より水夏な《霧羽・香澄ストーリー》(ネタばれ注意)

投稿者:悠・祐希(HN:ラクス or 偽ラクス or みーあ)



俺の名前は、朝倉・純一。ここ、風見学園付属の三年生だ。
いや、その表現は、もはや正しくないかもしれない。
なぜなら、俺は今日、この風見学園付属を卒業したからだ。
もっとも、4月からは、同じく風見学園本校に、そのまま通うことになるわけだが。

まあ、とにかく、名物である卒業パーティも終わり、すでに静まり返った風見学園の校舎に、なぜか俺はいた。
そう、悪友の杉並の策略にはまり、学園七不思議の一つ、『卒業式の日に現れる幽霊』のルポライターをやるハメになってしまったのだ。

そんなわけで、妹の音夢や、幼馴染の芳乃さくらの猛反対を押し切り、この真夜中の校舎にやってきたというわけだ。
はあ…かったるい事、この上ない…

だが、今は、実は一人ではない。
幽霊捜索中に偶然出会った、霧羽香澄という付属の女生徒が、一緒に行動している。
「………あたしは、妹の霊に会いに来たのよ」
香澄は、三年前に亡くなった、妹さん…『明日美さん』の幽霊に会いに来たと話してくれた。

「三年前の卒パに、一緒に行こうって約束してたんだ…
あの子…生まれつき心臓が悪くて…学校に通うこともままならなくて、その話をあたしが持ちかけた時、本当に喜んでくれて…
あの子、何日も前からすごくすごく楽しみにして…
どの教室を、どんな風に回るんだって計画までたててたのに…
でも、あの子、その当日の朝、急に発作を起こして…
お父さんの車で病院に向かう途中、車が事故に遭って…
あたしとお父さんは奇跡的に助かったの…
なのに、妹だけが…
一日だけ現れる幽霊の噂を聞いて、もしかしたら…って思ったのよ。あの子、本当に卒業式を楽しみにしていたんだから」

そんなわけで、『幽霊を探す』という目的が一致した俺達は、一緒に学園の目ぼしい所を回っていた。

音楽室で眠りこけていた、本校一年生の水越・萌先輩に会ったり、
(事もあろうに、卒パでの出し物の『木琴占い』の時に着ていた白装束のままで、しかも、その姿のまま帰っちゃうし)

理科準備室で、俺の骨格模型を使った悪ふざけに香澄が本気で怖がって泣き出してしまったり、
(口が悪くて、出会ってからずっと強気な態度で、杉並から預かった最新型のカメラ付き携帯のカメラ部分をオシャカにするキッカケまで作ってくれた、
あの香澄が、そこまで取り乱すとは、本気で罪悪感を感じちまったよ)

生前、本を読むのが好きだったということで、図書室を少し念入りに探して、そこでなんとなく良い雰囲気になってしまって、
そのままキスなんぞ…と思ったら、香澄に思いっきりスカシくらわされたり、
(でも、これだけ残念だという気持ちが強いということは、もしかして、俺、さっきっ出会ったばかりだってのに、香澄のことを意識してるってことか?
…まさかな…)

その直後、講師の白河・暦先生に見つかったり、
(もっとも、俺の機転で、香澄は暦先生には見つかることはなかったが。香澄まで見つかったら、ただでは済まなかっただろうな)

まあ、幽霊を探すという理由で深夜の学園に忍び込んでいるにしては、いささか騒々しい感じがしないでもないが…
とにかく俺達は、明日美さんを探して回った。
だが、明日美さんの幽霊には会えなかった。
「明日美は………もしかしたら、もう卒業しちゃったのかもね。これだけ探しても見つからないんだもん」
なんとなく可笑しそうな声で、香澄が呟いた。
行きたいと望んでいた学園で三年を過ごし…
思い残すことがなくなったから、卒業した。
もしも、そんなことがあるなら、『彼女』も幸せだったのかもしれない…

