D.C.P.S〜ダ・カーポ プラスシチュエーション〜                     作者 スズラン〜幸福の再来〜


                                                       キャスト
                                                       主人公     朝倉 純一
                                                       メインヒロイン 霧羽 香澄
                                                       サブキャラ    名無しの少女
                                                                  芳乃 さくら
                                                                  霧羽 明日美




霧羽香澄After story月と桜に込めた願い〜悲シキ恋ノ詩




第七話 霧羽明日美の帰郷(前編)


明日美SIDE


三月二十六日PM3:30学園へ続く桜並木にて



一年中桜が咲く三日月形の島、初音島。初音島は以前訪れた時と変わらぬ姿で私を迎え入れてくれた。
春の訪れは一掃、桜の花の香りを強くし一つ風が吹くとその香りと共に暖かい風が私の頬を通り過ぎていく。

「また、ここへ戻ってきたんですね」

私、霧羽明日美はポツリと呟いた。前に初音島に来た時は忘れもしない十日ほど前で。

私が3年ぶりにお姉ちゃんに再会した日・・・

今でもその時の事は昨日の事の様に覚えている。

もう‘あの日’から3年

全く変わっていないお姉ちゃんを見た十日前

私はお姉ちゃんの他にもう一人の人と出会った。その人の名は‘朝倉純一’さん。
何故かお姉ちゃんとその夜に風見高校で一緒にいた人であり、私の現在の‘思い人’でもある。
朝倉さんとは殆ど会話も何もしなかったけれど彼を見ていると私の心が温かくなっていく感覚を鮮明に覚えている。

あの奇妙な感覚は一体なんだったのか私には解らないが、それでも私はたった一夜で彼に心を奪われた。
短めな黒髪に男の子にしては少し眺めの睫毛、真っ直ぐと正面を見据えた漆黒の瞳、私はそんな彼の事をこの十日間、思わなかった日はない。

あの夜、朝倉さんとお姉ちゃんが学校で何をしていたなんて知らないけど、多分お姉ちゃんは朝倉さんの事が好きだったように見えた。
何故かと聞かれれば返答にちょっと困ってしまうが、強いて言うなら‘私のお姉ちゃん’だから。

お姉ちゃんはちょっといい加減で口は悪いけど、人を見る目はあったと思う。いつもサバサバとした感じで周りと接していたが、
以外に周りが見えていて人付き合いも上手な所が今でも少し意外に思ったりする。

そんなお姉ちゃんは私たちと別れを告げるとき、不屈のない笑顔の瞳に沢山の涙を貯めていた。
私の記憶ではお姉ちゃんが涙を流した所なんてただの一度も見た事が無かった。
その涙の意味は地上から離れる悲しみではなく、思い人を残していく歯がゆさの様に私の目には映った。

あの幻想的な月光のなかに還っていく時さえも、お姉ちゃんは笑顔で堂々とした姿だった。
でも、長く付き合ってきた私にはその時のお姉ちゃんの姿はちょっと無理をしているように見えた。
本当はまだこの地上に未練があったのではないかと。それでも私の事を最後まで心配して・・・

「お姉ちゃん・・・」

その名を呟いてみる。何とも言えない懐かしさが私の胸に広がっていく。
お姉ちゃんとの数々の思い出、それは私の中で全て宝石のように輝いている。それでも思い出は時間の経過と共に風化していってしまうもの。
それは悲しいことだけど、それをかけがえのないものと思える、だから私はは前に進む事が出来る。

私がこの島に再び戻ってきた理由、それは思い出の詰まったこの地でお姉ちゃんの分まで生きたいと思ったから。
私の身体はお姉ちゃんの心臓の移植手術が成功したといっても以前より少しマシになった程度で、私の体が弱い事に変わりはない。

つまり、私の人生は普通の人より少しばかり短いということ。その事を踏まえた結果、私は本島から初音島の風見高校への編入を決意した。

(まあ、その他にも理由はあるけれど。)

