D.C.P.S〜ダ・カーポ プラスシチュエーション〜                     作者 スズラン〜幸福の再来〜


                                                       キャスト
                                                       主人公     朝倉 純一
                                                       メインヒロイン 霧羽 香澄
                                                       サブキャラ    名無しの少女
                                                                  芳乃 さくら
                                                                  霧羽 明日美




霧羽香澄After story月と桜に込めた願い〜悲シキ恋ノ詩〜




第18話破滅への序曲〜An overture to ruin(It is 4th until a deadline)





4月11日



PM9:00




ざざああああああああああああ______________




その部屋で唯、その人の寝顔をずっとみていた。

部屋の電気は消して縁側の扉を全快に開けて外から漏れる青白い月明かりだけが、ボクとその人を照らしていた。



ざああああああああああああ______________



風が部屋の中へ入ってくる。嫌な風だ、風だけじゃない。この島を覆う空気そのものが不穏だ。数日前はそんな事はちっとも感じなかったのに・・・

「・・・・・・」

空を見上げる。

そこにはあと少しで完璧に満ちてしまう月がボクをあざ笑うかのように浮かんでいた。

その日の月は見れば見るほどに不気味で赤く染まっていた。

その月明かりさえもうっとおしい。



(ああ、月の光が重い)



どうしてそんな事を思ってしまったのだろう?でもそれは実に的確に今の自分の心情を描いているようにも思えた。

異常だ・・・

とにかく全てがおかしい。
この場所は本当にボクが・・・おばあちゃんが愛した初音島か?と思うほどに今の初音島はまるで別世界のように感じる。
他の人にはそれが解らなくともボクには解ってしまう。
魔法使いの末裔であるボクはこの島の異変には一番敏感なのだ。