気がつくと、ここに入ってきた時より、月が大分傾いている。かなり時間も遅くなってしまったようだ。
「そろそろ……引き上げるとするか?」
「んん……あたしはいいけど、朝倉はどうするの? 記事、書かなきゃいけないんでしょう?」
「まあ、そのへんは俺の筆先でドガチャカにしちまうさ」
夜の校舎の潜入レポートに随所で思わせぶりな煽り文句を挟めばいいのだ。ワケはない。
「写真も無いことだし、どうとでもデッチ上げられるよ」
そう言ってカメラ部分のもげかけた携帯を尻ポケットから引っ張り出して見せる。
「わ……悪かったわね、あたしのせいで」
香澄はそれを見て幾分照れくさそうに呟いた。
「そうだ、香澄も記事を書くのに協力してくれないか? いや、妹さんのことを書くわけじゃなくて……踊る骨格模型の目撃談とかさ」
「くす……それならいくらでも尾鰭付けてあげるわよ」
俺は無性に嬉しくなって、俄然身を乗り出した。
「じゃあさ、近いうちにサ店ででも打ち合わせようぜ。いつごろなら空いてる?」
「そりゃ、独り身だからね。いつだって大丈夫」
にっこりと笑って答える香澄。
ああ、この笑顔には月の光よりも真昼の陽光のほうが似合うだろうな。
ごく自然にそんなことを考えていた自分に気付いて、俺は少し頬を熱くした。

…チリン…

窓の外で、かすかに鈴の音が鳴り響いた気がした。
「なあ、香澄。今、なんか鈴の音が聞こえ…」

…プルルルルル…プルルルルル…

「あっ……!?」
その時、手の中で携帯電話が着信音を奏で出した。
(壊れてなかったのか!?)
それは一瞬で終わり、液晶には『着信メールあり』のメッセージが。
「杉並……か?」
こんな時間に……しかも、この番号を知っているのはあいつしか考えられないが…
受信メールはカタカナのみの短いものだった。

『ナカニワニイルヨ  アスミ』

「明日美…………明日美から!?」
画面を覗き込み、途端に顔色を変えて中庭へと駆け出す香澄。
「あっ…………待てよ、香澄!!」
闇の中へ消えていくその後姿を追いかけて、俺は必死に走り出した。


私は、風見学園の裏庭に立っていました。
どうすれば良いのかが分からなくて…
どうすれば、お姉ちゃんに見つけてもらえるか分からなくて…
ですから、ここに立っている事しかできなかったんです。
と、その時、校舎の方から、誰かがこちらに向かって歩いてきました。
「お姉ちゃん?」
と一瞬思いましたが、でもすぐに違うと分かりました。
白い装束をまとい、長く伸びた深緑の髪を白いリボンで結っているという姿の女の人…
その少し…いえ、大いに怪しげな姿が、月明かりに照らされて、いっそう妖艶に見えます。
と、女の人は、私の前まで来ると、優しい笑みを浮かべながら、言いました…

「こんばんは……明日美さん」
「え?」
この人、なんで、私の名前を知っているんだろう?…
そう思って、露骨に不思議そうにしている私に、彼女はさらに続けました…
「私は、チナツです…」
「チナツ?」
聞き覚えのない名前。ですが、次の瞬間、私は理解しました…
「もしかして……あなたは…」
…コク…
その後に続く問いを悟ったらしく、彼女は、私が最後まで言い終える前に、頷を持って答えてくれました。
そして、真剣な面持ちになって…
「今日が最後です。ですから、なんとしても、あなた達姉妹が心残りに思っている事を解消してしまわないといけません。
でないと、お互い、いつまでも過去に縛られて、永遠に先に進めなくなってしまいますからね」
「・・・・・・」
心残り…
私の…そして、お姉ちゃんの…
「で、でも、私は、どうやったらお姉ちゃんに?」
「大丈夫です。すぐに、会えますよ」
と、彼女はニッコリと微笑むと、携帯電話を取り出し…
「お姉さんに、ここに来てもらいますから」
メールを打ち始めました。

そして…
「後は、待つだけです」
メールを送信し終えた彼女は、そう呟きました。
いよいよ、お姉ちゃんに会える…
でも…それは…
「覚悟は……良いですか?」
彼女が、真剣な面持ちのまま、訊いてきました。
そう、この再会の後に訪れるのは…まぎれもない永遠の別れ…
覚悟なんて、そう簡単にできるはずはありません…
でも、このままで良いはずもなくて…
だから…
「…お姉ちゃんに会いたい……会って、話がしたい……今は、それ以外には…」
そう答えるしかできませんでした。
「わかりました……では、お互いに後悔だけは残さないよう、残された時間、大切にして下さいね」
「ありがとうございます」
そして、彼女は、そのままその場を後にしました。
私一人が、中庭に残されました。

