最近になって──そう、タマ姉と付き合うことになって、それから気付いたことがある。
 それまでの俺にとってタマ姉はタマ姉であって、別に女性だってことを忘れてたわけじゃないんだけど異性として考えてるわけでもなかったというか。ようするに、このみと同じに『家族』ってとこに分類されたんだと思う。
 それは久しぶりに、十年以上っていう改めて考えると本当に長いブランクを挿んで再会してからも変わらなかった。そりゃ、猫被ってたお淑やかなタマ姉にはかなりドキッとさせられたけど、地が出てからは全然そんなことなかったし。
 だから、本当は誰よりも知っている筈のことなのに。あんなにしょっちゅうタマ姉に抱きつかれたり押し倒されたりしてたって言うのに。俺は全然理解(わか)っちゃいなかったんだ。

 つまりさ、何が言いたいのかっていうと──











 もしかしてタマ姉ってすごくエロくないか?






「…………」
「雄二?」

 俺は不可思議な沈黙を感じて雄二を見た。ベッドで胡坐をかいている俺の左手、もう一人の『家族』にして親友もとい悪友、総論腐れ縁の男は、名ばかりの勉強椅子の背もたれに腕と顎を乗っけた状態で大口を開けるっていう、わざとらしい間抜け面をさらしている。
 その体勢じゃあ意識的に力を入れないと口を開けないだろうに、「俺は呆れて自然に口がポカンとしちまったぜ」っていう如何にもさに腹が立つ。
 まばたきも無しに注がれる醒めた視線を、気色悪いのと優しさから(眼球が乾いて下瞼がピクピクしてた。無理する必要が何処にあるんだ。)避けてクルリと首を回す。
 ここは雄二の部屋だ。非常識にでかい向坂の御屋敷に比して、雄二とタマ姉の部屋は広くはあるがあくまで一般の範疇に収まっている。家具調度も趣味はいいけど庶民的──と言うと少し語弊があるか? ともかく、一見して由緒正しき名家の御子息御令嬢の住まう場所であるとは分からない。本人たちを見ても、やっぱりよく分からない。
 もっとも、俺は雄二たち以外にそういった上流階級の知り合いがいるわけじゃないから、二人が特殊なのかはわかりゃしない。案外俺たちの持っている金持ちのイメージなんてのは、ただの偏見なのかもしれないしな。
 ……あー。あーっと。でもよく考えたら居たな、イメージまんまなのが知り合い未満に三人ほど。ということは二対三だから、やはり俺の幼馴染が特殊なのかも。
 まあ思いっきり庶民な俺がこうして部屋に入り浸ってるくらいだからなぁ。雄二の部屋なら、やたら古くさい家風に反して所有している電子機器の隠し場所から、これまたやっぱり隠されている、タマ姉に見つかったら即没収焼却且つ制裁決定となる類の本やらDVDやら(※ジャンルが大問題)の在処まで熟知している。把握しきれていないのは、しょっちゅうその数を増やす緒方理奈のグッズくらいなもの──

「アチョ」
「ぁてッ!?」

 怪しい中国語みたいな奇声がして、頭頂部に鈍い衝撃がくる。
 確信を込めて、というか犯人は一人しかいねえ! と、背けた顔を行きに倍する速度でグリンと戻し、

「雄二、いきなりなにするんだよ!」

 いつの間に近寄っていたのか、椅子を転がしてきたのだろう、先程とほぼ同じ体勢のまま距離だけ詰めて雄二がいる。だいたい手の届く範囲、ヤツの畳まれた肘の先には手刀。凶器所持の現行犯逮捕だ。

「ボーっとしてる方が悪いんだよ。何度も呼んだぞ」
「お前な、それだけでひとを殴っていいと──」
「あとだな、」

 そう俺の抗議を遮っておいて、一つ息を漏らしてから雄二が言う。

「実の弟に向かって、『お前の姉貴エロくねえ?』なんてマジ聞きしてんじゃねえよ。俺にどう答えろっつうの」

 ……ちょっとまて。確かにそれはもっともだと思うけど、じゃあ実の弟が『姉貴とどこまで進んだよ?』って聞いてくるのはどうなんだっての。お前がしつこくそんなこと聞かなければ、俺だってあんなこと言わなかったぞ。
 いや、まあ、つい思い出して赤面しちゃった俺も迂闊だったけどさ。
 あの日の、ことを──。