「・・・・・・」

彼のほうへ視線を移し、その人の枕元で無言で寝顔を見つめる。

肌にハリが無い、この人の顔はこんなに真っ白くなかった、いつも血気に溢れていた。

それなのにこの姿はなんだろう。

胸が上下している所を見るところ、眠っているように見えるがそれも無ければそれこそ死体のようにもみえてしまう。



ザザン______________



強い風が吹いた。庭の桜を揺らし花びらが数枚部屋に入ってくる。その人の体を包み込むように。

無論それはただの錯覚だろうが今は桜の花びらがうっとおしく思えてその花びらを邪険に払った。

「・・・・・・」

外から照らされる月明かりのせいか、その人の体が不意に儚く危うい存在(モノ)に見えて不安になったのでその人の頬に手を触れた。

「・・・冷たい」

その頬は熱が通っていない人形のように冷たかった。



カチッ______________



「っ!?」

突然部屋に明かりが灯り思わず目を伏せた。

長い間、暗闇に目が慣れていたせいか視界がハッキリしない。

「電気も付けないで何やってるの?」

「え?ああ、お嬢ちゃん」

何時からいたのか、そこにはお嬢ちゃんとその腕に抱かれたアルキメデスが表情無く立っていた。

「随分と疲れているようだが・・・体を壊しても知らんぞ?」

「アレ?珍しく優しいんだね、アルキメデス」

「フン、ここ三日間のお主を見ていれば気にもかけたくなるわ」

「うん・・・そっか、ゴメン」

「・・・誤られることでもない、おせっかいついでに言えば少し休め」

「そうだよ、この三日間さくら殆ど寝てないでしょ?」

「・・・・・・」

ボクは二人の提案に甘えもせず無言で再び視線をお兄ちゃんの顔へ移した。

確かにこの三日間ボクはろくに睡眠を取っていない。

言い換えればこの三日間まるで生きた心地がしなかったのだ。



・・・・・・・・・・・・



・・・・・・・・・



・・・・・・






三日前の夜、突然お兄ちゃんが学校で倒れたという連絡がどういうわけか杉並君からの電話で知って、急いで水越病院へと行った。

ボクが水越病院に到着したときは既に面会時間は過ぎていて、お兄ちゃんの検査も完全に終わっていなかった。

それでもボクは水越さん達に頼み込んで病院に残った。



お兄ちゃんが倒れた理由――



心当たりが無いといえば嘘になる。お兄ちゃんが倒れたその日から初音島の異変は目に見えるほどになってきていた。

一面ピンク色の花を咲かせた多くの桜の木々は、所々に血のような真っ赤な花びらを咲かせるようになった。

異常だ、こんな異変は今までに無い。

ボクは今まで見慣れてきた桜の木々、強いてはこの初音島に言い用の無い恐怖を感じながらお兄ちゃんの検査の結果を待った。

検査の結果が出たのは明け方ごろだった。

原因は不明、ただお兄ちゃんの体は病魔に冒されたように髄弱しきっていてあまり良い状況ではなかった。

検査をした水越さんのお父さんにしてみれば「何をしても結果は変わらない」だそうだ。

その申告を聴いて不思議と動揺はしなかった。何故なら今のお兄ちゃんの体は医学でどうにか出来るレベルではない。

水越さんがお父さんに大声で詰め寄り、白河さんと霧羽さんは声をだして涙を流しているその横で・・・





ボクは静かに、唯その事実を冷酷に受け入れていた。







・・・・・・・・・・・・



・・・・・・・・・



・・・・・・





そしてお兄ちゃんはココに居る。

水越さんのお父さんに無理を言ってここまでお兄ちゃんを運ぶように頼み込んだのだ。

本当なら了承されるような事じゃない。

それでもボクは頼み込んだ。

必死に

必死に頭を下げ続けた。

解っている、許可が出ないことなど、出るはずの無いことなど。それでもボクは頼み込んだ。

どうしてこんな事をしているのか自分でもよく解らなかった。

理由があるとしたらそう、ボク自身たとえお兄ちゃんに拒絶されたとしても傍に居たかったからというボクのエゴだ。

一時間、くらい頭を下げ続けた頃だろうか?

水越先生はさっきまで頑なに了承を拒んでいたが、いきなりボクの家にお兄ちゃんを移すことを了承してくれた。

あまりにあっさりと了承してくれたのに対しボクはしばし言葉を失った。

その後の対応は実にスムーズでお兄ちゃんを水越先生のワゴン車に乗せて急いでウチに直行してくれた。

その時、先生は助手席のボクにこう言った。



『誰だって最後は自分の生まれ育った場所で天寿を全うしたいだろうからね』



本当に寂しそうな顔で水越先生はボソリと呟いた。その言葉が今でも脳裏から離れない。

その言葉のせいかボクはお兄ちゃんの傍を離れなかった。どんなことがあっても離れたくなかった。

仕方ないではないか。

こんなにもお兄ちゃんは弱っていて、一秒でも目を離してしまうとお兄ちゃんはどこか違う場所に行ってしまうような予感がしてたまらないのだ。

「さくらちゃん」

お嬢ちゃんがボクの隣に来て心配そうな横顔をコチラに向けてくる。

チリン――――

彼女の帽子の鈴が静かに部屋に鳴り響く。その音はゾッとするほど無機質でよく響いた。

「ねえ、さくらちゃん、少しだけ休もう?ね?」

「・・・・・・」

ボクは答えない。何を言われたって今のボクは絶対にここから動かない。

「ねえ、さくらちゃん」

「・・・・・・」

「さくらちゃん、お願いだよ・・・」

「・・・・・・」

「さくらちゃん・・・」

「・・・・・・」

今のボクはお嬢ちゃんの言葉に耳を貸すわけには行かない。

彼女には本当に悪いとは思っている。でもコレはボク自身の問題であり責任でもある。

なんとかしなくてはいけない。大切な人を亡くさないためにも、この島の人たちの笑顔を守るためにもボクがなんとかしなくては。

(そう、ボクがなんとかしなくちゃ)