と、程なくして、あの人が出てきた同じ扉から、今度は風見学園付属の制服を着た女生徒が、飛び出してきました。
そして、私を見つけたのでしょう…真っ直ぐ、ここに向かってきました。
その姿を見て、身体が震えました。
間違いありません…この人は…
「明日美…………ここにいたの…」
「お姉ちゃん……」
三年前と変わらないお姉ちゃんの姿…
もう二度と会うことは出来ないと思っていたお姉ちゃんが、今、すぐ目の前にいます…
なのに…言いたい事、話したい事はたくさんあるのに、いざとなると、こんな言葉しか出ませんでした…
「ごめん……ごめんね、お姉ちゃん……お姉ちゃんのこと、ひとりにして…」
「よしよし、泣かないの。三年で随分背が伸びたわりに、泣き虫なのは治ってないわね」
そんな私を、優しい笑顔で慰めてくれる……お姉ちゃん。
それは、昔と何も変わらない…病気で苦しむ私を、いつも慰めてくれた、『お姉ちゃん』の表情でした。
「お姉ちゃん……ごめんね…」
でも、その笑顔は、今の私には、とてもとてもつらくて…
私は、泣きながら、ただ何度も何度も謝ることしかできませんでした。
「もうっ、やめなさいよ。あなたが謝ることなんて、なにもないでしょう?」
「だって……お姉ちゃんは……お姉ちゃんは、私のせいで…」
続く私の言葉は、今ある『現実』に流されぬよう、『真実』を自分自身に認識させようとして発した言葉でした…
「お姉ちゃんは、私のせいで…………死んじゃったんだから」
「・・・・・・」
ですが、お姉ちゃんの驚く表情を見て、その言葉が、お姉ちゃんにも、残酷な真実を突きつける結果となってしまったことに気がつきました。
お姉ちゃんは、自分ではなく、私が死んだと思い込んでいて、そして、私の幽霊を探す為に、この夜の校舎に現れたのでしょう。
そう…そのお姉ちゃんの姿こそが、風見学園ミステリー研究会のHPに掲載されていた、風見学園七不思議の一つ…
『卒業式の日に現れる幽霊』だったのです。
…こくん…
なのに、お姉ちゃんは、無意識のうちに半ば自分でもそれを知っていたかのように、小さく頷きました。
「そっか…………そうだったっけ…」
そして、やっと思い出した、というように、そう呟いて…
と、その時…

「嘘だろ…? 香澄…」
いつからいたのか…この学校の学生と思われる男の人が、お姉ちゃんに声をかけました。
「…朝倉」
その彼…朝倉さんの方を向いたお姉ちゃんの表情は、笑っていました。
「馬っ鹿でしょう。あたし、自分が死んだこと忘れてた」
お姉ちゃんは、軽いミスをおちゃらけて誤魔化そうとするように、小さく舌を出しました。
「お姉ちゃん……あの事故のとき、私をかばって大怪我を…
最後の瞬間まで意識を失わずに…『あたしの心臓を妹にあげて』って言って…」
お姉ちゃんに、真実を受け入れてもらいたいのか…
それとも、お姉ちゃんと一緒に『私の幽霊』を探してくれたと思われる朝倉さんに、真実を知ってもらいたいのか…
とにかく言っている途中で、もう何がなんだか分からなくなって、私は言葉を詰まらせてしまいました。
朝倉さんは、それこそ、何も信じられないというような表情をしています。
「…そうだったよね、あたし、あんたの手術が上手くいったかそればかり心配で……結局今日まで地上でぐずぐずしてたんだ…
ここにいたら、いつか明日美が会いに来てくれるんじゃないかと思ってね…」
なのに、当の本人の…お姉ちゃんは、事も無げに…
「でも、これで安心したわ。それじゃあもう何の心配もないのね?」
だから、私も、頑張らなきゃ…
笑顔で…笑顔で今の私を、お姉ちゃんに伝えなきゃ…
お姉ちゃんが…安心して…逝けるように…
「うん。水泳だって、できるようになったんだよ」
そうしたら、お姉ちゃん、本当に嬉しそうに笑ってくれて…
「へぇ、そりゃ大したものね」
「お姉ちゃんが、私に命をくれたから…」
と…
「やめろ……やめてくれよ、そんな話!!」
私達の会話に耐え切れなくなったのでしょう…朝倉さんが、声を荒げました。
私達は驚いて、朝倉さんの方に、そろって顔を向けました。
「読めたぞ……オカルト研究会で仕組んだドッキリなんだろ。バカだよな俺、こんな手に引っかかってさ」
真実を認めたくないのでしょう…
「卒パの締めくくりに相応しい仕掛けだよ。本当に手が込んでる。それは分かったから……カメラはどこなんだ?」
それは、きっと…お姉ちゃんのことを、それだけ想ってくれているということなのかもしれません。
だから、姉がこの世にいない人間であることなど、絶対に受け入れまいと、必死なのだと思いました。
「………朝倉。ゴメンね」
そんな朝倉さんに、お姉ちゃんは悲しげな表情で首を振ります。
朝倉さんは、それでも、何か言いたそうで…

