D.C.P.S〜ダ・カーポ プラスシチュエーション〜                     作者 スズラン〜幸福の再来〜


                                                       キャスト
                                                       主人公     朝倉 純一
                                                       メインヒロイン 霧羽 香澄
                                                       サブキャラ    名無しの少女
                                                                  芳乃 さくら
                                                                  霧羽 明日美




霧羽香澄After story月と桜に込めた願い〜悲シキ恋ノ詩〜




第十七話without you後編



四月九日



PM3:10



「という訳で明日は新入生歓迎のクラブ紹介があるからみんななるべく出席するよーに、じゃ解散」

暦先生は連絡事項をとっとと伝えホームルームをお開きにした。

それと同時にクラスの連中は一斉に席を立ち上がりワイワイ・ガヤガヤと騒ぎながら教室を後にしていく。

そんな何気ない日常の一コマを物珍しそうに俺はボーっと見つめていた。

(さて、今日はどうするかな?)

なんて考えてみるも多分もう答えは決まっている。俺の予想だともうそろそろ後ろから控えめな声で

「朝倉さん」

と、呼ぶ声が案の定聞こえた。その彼女の問いかけに微笑しながら俺は振り返った。

「よお」

「あ、あの、今日も一緒に・・・そのぉ」

明日美さんは両手を合わせてモジモジと顔を真っ赤にしている。

(唯、一緒に下校しようと言うだけなのにどうしてこの子はこんなに一生懸命なのかね)

まあそれが毎度毎度、初々しくて見てる分では結構面白くて明日美さんの可愛いところであるのだが。

「え、えっとですね、私、今日は掃除当番なので・・・」

「ああ、わかったよ。じゃあ屋上に居るから終わったら向かいにきてよ」

始業式の日から俺と明日美さんはこんな風にいつも一緒に下校をしている。

最も下校以外の時間も彼女と一緒に時を過ごしている時間は長いわけなのだが。

「はい、わかりました」

「んじゃ、後でな」

そういって俺は教室を後にして屋上へ続く廊下をトコトコと歩き出した。そういえばひとつ俺の周りで変化が起きていた。

あの始業式の日からどういうわけか、春休み中からずっと続いていた体調不良が突然なくなった。

春休み中のコンディションの悪さがまるで夢だったかのように今現在、自分の体がここまで軽く感じたことはない。

(でもどうして突然・・・)

そう、なぜ春休み中、一考に快復しなかった俺のコンディションが今になって全快になったのかはおれ自身わからないでいた。

確かに春休みの間は不摂生な生活を送っていた。でもその不摂生が体調不良の原因とは俺は思えないでいた。

こう、原因はそんなに明確なものではなくもっと別の部分に・・・

そう何か、メンタルな問題・・・

それも違う気がする・・・

「ま、いっか」

別に今になって後の事を悩む事は無いだろう。もう済んだことなんだから。

まあそれでも何か理由があるとしたら・・・

(ここ最近、明日美さんと一緒にいるからかな?)

