D.C.P.S〜ダ・カーポ プラスシチュエーション〜                     作者 スズラン〜幸福の再来〜


                                                       キャスト
                                                       主人公     朝倉 純一
                                                       メインヒロイン 霧羽 香澄
                                                       サブキャラ    名無しの少女
                                                                  芳乃 さくら
                                                                  霧羽 明日美




霧羽香澄After story月と桜に込めた願い〜悲シキ恋ノ詩〜




第四話 名無しの少女


「ここが貴方の家?」

家の門の前まで来て少女が上目遣いで俺を見上げながら呟いた。ちなみにまだ俺のシャツの腕の裾を掴んでいる。

「ああ、まあ上がれよ」

家の門を開けて少女と共に家の玄関へと入ると、安心したのかようやく腕の裾から手を放した。

「随分と広いお家だね」

「まあな」

「貴方はここに一人で住んでいるの?」

「ん、今はな」

「今?前までは違うの?」

「ああ」

「一人で寂しくないの?」

「・・・そりゃ、な」

ほんの数日前までは音夢とずっと二人でこの家に住んでいた。この少女を家に招いたのも唯単に寂しかったからかもしれない。
(先に言っておくが下心は一切無い)

あんなのでも俺のたった一人の妹だったし何より幼い頃からずっと一緒だったのだ。寂しくない訳が無い。

だが、もしも音夢がまだこの家に居た時の事を考えると、ほぼ他人としか言えない少女を連れてきた日にはどんな仕打ちが待っているか
解ったものではない。それを考えるとちょっと音夢が居ない事を安堵に感じる

「まあ、立ち話もなんだから入れよ」

靴を適当に脱ぎ捨てリビングへ少女を手招きした。少女は少々戸惑いながら俺の後に付いてきた。
まだ遠慮している所もあるのだろう、そういう姿を見ているとこちらまで微笑ましい気分になってしまう。
本質的にはおとなしい子なのかもしれない。



・・・・・・



・・・・・・



「うわー、フカフカだよ〜♪」

「お、お穣、目が回ります〜」

玄関からリビングに入って数分後には少女は‘ブラックうたまる’を抱えて共に騒がしくソファーの上をハネまくっていた。
まあ体が小さい分ソファーはまず壊れないと想定して、特に問題はないのだが・・・

「ボヨ〜ン、ボヨヨ〜ン、アハハハハハ〜♪」

「ひょえ〜」

少女以外の声も聞こえてくるのは俺の気のせいだろうか?とまあ、それよりもあの少女には聞いておかなくてはならない事が沢山ある。
まず第一に何故あんな場所で寝泊りをしていたのか?どういう経路であの‘ブラックうたまる’を入手したのか?俺的には後者の方が気になる。

(とは言うもののあの様子じゃ、しばらくは話が出来るような状況じゃないよな)

以前として少女はソファーの上をハネまくっては歓喜の叫びをあげている。こうして見ると彼女は本当に何処にでもいる普通の女の子だ。

でも、初めて会ったときの少女から放たれる奇異な雰囲気はなんなのだろうか?俺から見れば奇異なのは少女の外見だけでなく、
その外見から放たれる雰囲気だった。この感覚を俺はどこかで感じた事がある様な気がする。

(まあ、いいか)

テーブルで肘を付いて苦笑しながら俺はため息を付いた。何だか身近に自分以外の誰かが側に居るということはそれだけで嬉しいものだ。

でもそれとは逆に突然誰かが居なくなってしまった時の喪失感と不安といったらそれはもう、寂しいとしか言いようの事のないものだ。
俺はそれをイヤと言うほど経験させられている。

子供の頃に音夢が突然家から姿を消した事、さくらの突然のアメリカ行きが決まってしまった事、当たり前だった事がそうでなくなる。
それほどに辛い事はないのかもしれない。

香澄の時もそうだった。一緒に居た時間は短かったけれども、彼女が俺のそばにいた事が当たり前のような感じだった。
何故、たった一夜の間でそんな思いが生まれたのだろうか?それは俺にもわからないが今の俺は子供の頃に味わった時と同じ、
いやそれ以上の喪失感と不安を感じている。一体どうすればこの喪失感は癒えるのだろう?

