D.C.P.S〜ダ・カーポ プラスシチュエーション〜 作者 スズラン〜幸福の再来〜
キャスト
主人公 朝倉 純一
メインヒロイン 霧羽 香澄
サブキャラ
名無しの少女
芳乃 さくら
霧羽 明日美
霧羽香澄After story月と桜に込めた願い〜悲シキ恋ノ詩〜
第5.6話 死神の軌跡 (後編)
実の所今のお穣には常盤村で起こった事についての記憶は全て無くしているのだ。
いや、お譲自身望んで‘記憶の片割れ’をソコヘ‘置いて来た’といったほうが正しい解釈かもしれない。
その置いて来たお譲の‘片割れ’は今でも常盤村で生きている。
その片割れとはお譲の半身とも言える存在。
よって半身を置いてきたその後、お穣の死神としての魂もとい形成された体は、肉体を保つことは容易ではあったが精神は常に情緒不安定なものでもある。
幾ら死神といえど、肉体は違えど‘魂’は人と同じようにあるのだ。それを、半分しか持たないとしたら死神としての肉体を正常に保つ事は困難なのだ。それにより、お譲の身体は死神という生業をするには少々弱く病弱なのだ。
その結果、お穣は死神の中では‘落ちこぼれ’の刻印を押された。
不完全な死神、不完全な魂、それ故に酷く嫌われた。
それから、お穣は本当に誰とも関わらないで生きてきた。
ずっと、一人きりで。何年も、何年も・・・
あの世のこの世の狭間を行き来し唯、黙して魂を運び続けた。
孤独と戦いながら、しばらくしてお穣は自分の事をこの世で最も酷く罪深い存在であると思い込み始めた。
何年も人を殺し続け、誰かが悲しむ悲痛の叫びにも耳を傾けず、唯魂を運んでいる自分に酷い嫌悪を抱き始めてしまった。
お穣は本当に優しすぎた。自分の死神という生業を心を痛めながらも続けてきた。
それはお穣自信「誰かがやらなくてはならない」ということを理解していたからこそ、今まで死神として生きて来れたのだ。
自分は幾ら恨まれてもいい。「ボクがこの仕事を放棄したらまたボクみたいな可愛そうな子をこの世界に産んでしまう」とな。
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「・・・・・・」
「・・・・・・」
言葉が無かった。お穣ちゃんは今まで何年もの間、人の死と向き合い一人で生きてきた。
誰にも頼らずに、自分の名前も解らずに、唯一つのことを純粋に実行してきた。
そんな彼女にボクは何か掛けるべき言葉はあるのだろうか?少しでも彼女の辛さを癒す事は出来ないのだろうか?
思考を巡らしてもボクの頭のコンピューターは何も答えを導き出さない。
「・・・この話を聞いてなお、御主はまだお譲の力になれると胸を張って言う事ができるか?」
「くっ」
アルキメデスの言葉がグサリとナイフで射されたかのように僕の心に突き刺さった。苛立ち覚えるが彼のいっていることは紛れも無い事実。
ずっと、お穣ちゃんの側にいたからこその態度なのかもしれない。
‘安易な気持ちで偽善なことを抜かすな’、とボクにそう言いたかったに違いない。
確かに彼女はボクが考えているほどに傷つき、辛い道を歩いて来たかもしれない。ボクなんかより何倍も蹉跌を踏んでいるに違いない。
駄目だ、ボクなんかじゃ到底彼女の救いにはなれないかもしれない。
それでも・・・だ
「・・・ボクは」
「ん?」
「ボクはお穣ちゃんの力になりたいよ」
気がついたら僕の瞳からは涙が溢れていた。それに構わずボクは涙混じりに声を絞り出した。
「だって、お穣ちゃんは何一つ悪い事なんかしてないじゃないか。どうしてそこまであの子が苦しみながら生きなくちゃいけないの?