なんて浮ついたことを考えながら屋上へ向かった。



ж



・・・・・・



・・・・・・



「はぁ」

「そんなあからさまなため息つくなよ、ことり」

「はぁ」

全く本当に可愛いくらいに素直だな。これでもう四度目のため息、今日も白河ことりさんは‘鬱々さん’のようだ。その鬱々の原因は・・・

「朝倉と最近二人きりになれないからだよな?」

「・・・そんなんじゃないモン」

あらら、顔をふくらませちゃってこの子は・・・

「そんなムクレ顔、朝倉が見たら何て言うか」

「・・・工藤君の意地悪」

「ハハッ、悪かったよ。でも本当にいつも一緒にいるな‘あの二人’」

あの二人とは朝倉と霧羽さんの事だ。最近ではあの二人、良く一緒にいるところを見かける。

「うん、そうだね」

「で、ことりはこのままでいいの?」

「・・・・・・」

ことりは何も答えずに俯いた。彼女は時折、こんな顔で考え込む癖がある。こうやって考え込む時は決まってことりは鋭い事を言う。

それで俺のいや、‘私’の正体だって見破ってしまったのだから。

「なんだかね・・・」

「うん」

「あの二人には同じような雰囲気を感じるんだよ」

「朝倉と霧羽さんに?」

「うん、でね、‘それ’はあの二人にしかわからないことなの。‘それ’が一体何なのかは解らないけど多分、共通の傷みたいなものなのかな?」

「傷?」

「ちょっと言い方が悪かったかな?うーん、記憶?いや、‘思い’って言った方がいいかも」

「??」

「とにかくそういうことなの。だから私はもう少しだけあの二人には近づかないでおこうと思うの、そうした方がいいと思うから・・・」

「ことり?」

ふう、と深呼吸を一つしてことりは正面を向き直った。どうやら考え事は終わったみたいだ。で、この後決まってことりは・・・

「じゃ、クレープ食べに行こうか?」

と、言うのだった。

「ハイハイ、行きましょうか」

「む〜、何ですか、その態度は?」

「別に?なんでもないよ?」

「あ、そういえばさ、杉並君最近学校来てないよね?どうしたのかな?」

「ああ、何やら‘学園七不思議’に誤りを見つけたらしいからその調査と以前の七不思議の情報改変、証拠隠滅に暫く地上には出てこないらしい」

「あははっ、何それ?」

そんな風に笑いながら私たちは公園のクレープ屋に向かうのだった。

でもことり、いつかは思いは伝えなきゃダメだよ?貴方は私と違って思いを伝えることが出来るのだから。



ж



・・・・・・



・・・・・・




ああ、今日もいい天気だ。春独特の心地よい陽光が体に染み渡っていくようでなんだか気持ちいい。段々と眠くなってきた

‘春眠暁を覚えず’というのだろうか?

ここ最近は例の‘夜の外出’も控えるようになって規則正しい生活に戻って入るのだが、やはり眠たいものは眠たい。

「ふああ〜あ」

明日美さんには悪いけど少し眠らせてもらおう。なあに、少しの時間だ。明日美さんが戻ってくる頃までにはきっと目を覚ましているだろうよ。

「じゃ、おやすみ〜」

そう言って俺はベンチに体を預け静かに目をつぶった。驚くくらいに眠気が一気に襲ってきて俺は夢の世界へ引き込まれていった。








・・・・・・・・・





・・・・・・・・・





・・・・・





・・・暗い



・・・何も見えない



ここは何処だ?



上も下も見渡す限り墨で塗りつぶされたような真っ黒な空間。



自分の存在までも見失ってしまいそうな世界。



孤独・・・



なぜだかその言葉がすっ、と出てきた。



孤独?誰の?



解らない。



この空間は一体なんなのだろう?





・・・ざざああああああああああああ______________





音が聞こえる・・・



どこかで聴いたことがあるやさしい音・・・



ああ、そうだ。



麦の穂が揺れる音だ



(でもどうして俺、麦の穂の音って・・・)





・・・・・・・・・





・・・・・・・・・





・・・・・・





「あ、レ?」

今度は視界が真っ赤だ。

「う、おっ」

目を開けると真っ赤な光が俺の眼球を直撃した。眩しい、目がジンジンする。再び目を開けようとしても、なかなか視界が回復しない。

「俺は・・・」

どうしてこんな所に?

「目が覚めましたか?朝倉さん」

「ん?」

ゆっくりと慎重に目を薄めながら瞳を開ける。黒いシュリエットが目の前にある、まだ視界は快復しない。

「ん?」

(あれ?このシュリエット、どこかで見たことあるな)

段々と視界が回復してきた、それと同時に黒い人の形をしたシュリエットも明らかになってくる。これは・・・

「おあっ!あ、明日美さん?」

明日美さんの顔を見て思わずベンチから飛び起きた。

「アレ?何で?ってか、夕方?」

どうして俺はこんないたんだっけ?というより、いつの間にか辺りは夕焼けに染まっている。

「酷いです朝倉さん。私が掃除の間、屋上で待ってるって言ったじゃないですか」

「あ、ああ、そういえばそうだったな」

「しかも来て見れば気持ちよさそうに爆睡してるんですもん」

「というか明日美さん、居るんだったら起こしてくれても良かったのに。わざわざ待ちぼうけしちゃったろ?」

「いえそんなことはありませんよ?朝倉さんの寝顔も・・・その、見れちゃいましたし」

「マジか?」

「・・・マジです」

「ポカーン」

「あ、でも、凄く・・・その、可愛かったですよ?」

「ぐはっ」

思わずその場で頭を抱えてしまった。

(明日美さんそれはフォローになってない)