   ◆


 梅雨の入りを思わせる日だった。
 前日からの曇り空に感じたものは、手荷物の増える少しの煩わしさに負け、俺は例年のようにまたしても勝利確率七割の賭けに負けた。
 もしも連れであるタマ姉が俺同様の不精者だったら、二人揃って学校帰りの寄り道先で立ち往生することになっただろうが、古い付き合いを遡って幼年時代まで思い出してみても、タマ姉がそんな失敗をおかした記憶は見当たらない。
 俺はいつも通り傘を忘れ、タマ姉はいつも通り呆れ笑って、二人で昔の通り、一つ傘をともにした。
 雨に降られた先からだと向坂の家の方がより近く、ならばと先にそちらへ向かうのは当然だろうし、そこが俺にとっても勝手の分かった馴染みの場所となれば、そのまま上がってくつろいでいくことになるのも至って自然な流れだろう。
 加えて家はすっかり空いていて、タマ姉の弟にして俺の親友である雄二もいなかったのだから、腰を落ち着ける先なんて居間かタマ姉の部屋かの二択しかなく、それで後者が選ばれたことにだってなんら不思議なところは無い。
 つまりその日それまでどこにもおかしな点はなく、俺は適当に時間を潰して、また晩飯をごちそうにでもなってから自宅に帰るっていう、ルーティンじみた日々から全く逸脱しない平穏の日を送るのが本当だったはずだ。他の選択肢があったとしてもせいぜい、雨の帰途を厭んで雄二の部屋で馬鹿げた夜を明かすくらいで、それにしたって結局は“また”って置かれてしまう日常だ。
 でも違った。バカな俺はその瞬間が来るまで全く気付かなかったけど、いつも通りとか平穏な日常とかにはなり得ない決定的な要因があったのだ。二択を終えた時点で決まっていたのだ。
 徹頭徹尾どこにも間違いは見付からない。そこでだからと終わらすのではなく、良く考えれば分かったハズなんだ。例えるなら犬猫を取り違えていたような、そもそもの根本からの違いに。



「ちょっと待っててね」

 部屋の戸に手を掛けてタマ姉が言った。
 多分湿った制服を着替えるんだろうと、俺は適当な返事で了解した。
 廊下で壁に寄り掛かって待つしばしのあいだ。ここまで至っても未だ気付く兆しすらなく、ただぼけっとしていた自分は返すがえすも愚かとしか言いようがない。
 そのうち中から招く声があって、身に纏わりつく湿気を倦怠として引きずって、のろのろと戸を開けて、
 ようやく気付いた。
 ──タマ姉の部屋に入るのは、俺たちが恋人同士になってからでは初めてだってことに。
 そうさ。不自然な点なんか、何もなかった。ただ俺が『タマ姉の幼馴染』から『タマ姉の恋人』に変わっていただけだ。でもそれはあまりにも大きな違いで、全く考えもせず心構えが何も出来ていなかった俺には致命的だった。

「…………」

 わけもなく喉が嚥下された。
 なんてこったぱんなこったなんて言葉が頭の中で踊りだすくらい混乱した。
 多分おそらくきっと間違いなく、今まで無意識に意識することを避けていたに違いないタマ姉の部屋に染み付いたタマ姉の気配が薫ってきて、心臓が早鐘を打ち始めた。

