D.C.P.S〜ダ・カーポ プラスシチュエーション〜 作者 スズラン〜幸福の再来〜
キャスト
主人公 朝倉 純一
メインヒロイン 霧羽 香澄
サブキャラ
名無しの少女
芳乃 さくら
霧羽 明日美
霧羽香澄After story月と桜に込めた願い〜悲シキ恋ノ詩〜
第15話君がいない
四月六日
9:30
「でも本当に驚きましたよ、明日美ちゃんと朝倉君が知り合いだったなんてね」
「しかも出会った場所が、夜の学園でだなんてさ。理由が特に傑作だよ、朝倉は杉並との勝負に負けて泣く泣くルポライターとして学園に不法侵入して、霧羽さんは杉並の怪しいオカルトサイトに影響されてだなんてな。コレ実は杉並が仕組んでやったことじゃないか?」
「い、いえ私は自分の独断で行っただけですし・・・」
「見かけによらず大胆なんだね、明日美ちゃんて」
「い、いえそんな事・・・」
「またまた〜、謙遜しちゃって」
明日美は先ほど軽く教卓の前で自己紹介を済ませてから、ずっとあんな感じでことりと工藤の三人で楽しそうにと話している。
俺はというとそんな三人の姿を廊下から横目に見ていた。
「おい、朝倉よいつまでも余所見をしてもらっていても困るのだが?」
「・・・ハア」
唯でさえ気だるいテンションのまま正面にいる野郎の顔を見た。
どういうわけだか知らないが、ホームルーム終了後直に杉並に廊下に呼び出された。
どうせくだらない話だと思い、適当にあしらった所、強引に廊下まで引っ張り出されたという訳だ。
強引に断ればそれで済んだのだろうが今日の杉並は嫌に真剣な顔で俺のことを睨んでいたので、とりあえず話くらいは聞いておこうと思った。
「ったく、話ってなんだよ?」
「霧羽明日美のことについてだ」
そんなことだろうと思った。
生半可なくだらない質問をするのならコイツを殴ればそれで済むのだが、コイツの目は怖いくらいに真剣だ。
多分、さっきの謎の転入生ネタを追及してくるだなんてくだらない話ではなく、もっと重要な話。
長い付き合いのせいか、こういうシテュエーションでは嘘やおふざけをしない男という事は俺がよく知っていた。
「お前に話す事なんてないよ」
「・・・・・・」
そういって俺は踵を返そうとしたのとほぼ同時に、杉並は口を開いた。
「三年前」
そのまま歩いてしまえばコイツの言葉は聞こえもしないだろう。でもその‘三年前’というフレーズに思わず足を止めていた。
「卒業式の日に事故があった」
「・・・やめろよ」
なんとなく、コイツが何の話をしようとしているのかが解ってしまった。
それもそうだ、コイツはこの事実を知っていてあの日俺をルポライターに仕立て上げたのだから。
「不運な交通事故でな、その事故に巻き込まれたのが二人の姉妹・・・」
「やめてくれ」
その先を・・・
その名を言わないでくれ・・・
「事故の犠牲になったのが」
「やめっ!」
「霧羽香澄」
「っ!?」
その言葉は何か鋭利なものに体の一部を貫かれたような衝撃を覚えた。
俺の様子を見て何か悟ったのか杉並は一つため息をついて言った。
「ではやはりあの子は・・・」
「・・・その、妹だ」
「そうか・・・」
ヤツの冷静な態度がどうにも気に入らなかった。気が付けば俺はいつの間にか杉並に埋めよっていた。
「お前、何考えてるんだよ?」
「ん?」
「何考えてるんだ?あの子の事をお前のオカルトサイトに載せるのか?
