D.C.P.S〜ダ・カーポ プラスシチュエーション〜                     作者 スズラン〜幸福の再来〜


                                                       キャスト
                                                       主人公     朝倉 純一
                                                       メインヒロイン 霧羽 香澄
                                                       サブキャラ    名無しの少女
                                                                  芳乃 さくら
                                                                  霧羽 明日美




霧羽香澄After story月と桜に込めた願い〜悲シキ恋ノ詩〜




4.5話 死神の目的とその真意




さくらSIDE




三月二十五日PM9:30芳乃家にて





「しかし、見事な日本家屋ですな」

「こんな広い家に貴方、一人で住んでるの?」

お嬢ちゃんはお茶をすすりアルキメデス共々関心しながら部屋の中を見回している。
ちなみに、お嬢ちゃんの持っているぬいぐるみ「アルキメデス」は腹話術なんかではなく、彼事態が意思をしゃべっているという。
初め聞いた時はボクも信じられなかった。ちなみにお兄ちゃんはまだアルキメデスは腹話術で喋っているものだと思っているらしい。

「うん、今はね」

「昔は違ったの?」

「うん、まあね」

昔と言っても六年近く前の話、ボクは大好きだったおばあちゃんと一緒にこの家に住んでいた。今となっては懐かしい思い出だ。

「一人で寂しくないの?」

その質問を投げかけた少女の瞳は真剣身を帯びていた。ボクはクスリと笑い、お穣ちゃんを安心させるように優しい声で言った。

「うん、だってお兄ちゃんがすぐ側にいてくれるから」

「お兄ちゃんって、隣の家のあの男の子?」

「うん、そうだよ!何時どんな時でもボクが困っていれば助けてくれるんだ。でも、ちょっと不安だなお兄ちゃん最近、調子悪そうだし」

「え?」

僕の声を聞いてお嬢ちゃんが僅かに眼を泳がせたのをボクは見逃さなかった。

「わかるの?」

「まあね、伊達に付き合い長くないし。本人は、誰にも悟られて無いように思ってるだろうけどね」

「へ、へえ、そう、なんだ」

「・・・・・・」


「・・・・・・」


そう口ごもる少女の事をボクは黙って見つめた。お嬢ちゃんもボクが何を言おうか何となく察しているのかボクと目を合わそうとしない。

多分、ボクの予想が正しければお嬢ちゃんは普通の子じゃない。あのアルキメデスというぬいぐるみもそうだ。
あのぬいぐるみは「枯れない桜」の力で喋っている訳ではない。それは魔法使いだったお婆ちゃんの孫であるボクが一番良く解っている。

そして何より問題なのは、お兄ちゃんの不調の原因がこの子のあるのならボクはこの子を許す訳にはいかない。

「ねえ、お穣ちゃん?」

静かに、それでも敵意を込めて名の無い少女を呼ぶ。

「な、何?」

「待たれ、さくら殿」

「アルキメデス?」

待ったをかけたのは畳の転がったアルキメデスだった。

「貴方は幾つか勘違いをしているようだ。貴方がお穣から聞きたい事はあの朝倉という男の事であろう?」

「ちょっと、アルキメデス?」

「あの男の不調の原因はお譲のせいではない」

「どういうこと?」

「今はそれだけしかいえませんな。詳しい原因は我輩にもお穣にもわからぬ。
唯言えることはさくら殿もあの朝倉という男も内野側の人間だという事です」

よく解らない、内野側?内野があるのなら外野もあると言うことなのだろうか?

「内野側?」

「左様、だが今はこれだけしか言えんな、我輩たちもこの場所の事を全て理解している訳ではない。この場所は奇怪すぎる」

その言葉にボクはゾクリと寒気を感じた。この二人?はこの島が唯の島でない事を悟っている。
だとしたらアルキメデスがボクの事を内野と言った意味もわかる。だって、この初音島の枯れない桜の正体はボクの・・・

「ねえアルキメデス、ボクこれからどうしたらいいのかな?」

「お穣?」

お穣ちゃんの声は酷く寂しげだった。

「このままだと、あの人を‘向こう’へ連れて行かなくちゃ行けないよ」

「うむ、そうですな。あの朝倉という男の死の臭いがどんどん強くなっている」

「ちょ、ちょっと待ってよ!どういう事?」

二人の今の会話の意図が見えない。死の臭い?お兄ちゃんは死んじゃうの?そんなのヤダ!ボクはお兄ちゃんの為に戻ってきたのに。
それなのに、ボクとの約束を果たす為にここまで来たのに・・・