…チリン…

その時、頭の上からかすかな鈴の音が聞こえてきました。
「あたし……そろそろ行かなきゃ…」
「香澄!!」
足を踏み出すお姉ちゃんに、朝倉さんは駆け出して…
でも、抱きしめようと伸ばした腕は、お姉ちゃんの身体を通り抜けてしまいました。
お姉ちゃんは…確かにそこにいるのに…
いくら、その髪に、その頬に触れようとしても…朝倉さんの手は空しく虚空を泳いでしまいます。
もう、見ていられませんでした。
(朝倉さん…ごめんなさい…ごめんなさい…)
私は、その朝倉さんの様子に、心の中で、ただ謝ることしかできませんでした。
「あたしも………朝倉と、ちゃんとキスしたかったよ」

…チリン…

かすかに迷いの表情を見せるお姉ちゃんを促すように、もう一度鈴が鳴りました。
(…………?)
頭上の月輪に、おぼろげな影が浮かんで見えました。
(あ、あれは!?)
間違いありません。そこにいるのは、先ほど桜並木で会った、あの不思議な女の子でした。
そうか…あの子は…そして、おそらく千夏さんも…
死者の魂を導く者………『死神』だったんだ…
この時になって、ようやく私は、あの子が去り際に見せた、悲しげな笑顔の意味を理解しました。
あの時すでに、あの子には解かっていたのでしょう。事情はどうであれ、自分が、私から、大切な者を…お姉ちゃんを、永遠に奪ってしまうことになると…
ゆるく纏ったマントと、月光を浴びて光る銀色の髪の毛が風に翻ります。

…チリン…

お姉ちゃんの姿が、空気の中に溶けていきます。
「明日美、明日美、泣かないの。せっかくあたしがイノチをあげたんだから、あたしの分まで元気に長生きしてくれなくっちゃ」
「・・・・・・」
「お父さんとお母さんの言うことをよく聞いて、いい子で暮らすんだよ♪」
「うん……うん、お姉ちゃん…」
溢れる涙で霞む目をこすりながら、私は何度も何度も頷きました。
お姉ちゃんの最後の言葉…しっかりと聞かなきゃ…
お姉ちゃんの最後の姿…しっかりと見届けなきゃ…
「彼氏の宛てがみつからなければ、そこにいる朝倉を譲ってあげるから。安心しなよ、見かけよりはマシな男だからさ」
けらけらと小気味よさげな笑い声が降ってきます。
解かってるよ、お姉ちゃん……朝倉さんが、お姉ちゃんにとって、どんなに素敵な人だったかなんて…
朝倉さんは、滲む涙を誤魔化すかのように、そっぽを向いてしまいました。
「じゃあ、二人とも……ずっと先のことになると思うけど……また会おうねっ♪」
明るく笑って、お姉ちゃんは手を振ります。
新学期になったら、またすぐに会えるかのような気軽さで。

…チリン…………

長く尾を引いて響く鈴の音が消えたとき…
お姉ちゃんは、いなくなっていました。
「うっ…………お姉ちゃ…………お姉ちゃああぁんっ…………!!!」
私は、芝生に身を投げて、そのまま泣き崩れてしまいました。