そのつまり、人間寝ているときほど無防備な姿は無いって言うことで・・・

その無防備で間抜けな姿を見事に明日美さんに目撃されてしまったというわけだ。しかも日の傾き加減からしてかなりの時間俺は・・・

「うわあああっ」

「ど、どうしたんですか?」

再度頭を抱えた。もう恥ずかしくてたまらなかった。

「朝倉さん?」

「・・・明日美さん、今度からはなるべく直ぐに起こしてくれると嬉しい」

と、搾り出すような声でそう呟いた。

「ハイ、じゃあ今度からはそうするように善処します♪」

「いや、確実に起こしてってば」

何が楽しいのか明日美さんはそんな俺を控えめに見ながら笑い、俺はそんな彼女の顔をしばらくまともに見れない状態で二人屋上を後にした。



・・・・・・



・・・・・・



『今日は学校の中を二人で散歩しませんか?』

屋上を出たときに明日美さんは唐突にそう言った。

俺としては自分のせいで彼女を待たせてしまった為、帰りに何か奢ると言ったのだが明日美さんは学校の中を見てみたいと言い張ったのだ。

と、いうことで俺たちは誰もいない学園の中を二人でトボトボと歩いている。

「〜♪」

当の明日美さんは何がそんなに楽しいのか終始笑顔で時折鼻歌なんかも口ずさみながら俺の前をご機嫌で歩いている。

「ねえ、朝倉さん?」

前を歩いていた明日美さんがクルっと綺麗に一回転して俺の方に向き直った。

「なんか誰も学校を歩くのって、凄くドキドキしませんか?」

「そうか?」

「そうですよぉ、何だか何時も雑踏まみれな場所なのに今は水を打ったように静かで・・・
なんだか別の世界に迷い込んだような、そんな気がしません?」

そんな気がしません?って、そんなにロマンチックな言葉を多彩に使って俺に同意を求められても困るのだがなあ。

「私、小さい頃はずっと病弱だったから、だからこうやって誰もいない学校っていうのも初めてなんです」

ああ、そうだった。この子は元々心臓が悪くていつも家で療養してたんだっけ?だからこんなにはしゃいで・・・

「あ、見てください朝倉さん」

明日美さんは興奮覚めやらぬ様子で俺の後ろを指差した。その指につられて俺はその指の指すほうを見た。

「あっ」

「凄いです、なんて真っ赤な世界」

振り返れば俺たちの歩いてきた渡り廊下に、外から夕日の光が差し込み辺りを綺麗なオレンジ色に染めていた。

「――別の世界か」



この光景を見ればその言葉もありがち間違いじゃないかもしれない。



二人しかいない学園



二つしかない足跡だけが印象深く響くリノチウムの床



そして、一面やさしいオレンジ色に染まったの世界



普段見慣れている学園が見方や時間が変わるだけでこんなにも、綺麗に見えるなんて知らなかった。

「確かにこんな光景を見ていると、学校も捨てたモンじゃないな」

「・・・そうですね」

正直に言えば俺も内心結構、ドキドキワクワクなんかしちゃっていた。こんな感覚何時振りくらいだろう?

子供っぽくてなんだか恥ずかしいけど、決して悪い気はしない。



(大人になるにつれてこういう感覚とか全て忘れて行っちゃうのかな?)



ふと、この夕焼けを見ているとそんなことを考えてしまう。



なぜだろう?