「タカ坊? どうしたの、突っ立ってないで早く入りなさい」
「あ……うん」

 そんな気楽に言ってとあの時は思ったけど、幾分なり落ち着いて考えられる今、記憶に残るタマ姉の顔からしてあれは分かってたに違いないと思う。確信じみた笑みが浮かんでいた。
 地雷原を歩く気持ちってこんなだろうかと、そろそろ部屋を進む俺をタマ姉は「なぁにビクビクして」とそらとぼけたことを言い、クスクス笑って見ていた。本当に趣味が悪い。
 タマ姉の部屋なのだから当然だけど、あちこちにタマ姉を感じさせるモノがあって、それに追いやられた俺は仕方なく部屋の中央付近に腰を降ろすことになった。一般的日本人の俺にとって、真ん中に居かれるっていうのもそれはそれで落ち着かなかったが、端の方に座って例えば洋服ダンスを意識することになるよりよっぽどマシなんだからしょうがない。チラと視界に入ったときに下から二段目かなってつい当りを付けてしまっただけで、正直俺には限界なんだから。
 それからしばらくは普通におしゃべりをしていたはずだけど、なにを話したんだか、その間のことを頭は(・・)さっぱり記憶していない。そのくせ俺の目は鼻は耳は肌はちょっと変態じみて舌は、思い起こせば現実(リアル)として迫ってくるほどリアルに周囲全てを覚えている。

 どのくらいの時間が経った頃か。お茶のお代りをする程度には過ぎたと思う。タマ姉がふと話を変える声をあげた。

「そういえば、タカ坊?」
「な、なに?」

 変に緊張していて声まで上擦る俺を、ベッドの縁に腰掛けたタマ姉がちょいちょいとさしまねいた。
 ニャンと猫(リンクス)じみた、背筋のぞっとする艶笑を浮かべたタマ姉に、常の俺なら危険を察知して逃げようとしただろうが、その時はとてもそれどころじゃなかった。


 ──雨で湿り気を帯びた空気は匂いを強め、ズシリと重たく肺を圧す。甘く、思考を痺れさす香気に、深く呼吸することを罪悪に感じ、鼓動とともに浅く早く、不整にギグる。
 鼓膜の内側で、血の脈打ちと呼気の漏れる音がやたらと大きく響いている。なのに三歩も離れた遠地にいる女性の身じろぎを肌で感じ、衣擦れを耳で聴き取り、ばかりか、とがった嗅覚が吐き出された窒素をかぎ分けてしまう錯覚までおぼえて、俺って言うカチコチの鉄塊はあっという間に赤熱する。
 右を見ればだらしなくも椅子に掛けられた寝衣があり、左を向けば部屋干しされた下着に歓迎され、正面に直れば、床のクッションに尻を置く俺の視線は何故か制服のままなタマ姉の、組まれた脚と高さを同じくする。逃げるように下へと俯くと、これは丁寧に畳まれた私服が視界に入り、仕組まれたような布陣に諦めの境地で目を閉じる。
 けれど、一つ感覚を閉じれば他の感覚は自然研ぎ澄まり。
 暗闇の中。更に強く感じられる、タマ姉の息差し。タマ姉の匂い。タマ姉の熱。タマ姉の──。


 同じ屋敷内、雄二の部屋ほどではないけど慣れ親しんでいたはずだったタマ姉の部屋は、俺の心持一つが変わっただけで、幼馴染から恋人となった二人の関係以上に別物と感じられた。
 そんなある種極限状態に置かれていたから、俺はただ情況の動くことに安堵して、全くの無警戒でタマ姉の誘いに乗り、
 ──結果、またしても押し倒された。

「タ、タタッタ、タマ姉!?」

 どこにどう力が掛かったんだかは相変わらずさっぱりだけど、なにが起こったのかはすぐ分かるようになっていた。
 なんで天井が見えるんだろうって思った次の瞬間には事態を悟り、ほとんど衝撃もないままベッドに組み敷かれると同時、抗議の声を上げた。
 あれでも、しちゃめちゃにドモる自分の耐性の無さに情けなさを覚える程度には余裕があったらしい。梨ほどの役にも立ちはしなかったが。

