D.C.P.S〜ダ・カーポ プラスシチュエーション〜                     作者 スズラン〜幸福の再来〜


                                                       キャスト
                                                       主人公     朝倉 純一
                                                       メインヒロイン 霧羽 香澄
                                                       サブキャラ    名無しの少女
                                                                  芳乃 さくら
                                                                  霧羽 明日美




霧羽香澄After story月と桜に込めた願い〜悲シキ恋ノ詩〜




第22話運命の夜The night of forthcoming chaos(後編)It is ... until a deadline




PM11:20


「う、あれ?」

目覚めてみれば、辺りは真っ暗だった。気がつけば自分は布団に寝かされていた。

(あれ?でもどうして?)

どうして自分が布団の中に居るのか、そもそもどうして自分は眠っていたのか、よく解らなかった。

とりあえず時計に目をやってみると時刻はとうに11時半近くになっていた。

「ああ、もうこんな時間かあ」

と、布団から出て伸びをする。我ながらへんな時間に寝てしまったものだ。

こりゃ今夜はもう眠れないかな、などと思いながらとりあえずもう一度布団に身を横たえる。

「って、違う!!!」

ガバリと、思い切り布団を剥いだ。寝ぼけていた思考が一気にクールダウンしてきた。

今日は14日で今の時間は11時20分。ああなんと言う事だ、ボクは今まで何もせずに眠っていたと言うのか。

辺りを見回す、人の気配がない。

「お嬢ちゃん?」

今まで数週間当たり前のようにいた少女の姿はそこには無かった。嫌な予感がする。それも最悪に嫌な予感が。



チリン_________



どこか遠くで鈴のなる音が聞こえた。その鈴の鳴ったほうを見てみる。

(嘘、でしょ?)

その光景にボクは言葉を失った。

隣部屋を隔てる襖は開きっぱなしになっており、本来そこで眠っていなくてはならない人がそこには居なかった。



チリン___________



ふと、記憶が蘇る。ボクが意識を失うほんの前の記憶。



『お嬢、コレは定められた事です。お嬢が気に病む事はないのです、今まで何年も言ってきたはずです。誰かがやらなければならぬ事なのです』

『・・・・・・』

『この朝倉と言う男の魂も運ぶやもわかりませぬ、覚悟だけはしておいてくだされ』



本当に背筋が凍りついた用な感覚がボクの全身を駆け巡った。

覚悟はしていた、それにしても突然すぎるだろう。



チリン_________



「お兄ちゃん!!!」

ボクは駆け出した。強く、強く、懇願しながら。

(お願い!お兄ちゃんを連れて行かないで!)



・・・・・・



・・・・・・



走った、とにかく走り続けた。

誰もいない街中を。

辺りは真っ暗闇に染まっている。これは尋常ではない、空は分厚い雲に覆われ島を覆っている空気さえ邪悪なモノに思えた。

長くこの島に住んでなお、この島の様子は異常であった。

道端には人っ子一人おらず、車も通っていない、まるで生きているものが自分以外居なくなってしまったような風景。

やがて住宅街を抜け桜並木の道に差し掛かる、その光景は住宅街の比ではなかった。

桜並木の桜は禍々しさを放ち、不気味にボクを見下ろしていた。それでもボクはその中を走っていく。

そろそろ胸が痛くなってきた。足にもガタが来ている。

(こんな事なら勉強だけじゃなくて日々、体力をつけておくんだった)

そう思った矢先、目の前に人影が見えた。やけにフラフラと目の前を歩いている。だがそのシルエットには見覚えがあった。

見間違うはずも無い、彼の姿を。

お兄ちゃんだ。

寝巻き姿でお兄ちゃんは桜並木の道をユラユラと進んでいる。今にも消えてしまうのではないかと思うくらい薄幸な後姿だった。

「っ!!」

ふと、あの夜の出来事がボクの脳裏に浮かんだ。

愛しい人からの初めての明確な拒絶、また同じ事をされたらと思うと、声を掛けるのは少し戸惑った。

(おにい・・・ちゃん)

