D.C.P.S〜ダ・カーポ プラスシチュエーション〜 作者 スズラン〜幸福の再来〜
キャスト
主人公 朝倉 純一
メインヒロイン 霧羽 香澄
サブキャラ
名無しの少女
芳乃 さくら
霧羽 明日美
霧羽香澄After story月と桜に込めた願い〜悲シキ恋ノ詩〜
第5.5話 死神の軌跡 (前編)
さくら、お穣SIDE
三月二十六日 AM 9:00
「菜食主義?」
朝の食卓を囲みボクがお穣ちゃんへの第一声はこの言葉だった。ボクとお穣ちゃんはこうやって朝食を取っている訳なのだがお穣ちゃんは
「ほうれん草のおひたし」や「おぼろ豆腐」、「カツオだしの味噌汁」等のモノにしか手をつけないのだ。
おかずのメインである「鯖の味噌煮」には全く持って手をつけていない。
「あ、う・・・ううん、そう言うわけじゃないんだけど・・・」
「じゃあ、魚は嫌い?ダメだよ、好き嫌いしてちゃ立派なレディ―にはなれないのだ!」
「・・・そ、そうなの?」
う、冗談で言った台詞にそんな直向な瞳でこちらを見られても困るけど。
「そりゃ冗談だけどさ、でもどうしてお魚には手をつけないの?」
ボクの質問にお穣ちゃんの表情が曇った。そして、ボソリと呟くように口を開いた。
「・・・生きていたんだよ?」
「え?」
その言葉がお穣ちゃんの口から放たれた時の彼女の顔は恐ろしいほどに真剣だった。
赤い瞳が僕を見据えてゆっくりとお穣ちゃんは話し始めた。
「生きていたんだよ?生き物は生きていたんだよ?でも食べられる時には死んじゃうんだ。多分、死にたくないと思っていたよね?」
お穣ちゃんは子供のような頑なさで続ける。
「野菜とかは何も考えないし何も言わないもん。だから食べても平気、でも魚やお肉はそうじゃない。
人の欲を満たすために彼らの意思を尊重せずに命を奪っている。ボクにはそんな事は認めたくないんだ」
確かにそう言う考えもあるかもしれない。でも、この世の生物は生きていくには何かを犠牲にもとい殺さなくては生きていけないのだ。
残酷だがそれが生きていくうえでの真理。長い間、人がそうしてきたようにそれは決して曲げることの出来ない事実。
そのことを説明しようとボクが口をあけた瞬間だった。
「ご、ゴメンね。ボクっておかしいよね?ご馳走様でした!」
「あっ、お穣ちゃん」
そう言って彼女は逃げるようにその場を去っていった。
あの子は本当に優しい子だと僕は思った。‘死神’なんて禍々しい存在だとは信じがたいくらい優しい。でも何故だろう?
人の命と隣り合わせの生業を送ってきているというのにどうして無理に菜食主義を突き通そうとするのだろう?
「言っても無駄だ、お穣はそうやって何年も生きてきたんだ。今更、考えを変える気もないだろう」
お穣ちゃんに置いてきぼりにされたアルキメデスが本日初の声を発した。
「何年も、って」
「お穣は普通ではない、それは昨日の夜に話した筈だ」
そうだ、お穣ちゃんは人ではないのだ。彼女は魂を運ぶ事を生業にした‘死神’彼女はその名を背負い続け何年も行き続けてきたのだ。
死神にしては幼く優しすぎるお穣ちゃん。どうしてあんなにいい子が死神なんて真似をしなくてはならないのか?
そのことをアルキメデスに問い掛けてみるも。
「それを聞いてどうする?それで御主がお穣を救えるという訳でもないだろう?」
キツイ言葉だった。でも、アルキメデスが言っている事は紛れもなく事実。長く一緒にいたからこそ彼女の事を良く解っているのだろう。
でもボクはここで食い下がらずにはいられなかった。
「それでも!それでも、お穣ちゃんを慰めることができるかもしれない。力になれるかも知れないじゃないか!
誰かが苦しんでいるのに他人のフリができるほどボクは出来た人間じゃないんだ」
そう、幼い頃いじめられたボクをお兄ちゃんが必死に守り励ましてくれたように、ボクもお穣ちゃんの力になりたかった。
結局の所、ボクはお穣ちゃんの事なんてほんのちょっとしか知らないけど、弱いものに手を差し伸べるのに理由はいるだろうか?