「ウム、少々互いの話を整理した方がいいようですな」

アルキメデスはポツリと呟いた。

「えっ?それじゃあ」

「説明しましょうお嬢、さくら殿になら全ての真実をさらけ出しても問題は無いと我輩が見ていますが」

「で、でも、こんな話信じてくれるかな?」

「それはさくら殿次第です、お嬢も覚悟を決めてくだされ」

二人の視線がボクに向けられる正直、解らないだらけではあるが、今の状況くらいは理解しているつもりだ。

まだ心中は穏やかじゃなかったけど、これから聞かさせることにお兄ちゃんを助ける手立てがあるかもしれない。
それにこの問題はボク自身にも多分大きく関わっていることかもしれない。

「わかった、君たちの話を聞かせて」

と、強く答えた。するとお嬢ちゃんもボクに続くかのように

「・・・わかったよアルキメデス」

顔つきがキリッっと変わり強く頷いた。その顔と赤い瞳には真剣みが帯びている。

「ボクは死ななくてもいいような魂を運びたくないよ!助けたいんだ、それであの人が苦しむ結果になっても生きていれば絶対にいい事あるもん」

その言葉は嘆くように、お嬢ちゃんの口から放たれた。この子は多分すごく強い子だ、ボクにはわかる。
多分こんなに小さな体をしながらも多くの蹉跌を踏んで来たに違いない。ボクはそんなお嬢ちゃんを純粋に美しいと感じた。

「ウム、良く言いましたぞ、お嬢」

お嬢ちゃんは真剣な眼で僕を見据える。それに答えるようにボクも目を逸らさない。彼女は一世一代の覚悟を切ってボクを見ている。
その覚悟をボクも一寸も受け流さずに受け止めようと彼女の赤い瞳を見つめた。

「両者とも覚悟がついたようですな。それではまず我々がこの島に来た経緯からお話ししましょう」

アルキメデスはお穣ちゃんの腕に抱かれて静かに自分達がこの島に来た目的を話し始めた。

「我々がこの奇妙な島、初音島に来たのはある少女の‘魂’を返すべき場所に返す為にやって来たのだ」

「どういう事?」

ボクは当然のように疑問をぶつける。

「うーん、どこから説明したらいいのかな?」

「やはり、お譲の素性から話していかないと辻褄が合わないかと我輩は思いますが」

「そう、だよね」

お嬢ちゃんの顔はあからさまに嫌そうな顔になった。よほど話したくない事なのか、また視線を泳がせ始めた。

「お嬢の口から言いにくいのでしたら我輩の口から伝えますが?」

「ううん、いいよ。僕の口から話すよ。ねえ、さくらちゃん」

「な、何?」

幼い少女とは思えないほどの真剣みの帯びた瞳にボクは少し圧倒された。ああ、この子は強い子だ。
ボクなんかよりもずっとずっと強い心を持った子だ。何故だかわからないけどお穣ちゃんの真っ直ぐボクを見る瞳からそんな風に感じさせられた。

「これからボクの話す事を全部信じて、決して嘘なんかじゃないんだ。そして出来ればボクの事を幻滅しないでほしいんだ」

「・・・・・・」

「約束、してくれる?」

「・・・うん、わかった約束するよ」

ボクの声に少し嬉しそうな笑みを浮かべた後、再び真剣みの浴びた瞳でボクを正面から見つめて騙り始めた。

「ボクはね・・・死神なんだよ」

「死神って・・・」

僕はその言葉を聞いて頭をフル回転させた。死神、と聞いて人は何を思い浮かべるだろう。
多くは、黒いローブの下に骸骨を隠し、三日月型の巨大な鎌を持つ姿を想起するのではないかと思う。

でもそれは外見であって、本質ではないわけで。

では死神の本質とは何か、死神とはそもそもどういったモノなのか。

辞書で調べれば「人を死に誘う神」。英語なら「Death」、或いは「Grim reaper」または「Reaper」のみで表記される。
「Death」は言わずもがな死の意。「Grim」は「厳格な;残酷な;無慈悲な」などの意味を持つ形容詞で、「Reaper」は「収穫者」などの意味を持つ。

「Reaper」は収穫者という意味を持つ言葉だが、何故これが死神の名称となりえたのか。
考えてみれば簡単なことで、人間が鎌を使って麦の穂首を刈り取るように、死神もまた人間の首を刈り取るのだ、と考えられた。
死神の持つ鎌はその象徴なのだろう。

そして死は無慈悲だ。故に「Grim」厳格に、区別なくやがて訪れる「収穫」だからこそその文字を冠したのだろう。

「Death」については語るまでもない。死が死神の与えるものであるなら、死神そのものが死を意味する。
ということはつまりだ、ボクの結論はこうだ。

(お嬢ちゃんが死神を自称するなら彼女は、人ではない。むしろ生きている存在ではない?)

