D.C.P.S〜ダ・カーポ プラスシチュエーション〜                     作者 スズラン〜幸福の再来〜


                                                       キャスト
                                                       主人公     朝倉 純一
                                                       メインヒロイン 霧羽 香澄
                                                       サブキャラ    名無しの少女
                                                                  芳乃 さくら
                                                                  霧羽 明日美




霧羽香澄After story月と桜に込めた願い〜悲シキ恋ノ詩〜




第14話転校生



四月六日



AM7:30


「・・・・・・」


ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリ____________________


「・・・ん」


ジリリリリリリリリリリリリリリリリリ_____________________

「・・・・・・」


ジリリリリリリ_______カチッ


「・・・ふう」


目覚めは最悪だ。目覚し時計を止める簡単な動作をするにも身体が妙にだるい。

四月六日、今日から新学期だ。

付属ではなく本校での生活が今日から始まる。

そんな日に遅刻はちょっと問題あると思って仕方なく目覚ましをセットして早く起きてみたのだが、
春休みの不謹慎な生活のツケがここへ来て見事に帰ってきたようだ。

体の方は春休みから一向に健康の兆しは見えない。

常に体は気だるく意識もしっかりしている時の方が少ないのかもしれない。

寝起き時なんてそれはもう最悪なコンディションだ。

(まあ、不調の原因なんて一つしかないんだよな)

全く、自業自得だ。
春休み中に律儀に続けていた夜の徘徊のせいで俺の生活リズムは昼夜逆転し、見事に体のほうも悲鳴を上げこのザマだ。

「あ〜、かったる」

ぼやいてみるも、それでも登校時間は刻一刻と過ぎていく。

俺は仕方なくベットから体を起こし壁のハンガーに掛かった真新しい制服に手を伸ばしながらふと、一昨日の夜の事を思い出してしまった。

「・・・・・・」

・・・いや、もうやめよう。あの夜の出来事はあまり思い出したくない。

気持ちを紛らわせようと気だるい体に鞭を打ってテキパキと新調された制服に袖を通した。




こうして歩いていても変わらないものはやはり変わらない。

相変わらずうっとおしいくらいの満開な桜が咲き乱れ、その無数の桜の木で包まれた見栄えのない通学路を俺はフラフラと歩き、
俺と同じように歩いている風見学園の生徒と同じ場所へ向かっている。

(ああ、でも最近はこの道は夜中に通っていたから昼間の道を歩くのはなんだか新鮮だな)

俺の体調に反して空はムカつくぐらいに晴天だ。

クソ、なんてったって周りの連中はそんなに楽しそうに歩いているのだ。

一人、また一人と俺の背を追い越して学園に向かっていく。

今日の俺の歩行スピードはいつもにまして遅いようだ。

そんな中、後ろから俺の方をポンと誰かがたたいた。

「よう、MY同志朝倉よ。随分と朝っぱらから辛気臭い顔をしているじゃあないか!」

「・・・・・・」

聞こえない、決して何も。

「おいおい、新学期早々から無視してくれるな」

「・・・・・・」

「フッ、なんだ?親友に朝の挨拶もくれないくらい不調のようだな。さては朝倉妹が家を出て行ったのが相当な打撃だったように見える」

仕方なく振り返るとそこには‘万年お祭り腹黒陰謀男’がニヒルな笑みを浮かべてそこへ立っていた。

一応訂正だけさせてもらえば、こんな奴と志を同じにした覚えはない。断じて。

そういえばこの学園には俺の悪友にして最大の脅威である杉並という存在が居るのをこの春休みですっかり忘れていた。

(というか何故、音夢が島を出たことを知っている?)