「んふふ〜♪ やっぱりこの体勢が一番よね〜。
 タカ坊の匂い、タカ坊の感触、ふふ、お姉ちゃんが五つ星あげるわ」
「ちょ、タマ姉? っ、うぁ」

 タマ姉が俺のなんやらをダイレクトに感じるってことは、逆もまた然りで。この部屋に入ってからずっと強烈に意識していたタマ姉の全ては、もはや暴力と言うべき圧力でもって俺にのし掛かっていた。鐘音の不協和音も加速度的に段を上げていって、俺は本気で死ぬんじゃないかと思った。
 なのにタマ姉は、平気な顔をして更に密着してきたんだ。

「あ、うわ、ぉお押し付けちゃダメだってば!?」
「ん〜? 何をかしら」

 牛乳プリンが食べたい。
 俺の胸板と同じ形に押し潰されたモノを見ながらこんなアホな事を思い付いたのは前日雄二に見せられたDVDのせいだ間違いないぞヨシ後で殺そう。
 冗談にも生命(いのち)の危機を感じたからか刹那すら認識できる程加速した思考は、無駄にそんなことを考えるのに費やされた。そういえばこの時の殺意は未だ為されていない。すっかり忘れてたな。ぱんなこった。
 思索に逃避してみても、刹那の速さに達してしまっているので須臾の間もなく現実に押し戻された。そんな短い時間で何が変わるなんて有り得るはずもなく、ぐいぐいというかふにふにというかむにむにというかぱふぱふというかすりすりというか、とにかく気持ちいいことは確かな感触はやっぱり俺を責め苛んでいた。
 なんてこった。

「──タカ坊、」

 火傷しそうなくらい熱いタマ姉の吐息。
 イメージしたのは、プチプチと軽快に音を立てて断たれていく一本の紐だ。
 マズイ。
 けれどそう思ったってどうなるものでもない。
 何に対してか判然としない慄きに、腹の芯からスーっと熱が引き、それが下腹と頭頂に一瞬で集中していった。あるいは順序が逆で、上下に熱を奪われたから腹が冷気に冒されて、好きな女の子にどうしようもなく雄な部分を見られることに未知の恐怖を覚えたのかもしれない。
 タマ姉は何も言わなかった。でも気付いていたことは間違いなくて、理性を蕩かす熱の息吹で鼻腔から頬、耳朶までを撫で付け、唇が触れるほど近いところからそっと言葉を忍ばせてきた。

「……いいのよ……?」
「ッ!!」
「約束だもんね……タカ坊のしたいこと、なんでも──」

 小さな、とても小さな声は、タマ姉の顔が離れていくにつれ、雨の音にまぎれゆっくりとフェードアウトしていった。
 腕を伸ばせば届く。たったそれだけの狭い空間に、自らの造る影の中でも光沢を失わないタマ姉の長い髪が、閉じた世界を創り上げ。俺とタマ姉は、二人だけで其処にいた。
 揺らぐ闇に、タマ姉の収縮した瞳は蜂蜜色の猫目石(キャッツ・アイ)みたいな光輝を放ち。

「タマ、姉──」
「ん」

 自分から顔を近づけ求められたのは、この日で唯一誇っていいことだと思う。


   ◆


「ホアッチャ」
「あだっ」

 再びの衝撃に、俺はあの雨の日から今へと呼び戻される。

「今のはお前のニヤケ顔が気持ち悪かったからだ」

 先を読まれたそのセリフに、文句の言葉を封殺される。
 しかも考えていたコトがコトなだけに、いくら雄二が気の置けない相手であるとはいえ、どんな顔を見られたのかと赤面することを禁じえない。

「しかし、ま、その様子だと既に最後までいっちまったみたいだな?」
「いやそれは、だな。あーっと」

 どう答えたものだろうか。さすがにあの日のくだりは口に出せたもんじゃないし。
 タマ姉にドキドキしただのキスしただの、あと、その……もにゅもにゅ、だの。言えるもんか特に最後。叙情たっぷりに語れとか言われたら俺は死ぬ! 死を選ぶぞ!
 とは言え、息巻く雄二の様子からしてイエス・ノーだけで満足するようにも思えない。
 迷っていると、しかし雄二はその逡巡を勝手に解釈して、