まだ元気にソファーで跳ねている少女をぼんやりと見つめながらまた一つため息を付いた。






気が付いたら俺は夢の中にいた。そこは自分ではない誰かの夢の中で俺は唯、傍観者として存在するだけ。
声も出せなければなにも行動を起こすことも出来ない。

(この光景は)

黄昏の麦畑

それはかつて見た夢の光景だった。
確か前はこの光景の中で二人の少女の会話を聞いている間に風景が唐突にブラックアウトしてしまったような記憶がある。

(最悪の夢落ちをしない事を切に願うぜ)

不安を抱えながら俺はあたりを見回してみる。

右から左へ流れる優しい風

サラサラと風に揺られ美しい音色を奏でる麦達

この世の物とは思えないほど透明感のある綺麗な光景だと思う

でもそれ以上に何か胸が締め付けられるように悲しい。この場所は色々な‘感情’とでもいうのだろうか?そんなもので溢れていた。
強いて言うならその感情は「悲しみ」「未練」「恨み」という負の感情が溢れている。

そういえば前に神社の巫女さんをしているクラスメイトに聞いた話を思い出した。

陰陽五行説、この世の全てのモノには森羅万象の全てを陰と陽の2層に還元する思想で木、火、土、金、水の要素の働きを五行で還元すること。
陰陽五行説では、陰と陽が交合した五つの状態を「木、火、土、金、水」と分類される。
この中で木気は最も陽で、水気が最も陰、そして土がその中間にさしかかる。
直感ではあるが俺はこの場所が陽と陰が交差する土気に満ちている場所に感じられた。

何故、この風景を垣間見てそんなことを思い出したのかは定かではない。
それにしても一体誰がどんな気持ちでどんな思いを胸にこの風景を見ているのだろう?
少なくとも俺はこんな風景を見たいとは思わない。確かに静かで綺麗な風景であるかもしれない。
だがこの場所はあまり良い場所ではないと感じている。息苦しさや、だるさなどは感じないのだがなにか精神的に嫌な感じがする。
体ではなく心に負担がいくような感じだ。


『戻ってはダメ!』


唐突に声が響く

その声のする方へ視線を走らせると、そこには二つの影の形をした人の形をしたシュルエットが対自するように向き合っていた。
顔までは見ることは出来ないが二人とも華奢な体つきからどちらも女の子である事は確かで片方の女の子は極端に小さい。


『お願い、戻ってきちゃダメ!』


さっきより強い口調で片方の影はもう片方の影に話し掛ける。以前見た夢よりも彼女達の声はハッキリと聞こえた。
でもどちらの影が話し掛けているかは俺にはわからない。でも、その声にはどこか聞き覚えがあった。

「貴方がこのまま戻ってしまったら、もう二度と…なくなっちゃうんだよ!」

途中の声は聞こえなかったが、その声は必死で何かを止めようとしている。

『ゴメンネでも…に…切れそう…思…じゃ…だから』

(!?)

その声にはどこか聞き覚えがあった、途切れ途切れの言葉だが聞き違える筈がない。この声は…


ギュイイイイイイン______________________


(うおっ!)


急に足元が崩れ落ちたかと思うと、以前のようにその風景がドロドロと溶けていって暗い闇の中へと全てが飲み込まれていく。
無論、俺もその闇の渦へと飲み込まれていった。


(うわああああああああああ!)


意識が闇に落ちていく中、俺は決して聞き間違える事のない彼女の途切れた言葉が頭から離れなかった。


『ゴメンネでも簡単に途切れてしまうような思いじゃないから』と、



・・・・・・



・・・・・・



貴方は何処へ行こうとしているの?


その果てにあるものは何?


貴方の望む者は何?


それを自分の身を犠牲にしても‘ソレ’手に入れたい?



・・・一つ教えてあげる。



春の土気・・・今の貴女には「死の暗示」が出ている




・・・・・・・



・・・・・・・



・・・・・・・



「・・・丈夫?ねえ、起きて!大丈夫?」

「ん?」

悪夢から目を覚ますと目の前に黒い帽子を被った小さな少女が俺の事を心配そうに見つめていた。
助かった、と心底安心して俺はテーブルから体をゆっくりと起こした。

「そっか、そういや寝ちまったんだな」

テーブルの上で突っ返して寝ていたせいか妙に体が痛い。

(それにしても)

最近特に支離滅裂な嫌な夢を見る。あの麦畑は一体誰の夢だったのだろう?あんなタイプの夢を見せられたのは生まれて初めてだ。
後、最後に妙な言葉を聞いたな。

「ねえ、大丈夫?貴方、大分うなされてたけど」

まああんな夢を見せられた日には誰だって普通ではいられないだろう。どうやら俺は相当うなされていたみたいで、額には嫌な汗が流れていた。

「ん?ああ、大したこと無い、ってもうこんな時間か」

時計を見ると既に七時を過ぎていた。
そろそろ夕食を準備しなくてはならない。とはいうものの、眠気が完全に冷め切っていないせいか体が妙にだるい。
ああ、体がだるいのは最近の不謹慎な生活のせいかもしれないな。
出来るならこのまま面倒な事は投げ出してこのまま朝まで寝ちまいたい所だ。