ちょっと頬を赤らめながら、私は風見学園への道を少し急いだ。




風見学園


PM3:30生物準備室(暦先生の部屋?)にて


ことりSIDE



「うーん」

お姉ちゃんはデスクのパソコンから目を離して眉間にしわを寄せタバコを口元に持っていった。その仕草が何か爺臭くてちょっと噴出しそうになった。

(もしこんな事聞かれたら唯じゃ済みませんね、洗濯バサミで頬っぺたを抓られちゃうかも)

「ん?何だことり、私の顔に何かついてる?」

「えっ?な、何でもないよ!それより、お姉ちゃんコーヒーのおかわり要る?」

「ん?ああ、お願いするよ」

「は〜い」

お姉ちゃんのデスクの空になったコップを手にとりコーヒーメーカの残りを全て入れた。

「砂糖とミルクは?」

「いや、要らない。ちょっと集中したいし」

「はーい」



コトッ____________________________



元の場所へゆっくりとブラックのコーヒーを置きます。お姉ちゃんはありがとうと一言言うとそのブラックコーヒーを一口すすりました。
左には吸いかけのタバコ、右にはブラックコーヒー、甘党の私には見ているだけで胸やけがしてくる組み合わせです。

「ブラックの飲み過ぎは胃に悪いですよ?」

「ん?ああ、わかってる。今日は特別」

「ついでに言っときますけど、タバコも」

「あ〜解ってる。それも、とくべ・・・」

「特別、っていうのはナシですよ?」

「うっ?」

お姉ちゃんは口ごもると口元に持っていったタバコを灰皿へ押し付けました。そんな仕草は生徒の前じゃ絶対に見せません。
お姉ちゃんのそんな所が何となく可愛いなと私は思っている。

「ほらほら、こんなに肩がこっているじゃありませんか。この原因は絶対にタバコの吸いすぎですね」

私はお姉ちゃんの肩を徐にマッサージし始めた。

「なんだ、今日は気が利くじゃないか」

「うーん洒落になんないくらい凝ってますねえ〜、お客さん」

「今日は随分とご機嫌じゃないかことり、さてはさっき私の居ぬ間、朝倉と何かあったか?」



ドクン________________________________



その言葉に私の体温は一気に上昇し顔が熱くなった。

(こ、これはマズイです)

平常心、平常心、普段どおりを装わないと後でネチネチ言われるのは絶対に嫌です。

「どうした?手の動きがお留守になってきたぞ?」

「えっ?あ、ああ。ハイハイ」

(そ、そうです。平常心、平常心、相手に悟られぬように)

私は冷静に心の中で深呼吸をしてお姉ちゃんの方をひたすら揉む。



モミモミ________________________________



ひたすら揉む。



モミモミ________________________________



ひたすら揉む。



モミモミ________________________________



ひたすら・・・



「おいおい、いきなり今度は無口になってしまったぞ?」

「え?そ、そんな事、ないよ?」

「ふう、本当にお前は隠し事の出来ない性格をしているな」

「・・・・・・」

やはり、私はもう既にお姉ちゃんの手の中だったという訳ですか。恥ずかしい反面、少々悔しいな。

「まあ、そう黙り込むな。本校の進学祝にイイことを教えてやるから」

「いい事?」

「ああ、その朝倉だがお前と同じクラスだぞ」

「ほえっ?」

お姉ちゃんの言ったことの意味がわからなかった私は思わず素っ頓狂な声を出してしまう。同じクラス?クラスって何でしょう?

「何ていう声を出すんだお前は?本校でのクラス分けだよ。お前と朝倉だが同じクラスに決まったぞ」

「えっ、え〜!!」

(あ、朝倉君と同じクラス?私が?)