夕焼け空はこんなにも綺麗なのに見ていると悲しくなるのは・・・



でも何処かで味わった事のあるこの気持ち



「何だかこうして夕焼けを見ていると悲しい気持ちになってきますね」

「え?」

明日美さんは隣で空ろな瞳で夕日を見つめながら、呟くように話し始めた。

「小さい頃って、公園とかで初対面とかそういうの関係なく、色んな友達と仲良く一緒に時間を忘れて遊ぶじゃないですか?
でも空が段々と赤く染まって、一面が綺麗な夕焼け空になると決まってお母さんが迎えに来て、
子供たちはお母さんの手に引かれて一緒に家に帰るんです」

「・・・・・・」

「でもそれが何だか凄く悲しいんですよね、みんなに‘バイバイ’っていうのが嫌で思いっきり泣いちゃうのです。
ホラ、子供って凄く無垢で寂しがり屋じゃないですか?だから一度バイバイしちゃうともうみんなに会えない、遊べない、
って思って本当に悲しい気になって泣いちゃうんですよね」

なんとなく、解る気がする。

子供の頃は唯ひたすら誰かと遊ぶのが楽しくて、本当に楽しくて、遊び終わって別れを告げるのはとても悲しかったような気がする。

さくらと別れた時も、音夢が家出してしまったときも、‘もう会えなの?’

という言葉が脳裏に浮かんだ瞬間にとてつもなく悲しくなったことを俺は覚えている。

「つまり、夕焼けは‘別れ’を連想させるってこと?」

「そうなのかもしれませんね・・・」

「・・・・・・」

さっきは綺麗に見えた夕日の風景、こんなにも美しく見えるのにどうしてだろう?今は見ているだけで心が締め付けられるように痛い。

夕焼けは空や山々、町並みを赤く染めあげて美しいものであるが、明るい昼間の時間が終わり暗い夜がやって来る合図でもある為、
夕焼け自体は比較的短時間で終わってしまう現象だ。

それに夕焼けの情景は小説や、歌の歌詞、映画などににおいて、儚さ、せつなさ、悲しさ、寂しさ、別れ、衰退や没落、
老いや近づく死などをあらわすものとして用いられる事が多く良い印象は持ちにくい。



――――そう、それは今の俺自身のようだ。



ああ、この情景は何て悲しい気持ちにさせるのだろう・・・



その光景は俺の心を揺るがすには十分だった。



悲しい、唯、哀しい。



どうして世界はこんなにも悲しく見えるのだろう?



こんな感情俺は知らない



否、知りたくも無い



俺の中の悲しい記憶を全てを忘却できたらいいのに・・・



――――心が折れそうだった。



どうしてこんなにも悲しいのに俺は・・・



「でも、逆に言えば別れがあるから出会いがあるんですよね」

「え?」

ふと、声が聞こえた。それは慈愛に満ちた優しい声だった。

「そうじゃないですか?たとえその人との別れが永遠でも生まれた‘絆’まで無くなることはないんですよ?」

「あ、すみ?」

「ねっ?朝倉さん?だからそんなに悲しそうな顔しないでください」

「・・・・・・」

そうして彼女は目を細めて笑った。俺の心の奥を見透かしているかのように、そしてその心を全て包み込むような優しい笑顔で。

「じゃ、行きましょうか?」

そう言って彼女はクルリ、とまた正面を向いて歩き始めた。

「あ・・・」

呼び止めなくてはならない。彼女は俺の考えていたことを知っていてあんな事を言ってくれたのだ。

その後姿に・・・

‘アイツ’より少し狭い後姿に俺は慌てて声をかけた。

「あ、明日美!」

明日美はビックリした様子でこちらを向いた。

どうしてこんな大声を出したのかは解らない。

ただ、その後姿があまりにも‘アイツ’に似ていて、その後姿が夕日の光に溶けてしまうのかと思ったのかは定かではないが、とにかく伝えなくては。

「そ、その・・・ありがとな」

引きつった顔で唯それだけを口にした。

「・・・フフッ、なら今度、クレープを奢ってくれますか?」

と、少し間をおいた後にいつも通りの優しい笑顔で答えてくれた。



・・・・・・



・・・・・・




そんなこんなで時計はもう四時半を指し、そろそろ帰ろうという話になって二人で階段を歩いていて二階の渡り廊下に差し掛かった時、
一つの教室のドアが小さく開いているのに気がついた。