「そういえば」

少女の姿を見てふと思った。はて?この少女は何故俺の家に居るのだろうか?
ああ、それは今日の昼頃に俺が家に来るように誘ったからで、そもそもこの少女の事は実は何も知らない訳で。
それでもって家にほぼ入ったと同時にソファーで騒ぎまくっていたから、少し落ち着いた時に少女に細かい素性を聞こうと思ったんだっけ?
そういや、さっきの夢の声だが片方はこいつの声に似ていたような気がする。
それよりも今俺は何をしようとしたんだっけ?うむ、可笑しいな。頭の回転が妙に悪い。

(むううううううううううううううう〜)

頭の中をフルバイブさせる。

「どうしたの?」

「むううううううううううううううう〜」

「ねえ、どうしたの?」

「むうううううううううううううう〜」

「ねえってば」

黒服の少女が俺に囁いている気がするが気にしない。
こういうことは頭の中で上手く整理できないと俺みたいな根本が単純な人間はどうにもスッキリしないタチなのだ。

「むううううううううううううう〜」

「唸ってるけど、大丈夫なのかな?」

少女が呟く。オーバーヒート寸前だが俺の足りない脳みそは依然としてその活動を辞めようとしない。

「あれ?お客さん?」

「むううううううううううううう〜」

「にゃにゃ、なにやってるの?お兄ちゃん」

今度はさくらがつぶやく

「うにゃあああ〜」

「むうううううううううう〜、む?」

限界突破寸前の所で俺の頭は活動を静止させ改めて辺りを見回した。
俺の視界に映るのはまず左から、全身黒服の名前も知らない小柄な少女、何時からいたのか同じく小柄な体の幼馴じみの芳乃さくら。

「にゃっほー、卒業パーチィ―以来だね♪お兄ちゃん」

そして俺の目線はさくらの頭へと向けられる。

「にゃあああああ〜」

「・・・・・・」

「にゃ?」

平和そうな顔で、宇宙の神秘は首を左右へと揺らしていた。




とにかく、突然の来訪者を加え二人と一匹をテーブルに座らせた。

「ねえ、お兄ちゃんこの僕と同じくらいちっちゃい子は何なの?」

「悪いがお前は少し黙っていてくれ」

「そうはいかないよお兄ちゃん!バカなこと考えちゃダメだよ!
いくら音夢ちゃんが居なくって寂しいのは解るけど、だからって犯罪なんかに走っちゃ・・・」

「・・・・・・」

無言でさくらの頭に標準を合わせ、丸い丸い頭をグワシと掴み何時もの1・5倍増しの力を入れてやった。

「久々の秘技、頭蓋骨鷲づかみィィィィ〜」

「いにゃにゃにゃにゃ〜!!」

当然のように苦痛の叫びをあげるさくら、この奥義はコイツの頭でしか出来ないE難度のスーパープレイだご賞味あれ。

「うわあ〜浮いてる、ねえ浮いてるよアルキメデス」

「み、見事なアイアンクローですな」

「いにゃにゃにゃにゃにゃ〜!痛いよお〜、しかもかなりパワーアップしてるぅ〜」

そろそろホントにコイツの頭が心配になったので地上に下ろしてやる。

「へにゃ」

妙な擬音を出しさくらはテーブルにつった返した。コイツは日を増すにどんどんネコ化していくな。それはそれとして問題の少女に目を映す。

「さて、そろそろお前の事を聞きたいんだがいいか?」

「ん?いいよ、ボクの答えられる事なら何でも」

非常に素直な返事だ。これならこの娘の問題も直に片付きそうだな。

「まず、呼び方に困るから名前を教えてくれ。」

「え?な、名前?」

「そう名前、自分の名前が言えないほどガキじゃないだろ?」

「う、うん、ちょ、ちょっと待ってて」

トテトテ、と部屋の隅のほうへ走って何やらあのぬいぐるみと話をしているみたいだが。

「腹話術の練習でもしてるのか?」

「いたたたた、腹話術?」

「ああ、あの‘ブラックうたまる’が相棒らしいぞ」

「うにゃ、あのぬいぐるみボクも欲しいなあ〜」

「・・・正気か?」

「うん、正気も正気、大正気だよ!あのダラーンと伸びた胴なんか特にプリチィ―だよ。ね、うたまる?」

「にゃあ!」

さくらの意見に参堂するように何時もより強く、うたまるは鳴いた気がする。コイツもコイツ也に‘ブラックうたまる’を気に入ったらしい。

少女はそのブラックうたまると一言、二言、対談が終りこちらに戻ってきた。

トテトテトテ____________

少女は咳払いをした後に元気に呟いた。

「お待たせしました!僕の名前は山田花子です」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「にゃあ?」