「──あン? ちょっと待て、まさかまだなのか? おいおい嘘だろ、貴明お前、まさか不能なんじゃねえぶほぉっ!?」
「名誉毀損で判決有罪な」
「……こ、控訴するぅぐほぉっ!?」
「二審も有罪な。上告するか?」
「…………し、しましぇん……ガクッ」

 俺のボディ二発で雄二はダウン。こいつはいつもタマ姉に制裁を加えられているからタフに思えるが、アイアンクロー始め締め付けられる……というか握り潰されるのが基本なので、意外と打撃には弱い。

「アイ、ててッ。腹はよせよなぁ、メシが食えなくなったらどうしてくれる」

 ……回復は無駄に早いが。
 半眼で見遣る俺の前で、確かめるようにポンと腹を叩いて、ヨシと呟く雄二。もう一発くらいくれてやってもいいかな?

「まあなんだ。しかしだぞ、貴明。姉貴とのツッコンだなんだの話聞かされるのはこっちもイタイから、詳しくは追求しねえけどよ。少なくとも姉貴を指して『エロイ』って言いたくなるくらいのコトは、あったわけだろ?」

 ……もう十発くらい、いや、今こそあの日の殺意を実行する時かもしれん。
 ホント、どうしてこうも懲りないかな、雄二は。そんなだから日に最低一回はタマ姉のアイアンクローを喰らうんだってことが、分からないのだろうか。バカめ。
 そんな俺の内心も知らぬげに、雄二は続ける。

「それでまだ何ともなってないってのはお前、そりゃふの──っと、なんでもないなんでもない!」

 ちっ、俺が身構えたのに気付いたか。

「まあ落ち着けって。ったくよお、じゃあ実際どうなんだよ。俺はお前の親友で、姉貴の弟でもあるんだぜ? 二人の仲がどうなってんのか聞く権利は、十分あるだろうがよ」
「そんなこと言われてもな……」

 話せるわけないって、あんなことさ。
 だって……。

 自分からキスできたことは、あの日で唯一誇れることだった。
 そして──あの日で唯一、純粋に喜べることでもあったんだ。
 なにせ、あの後事態は急転を見せたのだから……。


   ◆


「──でも、ちょっと待ってね。先に本題済ませちゃうから」
「え。な、なにそれ」
「うん? ほら、この間は途中でこのみが入ってきちゃったから。今度こそちゃぁんと調査しないと」
「調査って……な、なにを……?」

 嫌な予感はした。当然した。めちゃくちゃしてた。
 でも俺だって女の子が苦手とか言ってもやっぱり男なわけで。一度不安が期待に転じてオマケにオッケーまで出されちゃったら、それ以外を考えるなんて、そりゃもう容易でないこと言うに及ばずだろう。ただ早く、早くとひたすらに念じていた。
 ……だけど、俺がやっぱり男なら、タマ姉はやっぱりタマ姉なわけで。

「なにって。ランプ肉だけど」










「……えぇっと、ごめん。俺いま一身上の都合で色々余裕ないからちょっと思い出せないんだけどさ。なんだっけそのフキツな単語」
「お尻肉」










 すげえ勢いでさめた。刹那を超えて。



「ほらほら、タマお姉ちゃんに全部任せなさい。上手にしてあげるから」
「ちょ、はやっ!? ぬ、脱がさないでってばってああもうちくしょうすごいデジャブ────ッ!」
「なあに? 上手にしてあげるって言ってるのが不満なのかしら。
 ……じゃあ、私が美味しく頂いてあげる、なら文句はないわよね」
「どっちもダメーッ! だいたいそれどっちもやること変わんないでしょ!? ってうああ聞く耳持ってよ頼むからぁ!」
「持たない。なにせ当軒は注文の多い料理店ですから。承知なさい」
「なんか偉そうだし! つーか最初っからそんな魂胆丸出しじゃ誰も引っかからないし!」
「う、っるさいわよ!」
「だからって力技かよ!? だ、だれか犬連れてきて犬、犬────ッ!」
「いぬいぬ言うんじゃないの。タカ坊は私が犬苦手だって知ってるでしょ? 意地悪はよくないわよ」
「……ダメだ、ダメだよこの独尊猫気質……って気を抜いたところへ的確に不意打ちですかああぅぁぁ助けてゲンジ丸ぅぅぅ────ッ!」

