D.C.P.S〜ダ・カーポ プラスシチュエーション〜                     作者 スズラン〜幸福の再来〜


                                                       キャスト
                                                       主人公     朝倉 純一
                                                       メインヒロイン 霧羽 香澄
                                                       サブキャラ    名無しの少女
                                                                  芳乃 さくら
                                                                  霧羽 明日美




霧羽香澄After story月と桜に込めた願い〜悲シキ恋ノ詩〜




第3.5話




三月二十五日AM1:21



音夢がこの家を出て早三日、昼過ぎに起床した俺はリビングへ少し遅い朝食をとりに降りた。

実質、ウチの優秀な家政婦が消えて俺は一人暮らしをウハウハに満喫できると思ったのだが、家事というのは中々大変だった。
洗濯、風呂掃除、食後の後片付け、等とにかく一言で言ってしまえばかなり面倒なのだ。

今まで料理以外の家事を文句一つ言わずこなしていた、音夢を改めてすごいと思った。

これなら何処へ嫁に行かせても大体、問題はないのだろうか?

「行かせるかどうかは別問題だが」

行けたとしても、旦那は一日持たずに食中毒で入院というのが打倒だろう。

半ば、かなり失礼な事を(音夢に聞かれていたら、軽く火星辺りまで吹き飛ばされそうだ)本気で考えつつも、
俺は昼飯の入ったビニール袋を片手に桜公園を歩いていた。

一年中咲き続ける桜、今思えば不思議なものだ。

綺麗は確かに綺麗だが、地元人からみれば意外とうっとおしいものだ。灼熱の夏も凍えるような冬でもこの島の桜は常に満開に咲き続けるのだ。
一年中この馬鹿に鮮やかな花に目をめけ続けていると目が痛くなってくる。

「さて、これからどうすっかな」

このまま真っ直ぐ家に帰って飯を食らってもいいのだがそれはそれでなんだか面白みが無い。
たまにはどこか別の場所で昼食を取ってみたいものだ。
幸い今日は気温も暖かく心地よい日差しが差しているわけで、この公園の中で昼食を食べてもいい。

「となると、やっぱあそこだよな」

そう呟くと俺は道を外れ、公園の奥へ奥へと進んでいった。公園の草むらをかぎ分けてしばらく行った所にその場所はある。


桜だらけの島で、俺が知っている一番の大きな桜の木のある場所。林の奥にあるせいか誰もこの場所を知らない。
その桜の木に咲いた花びらは赤に近いピンクのような色をしている。

その場所はなんだか足を踏み入れてはいけない聖域とでも言おうか、
狂ったように咲き誇るこの桜を見ていると時間が経つのを忘れてしまうそうにもなる。

俺は良く一人でこの場所へ足を運ぶ、この場所へ来ると気持ちが落ち着くのだ。
余り人にも知られていない為一人になりたいときによく訪れるのだ。
俺の取って置きの場所でもあり、幼い頃の俺たちの秘密基地でもある。
この場所は俺、音夢、そしてさくらがよく一緒に遊んでいた秘密基地だった。

幼心ながら当時の俺はここに来ると、この大きな桜の木に守られているような心地よい気がして誰よりもこの場所が好きだった。

しかし、今はどうだろう?小さな頃からのお気に入りな場所に来ても、今の俺の心に曇ったモヤは取れそうに無かった。
そのモヤのせいだろうか、常に体が気だるい様な気がする。

「ふう」

重いため息を漏らし大木の幹へ体を預け、ドサリと座り込み視線を上へと泳がせた。
独特の色をした桜の花びらは俺の心を惑わせるように、狂ったように咲いてはその花びらを落としてゆく。

何故だか体が重い。まるで、

(何かに呪縛をかけられたような)

そんな気がした。最近本当に体調が優れないせいか、そんな気分にもなったのだろうか?
数日前の夢をみてから俺は常に体のどこかで気だるさを感じるようになった。

体のどこかが部分的に悪いという訳ではない。唯少し出歩いただけで簡単な事で息切れするようになってしまった。
例えばこのように唯何気なく昼飯を買いに外へ出歩いただけでも。

運動不足なのかも知れないがここまでの体力の低下は尋常じゃない。

「ホント、真面目に近いうちに医者に見てもらったほうが良さそうだ」

そう呟くとビニールの中から先ほどコンビニで購入したミックスサンドを取り出した。
中身はタマゴ、ツナ、サラダの三つのサンドイッチが一つの袋に詰め込まれたどこにでも売っているものだ。
袋を開封してまずはタマゴサンドを手に取り口に運ぶ。

