D.C.P.S〜ダ・カーポ プラスシチュエーション〜 作者 スズラン〜幸福の再来〜
キャスト
主人公 朝倉 純一
メインヒロイン 霧羽 香澄
サブキャラ
名無しの少女
芳乃 さくら
霧羽 明日美
霧羽香澄After story月と桜に込めた願い〜悲シキ恋ノ詩〜
第十九話失った記憶〜baker-baker paradox〜(It is 3rd until a deadline)
4月12日
・・・・・・
・・・・・・
・・・笑い声が聞こえる。
その笑い声は幸福に満ちた‘音’で
‘傍観者’である俺自身、その二人の笑い声を聞いているだけで幸せな気分になれた。
「______」
「______♪」
「_______」
「_______」
「______?」
「_______」
二人は終始笑いながら楽しく会話をしている。
二人はどうやら姉妹なようだ。
妹想いの優しい姉とその姉を本当に心から慕っている妹。
二人は「いつか二人揃って同じ学園に通おう」と話をしている。
妹の方は元々、病弱らしく姉よりも肩幅が一回り小さくベットの上にいる。
よほど重い病気なんだろうが、そんな事を気にもせず綺麗な笑顔で饒舌な姉の話を聴いていた。
それは何処にでもある、幸せに満ちた日常の風景。
____なのに
どうしてか俺にはその光景が悲しく見えてしまう。
なんでだろう?
こんな綺麗な光景なのに・・・
なんで俺はそんな事を思ってしまうのか?
俺は多分彼女たちの事を知っている。
そしてこの先、彼女たちの身に起こる避けられない残劇があることも・・・
俺は二人の内の姉の方に恋心を抱いた。
何でそんな事を知っているのか?
確かに彼女の仕草、声はおぼろげだが記憶に残っているのに・・・
どうしてか
姉妹の姉の顔だけは、モザイクが掛かったように真っ黒に染まっていた・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
懐かしい香りがする
ここはどこだ?
コンディションが良くないせいか体が言うことをきかない。
目も開けることすら出来ないが少なくとも俺の家じゃないことは確かだ。
ああ、でも懐かしい感覚。
部屋いっぱいの畳と桜の香り。
____いつか遠い日
まだアイツがこの島を出て行ってなかった時
こうして俺は布団の中でこの天井を見上げていた
どうして寝込んでいたのかは覚えていない
でも確かに俺は体調を崩していて
そんな時、アイツはガキながら必死に俺の看病をしてくれた
ただ、ただ、必死に
そんな必死な、頑張っているアイツの姿を俺はずっと見ていた。
多分俺は子供心にソイツの事が好きだったのかもしれない。
いや、恐らく本当に好きだったのだろう。
アイツが居なくなった時、俺は泣いた。
音夢が居なくなった時も、ばあちゃんが死んだときも確かに泣いたが、アイツが居なくなった時の涙はちょっと違った。
胸が締め付けられるような、何かかけがえの無いピースを失ってしまったような感覚。
ざざん___________________________________
風が入ってくるのがわかった。
桜の香りを運んで
桜
サクラ
さくら
(ああ、そうか)
アイツが俺の初恋だったんだな。
そして俺はゆっくりと瞳を開けた。
するとそこにはあの頃から変らない姿のままでアイツが俺の枕元に座っていた。
「よお」
いつもの様に、十年前まで当たり前のように俺の傍に居てくれてたさくらに声をかけた。
さくらは始め、俺が声を掛けたことに驚いたのか目と口をパクパクさせた。
やがて婆さん譲りのその大きな碧眼の瞳に涙を貯めて俺の首に飛びついてきた。
その重さも、温もりも本当に変ってない。
流れ行く時間の中で、互いに違うものを見て生きてきた俺たち。
周りの風景は変らなくとも取り巻く環境や関わってきた人間が変ってしまってもコイツだけは変っていない。
そんな事をどうしてか今、とても嬉しいと感じる自分が居た。
(ああ、それでも・・・)
俺の心は完全には満たされてくれない。ダメだ、頭がボーっとして何も考えられない。
何か俺は大切な‘忘れ物’をした気がするのに・・・
「お兄ちゃん!!」
ボクはお兄ちゃんが何事も無かったように「よお」と一言声を掛けてくれた瞬間、体が弾けたようにお兄ちゃんの体に抱きついた。
今のお兄ちゃんは病人だと理解している。
それでも、数日振りに聞いたその声に、数日振りに目を覚ましてくれたその事実がただ本当に嬉しくて・・・
「お、にいちゃん」
ボクは彼の前で本当に久しぶりの涙をこぼした。ああ、なんか最近泣いてばかりだな。やっぱりボクにはこの人が居ないとダメなのだ。
たとえボクだけを見てくれなくとも、
明確な拒絶をされてもボクはこの人の傍に居られるだけで幸せだった。
「良かった、良かった、目を覚ましてくれたんだねっ!良かったぁ」
涙が止まらなかった。
もう逢えないと思っていたのに、もう二度と目覚めないことも覚悟していたかえらこそ今の瞬間が本当に幸せに感じた。
_______目を・・・覚ましちゃったんだね
歓喜するボクの背後から、氷のような冷たい声が聞こえた。
振り返るとそこには怖いくらいの無表情で襖から顔半分を除かせてボクを見下ろすお嬢ちゃんが居た。
その少女はボクの知っているお嬢ちゃんとはかけ離れた、‘危うい’雰囲気を放っていた。例えるならそう、その姿はまるで・・・
「っ!!」
その思考を強引に胸に押しとどめた。その先は思ってはならない。思いたくない!目の前の少女が_神だなんて!!
