D.C.P.S〜ダ・カーポ プラスシチュエーション〜                     作者 スズラン〜幸福の再来〜


                                                       キャスト
                                                       主人公     朝倉 純一
                                                       メインヒロイン 霧羽 香澄
                                                       サブキャラ    名無しの少女
                                                                  芳乃 さくら
                                                                  霧羽 明日美




霧羽香澄After story月と桜に込めた願い〜悲シキ恋ノ詩〜




第六話 図書室での告白(後編)


3月15日深夜


風見学園図書室


その場所は足を踏み入れてはならない禁断の聖地、誰しも求める福音に満ちた小さなエデン(楽園)
言い方は違えど俺たちの居る場所はそんな聖域の様な場所みたいに俺は感じた。

味気ない言い方をしてしまえばそこは唯の図書室の一番奥の席なのだが、今宵の夜その味気ない場所はなんとも幻想的で美しかった。

俺は近くの机に腰を掛け一人の少女を見つけていた。その少女は図書室の窓から刺す光に照らされながら、夜空を見上げている。

俺は唯、その少女の姿に恋焦がれるように見惚れていた。
暫らくするとその少女、霧羽香澄は静かに話しの続きをさっきのような優しい口調で話し始めた。

その口調は誰に向けられたのもであろうか?今はなき愛しい妹か、優しい思い出に浸る自分にか、唯の独り言か。


いずれにしても、俺はそんな香澄を唯見つめその声に耳を傾けている・・・



「・・・・・・その後、プシュケは去っていってしまった夫エロスを昼も夜も夫を探し回ります。
そしてエロスの母であるアフロディーテを訪ねると、女神は怒って彼女に言いました。


「あの子はお前に受けた痛手が元で、まだ病に臥せっているよ。
お前がもう一度夫と一緒になりたいなら、私の言いつけを聞いて、うんと仕事をしなければなりません」


アフロディーテがプシュケに課した仕事はどれも大変なものばかりでした。
プシュケは途方に暮れますが、他の神様たちが力を貸してくれたので、何とか片づけることができました。
それでもアフロディーテの怒りは収まりません。女神は彼女に一つの箱を手渡して言いました。


「これを持って冥府の女王ペルセポネの所に行きなさい。病に伏せる夫のために、彼女の美しさを分けてもらうのです」


死を覚悟して冥府に向かったプシュケは、無事に務めを果たし、帰路につきます。
しかし、どうしても箱の中身が見たくなったプシュケは、言いつけに背いて箱を開けてしまいます。


箱の中に入っていたものは美しさでなく'眠り'が入っていたのです。
その眠りに取り付かれてプシュケは、その場に倒れ熟睡し、死んだように動かなくなってしまったのです。


一方、すっかり傷が癒えたエロスは、女神の目を盗んで部屋の窓から飛び出すと、プシュケを探し求めます。
やがて眠りにつかれたプシュケを見つけると、エロスは眠りをかき集めて箱の中に閉じ込め、プシュケを軽く矢で突ついて目覚めさせました。


そして大神ゼウスの所に連れ立ち、二人を永遠に結び合せるよう嘆願します。


そこでゼウスはエロスの訴えを聞き入れてエロスとプシュケを結婚させると宣言し、アフロディーテにもそれを認めさせました。


その上でゼウスはプシュケを天界に招いて彼女に不死の飲み物ネクタルの入った酒盃を渡しこう言いました。


「エロスの花嫁となる、プシュケよ。これを飲んで、不死となり、神々の仲間入りをしなさい。
エロスは、これからは決してお前の腕から離れる事無く、お前たち夫婦の絆は永遠に変わる事はないだろう。


このゼウスの言葉を合図にして、神々は皆、一斉に歓喜を上げ、エロスとプシュケの結婚をお祝いする、壮大な宴会が始まりました。
プシュケが花婿エロスの腕にしっかり抱かれ、胸にしっかりと抱かれていた事はいうまでもありません。


こうして、長い苦しみの末、人間だったプシュケはエロスの妻となったのです。」



話を終えた香澄は満足げな顔でこちらに目を向けた。また話に夢中になっていた俺はボーっと香澄の事を無言で見つめていた。

「・・・・・・」

「と、まあこれがこの話の結末な訳よ。どう感想は?」

「え?あ、ああ、いい話だったな」

突然、夢から起こされた感覚に陥った俺はそんな曖昧かつ簡略的な感想しか口からでなかった。

「それだけ?あそこまで言っといて随分単調な感想ね」

痛いところを平気で突いて来るなこの娘は。

(くそう、文章能力の無さを恨むぜ)

