暮らして、日常を過ごして、・・・やがて桜が枯れて、
頼子さんが消えて、美咲と出会って・・・よく考えたら、かなり凄い体験したな。俺達」
「そうですね・・・ですが、何物にも変えられない、素敵な体験でした」
そう。
人生で二度は無い体験をした。
そして、恋をした。

「美咲」
「何ですか?」
「キスして良い?」
「えっ・・・ここでですか?」
「うん、ここで。そして今すぐ」
「わ、わかりました・・・じゃあ・・・」
美咲の肩を抱き、美咲が目を瞑りながら少し背伸びをする。

「ん・・・・・・」
唇が重なった丁度その時、少し風が吹いた。
風に乗って、美咲が付けている香水の優しい匂いが鼻をつつく。
しっとりと、柔らかい美咲の唇の感触。
短い時間の間に、じっくりと感触を味わった。

「・・・・・・・・・はあ・・・」
やがて感触が離れると、お互い頬を少し上気させながら、余韻に浸った。

「美咲のキス・・・気持ち良い」
「純一さんのキスも・・・気持ち良かったです・・・」
・・・本当に、全て愛しい。

「・・・お弁当、食べましょうか」
「ああ、食べよう」
相変わらず美咲の作った料理は美味しくて、暖かな気持ちになれる。
そんな美咲の愛情が詰まったお弁当は、いつもより、なお美味しかった。




それから美咲と色々な所へ行った。
商店街に行ったり、映画館に行ったり・・・・・・至って普通のデートをした。
歩き、見慣れてる場所も、美咲と行くと常に新鮮な感じになる。
そして気がつくと、時刻は午後5時30分。

「あ・・・もう時間ですね・・・」
「本当だ。もうこんな時間か・・・」
先程も言った通り、美咲の父親は厳格だ。
なので最高でも六時までには帰らないと、怒られてしまう。

「家まで送るよ」
「ありがとうございます。純一さん」
美咲の手をとり、俺達は美咲の家へ向かって歩き出した。




「・・・・・・到着」
時刻は午後5時45分。
これなら文句もないだろう。

「もっと美咲と居たかったな・・・」
「すいません・・・父がああですから・・・」
「美咲のせいじゃないよ」
「ありがとうございます。・・・今日も楽しかったです。ありがとうございました」
ペコリと礼儀正しいお辞儀をしながら美咲は感謝の礼を述べた。

「いやいや、俺も楽しかったよ。それじゃあ・・・」
後ろを向いた瞬間・・・

「純一さん」
と、呼ばれたので振り向くと、

「ん・・・・・・」
不意打ちのキスをされた。

「・・・そ、それでは、また明日・・・」
「あ、ああ。また明日」
キスをし終わった後、美咲は真っ赤な顔をしながら家へ入っていった。

「なんて大胆な・・・」
思わず感動した。
そして美咲の唇の感触が消えない内に自宅へ戻った。

「ああ・・・可愛いなあ、美咲は・・・」
ベッドの上で寝転がりながら、純一は内心大喜びだった。
ブウウゥゥ・・・。
突然携帯のバイブレーションが響き、慌てて携帯を取り、画面を見た。
Eメールで、送信主は美咲だった。

件名:大好きな純一さんへ
本文:今日は本当に楽しかったです。またデートしましょうね。おやすみなさい、純一さん。

「・・・本当に」
可愛い事してくれるなあ。

「・・・ん?下にまだ何か書いてあるな・・・何々」

追伸:突然のキス、すいませんでした。ですが、これからは隙があったらします。なので純一さんもしてください。
・・・変な事言ってすいません(汗)。それでは、今度こそ本当におやすみなさい、大好きな純一さん。

・・・きっと頬を赤くしながら打ち込んだのだろう。
見てるこっちが赤くなる。

「・・・何だか見ているだけで嬉しいから、このメールは保護しておこうっと」
メールを保護し、携帯をテーブルの上に置いた。

「しかしまあ・・・」
今日は本当に

「幸せな日だ。・・・いや今日だけじゃない。美咲といれば、毎日が・・・」
幸せな日になるだろう。
最愛の人なんだから。

「・・・今日は良い夢が見れそうだ」
これからの美咲との過ごし方に、思わず笑みを浮かべながら、眠りについた。





おわり

管理人感想
今回はシールさんから頂いた美咲SSです。頂いてから5ヶ月も経ってて本当にごめんなさい。
さて感想に。自分なら喜んで美咲をいただきますね♪
本当に美咲は可愛いですね。最後のメールも大変可愛らしいですし。
しかしこんな良いSSを書かれると、ますます自分で美咲SSが書きにくくなりました。
本当はもう次の美咲SS頂いてるんですが、掲載が詰まっててもうちょっと遅くなりそうです。
でもまぁ美咲の誕生日に合わせるってことで勘弁して下さい。
それではシールさんの次回作をお待ち下さい。



                                       
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