「・・・不味いな」

そもそもたかがコンビニの商品に上手さを求める事、事態が可笑しいのだが本当に不味い。

と、言うか最近何を口にしても満腹感が得られなければ舌も上手いと感じない。
これも最近の体調不良が影響しているのだろうか?となるとかなり重症かもしれない。



チリン___________________________________




「ん?」


何処からか小さな鈴の音があたり一帯に響いた。その音は俺が幼い頃に音夢に上げた鈴の音にそっくりでどこか懐かしさを感じる音だった。

「う〜〜〜、お腹減ったあ〜」

気のせいか?今度は背後辺りから素っ頓狂な声が聞こえてきた。上手さを感じないサンドイッチを頬張りながら耳を済ませてみる。

「何処かに焼きたての焼きもろこし落ちてないかな?」

気のせいではない、俺の背後つまり裏側の木の幹からどこぞで聞いたあの黒い服の少女の声が聞こえた。

(こんな場所で一体何やってるんだ?)

俺は幹に身を預けなるべく音を立てないように後の気配に集中する。
別に後ろめたい事などまるで無いので存在を隠す理由は無いのだが、どうやらあの怪しいぬいぐるみになにか話し掛けているようだ。

「ねえ、アルキメデスお腹すいたよお」

「心頭滅却すれば火もまた涼し、といいますぞお穣」

「アルキメデスはぬいぐるみだからだよ〜」

「我輩の精神力が偉大なのです」

「なら、アルキメデスのハラワタ掻っ切って綿を全部抜いちゃってもお腹空かないの?」

「ぬ、お穣今日はなかなか鬼畜な事を・・・」



・・・・・・・



・・・・・・・




俺が思うに空腹に耐えかねて自前のぬいぐるみで腹話術をする事でその空腹感を忘れようと、している以外何も考えられない。

一つ確かなのは今、後の桜の大木の後にいる少女は確実に腹をすかしているという事。
そしてこの桜半径約10メートル以内の中で食糧なるものは俺の手の中のサンドイッチだけということになる。

(・・・かったりい)

致し方なく俺は桜の幹から立ち上がり木の後ろへと回り込んだ。
そこには案の定、数日前に出会った少女が桜の花びらに包まれるように静に木の幹に座っていたていた。

様子を見ると服や髪などはさほど乱れていないのだが、表情は随分と疲れていてこのまま放置して置くと直に逝ってしまいそうだ。

「・・・おい」

「ほえ?」

瞳うつろに少女の真赤な瞳が俺のほうへと向けられる。カラーコンタクトでもしているのだろうか?やけに綺麗な色をした瞳だ。

「何?ここはボクの場所だよ」

敵意のある視線が向けられる。まるで’ここは俺の縄張りだ’と言わんばかりに。

「ば、場所?」

「そうだよ、凄く寝心地がいいんだよ。だからボクの場所を取ったらダメだよ」

・・・・・・要するにナワバリを取られたくないという事はわかった。そして、この少女はこの場所で寝泊りしているという事も分かった。
こういう場合俺はどのような行動を取ったらよいのだろうか?

不本意ながら俺のほうから少女に話し掛けた訳だから無関係という訳にもいかない。

(我ながら面倒事に首を突っ込んでしまったな)



グウぅぅううぅ______________



「あうー、貴方のせいでまたお腹が減ってきたよ〜」

少女の腹の音が辺りに響き、足をバタバタとばたつかせる。黒いスカートから少女の白い太ももが露になり慌てて視線を逸らす。

(と、言うかお前が腹を空しているのは俺のせいではない)

「ならばこやつを喰らいますか?」

また腹話術をしているのか随分と酷いことを言う。いっそこのままトドメを指してやろうか?

