ジリリリリリ…
「……ん…うーん」
時刻は午前7時30分。
今朝も相変わらず五月蝿い目覚まし時計の音で目が覚める。

「…あ、そろそろことりが来る時間だな」
俺は簡単に朝食を済ませると玄関へ向かった。

ピンポーン
(……タイミングばっちり!これがラブテレパシーというやつだな)
と、そんなくだらない事を考えながらドアノブをひねる

「純一君、おはよっす♪」
ドアを開けると元気よく彼女が飛び出す。

「わっ、わっ」
さすがに俺も毎朝とはいえ、ドアをあけると抱き付いてくるこの好意には慣れない。

「ははは、ことり、毎朝毎朝よくやるよなー」
「えへへ、だって私の自慢の彼氏さんなんですよ?」
と元気にいう彼女の名前は白河ことり(しらかわことり)。
そしてそんな彼女の彼氏なのが朝倉純一(あさくらじゅんいち)、つまり俺だ。

ことりと付き合い始めて約四ヶ月。
もうすぐ夏休みが始まろうとしている。

「さ、早く早く、遅刻しちゃいますよっ」
そういうとことりは俺の腕に手を廻し、走り始めた。

(……まったく余計遅刻するだろうに…)
そんな風に思った俺の表情は自分でも驚くほどに微笑んでいた。

そんな幸せが当たり前のように、
こんな毎日が当たり前のように続くのだと思っていた。
……思っていた。

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ん〜……。
ことりと分かれて家に帰ったあと俺は自室で珍しく考え事をしていた。
その考え事とは当然勉強の事でも人生の事でもない。
就寝の時間までどのゲームで遊ぶかを悩んでいた。

「……こんな事で悩めるのも学生の特権…」
とくだらない事を口にしながらも俺は悩みに悩んだ末、
最近買ったばっかりの恋愛アドベンチャーゲームをする事にした。

杉並には『彼女の居るお前がそんなゲームをしてていいのか』と一度言われた事がある。
確かに杉並の言うことも一理ある。
だが俺は昔からこの手の読み物ゲームが好きで、
ゲームによって変わる主人公、世界観、想い。
これらが俺の心に深く染みる事が多く、
また、今ではことりとの付き合い方の参考にもなるんではないかと思っている。

今思えば俺がこういうゲームの世界観に浸れるのも、桜の木の能力のせいだったのかもしれない。
幾度となく人の夢を見てしまう事によって、他人事として考えられなくなったのだろう。
故に、人の作り上げた世界というものに浸りこみやすくなった…んだろう。

このゲームのストーリーはこうだ。
平安の時代から互いに想っていた恋人が公園で弁当をたべていたところ、
昔恋人と死別して成仏できないままの霊に彼女のほうが取り付かれ、
彼氏のほうは様々な方法で除霊しようとするが…


という所で気が付くと時計の針は午前4時をさしていた
「…やべ…」

就寝までの時間の時間つぶしにとやりはじめたこのゲームだが、
夢中になってしまい就寝どころかもう数時間で朝日が昇る時間だ。

「…風呂はいって寝よっと」
どこか空っぽなまま俺は風呂にはいりベッドに潜りこんだ。

「明日はことりとデートだもんな」
明日は10時に駅前に集合。
目覚ましを9時にセットして俺は眠りについた。

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ジリリリリ……
相変わらず音量の馬鹿デカイ目覚ましの音で目が覚める。
「ふわぁ〜……」
眠い。結局寝つけたのが5時頃で実質4時間ほどしか寝ていない。

結局昨日のゲームの続きが気になり、色々考えていたところ中々寝付けなかったのだ。
「……ははは、俺もいよいよ末期だな…」

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集合時刻10分前。
俺がいくとすでにことりは居て手を振りながら俺を迎えてくれた。