どうしてもその言葉をかける勇気が湧かなかった。もうあんな辛い思いはしたくない。



ブアッ____________



ボクの横っ面を叩くように強い風がむせ駆るほどの桜の匂いとともに一閃した。すごい風で倒れそうなくらいだ。

「っつ!!!」

風の切る音が耳の中にゴウゴウと容赦なく入ってくる。本当にすごい風だ。

目の前は一斉に桜の花びらが舞い踊りその様はま桜吹雪と呼ぶにふさわしい。視界などあったものではない。

赤混じりの花びらがお兄ちゃんとボクとの間を容赦無く吹き荒れる。

まるでボクをこの先にいかせないようにしてるかのように。

まるでそれは‘何か’の境界線のような・・・

「っ!!」

一瞬、最悪の想像が頭によぎったがそれを打ち消しボクは桜吹雪に向かって絶叫した。




ごおおおおおおおおおおおお_____________



強い風に時折、体が持っていかれそうになる。それでも俺は足を止めず、懸命に前進する。

朦朧とした意識の中、俺は‘何処へ’向かっていた。それはここ最近、何度も繰り返した事。だったような気がする。

どうしてかソコの所の記憶は酷く曖昧で考えようとすると記憶にフィルターがかかったようになってしまう。

何も考えなくていい。俺はこのまま足が進むまま‘ソコ’へ行かなくてはならない。それは今の俺が唯一つこうして歩いていける原動力だった。
少しでもその意思を弱めてしまえば、俺の体は心や記憶を忘却し人形のような姿でこの道を徘徊しているところだろう。

(でも・・・)

こんなにも意識が不確かな状態でも一つだけ、酷く印象的に残っている記憶があった。

いつの夜だったか、誰かが泣いていた。

それはかつて誰よりも大切だった女の子。

幼い頃に絶対に守ると決めた女の子。

そいつは俺と同じ時間を過ごしてきたはずなのに、

姿はちっとも変わらなくて、

それでも心は誰よりも大人で、何時でも俺の事を気にかけてくれた女の子・・・

「・・・・・ん!!」

誰かの声がした気がした。

それは聞きなれた声と知っていてなお、懐かしさを覚えた。

「・・ちゃああああああん!!」

(何、必死こいてんだよ・・・)



―――段々と意識と忘却していた記憶が戻っていく



どうして自分はこんな夜道を歩いているのか。

自分は誰を求めているのか。

そしてあの夜にアイツにしてしまった事を・・・

「これじゃあ、婆ちゃんに祟られても文句言えないな」

かったりい、と久々に漏らし俺は・・・

「おにいちゃあああああああん!!」

バカみたいに必死をこいて俺を呼ぶ声に振り返った。目の前は目が眩むほどの桜吹雪が吹き荒れていた。

以前の俺ならお互いを隔てるように吹き荒れるソレを、何か絶対的な静止力のある障壁かと錯覚していただろう。

だがそれは単なる薄い花びらが目の前に吹き荒れているに過ぎない。何もたいしたことなどないのだ。

「おにいちゃああああああああああああああああん!!!」

アイツは顔を背けながら必死に声を上げていた。どうして顔を背けているのか?

俺がその呼びかけに気付かずに歩いていく姿をその目に焼き付けたくないからなのか。

俺は自分からアイツの元へ歩いていく。声を出してもよかった、でも自分がそうされたらきっと嬉しいと思ったから俺はアイツの傍へ行く。

(いや、違うか)