何だかさっきより身体が熱くなってきた。でもこれは恥ずかしさではなく純粋に嬉しいと思う気持ち。

(そっかあ、朝倉君と同じクラスなんだ。えへッ、嬉しいな)

「嬉しいそうだな」

「え?何か言った?」

「いいや、何にも。お前は嬉しそうだが担任の私は頭が痛いよ」

「あっ、お姉ちゃんが担任なんだ」

「ん?まあな、それで問題な事が一つあってな」

「問題?」

私がその問題について聞くと今日一番のため息をついてお姉ちゃんはボソリと呟く。

「今回もあの二人が同じクラスでしかも私の担任なんだ」

「あの二人って?」

「・・・朝倉と杉並だよ」

「え?ああ、あの二人かぁ。仲いいよね〜」

確か杉並君というのはよく朝倉君と一緒にいる人で、ちょっとヘンな人だ。朝倉君は彼の事を‘万年お祭り腹黒男’と言っていたっけ。

「あの二人が一緒のクラスだと何かまずい事でもあるの?」

「・・・お前は去年のクリスマスパーティーの事を覚えていないのか?」

「あ゛」

「あの後、私は担任ということでどれだけ校長に叱られた事か」

そういえば、あの二人は風紀委員のブラックブラックリストと呼ばれるほどの危険な存在。
そして彼らは去年のクリスマスパーティーで学園史に残る事をしてしまった。そのときの悲惨な光景が目に浮びます。



・・・・・・



・・・・・・



・・・・・・



「ご、ご愁傷様」

「ま、今は気休めだけでも身にしみるよ。ああ、それともう一つ面倒な事があったんだ」

「面倒な事って?」

「始業式と同時にウチのクラスに転校生が来るんだ」

「・・・あの、お姉ちゃんそれの何処が面倒な事なの?」

「まあ、付属の時もそうなのだがお前たちの学年の転校生って言ったらみんな変わり者ばかりだったからそれを思い出すと、どうも安心できなくてね」

転校生と聞かれて思い出すのは転向してきたその日に、食堂で巫女装束を纏い弓矢を放った大和撫子「胡ノ宮環」さん。
確かこの人は朝倉君の許婚と自称し尚且つ巫女装束で弓矢を放っているくらいだから、転向したその日に一躍有名人になってしまった。

もう一人は私のクラスに転向してきた帰国子女「芳乃さくら」さん。金髪の綺麗な長い髪とアメリカ人特有の蒼い瞳が特徴的な元気いっぱいな子だ。
周りよりちょっと変わった容姿と童顔で小さな身体は私のクラスの人たちは必要以上に可愛がり、玩具の様にされていたっけ。

(まあ、私はちょっと芳乃さんの事が苦手なんだけど)

「確かに、インパクトだけは一流かも」

「まあ、今回の転校生にはそんなインパクトはないだろうがな。まさか‘霧羽’の妹がこの学園に来るとはな」

「霧羽?妹?」

「ああ、霧羽明日美それが転校生の名前だ。まあそれ以上は・・・言う必要もないだろう」


お姉ちゃんは少し顔をしかめるとそれ以上は何も話してはくれませんでした。
その後、お姉ちゃんは私に帰るように促し黙って私に背中を向けてしまいました。

(何か気に触るような事でもあったのかなあ?)

「さあ、もう大体の作業は終わったな。もう帰っていいぞことり」

「え?なら、一緒に・・・」

「まだ終わってない作業もあってな」

「なら、私も手伝うよ」

「いや、構わない。いいから帰りなさい、今日は世話を掛けたね」

「あ、うん」

どうやらお姉ちゃんには私にはここに長居して欲しくない理由があるみたいです。それなら、私は無理にここに定住する意味はありませんね。

「じゃあ、先に帰るね」

「ああ」

後ろを向いたままで手をヒラヒラと振っているお姉ちゃんの後姿は何時もに増して疲れているように見えました。











明日美SIDE


PM4:05風見学園にて



「あれ、ここはさっき通ったよね?」

うーん、どうしたものでしょう。無事、風見学園に到着したのは良かったのですが幾分広すぎる学園の為、ちょっと迷ってしまった。
入学手続きはもう済んでいるのですが、その前に色々と担任の講師の先生が話をしたいと昨日電話で言われたのでこうして出向いた訳なのですけど、
速攻で迷子になってしまいました。

「大体、生物準備室なんて何処にあるのでしょう?」

昨日の電話の主はキビキビと話すのが特徴的な女性の先生だった。その人が午後の四時くらいに学園の生物準備室に来てくれと行ったきり
直ぐに電話を切ってしまったので、そこまでの道のりまでは聞くのを忘れていましたね。

