D.C.P.S〜ダ・カーポ プラスシチュエーション〜 作者 スズラン〜幸福の再来〜
キャスト
主人公 朝倉 純一
メインヒロイン 霧羽 香澄
サブキャラ
名無しの少女
芳乃 さくら
霧羽 明日美
霧羽香澄After story月と桜に込めた願い〜悲シキ恋ノ詩〜
第二話 音夢の告白
三月二十日PM7:45
少し遅めの夕食を音夢と一緒にいつもの様に食べている。
朝倉家の夕食は店屋物かコンビニ弁当或いは外食というのが主となっており、夕食を自炊するというのはごく稀な事だ。
だが今日の夕食は俺が珍しく腕を振るってカレーなんぞを作ってみた。まあその経緯は先程、俺が帰宅してすぐに命に関わるほど大変な事件が起きた。
・・・それは今から二時間ほど前、何を思ったのか帰宅した俺を見るたび音夢のヤツが笑顔でこう抜かしやがったのが始まりだった。
「兄さん今日の夕食は私が作りますよ♪」
その言葉を聞いた瞬間、時がピシャリと止まった気がしたのは気のせいではないだろう。
こういうときの音夢の珍妙な発言に対する俺の行動は極めて迅速だった。
「・・・そうだ音夢!今日は俺が奢ってやろう、何がいい!この際だから何処か外食に行くか?」
音夢に俺の心境を悟られぬよう、あえて自然な笑顔で言ってやるのがポイントだ。朝倉家の夕食で何故自炊が稀にしか行われないのか?
それは俺の妹である音夢の料理の腕にある。
その殺人的ともいえる料理の腕前は軽く人智を超え、その料理を一口でも食おうものなら‘ネズミでも即死する’と言われたほどだ。
「ちょ、ちょっと兄さん!私の話聞いてなかったんですか?」
「今日は贅沢に外食をしたいんだろう?だから今日は特別に兄さんが奢ってやると・・・」
「だ・か・ら、今日は私がご飯を作りますって!」
「・・・マジか?」
「ええ、マジです♪」
無垢な笑顔で音夢が俺の事を見上げている、このときの俺の頭の中はどうこの状況を打破しようか少ない脳みそで必死で考えていると同時に、
このところ音夢の恨みを買ったような事がなかったか最近の記憶を必死に検索する。
(糞、心当たりが多すぎて解らん。)
仕方ない、ここは俺の方から下手に出るしかないようだ。
「あの、音夢様。私はまだ死にたくないのですが・・・」
その一言に音夢の眉毛がピクリと動いた。
「どういう意味ですかぁ〜、兄さん?」
顔は笑っているが声が全然笑っていない。
これは危険だ、ヘタに刺激すれば俺は恐らく月面まで軽く吹き飛ばされてしまう。病弱なくせに戦闘能力は高いからな。
「もう、折角もうすぐで兄さんと一緒に住めなくなるからせめて私が料理を作ってあげようと」
ため息交じりのあきれた、その何気ない一言に俺はピクリと反応した。
「は?お前今なんて言った?」
「何って、もうすぐ兄さんとも一緒に・・・って、あっ」
音夢は「しまった」という顔つきで慌てて口を抑えるが、俺は決定的な台詞を聞き逃さなかった。
「一緒に住めなくなるってどういう事だ?」
・・・・・・
・・・・・・
・・・まあ話を聞けば、音夢は数日前から進学はせずに島を出る事は決めていたらしい。なんでも昔からあこがれ続けていた看護師になりたくて、
本気で勉強したいが為に本島の看護学校へ行くという。
その事は両親にも学校にも話していたらしく、療の手続きも既に終わっていてこの家を離れる準備も大方終わっていたらしい。
つまりこの事情を知らなかったのは俺だけだったという事だ。
「どうして今まで黙っていたんだ?」
「だって・・・」
叱られた子犬のようにしょぼんと顔を伏せるが、俺はそのまま音夢を見つめて次の言葉を待つ。
「だって、兄さん反対すると思ったから・・・」
「・・・は?」
「私がいなくなったら、洗濯や掃除、料理だって兄さん一人でやって行かなくちゃ行けないんだよ?」
「掃除、洗濯はまだしも料理に関しては全く問題ないぞ?」
「ほんとに?」
「ああ、むしろ料理に関してはなんだか光が見えてきた」
「・・・兄さん、そんなに死にたいですか?」
音夢は右の拳を握り締めゴキリと骨を鳴らす。
「まあ、とにかく」
自信の危機を感じて俺はテーブルを立ち台所へ向かった。
「お前の兄である俺が第一に妹の夢を応援しないでどうする」
「え?じゃ、じゃあ兄さん。」
「ああ、立派な看護士になる為にたくさん勉強して来い」
「え?ホントにありがとう兄さん♪」
「ならそのお祝いとして今日は特別に俺が夕食を作ってやろう」
「うわ、なんかいい事尽くめ♪」
不屈の無い笑顔で笑っている音夢の顔が背中越しに感じた。
音夢が出て行って寂しくないと言えば嘘になる、世話好きで口うるさい妹だがこれでも俺のたった一人の大切な妹だ。
だから俺は音夢の夢を素直に応援してやろうと思う。それが兄としての俺のなすべき事なのだろう。
そんな事を考えながら俺はなんだか、寂しくもありうれしくもある心境で台所へ立った。
・・・・・・・
・・・・・・
「あ〜お腹いっぱい、これから先兄さんの材料費だけが馬鹿に高い料理が食べれないと思うとちょっと寂しいな」
ソファーの上で満足気に体を伸ばしながら音夢が呟いた。
「そんな事言うなら、いつかお前が帰宅してきた時は頼まれても作ってやらんぞ」
台所で食器洗いをしながらリビングに向かって言ってやる。
「いいですよ〜だ、今度兄さんと逢う時はビックリするほどの料理上手になって帰って来るつもりですつもりですから」
カチャン_______________
手に持っていた皿が俺の手を離れ流しに落下した。
(当分は帰ってこないでほしいかも)
半ば本気でそんな事を考えながらリビングに向かって言ってやった。
「・・・期待しないで待ってるよ」
「うん楽しみにしててね、兄さん♪」
まあ、音夢のヤツも少しは料理上手になって帰ってきてもらいたいものだが恐らく高い確率でそれは無理だろう。
その後、音夢から洗濯から掃除、家計簿の記入などをちゃんとするようにと家の仕事と言う仕事の説明が夜がふけるまでレクチャーを受けた。
全く何処までも世話好きな妹だ。
でもなんだかこういう瞬間を何年も過ごしてきたことを改めて実感すると、少しだけ、本当に少しだけ音夢の旅立ちが寂しく思えた。
続く
スズランさんから頂いた月と桜に込めた願い第2話です。
現在第5話まで投稿して頂いていますが、ちょろちょろと公開させて貰ってます。
香澄はもうしばらく出て来ませんが、期待して頂いて結構だと思います。
それでは次の第3話をお楽しみに〜