「はあ、かったりぃ」

呟きながらも俺は片手に持った残り二つのサンドイッチを目の前の少女に差し出した。

「ほら喰えよ、腹減ってんだろ?」

「え?でもこれは貴方のものでしょ?いいの?」

上目遣いでうつろな赤い瞳が俺へと向けられる。真っ白い肌と整った顔立ち、つぶらな赤い瞳と銀色の髪。
初めてこの少女を見たときは真っ先にさくらを連想したが改めてよく見てみると全然あいつとは別だ。

童顔でチビと言う事は完璧すぎるほどにリンクしているのだが、身に纏っている雰囲気がまるで違った。

この少女にはなんだか‘儚げ’なオーラが出ているようなそんな感じがする。

言っちゃ悪いがあまりいい感じではない。どちらかといえば限りなくマ
イナスな雰囲気といった具合。半信半疑で感じた事である為、上手くまとめられないが恐らくそんな感じで間違いないと思う。

「あ、ああ食欲無くてな」

言葉を濁しサンドイッチを渡すと俺は少女のとなりへ腰を降ろした。肩を並べて見ると本当に小さな娘なんだと感じた。
さくらのヤツも十分に小さいのだがそれをもう一回り小さくしたような、それくらい小さい。

「ホントに?ありがとう」

にこー、と満面の笑みを浮かべると本当に幸せそうに少女はサンドイッチを頬張り始めた。



そういえば・・・



この場所と言えばさくらと幼い頃に別れた場所でもあり、家出をした音夢を見つけた場所でもある。

なんだか懐かしい事が次々と蘇ってくる。

さくらとはこの場所で再開の約束をして。音夢とはバカヤロウと、しかって二人で涙を流して家に連れ帰った。
今思えば懐かしい思い出だ。ざざざ、と静かな風が通り過ぎた。



思い出、



そう、思い出とは時間と共に色あせ風化していくモノ、



遠い過去の物、



記憶、



・・・そして、いずれは薄れていって忘れていってしまうモノ、



ざざざと風が吹き、辺り一面に桜吹雪が舞う。




俺は香澄との思い出をずっとこの胸に残しておく事が出来るだろうか?本当は残しておいてはいけない物なのかもしれない。

でも俺は香澄の事を忘れられない、忘れる事なんて出来ない。

‘思い出’そう呼ぶには短すぎたかもしれないが俺は・・・

「ぐっ」

ズキリ、と頭に小さな痛みが走った。

「ど、どうしたの?」

よっぽど腹が空いていたのだろう、少女は既にサンドイッチを二つ平らげて俺の事を心配そうに見つめていた。

「い、いやなんでもない」

くしゃり、と髪を書き上げる。その手には嫌なにじみ汗が付いていた。

「それよりお前、ここを寝床にしているみたいだが何日くらいここで寝泊りしていたんだ?」

嫌な空気が流れていたので俺から少女へと話を振ってみる。正直、まだ頭痛は残っているが耐えられないほどの痛みではない。
俺は出来るだけ普通を装った。

「うーん」

日にちを指折りに数えていく少女、体型からして歳はまだ小学生くらいだろうか?

「多分、3、4日位だと思うけど」

よく今日まで生きていたもんだ。今日ここに俺がココにこなかった死人が出ていたかもしれないな、そう考えれば自分が誇らしくも思えてくる。

(やっぱり、このままほっといて帰るわけにもいかないよな?)

少女の方へ視線を映して見ると、例の‘ブラックうたまる’になにやら話し掛けている、腹話術の練習だろうか?

「で、お前これから先もこの場所で寝泊りするつもりか?」

「うーん、寝心地も悪くないしボクとしては別に構わないかな」

「・・・良く聞いてくれ、幸いにも俺は悪人ではないつもりだ」

「うん、わかってる。悪い人だったらボクに食べ物をくれたりなんかしないもん」

再度、少女はにこーと笑う。

「と、言う訳だからちょっと付いてきなさい」

そう言うと俺は立ち上がり歩き始めた。少女も何の抵抗も無く素直に俺の後を追って付いてきてくれた。
そして俺の上着の腕の裾をキュッ、と掴んでいた。

「何だ?」

「こうしてればはぐれないから」

「・・・まあ、別にいいけど」

なんだか犯罪者になった気分だ。そんなことを考えながら俺は少女を連れて家路へと向かった。

自然と頭痛はスッカリと消えていた。




ざざざと三度風が吹いた。それは何かの知らせの様に・・・





続く

スズランさんの後書き
3話と4話の間を入れるのを忘れてました(恥だから今更ながら乗せます。
えー、私の確認不十分のせいでこのような形で今更3・5話を載せる事をお許しください。
3話、4話の間をみればこの話の内容も理解できると思います



                                            
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