「おはよっす♪」
「……おはよう」
……あ、寝不足なのが効いたのか、生ぬるい返事をしてしまう。

「…純一君、どうかしたの?」
「いや、なんでもないよ、」
「そう?じゃあ、いこっか」
「ああ」

今日俺はことりと隣町の海の見える公園にピクニック…とでもいうのだろうか。
その公園で一緒に海を見ながらお弁当を食べよるという計画だった。

『─まもなく 6番乗り場に○△×駅行きが到着します─』
「ほら、電車がきたよ」
ことりが俺の手を引く。

俺とことりは電車の先頭のほうの空いてる席へ並んで座る。

俺とことりの間に会話はない、手と手を繋いでるだけでお互いのぬくもりを感じる。
そこに、会話などは必要なかった

─ガタンゴトンガタンコトン

そんな暖かい車内で、俺は昨日の寝不足の付けが回って来たみたいだ。

……やべ…ねむ…

俺の意識は闇へと落ちていった。

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「……ことり…」
俺は俺のできる全ての事を試した。

プロの除霊師も呼んだ。
魔よけのお札、呪文……。
俺ができうる全ての事は試した。

「…純一君…私もう…」
ことりがベットから半分身をおこすと弱弱しく言う。

「な、なにいってんだよことり!俺が、俺が絶対たすけてやるから!」
するとことりは弱弱しく首を横にふった

「……ううん、分かるの、私の身体だから…」
─なんで、そんな…悲しい事を言うん─だ。
「…私の中の命の炎が消えていくのが分かるの…」
何か言わなければいけない、俺はそれを認めてしまうことはできない
なのに─、俺は泣いてるせいか、まともな言葉がでなかった

「……だからね、別れましょ」
─……え?

「…な、なんで、なんでだよ!!」
思わず大きな声がでる。
俺の顔はとても人に見せられるような物ではなくなっていた。

「きっと、今のままだとね、私が死んで、その後彼氏である純一くんにも憑依してしまうとおもう…。だから……」
「それでもいい、俺はことりの居ない生活なんて考えられないよ!」

「……わ、わたしは…あなたなんて大嫌いなんだから!もう私に近づかないで!!」
ことりが息を切らして言う。

ことりのその言葉は俺の心の奥深くまで突き刺さった。
「……いやだよ、俺はこんなの嫌だよ!!」

「……もう私にはかまわないで─!」
─ドサッ

「!!!」
ことりが倒れた、すぐ俺は抱き起こす
「おい、ことりしっかりしろ!ことり!しっかりしろ!」
そしてとっさに脈を図る

彼女の心肺機能はもう、完全に停止していた。

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『…………くん』
『……いちくん』

誰かが俺を呼ぶ。
『……純一君!』
その声で俺は目を覚ました

「……うなされてたみたいだけど大丈夫?」

「……あ……あ……」
自分で目尻があつくなるのが分かった
「ことりーーーー!」
俺はことりを抱きしめた。
このぬくもりを、もう離したくない

「……え、ちょ、ちょっと」
「…ひぐ…ことり、ことりぃ」
もう逢えないと思ってた。
こんな風に抱きしめる事もぬくもりを感じる事もできないとおもってた。

「…なんで、泣いてるの…?」
ことりは困ったように言うと
「…大丈夫、大丈夫だから、私はここにいるから」
と俺を抱きしめてくれた

そして─

ようやく俺は状況を把握した。
まず、さっきの事は全部俺がゲームの影響でみてしまった夢だということ。
そして、既に降りるはずの駅はすぎて、爆睡していた俺を終着駅のベンチまでことりが運んでくれたということ。

……いやはや、恥ずかしいというか、ことりに何て言えばいいのだろう…。

俺は正直に全ての事情を話した。
するとことりは、笑って、
「…ううん、私はすごくうれしいよ、だって純一君がこんなにまで私の事を想ってくれてるってことがわかったんだもの」

そういうことりの笑顔は俺にとって、天使のようにすら見えた。

「よし」
俺はすっと立ち上がる。

「ことり!」
「…え?なに?」

『   ─── 愛してる
            これからもずっとずっと
                        愛してる───  』

「……うん、わたしも」

もうすぐ夏休み。
俺とことりの新しい生活がはじまろうとしていた。

ちなみに、例のゲームのエンディングは奇跡がおこって霊は消滅し、
彼女が生き返るというありきたりな展開だった。
でも、それでも俺はよかったと思う。
人を愛するということは、こんなにもすばらしいことなのだから─。





END

【月神恭介さんあとがき】
自分がネットをはじめてからこういった作品を正式に公開するのははじめてでして、至らない点も多いかと思われます

自分としては初めてかいた作品ではありますが、まあまあかなとは思ってます
感想やご指摘などいただければうれしいです



                                    

かけがえのない恋人

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