そんなツッコミを入れる元気も無く例のごとく俺は辛気臭い顔で目の前の悪友を見つめた。

こいつを見ていると人間いつかは死ぬんだと言う事が嘘のように思えてくる。

「おいおい、そんなに見つめるな友よ。照れるじゃないか」

「・・・そうか、ならいっぱい照れていいぞ」

「ハハハハハハ♪そうか、そうか、って馬鹿なっ!」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

俺たちは道端の真ん中でしばらく見詰め合っている。

周りの生徒たちはそれを当然、奇異なものを見るかのような流し目で俺たちを見ている。

時には俺たち二人が誰であるか感知した生徒は

「ヤベーよ、あの二人に目つけられたら何されるかわかんねーぞ、ほっといて早く行こうぜ」

などと抜かしながら逃げるようにその場を去る者もいた。

さてこういう場合、いつもなら俺のほうから折れるのだが今日は珍しく杉並のほうからこの沈黙を破った。

「おい朝倉。悪いが俺はノーマルだぞ」

「・・・なんだそりゃ残念だな」

そう言い放つと奴の方をポンと叩き、奴に背を向けてスタスタと歩き出した。

杉並には悪いが(実際悪いだなんて1ミクロも思っちゃいないが)冗談を言い合えるほど俺には余裕がなかった。

学園へ向かう道の途中、背後から杉並とことりの話し声が聞こえてきた気がした。

「あれ、杉並君どうかしたんですか?こんな所で固まっちゃって」

「い、いやなんでもないぞ。俺は至って正常だ」

「その割には顔、真っ青ですよ?」

「なあに、幾度と黒服の集団に追い詰められ修羅場を潜り抜けてきたこの俺が、こんな所でつまずきはしないぞ!
ハッハッハッ・・・そうだ、つまずく訳がない」

最後の言葉は妙に鬼気迫るものがあった。今後、奴に対して冗談でもああいう対応をとるのはやめよう、不気味すぎる。

全く唯でさえ調子は万全でないと言うのにいらんエネルギーを使ってしまった。




・・・・・・でも、一瞬でも先ほどのやり取りで有利だったのはこの俺だったよな?




AM9:15



風見学園体育館



(何が始業式だ。こんな密閉空間に生徒何百人も押し込めやがって)

一体どれ程の時間が経過しただろうか?もう一時間近くこのまま立ちっぱなしでいるような気がする。

これが人呼んで‘眠気我慢大会’長々と話す面白みのない校長の話を聞くのはこの学校に入学してこれが四回目。

その内容もさほど変化もなく聞くに堪えない演説だ。いつもなら欠伸をこらえながらその面白みの無い話を聞き流しているのだろうが。

(ああ、マズイな。マジでこのまま倒れちまいたいくらいだ)

正直、俺の体は限界に近かった。流石に昨日の夜は学校に忍び込みはしなかったものの、終身時間は遅かったことに変わりない。

眠気とダルさで意識を失いそうだ。しかも、この密閉空間と四方に人だらけと来た。

人口密度と体育館の広さが比例していないせいか妙に蒸し暑く酸素も薄い。

「うおっ!?」

そんな中で軽い立ちくらみを覚えた。視界半分くらいがブラックアウトして俺の体は意に反してフラリ横に揺れた。



フラッ________トン________



「お、おい、平気か?朝倉」

倒れそうになった俺をありがたい事に何者かが支えてくれた。

そいつは随分と華奢な奴で支えられていて悪いのだがその野郎の腕は細くてどうも頼りない。

それになんだろうコイツから放たれるいい香りは。

「ああ、悪い」

そういうと俺はなんとか体勢を立て直して見せる。そう、立て直して見せた‘つもり’だったが気がつけば俺の目の前には木の床があった。


・・・・・・


・・・・・・


・・・・・・


「・・・・・・」

見上げた天井は見慣れない場所だった。清潔感のある白い天井と眩しい蛍光灯が印象的だ。

どうにも頭が覚醒しない、どうやら俺は眠っていたようだ。

自分のおかれている状況を少しづつだが把握してきた。

俺は今現在、どういう経緯かでどこぞのベットで横になってるらしい。

「ならここはどこだ?」

「俗に言う‘不良学生’及び‘不登校’の者が授業をサボるときに重宝される部屋だ」

ん?なんだ、今聞いてはいけない悪魔の声がした気がするのは俺の気のせいか?

「きっと、疲れているんだな」

そういって俺は布団を被りもう一度夢の中へ・・・

「って、朝倉!」

「朝倉くん!」

バサッ!_________________________________

二人の掛け声とともに俺の掛け布団は引っぺがされた。

「うおっ!」

ベットから転げ落ちそうになるのを寸前でこらえて布団を引っぺがした当人達のいるほうに自然と視線がいく。

工藤とことりだった。二人は心配そうに半ば呆れ顔俺のことを見つめていた。

「おいおい、二人ともやることが随分と乱暴だな」

「あのなあ、朝倉」

「もう、本気で心配したんですよ」

「?何だ、俺は何か心配されるような事したのか?」

今の状況が良くわからない。たたき起こされたばかりといえ、まだ頭も完全には覚醒していない。

「よし、ここからはこの俺が説明してやろう」

声の主のほうを見ると、座椅子をクルリとこちらに回転させてそれは姿を現した。

足組みした膝の上に両手を組むというようなスタイルで俺にニヒルな笑みを浮べている悪の頭領が姿を現した。

どうやらさっきの声は空耳ではなく杉並に間違いなかったことがたった今、俺の目の前で立証されてしまったわけだ。

「はあ、とにかく聞かせてくれ」

頭痛のするのを耐えながら俺は杉並から俺がここにいることの一部始終を簡潔に話してもらった。




一体、体育館での出来事はなんだったのか?職員室前の壁に寄りかかり私、霧羽明日美はさっきの騒動のことをずっと考えていた。

校長先生の朝礼中に突然、何か床にマイクが落ちたかのような鈍い音が体育館に響いたと思ったらその音の方角からざわめき声が上がったのだ。

周りの視線は体育館の舞台から音のした一角へと移る。

生徒たち教師や講師達もざわつき始める。もうその時点で朝礼と呼べるものではなくなっていた。

私は朝礼のとき生徒たちの少し離れた場所に立っていた。

まだクラスでの自己紹介をしていないのも理由であるが、私は人ごみに居るのが凄く苦手だった。

小さなころから体が弱かったせいか、少しでも人ごみに紛れようものならたちまち、気分を悪くしてしまう。

だから白河先生と一緒に大勢の生徒たちから少し離れた場所で朝礼に参加できたことは非常に有難かった。

しかし、あの場所では一体何が起こっていたのか?それはまだ私は知らないでいる。

まあ知らないなら知らないで問題があるわけでもないのだが、無性に気になるのは何故だろう?