それともお得意の非公式新聞とやらに載せるのか?そんなことしたら俺は」
お前をゆるさない、といいかけた時に杉並は重々しく口を開いた。
「・・・そんなことはせんさ」
「じゃあ、何を」
「あのサイトだが、もう閉鎖しようと思う」
「え?」
「俺としたことが少々軽率だった、あのサイトが原因で霧羽明日美が傷ついてしまうかもしれんしな」
「え、じゃあ俺に明日美さんの事を聞いたのは」
「その事実の確認だ、あまり公にしない方がいいのだろう?彼女にとってもお前にとっても」
「お前」
「何、安心しろ。情報操作なら俺の十八番だ、お前や彼女に被害が出ることはない」
「そっか・・・」
「というわけで、俺は暫くの間は情報操作とサイト閉鎖を行う為、姿を消す。ではな」
「杉並」
「ん?」
「悪いな、恩に着る」
「馬鹿者、そんなもの着るな」
「ああ、そうだな。借りは返す」
「フッ、それでいい。ではな」
杉並は俺に背中を向けて去っていった。
ほんの少し、本当にほんの少しだけ杉並を友達として尊敬できた瞬間だった。
「おっと忘れていた、携帯電話破壊の件、保健室に運んでやった件、そして今回の件でお前は俺に3つ目の借りを作った。
その事をくれぐれも忘れるなよ?とは言っても、‘借りは返す’なんて台詞を吐いたくらいだ、今年一年間、
いや卒業までは身を粉にして俺の元で働く事を覚悟しておくがいい!!」
そして杉並は最後に「サラバッ」といい残し、鼻歌なんぞ歌いながらご機嫌な様子で去っていった。
俺の中でさっき芽生えた、友人への尊敬は一気に殺意に変貌したのは言うまでもない・・・
「あ、そういえば・・・」
(今日はまださくらの姿を見ていないな・・・)
でも顔を合わせないのならそれで越した事はない。
ついこの前、「あんな事」があった訳だし・・・
ふと、そんなことを思いながら教室でことりと工藤と楽しそうに話している明日美さんの方を見た。
ほんの一瞬、
ほんの一瞬だけ、何気ない日常に染まる彼女が‘霧羽明日美’でなくその姉、‘霧羽香澄’に見えてしまった・・・
もしも香澄が生きていたのなら・・・
彼女はこんな風に陽光の下で精一杯笑っていたのだろう。
「・・・ッ!」
(何を考えているんだ!俺はっ!)
わかっている、目の前に居るのは香澄ではなく明日美だ。俺の恋焦がれた人じゃない!!
なんて事を思ってしまったのだろう、明日美さんに失礼だ。
わかっているのにどうして俺は明日美を通して香澄を重ねてしまっている。もう香澄はいないと言うのに。
「最低だな・・・」
そう吐き捨てて俺は教室の前を後にした。
今の状態で明日美の前に立つ自身はなかった。
#
今日、私は始めてこの学園の生徒になった。
私は始めて教卓の上に立ってみんなに自己紹介をした。
ものすごく緊張した。
そして私は始めて
「そっか、そういう経緯でことりと霧羽さんは既に知り合いだったんだな」
「知り合いじゃないですよ工藤君、お友達です。ね、明日美ちゃん♪」
「え?は、ハイ、お友達です!」
そう言って抱きついてきたことりさんに少し戸惑いつつも、私はことりさんの言った「お友達」という言葉を復唱した。
「そっか、流石だねことりは。俺は工藤、よろしくね霧羽さん」
「ハイ、よろしくお願いします」
上品な笑顔で工藤さんも自己紹介をしてくれる。
こうやって初めて出来ていくお友達、私は今本当に幸せというものを改めて実感していた。
私はこの学園で三年間、この人たちと過ごしていく。
最初は戸惑うこともあるかもしれないけどきっと大丈夫。
だって私はお姉ちゃんの妹なんだから。
左胸に手を置いてみる。トクン、トクンと強く、規則正しく鼓動を打つ音。
鼓動を打つだびに「私はここにいるよ、明日美」とお姉ちゃんがささやいてくれる。
(うん、私は一人じゃない)
「で、霧羽さんは何か部活動とか考えてるの?」
「あ、えっとですね・・・」
ふと、目をそらした先に私がこの学園でおそらく一番良く知る顔を見かけた。
(あれ?朝倉さん?)