「しょ、しょうがねえだろ他に思いつかねんだから」

「ま、でも私もこの話は嫌いじゃないかな?ギリシャ神話の話の中では珍しくハッピーエンドで終わる話なのよね」

「そうなのか?」

「ええ、ギリシャ神話の恋話はオルぺウスの悲恋話を筆頭に大体ハッピーエンドではないわね。
ま、だから明日美はこの話が一番好きだったのでしょうね」

そう言った香澄の横顔はどこか儚げながらも、懐かしさに浸っているようなやさしい顔だった。そして付け加えるように言った。

「幾多の苦難を乗り越え、思い人を唯一途に思い続けた純粋で美しい魂は最後には報われて幸福を得る事が出来る」

「それはどういう意味なんだ?」

「汚れのない純な恋心を持つ乙女の恋は絶対にハッピーエンドになるって事よ。この神話を知った私の素直な感想よ」

「・・・ふーん、そっか」

「なあに、シンミリとした顔してんのよ」

「いや、お前って案外いいお姉さんしてたんだなって」

俺がそう言うと香澄は顔を赤らめ徐に立ち上がった。

「あ、当たり前じゃない。さあ、お話はここまで!じゃあ次行くわよ朝倉」

「ゲッ、お前まだ続ける気か?」

「当ったり前よ!さ、早く行くわよ」

香澄は小走りに図書室のドアまで小走りに走っていく。まだ、こんな夜の学校を徘徊するのかよ。

(自分は大の恐がりなくセに)

「そうだ、朝倉!」

そのドアをあけたところで俺の方へ向き直って

「さっきの言葉、嬉しかったよ」

と、悪戯っ子っぽく可愛げのある顔をしてドアの外へ走っていった。俺は口元に笑みを浮かべ'かったりい'と嘆きながら香澄の背中を追った。


・・・・・・


・・・・・・


・・・・・・



三月二十五日AM12:00

・・・あの日からもう十日も経ったと言うのに、俺の記憶はまだ鮮明にその時の事を思い出す事が出来る。

その時の香澄の仕草、口調、表情、全てが鮮明で幻想的な一夜。その時だけ時間が止まってしまったかのような感覚を覚えたくらいだ。
でも、それは幻なんかじゃなく俺はこの目で香澄という女の子を見た。

(なら、その存在はどうなんだ?)

確かに俺は彼女の事を見た。でもそれは霊体である彼女の体であって、それは現世に存在したということにはならないのではないか?
現に俺は香澄の肌にすら触れていない。

(ならばあの夜、俺の見たもの、体験した事は全て幻だったのか?)

そんな、筈はない!確かに俺は香澄と・・・




「・・・くん、朝倉君!聞いてますか?」

「うお!ことり?」

気が付いたらことりが俺の顔を覗き込んでいた。

「もう、さっきから呼んでるのに。ずっと上の空でしたよ」

「あ、ああ悪い悪い。あれ、暦先生は?」

辺りを見回せば部屋に暦先生の姿はなく俺とことりの二人っきりになっていた。随分と深く考え事に没頭していたらしい。

「職員室へ仕事の資料を取りに行くって言って、出て行きました」

「あれ、そうだっけ?」

「そうですよ」

「そ、そうか」

「でも、冗談抜きに本当に大丈夫ですか?顔色、悪いですよ」

うーむ、正直大丈夫ではないな。こうやって椅子に座っているだけでもかなりおっくうで、気だるい。日を増すごとにどんどん体調が悪くなっていくな。

(でもここで、ことりに心配掛けるようなことを言う必要もないだろうし)

「まあ、大丈夫だよ」

と、強がって見せた。

「嘘言わないでください」

心配掛けまいとそう言ってみるも、ことりには通じなかった。いつもは見せないような鋭い眼光で俺の事を睨んでいる。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

沈黙の間ことりは今だ俺の事を鋭い視線で見つめている。俺は目を逸らしてうつむく事しか出来ない。

「何かあったんですか?私でよければ相談に乗りますよ?」

「・・・・・・」

「そういえばお姉ちゃん、さっき卒業式の夜がどうとか言っていましたね?それと何か関係あるんですか?」

「っ!?」

流石に鋭い。

「やっぱり何か関係あるんですね?一体何があったんですか?」

ことりは身を乗り出して俺ににじり寄った。その瞳は更に真剣身が帯びていてヘタな冗談なんか絶対に通じないような眼力がある。

(あの夜を、ことりに話してもいいのだろうか?)