一同が沈黙した。これはもしやこの少女なりのボケだったのか?

「えと、違ったかな?」

「いや、俺に聞かれても・・・」

全国の山田花子さんを敵に回したくない俺は曖昧にそう答えるしか出来なかった。

「ちょ、ちょっと待てって」

トテトテテテテー_____________

再び少女はぬいぐるみを抱え部屋の隅へと走っていく。

「ねえ、お兄ちゃん?もしかしてあの子・・・」

「・・・何も言うな」

「あにゃあ、うんわかったよ」

聞き分けよくてお兄ちゃん嬉しい。恐らく俺もさくらと同じ事を考えているだろう。もし、もしもだ、それが事実であると思うと俺は

「最上級にかったるい」

トテトテテテテー____________

「お待たせしました!」

笑顔で戻ってきた少女に俺の思考と事実がシンクロしない事を切に願った。しかし、神様はあまりにも非常で意地悪だった。

「ボクの名前は綾小路鞘香です」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

今度はうたまるさえも沈黙した。これは、そのつまり

「これも違うの?」

目の前の少女が無垢な眼差しでこちらを見つめている。

「・・・俺、国へ帰る」

「お兄ちゃん諦めて、現実を受け入れよう」

何か疲れきったようにさくらは俺の肩にポンと手を置いた。

「かったる」

「ねえ、これも違うの?」

「なあ、お前それはマジで言っているのか?」

僅かな希望をかけ最後の質問を投げかけてみる。

「えーと、うん!」

帰ってきたのは満面の笑みだった。これで確信した俺はさっきから思い始めていた疑問を目の前の少女に投げかけたのだった。






「はあ、かったる」

ベットに仰向けになりため息をつく。久しぶりの訪問者のせいで、いつもの2,3倍は軽く疲れてしまった気がする。
その後、「お嬢」というあの少女はさくらの家に泊まることになった。

さくらに細かな事情を話したらお嬢は自分の家に泊めるといってくれたのだ。
それに関しては俺もすごく嬉しいのだが、さくら曰く「お兄ちゃんが犯罪者になって欲しくないから」というのが一番の理由らしい。

「しかし、記憶喪失だとはな」

お嬢曰く、思い出せないのは一部の記憶と自分の名前だけは思い出せないという。
この「お嬢」という呼び方も本人がそう呼んで欲しいと言ったからだ。その事実を話す時のお嬢の顔は何処か儚げで悲しそうだった。

名前とは「拠り所」だ。その拠り所というのは俺たちに安心を与えてくれる。
腹をいためて生んでくれた両親が願いを込めて付けてくれた名前、それは誇りでもあり心の芯にもなる。

だから世のあらゆるよろずには名前がつけられている。それこそ、道端の雑草にも。
名無し、それはお穣にとってどれだけ不安なのだろうか?俺にはそんな気持ちはわからない。

唯一つ、解った事と言えば人は様々な痛みや蟠りを持ち生きている。今俺の中にもその痛みはあった。



忘れたたくても忘れられない思い。



想い人を失った悲しみ。



俺はこの痛みを浄化する事無く一生背負い続けなくてはならないのだろうか?

「香澄・・・」

彼女はこんな俺を見て軽蔑するだろうか?知らず知らずの内にその名を呟き俺はいつものように夜の学校へ歩みを始めるのだった。


チリン______________


鈴の音が聞こえた気がした


その音に導かれるように


俺はいつものように夜の学園へと歩いてゆく


もう二度と逢えない人に逢いに行く為に・・・





続く

スズランさんから頂いた月と桜に込めた願い第4話です。
ついに純一が動き出します。頂いてる中ではまだ明日実が出てませんが、すぐに出てくるでしょう。
4話の長さはかなり長いです。その分話も深くなりますので、1〜3話も読み直すといいかもしれません。
次回4.5話ではさくら視点で動きます。
それでは次回の第4.5話で。



                                            
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