どたばた? ゆうれいさがし(プロローグ)

より水夏な《霧羽・香澄ストーリー》(ネタばれ注意)

投稿者:悠・祐希(HN:ラクス or 偽ラクス or みーあ)



時刻は、すでに深夜…
街灯が辺りを薄暗く照らす、そんな桜な並木の中を、私は、ある場所を目指して歩いていました。
本当なら、二度と会えなくなってしまった、とても大切な人に、会えるかもしれない…
そんな、期待と、そして、不安を抱きながら…


きっかけは、パソコンに送られてきた、あるEメールでした。

『卒業式の日、深夜の風見学園の校舎で、大切な人が、あなたを待っていますよ  千夏』

「なに?…このメール?」
知り合いに、『千夏』という人はいません。ですから、はじめは、悪戯か、間違いで送られてきたものだと思っていました。
それにしても、もしも悪戯ならば、なんて悪質なメールなんだろう…
その内容に、不快なものを感じ、すぐにメールのことを忘れることにしました。

しかし、卒業式が近づくにつれて、あの千夏という人から送られてきたメールを、意識し始めました。

『卒業式の…風見学園…』
『大切な人が…』

でも、そんな事が、あるはずはないんです。
もしも、その『大切な人』というのが、『あの人』のことを言っているのなら…

あの人は…三年前に…死んでしまったのですから…

そんな時、ふとしたことから、風見学園に伝わるという、ある噂を知ってしまったのです。

卒業式に現れるという…『幽霊』の噂を…

それは、どこの学校にもある、冗談半分で語られる怪談話しの一つでした。
一緒に知った、他の七不思議が、あまりにも馬鹿馬鹿しい内容のものばかりだった事もあり、
その幽霊の話も、はじめは全く信じていませんでした。

ですが、今日、卒業式の日を迎えて…
もしも…あのEメールが…あの噂が…真実なら…
ガセならガセでもかまわない。でも、自らの目で確認しに行かなければ、きっと後悔する…
そう思ったとたん、もうすでに夜も深まっていたにもかかわらず、家を飛び出していました。


そして、今、風見学園へ向かって、桜公園の桜並木を歩いているのでした。
一年中、咲き乱れる、初音島の桜の花に見守られながら…

…チリン…

突然、少し前に通り過ぎた道端の茂みから、鈴の鳴る音が聞こえた気がしました。
「…?」
恐る恐る振り返りました。
その次の瞬間…

「わあああぁぁぁっ! 寝過ごしちゃったよおおおぉぉぉっ!」
そんな叫び声を上げながら、その茂みから、『黒い何か』が飛び出し、もの凄い勢いで、こちらに向かってきました。
「えっ!?」
あまりの突然のことに驚き、そして怖さのあまり、その場で固まってしまいました。
その何かは、まったく気がつかなかったのか、固まったままの私の体に、思いっきりぶつかってきました。
「きゃあっ!」
「うわっ!」
それでも、私は何とか踏みとどまりました。
一方の、その何かは、その場で尻餅をついてしまっていました。
よく見ると、それは小柄な女の子。銀色の髪に赤い目、さらに鈴の付いた黒い帽子に、黒いマントを羽織った姿が印象的な…
外国人かな?…
まあ、とにかく、相手が女の子と判れば、何も怖がることはありません。
何が起こったのか理解できないのか、尻餅をついた状態のまま固まっている女の子に、手を差し出しました。
「だ、大丈夫?」
「え?」
そんな私の態度に、その女の子は、露骨に驚いた表情をしました。
そして、こんな事を訊いてきました…

「あなた…ボクのことが…見えるの?」
それは、それだけ黒ずくめの衣装ですから、遠めなら見えなかったかもしれません。
でも、ここまで近づいてしまえば、どんなに暗闇でも、さすがに見えてしまいます。

「もしかして…あなた…」
女の子は、さらに何か言いたそうでした。
ですが、こんな所に、いつまでも尻餅つかせたままでいさせるわけにはいきません。春先とはいえ、まだちょっと冷え込みます。
そんな中で、いつまでもそんな状態でいたら、腰が冷えてしまいます。
幼くても、それでも女の子ですから、腰を冷やすのは良くないです。色々と…

「そんなことよりも、ほら」
私は、手をもう少し女の子に近づけて、早く立ち上がるように促がします。
女の子は、その手を掴み、ゆっくりと立ち上がりました。
「あ…ありがとう…」
立ち上がると、本当に小さな女の子だな、と思いました。
私は、女の子の服に付いた埃を軽くはたき落としてあげながら、思わず訊いてしまいました…
「それにしても…こんな時間に、こんな所で、何をしてたの?」
でも、これは誰でも思うことでしょう?…
と、女の子は、こう答えました…

「うん…ちょっと、やらなければならない事があって、この島に来たんだけど、早く着きすぎちゃって。
それで、ちょっと暇つぶしのつもりで、この奥の大きな桜の木の下で寝てたら、寝過ごしちゃった。
だから、ちょっと急がなきゃいけないから、これで…」
そう言い残して、女の子は、再び走り出しました。
と思ったら、すぐに引き返してきました。
「…?」
そして、唐突に私の足元にしゃがみ、ある物を拾い上げ、優しく抱きかかえました。
それは、鎌を持った、黒い猫のぬいぐるみ…
「ごめんね、アルキメデスーっ!」
『まったく…我が輩を落としっぱなしにして置き去りにするなど、酷いですな、お嬢』
「え?」
一瞬、女の子のものとは違う声が聞こえた気がしました。
と、女の子は、と、ゆっくりと立ち上がり、不思議そうに見つめる私に、ニッコリと微笑み、
そのまま、鈴の音を響かせながら、走り去っていきました。

「不思議な…子…」
しばらく、その後姿を見送ってしまいました。
私にくれた、その笑顔が…あまりにも悲しげに見えたので…
「あ、いけない。私も急がなくちゃっ!」
ふと我に返り、まるで鈴の音の後を追うように…むしろ、鈴の音に導かれるように、私も走り出しました。




続く

1話にすると長いのでまずプロローグだけ掲載させて頂きました。
現在スズランさんから投稿されてる香澄SSとは別物ですので間違わないようにして下さい。
プロローグでは○○○視点ですが、本編は純一視点になります。
感想は本編掲載時に載せますね。
それでは近いうちに本編で。



                                    
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