アイツを安心させたいのだろうな。

泣き顔は見たくないから。

守ると決めたから。



昔から何度もしてきたように、その小さな頭にポンと手を置いた。




暖かな感触が頭に降りた。それは昔変わらない懐かしい感触。

子供扱いされるのは大嫌いだった。

それでも、昔からこの人にだけは、こうされるとボクは成すがままになってしまうのだ。



暖かい____



世界一暖かい場所____



ボクが帰ってきた場所____



「何してんだ?こんな所で」

「・・・・・・」

その声に何も言わずにボクは恐る恐る顔を上げた。

そこには昔から一つも変わらない姿であの人が笑っていた。

「お、にいちゃん?」

「それ以外、あるか馬鹿」

頭をグシャグシャとかき回される。ボクはそんな様を髪を乱されながらもボーっと見上げていた。

「・・・ホント?」

「ホントだって」

「ホントにホント?」

「ホントにホント」

「ホントにホントにホント!?」

「って、オマエなあ」

「・・・・・・だってえ」

「ったく、ホラ」

お兄ちゃんがボクの目の前でポンと一口サイズの和菓子を出した。

「あ」

「コレでわかったろ?」

そう言ってその和菓子をボクの口に持ってきた。それをパクリと口の中に入れる。

「・・・甘い」

「甘くなかったら和菓子じゃないからな」

「うん」

その和菓子の甘さに涙が溢れてきた。その涙は止めようとしても止め処なく溢れ出してきた。

「お兄ちゃん!!」

たまらずボクはお兄ちゃんの胸に飛び込み声を上げて泣いた。今まで溜め込んだ思いが決壊したかのように泣き続けた。

お兄ちゃんはそれを邪険にもするでもなく無言でボクの頭を撫でてくれた。



・・・・・・



・・・・・・



「さて、そろそろ離れてくれ、さくら。もう時間はそんなに余って無くてな」

朝倉はカメラが半壊した携帯電話の時計を見て言った。

朝倉の胸に未だすっぽり収まっているさくらは、今の言葉を聞こえていないのか、聞こえていないフリをしているのかその場から動こうとしなかった。

「お、おい、さくら?」

「...かないで」

「え?」

「お願い、行かないでお兄ちゃん」

「・・・・・・」

「ねえ、一緒に帰ろう?今ならまだ引き返せる」

「・・・・・・」

「そうだ、ボク帰ったら美味しいもの作るよ。お兄ちゃんお腹空いてるでしょ?」

「・・・・・・」

「お兄ちゃんの大好物なら何でも知ってるからね、何でも作るよ?リクエストはある?」

「・・・・・・」

「お願いだよぉ、一緒に帰るって言ってよぉ」

「・・・さくら」

「死んじゃうかもしれないんだよ?」

「・・・ああ、そうかもしれないな」

「もう、戻って来れないかもしれないんだよ?」

「ああ」

「それなのにどうして・・・」

言ってしまうの?と、呟きさくらは顔を上げた。その碧眼の瞳には涙が一杯に貯まっていてその涙は止まることなく流れていく。

少し考えた後、その一滴を優しく拭い朝倉は言った。

「それでも・・・それでも叶えなきゃ行けない想いがあるんだ」

迷い無い口調で、さくらの目をみてハッキリと言った。

言葉は口に出す事でその者の力になる。迷いなど無い、俺がそうしたいと思った。

この身を犠牲にしてもそれは叶えなくてはならない願い。

それは自分の願いではない。叶えなくてはならないのは他の誰でもない‘彼女’の願い。

「・・・そっか」

「ああ、ゴメンな」

「そんな言葉、聞きたくない」

「悪い」

そう言って、朝倉は手を離して歩き始めた。さくらもその後姿を見送る事しか出来なかった。

もう朝倉に何を言っても無駄だと言う事が解っていたからだ。

「ああ、そうだ。言い忘れた事が一つあった」

「え?」

何か思い出したように朝倉は振り返り

「この間はゴメンな、いつか埋め合わせはする。それから、俺はいつだってオマエを守ってやるからな」

などと抜かした。

余りにものん気な口調で言うものだから、さくらはハトが豆鉄砲食らったような顔で暫く固まってしまった。

(もう、本当に)

なんて彼らしい、今まで涙を流していたのが馬鹿らしくなってきた。

本当にこの人は今から自身の身に危機が及ぼうとは思っていないのだろうか。

でも、ボクもそれならいつも通りに返さなくてはならない。

そうやって再び彼との日常が戻ってくるのなら。

「なら、思いっきりワガママ聞いてもらうんだから!!」

「ああ、何だって聞いてやる。今回ばかりはな」

「ホント?じゃあ、戻ってきたら手始めにチューでもしてもらうかなあ」

「馬鹿言え、10年はえーよ」

「あーーー、言ったなあ!!」

「ハハハハッ」

「アハハハハッ」

「ハハハっ、と、そろそろ行ってくらあ」

「お兄ちゃん」

「ん?」

「帰ってこなきゃ、嫌だからね」

「・・・ああ、解ってる」

「いってらっしゃい」

「おう、行ってくる!」

そう言うと爽快に朝倉は並木道を走り出した。自身の向かうべき場所へ、風見学園に。



「行かせちゃったんだね?」

暗闇から声が聞こえた。それは聞きなれた声で、ついのさっきまでずっと今まで一緒に居た少女の声。

「うん、そうだよ」

ボクは闇に向かって声を返す。

「それが、何を意味するか知っての行動か?」

「うん、わかってる」

「それなのにどうして」

「・・・・・・」

「どうして貴方はそうも簡単にあの人を送り出せたの?貴方の想い人は貴方じゃなく他の人の所へ行くというのに」

「・・・・・・」

「あの人は間違いなく帰ってこない、たとえその身を代償にしても願いを叶えられる事さえ出来ないかもしれない。そんなのは無駄死じゃないか」

少女の声も涙声だった。ああ、なんてこの子は優しいのだろう。どうしてこの世はこんなにも優しい死神を生み出してしまったのだろう?