「アレ?ここは」

「音楽室だな、でもどうして鍵がかかってないんだろうな?」

「音楽室・・・ちょっと行って見ましょう?」

「あ、オイ」

俺の静止も聞かず明日美さんはズンズンと音楽へと入っていってしまったので、俺も仕方なくその後に続いた。


_______________




「うわぁ」

「おお、音楽室も真っ赤だな」

カーテンの閉まっていなかった音楽室もさきほどの廊下のように真っ赤な夕日に照らされていた。

普段は立ち寄ることの無い音楽室、そこを目の前にして俺は

「なんだか、懐かしいな」

と、何故か自然にそんな言葉を口に出していた。

「何が懐かしいんですか?」

「え?な、懐かしいって、俺、そんな事言ったか」

「言いましたよ〜、朝倉さんもしかして元吹奏楽部だったんですか?」

「まさか、そんな筈ないだろ?」

「じゃあ、何で今‘懐かしい’だなんて言ったんですか?」

「え?さ、さあ?」

「?変な朝倉さん」

そう言って明日美さんは音楽室の中をゆっくりと見回りだした。

「凄いですねぇ〜、床は全身真っ赤なカーペットで、あっ、壁には本当に音楽家達の絵が張ってあるんですね」

何がそんなに嬉しいのか明日美さんは音楽室の中を興味深そうにあちこち観察している。音楽室もまた明日美にとっては新鮮なのだろう。

「アレ?音楽室の天井は逆階段みたいな形してますね、何ででしょう?グランドピアノだ、久しぶりにみたなぁ〜♪」

「・・・・・・」

あちらこちらと忙しく音楽室を眺める明日美の姿は俺は無言で見つめていた。

この子は本当に何も知らず、何にも染まらず綺麗なままで育ってきたんだろう。

だからだろうか?彼女が傍にいれば普段見慣れているものもより美しく新鮮に見えるのは。

俺は明日美さんと一緒に居るのが好きだ。

今日一緒に学校を回って確信した、もっと彼女に色々な物を見せてあげたい。

もっと彼女に笑ってほしい。

それは明日美さんに特別な感情を抱いているからとかそういう事ではなく、もっと当たり前な・・・

(うーん、何ていうんだろ?)

言い表すにはちょっと少し難しい。でも・・・

「ま、いっか」

軽く、そう思うことにした。別にさほど重要な事でもないしな。

未だに音楽室ではしゃぐ明日美さんを横目に、明日美さんとは関係なく俺はもう一つの疑問が浮かんだ。

(はて、今日は吹奏楽部は休みなのか?)

と、そんな事を思った。でも吹奏楽部が休みならどうして教室に鍵がかかっていなったのだろう。

(あ、そういえば)

この音楽室はあの夜にアイツと幽霊探しをしていた時に始めに訪れた場所だった。

夜の音楽室を目の前にいざ入ろうという所でイキナリ音楽室の中から間のぬけた木琴の音がして、
それにビビッて香澄の‘ヤツ絶対に入らないからねっ!’って、意地になって入ってこなかったんだよな。

まあ実際、その木琴の正体は言うまでも無く萌先輩だったのだが・・・

思わず苦笑してしまう。気の強そうな奴なのに幽霊が怖いだなんておかしな話だ、その癖自分は本物の・・・

「あ・・・」



そうか、



だから‘懐かしい’だなんて思ってしまったのか。



この場所には香澄との思い出が溢れていたから・・・



「・・・・・・」



ここ数日、忘れていた重圧が再び戻ってきた。



胸が痛い、



どうして忘れてしまっていたのだろう・・・



俺にとって数少ない思い出なのに・・・



そう考えると、とてつもなく怖かった。



このまま俺は香澄の事を忘れていってしまうのかと。



この体が



この記憶が



何時までも残しておければいいのに



永遠に



永遠にとっておけたらいいのに・・・





お――――――――――――ん




「!?」

突然の音の反響に驚きその音の発生源へ振り返った。

「あ」

そこにはピアノを前にした明日美さんが背筋をシャンと伸ばして俺の事を見ていた。

「朝倉さん、私ピアノ結構自身あるんですよ?」



と、得意げに自慢する明日美さん。





どうしてだろう?




その姿が__に見えてしまうのは?