気のせいだろうか?今、朝倉さんのような人が廊下を通っていくのを、一瞬見えたような気がした。
そういえば今日、初登校をしてまだゴタゴタとしていたので朝倉さんとはロクに口を聞いていなかった。
出来るのなら今日中に挨拶くらいは済ませておきたいのだけど。
「どうしたの?明日美ちゃん」
黙りこんだ私を心配と思ったのか白河さん、いえ、ことりさんは私の顔を覗き込んだ。
「あ、いえ何でもないんです。ただ」
「ただ?」
「廊下を朝倉さんが横切って言ったような気がしたので」
「朝倉君が?」
「そういえば霧羽さんは朝倉と免疫あるんだっけ?」
「あ、私その話聞きたいな」
「・・・・・・」
「明日美ちゃん?」
「霧羽さん?」
「スイマセン、私ちょっと行ってきます!」
「あ、ちょっと」
「霧羽さん!?」
さっきの一瞬で見えた朝倉さんの横顔がなにか思いつめたような顔が頭から離れなくて二人の静止を無視して私は朝倉さんの後を追った。
#
「あー、行っちゃったね、霧羽さん」
「うん、そうだね」
私たちの静止も聞かず廊下を飛び出していった明日美ちゃんの背中を私と工藤君はただボーゼンと見つめていた。
「おとなしそうに見えて結構、積極的なんだな霧羽さんって」
「そうかな?」
「ああ、だって夜の学校に侵入するなんて女の子が出来ることじゃないよ?普通」
「そういわれれば確かにそうだね」
「いやー、このままじゃ霧羽さんに朝倉盗られちゃうかもよ?ことり」
「えっ?」
思いもしなかった工藤君の言葉に体温が一気に上がっていくのを感じた。
「ちょ、工藤君、何言って」
「新たな恋敵はずいぶんと強力そうだな」
「こ、恋敵って、明日美ちゃんはそんなんじゃ・・・」
「なら、やっぱり霧羽さんに朝倉盗られちゃうな」
「あ、それはダメっ!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「語るに落ちたね、ことり」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
何も言わずに私は真っ赤になりながら工藤君の事をポカスカと叩いた。
叶ちゃんの馬鹿・・・
四月六日
10:30芳乃邸にて
少し頭が痛い。
ボクは客間から庭を眺めながらため息を一つついた。
最近考え事ばかりしているからなのだろうか?
考え事――
何を――?
そんなモノたくさんありすぎてどれか一つ挙げることなど出来はしない。
多すぎる考え事のせいで今日の寝起きは最悪だった。
昨晩は最悪の夢を見た。
いや、昨日の‘アレ’は夢だなんて言葉で収まる可愛いものではなかった。
ボク自身の思考と脳内の情報が作った、夢という名の混沌に満ちた地獄のようだった。
ボクはその混沌の中で必死に「何も考えたくない」「何も考えたくない」と、強く思ってもボクの思考は止まらなかった。
様々な情報がボクの意識下で飛び交い、衝突し、砕け、混ざり、また飛び交い
ボクの頭にその混沌は容赦なく押し込まれていった。
嫌だ――
やめて――
何も考えたくない――
そんなボクの意識を無視するかのように、混沌と化した情報達はボクに安らぎの時間を一時も与えず襲い掛かる。
そんな夜がもう数日間続いている。
何時もお嬢ちゃんに起こされなければボクは本当にどうかしてしまっていたかもしれない。
チリン――
「さくらちゃん、もう平気?」
「うにゃ〜」
お嬢ちゃんが心配そうな顔でうたまるを頭に乗せて客間に現れた。
「あはは〜、大丈夫大丈夫!別に病気ってわけじゃないんだし」
「さくらちゃん、ダメだよ。また一人で溜め込んじゃ、何かあったら相談してよ。そうじゃないと、ボクまたで怒るよ。ボク達は友達なんだから」
「お嬢ちゃん・・・」
本当にこの子は嬉しいことを言ってくれる。
こんな子が死神だなんて未だに信じられない。
――いや違うね
こんなやさしい子だから死神が勤まるんだよね。
「うん、大丈夫だよ、ちょっと考えなくちゃいけないことが多すぎて」
「そっか、そうだよね・・・」
「あと運命の日まであと9日だね・・・」
「うん」
「ねえ、アルキメデス」
「何だ?」
「それまでの間、ボク達に出来ることは何もないんだよね?」
「・・・言ったはずだ、何か事が起きない限りこちらも何も出来ない。そもそも今回のケースは我々にとっても予想外なのだと」
「でも、このまま待ってるだけなんて」
「耐えよ、今の我々では何も出来ないのだ」
「・・・そう」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
そう言ってボクらは互いに黙り込んだ。
嫌な沈黙があたりを支配する。
まだボクたちには何も出来ない。
運命の日まであと九日・・・
このまま平穏無事な日々が続けば、それが一番だとお嬢ちゃんとアルキメデスは言っていたが・・・
何故だろうか、ボクには何か良くないことが起こるような予感を感じていた。
その悪い予感は‘あの夜’から日を重ねるごとに感じるようになってきた。
この悪寒は何なのだろう・・・
ざざああああああああああああ______________
何時ものように庭から流れ込んでくる桜の香りを運んでくるそよ風にさえ、何か不自然なものを感じた。
続く
スズランさんの後書き
ようやくここまで到達しました。とりあえず全体の七割くらいにまでは到達できたかと思います。
今回も時間だけはかかったわりには、自分の満足したような文は書けませんでしたね。物語的にはぜんぜん進んでないし。
それにしても明日美とことりは非常に書きにくいですね。
ことりはともかく明日美に至ってはデータがあまり無いわけですから、自身の想像力だけが便りです。
あー、こんなんで終わるのかなあ・・・