誰とも関わらず、誰にも愛されず、名前も知らず、一人で苦しむことなんて・・・グズッ」
最後の方は言葉にならなかった。それでも、ボクは本当に心からお穣ちゃんの力になりたいと思っている。
ボクのような第三者がどうにかできる問題じゃないかもしれない。どうしても、彼女の辛さを癒してやる事なんて出来ないかもしれない。
でも、昔おばあちゃんがボクにこんな事を言ってくれたのを思い出した。
(人って言うのは不思議でね、どんなに大きな辛さでもそれを二人で背負うとその重さは半分以下になってしまうんだよ。
人は誰しも一人では生きて行けない‘さみしん坊’なんだ。
だから‘さみしん坊’同士寄り添い逢い生きていくのさ。
いいかいさくら、お前の側に自分ひとりでその辛さを孤独に背負っている子がいたら優しく手を差し伸べてやるんだよ。
って、今のアンタには難しすぎる話かね)
その頃のボクはおばあちゃんが何を言っているか解らなかったけど、今なら理解できる気がする。
そうだ、誰かが苦しんでるのを助けるのに理由なんて要らない。
「ボクは、お穣ちゃんの力に成りたい!」
胸を張って言ってやった。もうボクには迷いなんかない。お穣ちゃんは小さい頃のボクと似ているかもしれない。
この島に着たばかりの頃、ボクは外見がちょっと他の人と違うという理由だけで、たくさん馬鹿にされて誰とも関わりを持てずに居た。
正確には関わりをもつことが恐かった。関わりを作ったとしてもその人に裏切られるのが恐かったから。
そんな臆病者のボクに優しく手を差し伸べてくれたのがお兄ちゃんだった。
ボクはその時の人の暖かさ、安心感、そして溢れてくる喜びという感情全て鮮明に覚えている。
そんな気持ちをお穣ちゃんにもわかってほしい。だからボクはお穣ちゃんの力になる。
「芳乃 さくら、貴様その言葉に偽りは無いな?」
恐いくらいにその声は真剣だった。ボクもその声に答えるようにしっかりと肯く。もう決めたから、お穣ちゃんの力になるって。
「・・・そうか」
アルキメデスは緊張を解き少し、彼には似合わないくらい優しい声で言った。
「お譲の全てを知ってお穣を受け入れてくれたのは御主が初めてだ、心より礼を言うぞ」
「え?」
その時のアルキメデスの発した声はボクが聞いた中で一番優しさに満ちていた。
そんなアルキメデスの身体を手にとりボクは優しく撫でてあげた。
「む?早くも我輩の歓心を得ようというのか?感心だな!」
「はあ、もっとマシな事言えれば君も素直に可愛いと思えるんだけどな」
「何を言うか!このエレガントかつスレンダーな肉体を愚弄するか?」
「身体の問題じゃなくて。しかも、スレンダーは解るけどエレガントにはちょっと程遠いかなあ」
「参考までに聞くが御主の眼から見てどのくらい遠い?」
「太陽から海王星くらい遠い」
「ぐ、お穣以上に痛いことを言ってくれる」
「アハハハッ♪」
僕の態度に気に入らなかったのかアルキメデスはそっぽを向くように黙り込んでしまった。それでも、ボクは彼の頭を撫で続けた。
彼も彼なりにきっと想像がつかないほど辛い人生を歩んで来たに違いない。
人生・・・それは人が生きてきた軌跡でありここまで歩いて来たという誇り。ボクも幼いながらも自分の人生に誇りももって生きている。
自分の人生を大切にする事によって、他人の人生に尊敬の気持ちが生まれる。引いてそれは命という概念にもまた尊敬は生まれる。
ボクはそんな彼の事を心から尊敬しようと思う。そして、それはお穣ちゃんに対しても言えること。
ボクは二人の人生、そして純な色を持つ魂を尊敬しよう。
「ねえ、アルキメデス」
「・・・何だ?」
さっきの事ですねているのか声のトーンがいつもに増して低い。
「今度は君自身の事を僕は知りたいな」
「・・・何故だ?」
「唯の興味本位だよ」
「・・・そのことについては悪いがスリーサイズの次にトップシークレットだ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
・・・ちょっと今のはむかついたかな?
グワシ____________________________________
優しく撫でていた右手に力を加えアルキメデスの頭を結構力を入れて掴んでやる。
「ムムム!?」
そしてボクは無言で‘ソレ’をブンブンと物凄い回転率で振り回し始めた。
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!???????」
「ど、どうしたの?あ、アルキメデス!?」
アルキメデスの奇妙な叫び声にたまらずお穣ちゃんが客間に飛び込んできた。
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!??????」
「ゴメン、お穣ちゃんこれからボクがやることを無言で見逃してほしいの」
「え?でも、かつてない速さでアルキメデスが回転してるよ?」
「いいの!これはボクからのプレゼントであり彼も強く望んでいる事だから」
「そ、そうなの?」
「ち、ちが、ちがああっ、だあああああああああああああああああっ!?????」
うーん、ちょっとムキになりすぎたかもしれない。でも、何時もボクの頭蓋骨を鷲づかみにするお兄ちゃんの気持ちが良くわかった。
・・・これは一種の快感だね、お兄ちゃん。
アルキメデス、志半ばにして芳乃邸にて 殉職・・・
続く
管理人感想
前回投稿から実に1ヶ月以上開いてしまいました。
本当は2週間程前に貰ってたのですが、投稿時期が重なってしまい少し遅れての掲載になります。
同時にすればいいのでしょうが、2つ一気に上げると読む方も大変だろうとズラさせて頂きました。
とりあえず、今回はかなりSなさくらが見れたので良かったです。
アルキメデスもおふざけが過ぎると叱られることが身に染みて良く分かったことでしょうw
それでは次回の6.5話で。