ひた__________________
お嬢ちゃんが襖の奥からこの客間に足を踏み入れてきた。ただそれだけの事なのにどうしてこんなにも、自分の体温が凍っていくのだろう。
ひた__________________
ダメだ、恐れてはいけない。ボクはお嬢ちゃんの味方になると決めたのだから。
ひた__________________
半世紀もの間、ずっと傷つきながらも自分の仕事をやってきた少女を・・・
誰よりも強く、そして優しいこの死神さんの味方になろうと。
誰かがやらなければならない事、
でもそれは誰もやりたがらない事、
彼女を誰も攻める権利も恨む権利も無い。
(ああ、それでも)
ひた__________________
お嬢ちゃんがこのままお兄ちゃんの魂を連れて行ってしまうのなら、ボクはそれを黙って見ていることは出来ないだろう。
なんていう矛盾、
お嬢ちゃんの味方になると言いながら彼女の生業を否定したいと思う自分が居る。
ひた__________________
「っ!!!!!!」
こんな卑怯者で嘘吐きな自分に心底腹が立ち、思いっきり唇を噛んだ。鋭い痛みと共に口の中に鉄の味が広がっていく。
ふと視線を上げればいつの間にかお嬢ちゃんはボクの目の前、正確にはお兄ちゃんの寝ている布団の前までやってきた。
「・・・・・・」
お嬢ちゃんはただ黙って水晶のような澄み切った瞳でお兄ちゃんのことを見下ろしていた。
そして何を思ったのか徐にお兄ちゃんの枕元、正確にはボクのすぐ隣にへ膝を付いて座った。
「お、嬢ちゃん?」
名前を呼ぶもお嬢ちゃんはボクの声なんか聞こえないと言わんばかりの動作で、お兄ちゃんの虚ろな顔に自分の顔を近づけ始めた。
「えっ?」
一瞬、そのままキスでもしてしまうかと思った。
でもお嬢ちゃんは唯、自分のおでこをお兄ちゃんのおでこにそっとくっつけただけだった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
それは何とも不思議な光景だった。
その光景はどれくらい続いただろう?10分?20分?それとも一時間?もしかしたらものの1分も経っていないのかもしれない。
しばらくしてお嬢ちゃんはお兄ちゃんのおでこから自分のおでこを離しボクの方へ向き直った。
「さくらちゃん」
その感情の無い瞳がボクの姿を映す。
「な、何?」
「覚悟しておいた方がいいと思う」
「え?」
「状況はあんまり良くない、というか最悪かもしれない」
「そ、それってどういう?」
「あ、あ、あああああっ!!」
「!?」
瞬間、堰き切ったようにお兄ちゃんの嗚咽と怒号の混じった声が和室に木霊した。
見知らぬ女の子が俺の前に立っていた。
ソイツを真っ黒な服に身を包みガラス玉のような真っ赤な瞳で俺の事を見下ろしていた。
(コイツ、誰だっけ?)
何処かで見覚えのあるその少女は徐に俺の傍によって来て何を思ったのか俺のおでこに自らのおでこを合わせた。
あどけなさの残る少女の顔が視界いっぱいに映る。
本当なら戸惑うところなんだろうが少女が重ねてきたおでこは思っていたほどひんやりとしていて気持ちよく、しばらくこのままでいてもいいと思えた。
『貴方は・・・今、何を望んでいる?』
(え?)
頭の中に声が響いてきた。
その瞬間、辺りの音が消えた。
なんだ?この感覚は、金縛りにあったかのように体が動かない。
『貴方は、何を欲っしているの?』
(え?それって、どういう?)