その眼力に俺の心は少し揺らいだ。ことりは本当に俺の事を心配してくれている。
ここで卒業パーティ―の夜の事を話せば少しは楽になるかもしれない。そして、彼女の存在を幻であったと思えるかもしれない。

(でも)

「・・・・・・」

やっぱり話せるわけが無い。これは俺の問題だ、自分自身でこのケリは付けたい。それに、

(やっぱり俺はあの夜のことを幻なんて思いたくない)

そうだ、俺はまだこんなにも香澄の事を愛している。
この'思い’もいずれは色あせ、風化してしまうならその'思い'は暫らくの間は俺の胸に大事に留めておいてもいいだろう。

「悪いな、ことり」

「・・・そうですか、話す気は無いんですね」

「ああ」

ことりは残念そうに呟いた後、静かに微笑み

「でも、さっきよりいい顔になりましたね」

そう言うといきなりことりは、そっと、羽のように俺の頬に手を置くと優しく撫でてくれた。

多分ことりの事だからこの行動にも対して意味はないのだろう。唯、その心にしみるようなことりの優しさにポロリと涙が溢れた。
ことりが学園のアイドルと呼ばれている意味が何となく解った気がする。そのやさしさに俺は唯、一言。

「ありがとな」

「うふふ、いいんですよ」

「あと、ゴメンな」

「朝倉君?」

「・・・ゴメン」

そう言って理科準備室を後にした。これ以上甘えても居られない、俺は前を向いて歩かなくちゃいけないんだ。
それがこの世を去った香澄も望む事だろうし。

(でも、あと少し思い出に浸ってもいいだろ?香澄)

さて、こんな顔を暦先生に見られたくは無いし裏庭から帰るとするかな。




「あーあ、結局話してくれなかったなあ」

私はため息混じりでパイプ椅子に体を預け伸びをした。最後に彼は'自分でケリをつける'と'彼の声'はそう言っていた。

彼の身に一体何があり、今何を抱えていたのかそれは解らなかったけど

「朝倉君なら大丈夫ですよね」

そう、きっと大丈夫。

だって、私が好きになった人だから・・・

「それにしても、卒業パーチィ―の夜って何のことだろう?」

その事が気掛かりだった。その事については彼の中で鍵が掛かったように心の声が聞こえなかった。

「こんな事、初めてですね」


ガラガラ______________



「やあ、今戻ったよ。って、あれ朝倉は?」

「あっ、お姉ちゃん。朝倉君ならもう帰っちゃったけどすれ違わなかった?」

「いや、会わなかったな。朝倉の奴、私と鉢合わせ無い様に裏口から帰ったな?全く、アイツは本当に・・・」

ブツブツ、と文句をいうお姉ちゃん。でも不思議と本気で怒っているような素振りは無く、何処と無く嬉しそうな表情をしている。

「そんなに心配なの?」

「まあ、一応アレの担任だったからな。昨年のクリスマスパーティ―といい、卒業パーティ―の夜といい問題ばかり起こす奴だが、
問題児ほど私たちから見れば可愛いものさ。それに馬鹿だがいい奴でもあるしな」

クックックッ、と笑いながらお姉ちゃんはタバコに火をつけ不味そうな顔をして煙を吐いた。

「そっか、そうなんだ」

「アイツには内緒だぞ?所でことり私のいない間、朝倉の奴はどんな様子だった?」

「・・・うん、朝倉君ならきっと大丈夫だよ」

「・・・・・・」

お姉ちゃんは暫らく私の顔を見た後に

「そうか」

私の顔を見て何かを悟ったのか優しく微笑んだ。

「そういえば、朝倉君だけど卒業パーティ―の夜の事って・・・」

「ああ、別に大したことじゃないんだが聞きたいか?」

私は少し考えた末

「うーん、別にいいや」

「何だそうか」

お姉ちゃんは吸い始めのタバコを灰皿に押し付け、また新しいタバコに火をつけた。

お姉ちゃんの口から聞くより、私は朝倉君の口から直接聞きたい。
いつか私にその事を打ち明けてくれればいいなと密かに思いながら、新学期彼と同じクラスになれればいいな、と心から願った。

後、願わくば・・・お姉ちゃんが結婚するまでにタバコをやめてくれますように。





続く

スズランさんの後書き
香澄と朝倉のからみをもっとあったらよかったのに!香澄のシナリオをやって一番、私が切望した事だったのでこのように描いてみました。
明日美は病弱であったという事実を元に勝手に本好きで神話好きという設定にした結果、一番いじくり易そうだったのがギリシャ神話の
プシュケの恋物語だったのでそれを使いました。神話の内容はかなり省略しているので鵜呑みにはしない方が言いかと思います。
後、初めて白河ことりというキャラを出してみたのですが、いかんせんいじり難いキャラでしたので多くのことりファンの
反感を買ってしまうのではないかという事が気掛かりでしょうがないです・・・

管理人感想
確かに香澄と純一の絡みが少し少なかったのが残念でしたね。でも、神話とかは読んでて面白かったです
神話とか自分には絶対に真似できませんがw
最後にはことりも出て来て私としては嬉しい限りです。



                                            
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