「私は、島の外の大きな病院で移植手術を受けたんです…」
私は、朝倉さんに、今日に至るまでの経緯を話していました。
朝倉さんは、遠慮する私に、少し強引に上着を貸してくれました。
「快復してからも、そのままその土地の学園に通って…
でも、ある時ネットで風見学園のことを検索したら幽霊の話が載っていて…」
「それが姉さんのことじゃないか、って思ったんだな」
私は、こくりと頷きました。
「本当なら、お姉ちゃんは、あの日ここを卒業するはずだったんです。なのに私が心臓発作を起こしたから……
お姉ちゃんは卒業式に出たかったんじゃないかと思って…」
「でも、そうじゃなかった。あいつは、元気になった君と……約束した卒パに行きたかったんだよな」
「・・・・・・」
私は、黙って頷きました。
でも…もしも、千夏さんが、あのメールをくれなければ、私はきっと風見学園のことをネットで検索したりしなかったでしょう。
そうなれば、今日、この場に来ることもなかったはずです。
お姉ちゃんを心置きなく旅立たせてくれる為に。そして、私が、この先、ちゃんと生きていける為に、千夏さんは、私がここに来るよう導いてくれたのです。
今なら、それがハッキリと解かります。
千夏さん…本当に…ありがとうございました…
「あぁ……そろそろ朝だ。長い夜だったな」
「そうですね…………」
朝倉さんと私は、ゆるゆると腰を上げ、校門へ向かいました。
「…また風見学園に来てもいいでしょうか?」
校門の外に来たところで、私は思い切って、朝倉さんに、そう切り出しました。
「いいよ、いつでも遊びにきな。その時は俺が案内してやるから」
朝倉さんは、こんな初対面の私なんかのわがままを、いとも簡単に受け入れてくれました。
さすが、お姉ちゃんが見初めた人です。
「はい、よろしくお願いしますね」
私は、お姉ちゃんが、最後の最後に、こんな素敵な人と最後に出会ったことを、本当に嬉しく思いました。
「この初音島は本当に不思議な場所ですね……『外』の街で暮らすようになってから、つくづくそう感じました」
「そういうもんか? うーん、ここに住んでる立場としてはいまいち分からないけど」
「そういうものです」
朝倉さんの言葉が可笑しくて、私は思わず笑ってしまいました。
「それじゃ……」
そして、私は……朝倉さんの頬に、自分の唇を…ほんの一瞬ですが、軽く押し当てました…
「え?…………あっっ」
「ふふふ…………お姉ちゃんには内緒ですよ」
私は、そう言って頭を下げ、そのままその場から走り去りました。
なんで、そんな大胆なことをしてしまったのか、自分でも良く解からなくて…
いえ、違います。
私は、朝倉さんに、とにかく何でもいいから、お礼がしたかったのだと思います。
さっき、朝倉さんとのやりとりを見て……お姉ちゃんは、この夜朝倉さんと出会って、
ほんのわずかな時間だったかもしれませんが、でもそのわずかな時間、生きていた時よりも有意義な時間をすごせたんじゃないかと思ったんです。
だから、お姉ちゃんは、最後の瞬間でも、あんなに笑っていられたんだと…
そう…私と会うだけでは得られなかった、本当に楽しい思い出を持って、逝く事ができたんだと思います。
朝倉さん……お姉ちゃんに、素敵なひと時と、思い出をくれて……本当に、ありがとうございました…

…チリン…

再び、頭上で鈴の音が響きました。
私は、立ち止まって、夜空を見上げました。
すると、風に翻る銀の髪が、白みかけた夜空に溶けるように消えていきました。
お姉ちゃんのこと、よろしくお願いします……銀色の髪のお嬢ちゃん…
そして…
ごめんなさい………ありがとう…
いつかまた会う、その日まで…
「さようなら………香澄お姉ちゃん」




続く

管理人感想
以上本編になりますプロローグだけ分けるのは変だったのでエピローグも別にしました。
香澄ルートに千夏を交えた感じになってます。そこに明日美視点があったりして明日美がどう動いてるか分かりやすいです。
続けて同時掲載のエピローグへお進み下さい。
そこではあの人が驚くような状態になってますのでw



                                         

どたばた? ゆうれいさがし

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