とっくに四時は回ってしまっています。はやく生物準備室を見つけたいのですが、春休みだけあって全く人影がないので道を聞くにも聞けない状態です。

「付属と本校が同じ場所にあるって行ってもこの学校広すぎ〜」

本当にどうしよう。このまま帰る訳にも行きませんし・・・

「うーん、どうしよう」

「あの、何をそんなに途方に暮れているんですか?」

「えっ?」

その声に振り返るとそこには一人の女の子が私の前に立っていました。その容姿は女の私から見ても素直に綺麗だと感心するほどに美しい人で、
腰元まで伸びた長いサラサラした髪と服に合ったちょっと大き目の可愛い帽子が印象的です。

制服は着ていませんがこの学園内にいるということはきっとここの生徒なんでしょう。歳は私と同じくらい?それとも年上・・・

「あのぉ・・・聞いてますか?」

「わわっ!ごめんなさい何でしょう?」

気がついたらその人は私の前まで来て私の顔を除きこむように見つめていました。ちょっと、というかかなりビックリです。

(あわわわ、私ってば人前でぼうっとする何て)

「え、えーと、そそ、そのぉ」

胸の鼓動が高鳴り言葉が上手く出てこない。私は普通の人より少し人見知りが激しい方です。
だから初対面の人と話をするのがちょっと苦手だったりするのです。
お姉ちゃんのようにもっと積極的に人と話したいと幼い頃から思っているのですが、現実ではそうもいきません。
ちょっとそれが自分自身でも嫌だなと思っている事の一つだったりします。

(ああ、それよりどうしよう・・・)

「フフッ♪私は全然気にしてませんよ」

「え?」

まだ、おろおろとする私にその人は優しく微笑みながらそう言ってくれました。何故だか今の言葉には安心させられたような気がしました。
その人は口元に優しい笑みを浮べ私の事を見つめています。

(なんでしょうこの不思議な安心感は・・・)

何か、心の隅々までを優しく理解してくれているような・・・この人は多分いい人だ、私は素直にそう思いました。

「で?一体こんな時間に私服でどうしたんですか?」

「え、えーとですね」

(道に迷ったなんて恥ずかしくていえません)

更におろおろする私をその人はちょっと考え込む仕草をした後に言いました。

「もしかして、迷子さんですか」

「う」

「ビンゴのようですね!」

指をパチンと鳴らしてその人は再度微笑みました。

「で、何処に行きたいんですか?私でよければ案内しますよ?」

「え?」

思いのほかその人は私にとってありがたい提案を出してくれた。私としては喜んでいい所なんだろうけど・・・

「でも、迷惑じゃ・・・」

私の消極的な態度にその人は悪戯っぽい笑みを作り早口で言いました。

「それじゃあ!貴方はこの先もっとこの学園を途方にくれながら一日中、徘徊しますか?それともこの高性能ナビゲータ‘白河ことり’さんを頼りますか?
さあ、どうしますか?」

「ひゃっ!?」

白河ことりと自称する人は物凄い勢いで私に詰め寄ってきました。見かけによらず随分と感受性の豊かな方です。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

互いの距離の近いまま沈黙が辺りを支配します。この場合は私が決断しないといけませんよねえ?
白河さんは今か今かと目を輝かせて私を見ています。

(ここで断ったら後が恐いですよね?)

「こ、高性能ナビゲーターさんに頼らせていただきます」

私がそう言うと彼女の顔がぱっと明るくなり、心から嬉しそうな顔をしました。とりあえず、今日の目的は達成できそうです。





続く

スズランさんの後書き
ここからの話は八割がた、公式の設定を無視した私のオリジナルのシナリオで書き綴られていきます。
だから、おそらく「ありえない」とか「無理あるだろ」とかいうような事を思う方も多いと思いますが、最後まで読んでくれると、霞月はうれしいです。

管理人感想
個人的にことりの出番が増えてくれてすっごく嬉しいです。
そして、明日美。初音島に来た彼女に純一はどう反応するのか楽しみです。
ことりと明日美の純一争奪戦みたいになるのか等々。
暦先生も相変わらずいい味出してますし。次も期待させて頂きます。



                                            
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