今まで辛かっただろう。

何度だって痛い思いをしてきただろう。

でもどうして彼女が今でも死神であれるか。

それは彼女が優しく、強かったからだ。

「無駄死になんかにさせない、ボクがお兄ちゃんを救ってみせる」

「・・・・・・」

闇の中から彼女のすすり泣く声が聞こえる。例え彼女が自分の大切な人を奪ったとしてもボクは彼女を恨まないだろう。

今ならそれを堂々と言える。

でも、その言葉は言わない。

何故なら絶対におにいちゃんは帰ってくる、ボクはそう信じてる。

その為に、ボクはボクのできることを今からする。

「それにさ、自分が思いっきり好きになった人には、思いっきり幸せになってほしいじゃない?」

「・・・ボクにはわからないよ」

「それが愛なんだよ」

「愛?」

「そうだよ、よおおおし!!ようやく吹っ切れた。でもまだお兄ちゃんの事をあきらめたわけじゃないけどね♪」

「・・・・・・」

「さてと、ボクも行かなくちゃ。じゃあ、事が終わったらウチで焼きもろこしでも食べようね、お嬢ちゃん」

そういい残し、ボクも走り出す。お兄ちゃんの願いを、ボク自身の思いに決着をつけるために。



夢を見続けなくてはならなかった少年



出来損ないの魔法使い



半人前の死神



それぞれの思いは交差し合い、時はまもなく運命の時を迎える。




「ふう、ようやく到着したぜ」

息を上げながら携帯電話の時計を確認する。

時刻は午後11時58分。とりあえず目的の場所である風見学園の中庭に到着した。

今宵は星明りも無く目を凝らさなければ辺りの風景など無いに等しい。今日の島の様子は病み上がりの朝倉から見ても異常そのものだった。

音の無い市街地

嫌な雰囲気をかもし出していた桜並木道

「糞、嫌に不気味だな」

それはこの世界に自分以外誰もいなくなってしまったようなそんな感覚。

「いや、そんな生ぬるいもんじゃない」

自分だけが別世界に飛ばされてしまったかのような感覚という方が正しい。

15年間この初音島で育ってきて、こんなにも違和感を覚えたのは初めてだった。

「ったく、殆ど何も見えやしないな」

ぼやきながら足元を確かめるように中庭を歩き出す。動いていないと、その足で中庭の感触をかみ締めないと不安で仕方なかった。

どうにも視界が定まらないのでとりあえずゆっくりと出鱈目に歩いてみる。すると中庭の中心あたりに何かが光っているように見えた。

「?」

とりあえず、目指すものも無いのでその光に向かって歩き出した。

光と言ってもそれは砂の粒のように小さなもので、ここまで辺りが暗くないとそれは永遠に誰にも気付かれるものではないだろう。

「・・・・・・」

ゆっくりと確実にその光に近づいていく。やがてそれは円形のモノだと言うことに気がついた。

「あれ?」



ここにきてその小さな円形の光が少しづつ大きくなっている事に気付いた。



何かおかしいと思う前に朝倉の体は石のように固まってしまい、体の自由が聞かなくなってしまっていた。



(アレ?コレ、なんかやばくね)



その光はどんどんと大きく広がっていく、それと同時に辺りが光に満ちてくる。



「こ、これは」



その光が全て満ちたときに気付いた。



その光の正体は月の光だ。青白く光る月光は辺りを明るく染めていくのが解った。



それはなんと幻想的な光景か



月明かりがここまで明るいなど誰が知っていよう



その光は眩しくもあり暖かかった



それも当然、なぜならその月は



「まん、げつ」



そこで朝倉の意識は途絶えた。

彼が最後に見たものは、分厚い雲にぽっかりと穴が開いていて、その穴に綺麗にその満月が入っているという風景だった。





続く

スズランさんの後書き
次週最終回!!最終話「あの日見た情景〜last promise〜」をお送りします!!
不器用に生きてきた彼、彼女たちの最後は?最後の光景は、悲劇か、それとも...
そして、’あの人’は登場するのか!?



                                            
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