「死神って言っても人間の命を奪う事なんて真似はできないんだ。ボクの役目っていうか、出来ることはその死んだ人の‘魂’を運ぶ事だけなんだ」

なるほど、お穣ちゃんの言う死神と言うのは死者の魂を刈り取るものでない。つまり

「お穣ちゃんは死者をあの世へと導く‘案内人’って事?」

「うん、そんな感じかな?」

「理解が早いですな」

「うん、まあ昔から勉強だけが取り柄だったから。で、続きを話して」

ボクがそう促すとお穣ちゃんは、少々戸惑う素振りを見せながらも話をしてくれた。

「あ、うん。この島には三年間地上に留まり続けていた魂があったんだよ。その子の名前は霧羽香澄。
彼女の魂は彼女の死後三年間、ずっとこの島の風見学園って場所に留まり続けていたの」

「あのようなケースは極めて珍しく現世に余程の未練がない限り、魂が地上に留まる事は不可能なのだ。
まあ、それ以外にも理由はあるだろうがそれはひとまずおいておくとしよう」

「そして、朝倉って人が彼女に出会ったのが三月一五日」

「え?ちょっと待って、何でお兄ちゃんがそこで出てくるの?ていうか、魂って一般人に見えるものなの?」

お兄ちゃんの名前が出てきて僕は立て続けに質問を浴びせた。それはボクがお兄ちゃんがまだ好きだら。
優しくて大きなお兄ちゃん、それは六年間たっても全く変わっていなかった。
そんなお兄ちゃんに何かあったと思うと、やっぱり冷静でなんていられない。

「ちょ、落ち着いてさくらちゃん」

「落ち着けないよ!ねえ、その日お兄ちゃんの身に何が合ったの?」

「落ち着くのだ、さくら殿。朝倉がどうして三月十五日に夜の学園に出没したかなんて我々も解らないのだ」

「じゃあ、どうやって死んだ人間にお兄ちゃんが会ったりしてたの?」

「そ、それは」

「その日が満月で三月十五日だったからだ」

アルキメデスの言葉にボクとお穣ちゃんは言葉を止め、彼?の方を一同に見つめた。

「どういう事?アルキメデス?」

「・・・・・・」

「我輩も今日はいささか疲れた、話の続きは後日にしよう」

そう言うとアルキメデスは何も喋らなくなった。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

その後、僕たちが取った行動は極めて迅速かつ少々破壊的だった。

「どういう事?アルキメデス、僕そんな話聞いてないよ!」

お穣ちゃんがアルキメデスをブンブンと振りまわし

「美春ちゃん、直伝‘バナナボンバー」

この時ばかりはボクも加勢した、その後ありとあらゆる手段でアルキメデスを喋らそうとしたが彼は幾多の拷問に打ち勝ったのだ。
畳に転がったアルキメデスは心なしかお迎えの近い老婆のように見えたのはおそらく気のせいだと思う。

「あ〜あ、もうダメだよさくらちゃん。ああなるとアルキメデス絶対に喋らないんだから」

「うん、そうみたいだね。そうだお穣ちゃん、お風呂まだ入ってないでしょ?一緒にはいろ!」

「え、でも」

「ね、早く早く家ってお風呂も広いんだよ」

「そうなの?」

「うん、だから早く入ろ!」

「うん!」

そう言うとボク達は浴槽へとバタバタと走っていった。この子は死神、でもこの子が人の命を奪っている存在ではない。
それに、この子の何処が死神なのだろう?こうしてみると何処にでも居る普通の子だ。優しくて、元気な幼い少女。
ボクは何だか妹が出来たみたいで嬉しかった。

ちなみに、バナナボンバーの破壊力とその技の全容はトップシークレットだ。




「・・・・・・」

「うにゃあ?」

「我輩の生殺与奪はあの二人に握られているのですな」

「にゃ?」

「・・・うたまる殿、我輩の味方は貴方だけですぞ」

「うにゃあ〜」

その夜、もう一つ奇妙な友情が生まれた。





続く

スズランさんから頂いた月と桜に込めた願い第4.5話です。
お穣はともかくアルキメデスの謎がさらに深まりました。
次回5話はまだ届いてないので私も楽しみです。
それでは次回の第5話で。



                                            
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