理由なんか要らない、誰かが泣いていたらその子に力になってハッピーにしてあげたい。それがおばあちゃんが心から願った事だから。
その事を当たり前のようにボクにしてくれたのがお兄ちゃん何かを守ろうという優しい心。
そのときのお兄ちゃんの気持ちが何となくだけど解った気がする。
「・・・偽善だな。そんな気持ちだけでお穣の力になれるとでも?」
「・・・っつ!」
「・・・と言いたい所だがさくら殿、御主のその気持ちは偽りではないようだな」
「え?」
「いいだろう、話してやろう。死神の経緯とお譲の軌跡をな」
まず、人の死というものは全て必然として決まるものだ。その死が決まった者の魂を帰る場所に運ぶ為に死神というものが存在するのだ。
死神という存在は死に近い存在の視界にしか映らないものなのだ。
たとえば近いうちに死が決まった者やその者と血のつながりが少しでもある者達の視界にしかお穣、つまり死神は見えないのだ。
他の何の死にも関係ないものたちから見れば我々はそこにはいない存在として認識される。
残酷にも死神と言うものは「優しい心を持った魂」の持ち主しかなれないのだ。
その「優しい心を持った魂」が‘何らかの理由’で‘帰るべき場所’へ運ばれなかった時に死神が生まれてしまうのだ。
さて、ここからはお穣にも黙っていて欲しい。
・・・お穣はずっと一人だった。それは死神になったときからずっと
お穣は極力、誰とも関わろうとはしなかった。
自分と関わった人は近いうちに自分が運ばなくてはならない魂であるから・・・
その肉親の悲しみ顔をみたくないから・・・
何より一番辛いのは肉親の恨みを向けられてしまう事だと知っていたから・・・
だが、たった一度
一度だけお穣は人と関わりを持ってしまったことがあった。
それは‘常盤村’という小さな村にすむ少年、お穣と歳も身長も変わらないくらいの少年だった。
まあ唯一つ違う点があるとしたら、お穣は‘人のように’生きた存在ではないという事くらいだ。
自分で言うのも何だか酷く皮肉であるな。
その村での仕事はお譲の‘死神’としての初仕事でもあった。
お穣はその少年と傍から見ても微笑ましいくらいの仲の良い関係になっていった。
今思えばお穣にとってもそれが最初で最後であった‘友達’といえる存在だったのかもしれん。
だが、その少年の母親は酷く病弱で重い病に掛かっていたのだ。
もう気づいているだろうが、その母親の魂を運ぶ事がお穣の仕事だったのだ。
だからその少年にはお譲の姿が‘見えた’のだ。前にも言った通り、‘死神’を視界に移せるのは‘死’に近い場所にいる存在だけだ。
つまり、魂を運ばれる者、その魂を運ばれる者の肉親或いは深い仲であったものだけだ。
そして皮肉にも少年は自分の親の命を奪ってしまう‘人ざらぬ存在’と深い関係になってしまった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「それで?どうなったの?」
「・・・・・・お穣は少年の母親の魂を運んでしまった後、その少年に自分のした事、この村に来た目的、そして自分の生業を全て話した」
「・・・・・・」
ボクはその結末を息を詰まらせアルキメデスの言葉を待った。
「その結果、少年は激しいまでにお穣を拒絶した・・・」
「そんな」
「まあ、少年には事実を受け入れるには知も無く若すぎた。踏んできた蹉跌の数も皆無に近く、そして何より奴は純粋だった」
「・・・・・・」
かなりの衝撃だった。何となくお穣ちゃんの言う‘死神’の存在と目的が見えた気がする。
あんな小さな身体でお穣ちゃんはずっと苦しみと隣り合わせの人生を送ってきたのか。
そんな子のボクは支えになってあげる事が出来るのか?さっきの決意がこんなにも簡単に崩れていく。
(やっぱり、ボクじゃ力になれないの?)
泣きたい気分になった。こんなにも残酷なことがあるだろうか?ずっと温室で育ってきたボクには解らないような苦しみ・・・
こんなのあんまりだ。
「そう黙り込むな、まだ話は終わっていないぞ」
「え?」
「折角ここまで聞いたのだ、どうせだから全て話させろ。それに御主には聞いて欲しい」
そう言うと、アルキメデスはまたゆっくりと話を続けた。
続く
スズランさん後書き
この話はお穣の過去の暴露話をメインにしています。
彼女の菜食主義から知る、悲しい過去、その過去を知ってなおさくらはお穣を受け入れられるか?という事を結論に書いていくつもりです。
後編はもう少ししたら送りますので、それまでどうかお待ちください。
管理人感想
今回は本編とはちょっとずれたサイドストーリー的な話でした。しかし、お穣が菜食主義者だとは知りませんでした。
やっぱり早いうちに水夏しないと・・・。さくらとお穣の絡みが個人的に好きになりました。