 そして悪夢は始まった──。

「ウフフ、無駄な抵抗するタカ坊も可愛い。でもちょっと黙っててね、っと」
「ふごっ!?」
「ふぅ。さて、ようこそいらっしゃいました。当店は抱き心地が最高なタカ坊やお肌がスベスベなタカ坊を大歓迎しまーす。色々と注文しますがどうかご容赦をそしてご心配なく。
 当店はセルフサービスですので──全部私が自分でやっちゃうから」
「むぐ! むぐるぅ!」
「まずは身繕いよね。んー、泥なんか付いてないし軽く埃を払って、あとは髪を──あら、サラサラ」
「ふーっ、ふんぐるいー!」
「えっと、武器なんか持ってるわけないわよね。……コレは武器と言えなくもないかもしれないけど、さすがに取っちゃうわけにもいかないもんねツンツンっと」
「ぃあぃあ!?」
「服は脱がさなくてもいいんだっけ? でもまあいいか、ついでだから上くらい剥いちゃいましょう」
「むぐ、うぐぐぐ──っぷは! ぜえ、はあ、つ、ついでとかいらないってば!」
「む、しぶといわね。でも聞かない。
 えー、次はなんだったかしら……あ、クリーム? でもそんなもの用意してないし……うん、よし。素材の味を生かすということにしましょう。生で。踊り食い」
「ちょ、そんな人間の残虐性フルに発揮する食べ方なんてよくないよ!?」
「ということで以下ぜんぶ省略。いただきまーす──の前に、ちょっとだけ味見ね、ぺろんちょ」
「ひゃうっ」
「うんうん、いい感じよタカ坊。では改めて、いただきまーす」
「わあああああやめておねがいせめてぱんつだけはぁーっ!!!」



 もみゅ

「あひん」
「……む?」

 もみゅもにゅ

「あひんあひん」
「むむっ?」

 もにゅもにゅもみゅもにょ

「あひ、ひあああっ」
「…………」



 …
 ………
 ……………


   ◆


 ……悪夢だ。思い出すんじゃなかった……。
 あの後のことはよく分からない。
俺はあまりの衝撃にすっかり放心してしまって、疲れ果てたこともあり、そのままタマ姉のベッドで寝てしまったようだから。
 朝目覚めたときにはタマ姉の姿はどこにも見えなかった。
連れ込み宿に置いてかれた女の人って、あんな気持ちになるのかもしれない。ちょっと涙が出た。
 気乗りしないながらなんとか学校に行くと、タマ姉は何故か落ち込んでるようだった。俺が恐る恐る声を掛けると、形がとか、感触がとか。
あと、私よりもなんたらみたいなことを言ってたような気がするけど、なんなのだろうか。よく分からないけど落ち込みたいのはこっちだ。
 その後、あの日のことをタマ姉は全く触れてこない。こっちから掘り返すなんてバカな真似をするわけもなし、元々闇に葬りたくなるような体験であることもあって、今では本当に悪い夢だったのかもしれないと思い始めている。
 でも、夢にはその人の願望が現れるって言うよな。ってことは──。
 ……それもそれでやだなあ……。










 〜しかし、あの日一ぺん確かにうしなった二人の初夜の機会だけは、同じ家に帰っても、一緒にお湯にはいっても、もうもとのとおりになおりませんでした。嘘。〜





終わり

たるとさん後書き
というわけで、タマ姉初登場日記念SS兼タカ坊初ランプ肉確認され日記念SSでした。
タマ姉のバストは89。だけどヒップは82。そんなお姉ちゃんはちょっとお尻に自信がないの。
そこから始まったこのSSですが、書こうと思ったネタがいくつも、童貞タカ坊がどっきんちょしすぎて押し出されちゃいました。



                                         

WILDCAT ROOM
タマ姉初登場日記念SS。兼──

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