『貴方はその願いを欲っしてはいけない、何故なら貴方は・・・』
一体、この声の主は何を言っているのかサッパリ解らない。でも一つだけ引っかかることがある。
声の言う‘願い’とは、さっきから思い出せない‘あの女の子’のことと何か関係があるのではないかと、そう思えてならない。
(俺は・・・一体何を忘れてしまった?)
『そう、記憶が消えたのね。‘境界’に近づきつつあるんだね』
(境界?なんだそれ?それよりアンタは知っているのか?俺が何を忘れているのかを)
『・・・・・・』
(答えてくれよ!大切な記憶だったはずなんだ!俺の中で決して忘れてはいけない記憶なんだよ!!知ってるなら教えてくれよ!!)
『・・・どうせ、壊れてしまうなら』
(え?)
『わかったよ、なら見せてあげる。数日前、あなたも見た風景を』
その言葉を最後に俺の意識は夢の中へと堕ちて行った。
ざああああああああああああ_________________
気がつけば俺はいつかの夢の情景の中に居た。
それは半月ほど前に見た麦畑の風景。
何処を見ても目に映るのは果てしない麦畑。
何も無い寂しい場所。
でもその場所には本来世界にあるべき「負」なる概念が存在しない、いわば聖域。
‘人間’がいてはならない場所。
何でそんなことが解るのかは俺にもわからない。でも唯そう感じた。
前にこの風景を見たときはあまりいい感じはしなかった。
でも今はこんなにもこの場所の存在を受け入れられる気がする。
このまま身を任せてこの風景の中に溶け込んでいけたらどんなに気持ちがいいだろう。
「ダメだよ」
突然、誰かの声が響いた。とっさにその声のする方へ振り返ってみる。
「え?」
そこにはさっきの黒い少女がなんら変わりない姿でそこに立っていた。そしてその少女はその容姿に似合わないくらいの冷たい声を発した。
「この場所を受け入れてしまったら、貴方は貴方でなくなってしまう」
「?それって、どういう・・・」
「ちょっと時間が無いから手短に言うね、この場所は言わば‘境界’なる場所なの。
本来この場所に意識下の状態で来れるのはボクのような存在だけなんだけど、貴方はどういう訳かこの場所に存在できてしまっている。
それはとてもいけないこと、でも今回は特別。貴方が大切な記憶を思い出したいというからボクは貴方をこの場所、
正確には貴方の過去に見た記憶をもう一度みせてあげることにした」
目の前の少女の行ってる意味はさっぱり解らなかった。
‘境界’何のことだろう?それよりも彼女は俺の大切な記憶を思い出させてくれると言った。
それとこの場所は何か関係があるのだろうか?
『戻ってはダメ!』
「ん?」
また別の方から声が響いた、でもその声は俺の聞き違い出なければ・・・
「今の声は、君?」
と、目の前の黒い少女に問いかけるも彼女は首を横に振った後、スッと指をさした。その指をさした所には・・・
「嗚嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼アアアっ!!!!」
「お兄ちゃん落ち着いて!お兄ちゃん!!」
「嗚呼嗚呼嗚呼アアアアっ、俺はっ、俺はあああああああっ!!」
ボクはこの状況をイマイチ理解できなかった。
お嬢ちゃんがお兄ちゃんのおでこから自分のおでこを離し、少し経った時にはもうこんな状況になっていた。
突然、お兄ちゃんが取り乱し始めたのだ。大声を張り上げ、自分の頭を掻き毟り、子供のように地団駄を踏み、大声で泣き叫んでいた。
その様は癇癪を起こした赤ん坊のようだった。
「俺はっ!俺はっ!!」
「お兄ちゃん!!お願い、おとなしくして!!」
「うおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
ボクはお兄ちゃんを落ち着かせようとその体を抑えようと懸命だった。
でも自分のひと周りもふた周りも大きな人間を押さえ込む事は出来るはずもなく、ましてやたとえ病人とはいえ相手は男の子だ。
ボクのような小さな女の子がどうにか出来る相手ではない。
「お嬢ちゃん!!お願い手を・・・」
貸して!と言おうとしてお嬢ちゃんの居る背後に目を向けた瞬間その口が塞がった。
さっきまで氷のような眼をした少女はとても悲しげな瞳でボクと苦しみに悶えるお兄ちゃんの姿を見つめていた。
続く
スズランさんの後書き
うーん、「ひぐらし」「Fate」「スパロボOG」なんぞやってたら更新が二ヶ月も遅れてしまったwww