「小さい頃から外に出れない代わりに、私はピアノをずっと練習してたんです。家族には止めろって言われてたんですけどね。
せっかくですから一曲弾いて見せますね、あんまり上手くは無いので期待はしないでくださいよ」







目の前の__は、似合わなくらいに上品に笑って、静かに目を閉じて鍵盤に両手を置いた。







〜♪〜♪〜〜〜♪〜〜♪〜〜〜〜〜♪

How should I love you(私は貴方を愛するしかない)







美しい旋律が流れてくる。







♪♪〜♪〜♪〜〜〜♪〜〜〜〜〜♪〜♪

How could’t I feel you(私は貴方を感じることができない)







_____わからない







〜♪♪♪〜♪〜♪♪〜〜〜♪〜〜♪

Tomorrow without an answer The days when I demanded a dream(答えの無い明日に夢を求めていた日々を)







今、自分が何を見ているのか?







♪〜〜♪♪〜〜♪〜〜〜〜♪I still remember(私はまだ覚えている)







目の前の__はとても見慣れた女の子な筈なのにどうして・・・







〜〜♪〜♪♪〜♪♪♪〜♪♪〜♪Without you・・・ (あなた彼女なしでは・・・)







どうして・・・







____________You cannot live!!(オマエは生きていけない!!)







パリィィィイィィィ―――――――ン!!







「あ、」



何か大切なモノが砕けた。



それが何であったか・・・



「__さん!しっかりしてください!!」



ああ、考えるまでも無いか。



だってもう砕けてしまったのだから・・・



「_倉さん!!______!!」



誰かの声がする。



誰の声だったか良く覚えていない。



「____、_____!」







意識が途切れていく。






もう何も聞こえない。






ああ、無くなってゆく。





俺が?いや違う、





__がだ





___________





薄れ行く意識の中で、ふと横目に映った窓の外の桜の木が目に映って不思議に思った。





どうしてその木は





なんて面妖な真っ赤な花びらをつけているのだろうと・・・



・参考資料?
参照曲without you
作詞・作曲者YOSHIKI
アルバムetranal melody2より





続く

スズランさんの後書き
あ〜、私にしてはかなり長めの話でしたね。Without you核心への布石といっても過言ではないこの話。
このwithout youというタイトルはある曲から取ったもので、作中で明日美が弾いていた曲もそのwithout you です。
この曲はEternal MelodyIIというYOSHIKIというアーティストのアルバムに入っていて、私を支えてくれた一曲です。
作中で描いた歌詞もその曲のものです。
この歌はYOSHIKIが今は無き友人のために作った曲だといいます。
歌詞もあるのですが、歌は未だに入れられておらず曲だけのモノですが素晴らしい楽曲です。
その歌詞、曲を元に私が霧羽香澄←朝倉の想いをインスピレーションして描いてみました。

さてさてそれはさておき、なにやら大変なことになりました。朝倉死亡ED?みたいな?

次会からはようやく、本編は裏ルート(さくらSIDE)にシンクロしていきます。


あ、せっかくなので、その歌詞をここにのせます


Without you                 作詞・作曲YOSHIKI

歩きつかれた 夜にたたずむ
流れる涙を記憶に重ねて

出会いの数だけ 別れはあるけど
限りないときが続くと信じてた

傷つけあった言葉さえ 今は抱きしめ
振り返るだけ I feel alone

How should I love you 
How could I feel you 
Without you      
数え切れない思い出が時間を
埋めつくす

同じ時代に生まれて出会った
それぞれの愛を 確かめるために

I still remember 答えの無い明日に
夢を求めていた日々を

限りなく広がる空に もう一度
生まれた意味を
生きる意味を
問い掛けて

生きてる事が 時に辛くて
素直になれない 自分を演じてた

貴方を愛して 貴方に傷ついて
愛という言葉の 深さに気付いた

Do you remember 初めてであったあの日
同じ夢を見た時を

限りなく広がる空にもう一度
生まれた意味
今を生きる意味を
問い続けて

How Should I love you
How could I feel you
Without you
終わりのない愛の詩を 今貴方に

Even though I can’t see you anymore 
Your memory will live in my heart 
Forever 
As well as love does  
So I won’t say…good bye



                                            
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