「この阿呆!!いい加減にしないか芳乃さくら!!」

「!?」

「!?、あるき、メデス?」

ビリビリっと、この部屋の辛気臭い空気がアルキメデスの一括に振り払われた。

その声はボクの意識を一気に現実へ戻した。

大きな、本当に大きな声だった。アルキメデスと長い付き合いであるお嬢ちゃんも目を見開いてビックリしている。

「全く、お主はちっとも進歩していないではないか・・・あの夜から少しは進歩したと思ったのだがな」

呆れるようにため息交じりでアルキメデスは言う。

「な、何?ほっといて!」

「フン、我輩とて御主がどうなろうとも関係は無い。だがここでお主の愚考を正しておかなくては後でお嬢が悲しむ」

『え?』

お嬢ちゃんと一緒に同時に声を出した。

自分の名前を出されたことが意外だったのかお嬢ちゃんの顔はポッカリと口をあけて自らの腕の中に居るぬいぐるみに意識を向けた。

「いいか、芳乃さくら。朝倉純一の体の不調、初音島の異変、これらは全ての要因は確かにお主の責任の一端でもあることは事実であるかもしれない。
だがそれを一人で抱え込むな、そのように自分ひとりで何とかしようとすると何時かはボロが出る。
人間という生き物は御主らが思っているほど強い生き物ではない。
だから寄り添いあって生きていくのだ。家族が夕食時に卓を囲むのが当たり前のように、友達と遊ぶのが当たり前のように。
だから悩み事があるのなら、自身の自己嫌悪に押しつぶされそうになるほど苦しいのなら、我々を頼れ。もう我らは他人ではない。友達なのだろう?」



「・・・・・・」



――ガツン、とその言葉はボクの心に響き渡り波紋を起こすように想いが広がっていく



――彼の言葉にボクは何も言えなかった



「と、とにかくだ!お嬢はそう言いたかったのだ!べ、別に我輩は御主ためなんて微塵も思ってなどおらん!」



――その言葉が単なる口実だけではないと解ってしまったから



「素直じゃないなあアルキメデスは」



――言葉には思いが宿る、と言うが



「な、何を言いますか!お嬢、我輩はお嬢の為にっ!」



――それはどうやら本当なようだ



――今の言葉を、言葉に込められた想いを



「ハイハイ、そういうことにしといてあげるから」



――全て大切に包み込んで取っておきたいくらいに



――ボクの心は澄んだ水面のように穏やかになった



「ったく・・・何をボーっとしておるのだ!解ったのなら早く御主も少し休息をって、む?」

不機嫌そうに語るアルキメデスの頭にボクは優しく手を置いてその頭を撫でた。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

ひとしきに頭を撫でて見つめあった後、ボクが何を言おうと悟ったのか彼の姿が少し照れているようにも見えた。

「じゃ、少しだけ休もうかな?」

そう言ってお嬢ちゃんに眼を移すとお嬢ちゃんの顔は見る見るうちに笑顔になって

「うん!じゃあボク、お布団もって来るね!用意はボクがしてあげるからさくらちゃんは待っててね、絶対だよ?」

そう言ってアルキメデスを放り出して物凄い勢いで廊下を駆けていった。

一応病人がいるのだからもう少し静かに事を進めてほしかったものなのだが・・・



ポテ______________



っと、何か足元に黒い物体が落ちてきた。それが何なのか大体予想は付いていたのでとりあえず持ち上げてみた。

「じィ〜〜」

「・・・・・・」

とりあえずジィ〜っと見てみる。あ、何か今照れた。最近、無表情なこのぬいぐるみの感情が判ってきたような気がする。

さて、とりあえずさっきは無言で過ごしてしまったけどこういう事はやはりしっかり言葉で伝えるべきだろう。

ボクは彼の耳元で小さな声で

「ありがと、後、ゴメンね」

そう言ってボクは彼の頬に軽くキスをしてあげた。





続く

スズランさんの後書き
物語は最終章に入っていきました。次の次で大体の真実は明らかになるとは思います。
このSSのヒロインであるあの人の登場もそろそろです。



                                            
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