ガラガラ_____________


「やあ、待たせたね明日美。それじゃあそろそろ行こうか」

私が途方にくれているうちに職員室のドアが開いて白河先生が相変わらずの白衣姿で、出席簿を持って出てきた。




・・・・・・・・・



・・・・・・・・・



・・・・・・・・・



「・・・とまあ、こういう訳で今現在お前はここにいるというわけだ」

「なるほどな」

要約すると、俺はどうやら学校長殿の有難くない演説中に眩暈を起こしたかのように突然ぶっ倒れたらしい。

そのせいで辺りは騒ぎ始めて朝会どころではなくなってしまったのだが、

俺を知る教師達は「どうせ、朝倉の体を張ったネタだろう」と肩をすくめていたらしい。

全く、ひどい教師たちだ。だが、それは無論冗談などではなく俺は意識を失ってぶっ倒れたわけで、
たまたま近くで俺を介抱してくれた工藤のお陰で今俺は保健室で安静にしていられるらしい。

(さっき俺を支えてくれたのは工藤だったのか)

「なら、俺をここまで運んできたのは?」

「無論、この俺だ」

「よりによってお前かよ・・・」

胸を張り笑顔を向ける杉並から顔を背け盛大なため息をついてやる。

「これで‘貸し’二つだな」

「二つ?」

「何だ?忘れたのか、あのカメラ付き携帯を破壊したこと、忘れたとは言わせまい。まあそれは近いうち利子をつけて請求するとしようか」

「・・・・・・」

(チッ、覚えてやがったか。がめつい野郎だ)

「何の話をしてるのかな?工藤君」

「きっと俺達知らなくても全然構わないくらいの、くだらないことだろうな」

おいおい、相変わらずコメントがキツイな工藤よ。

「そういえば」

ことりと工藤の方へ向き直り。

「二人はどうしてココに?」

「私は唯の付き添いに手を上げただけっすよ」

「俺もそんなところかな」

杉並と違って随分とうれしい事を言ってくれる。

「そっか、悪いな二人とも」

「貴様をココまで運んだ俺には何もなしか?」

「お前に例を言ったところで何か、見返りはあるのか?」

「何を言っている貴様は、俺に借りがあるお前がこの絶世の美男子であるこの俺から見返りを貰おうだなんてその考えが甘いのだ!」

どうしてそうも自信満々にそんな台詞を吐けるのだろうかこの男は?

しかし絶世ではないもののそれなりに顔立ちは悪くないのがこの男。

この男を生み出してしまった、神様はいまごろさぞ後悔しているだろう。

「・・・お前とはどうやらここで決着を付けなくてはならないらしいな」

とりあえず無償に腹が立った俺はベットから立ち上がり杉並の方へと向き直る。幸いもう体のだるさは感じない。

(これなら行ける!!)

「いいだろう、返り討ちにしてくれる」

杉並も座椅子から立ち上がり、丁度俺と真正面から対峙する形になる。

「ず、随分と緊迫した状況ですけどほっといていいんですか工藤君?」

「どうせいつもの茶番だろうし、いいんじゃないか?」

ム、今日は随分と切れのいい毒を吐くじゃないか工藤。

まあ、外野の戯言はともかくとして、俺は集中力を一気に高め一歩を踏み出そうとしたときだ。

不意に杉並は体の力を抜いたと思うとつまらなそうに元居た座椅子へ腰を下ろした。

「止めだ、こんな手負いの獣を相手に本気も無いな」

「言ってくれるな。その判断だがいつかきっと後悔する事になるぞ」

「ぬかせ、半病人が。いつもなら俺と互角の貴様だが今となっては俺に片膝着かせることも到底・・・」

「あの、二人とも仲がいいのは大変よろしいのですが・・・」

「ん?」

声をハモらせてことりの方を見る。

「そろそろ、ホームルームが始まりますよ?」

声のするほうを見ると保健室の開いた扉からヒラヒラとことりの手が揺れていた。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

とりあえずなんだか馬鹿らしく思ったので俺達は素直に二人の背中を追った。

杉並は保健室を出る際に俺の肩をポンと叩いてきて俺の耳元で呟いた。

「命拾いしたな」

と、クスリと微笑し俺を追い抜いていった。

「・・・・・・」

さっきのやりとりは半分冗談だったとはいえ、コイツの事を一回本当に思いっきりぶっ飛ばしてやろう、そう心に強く誓った。



・・・・・・・・・



・・・・・・・・・



・・・・・・・・・



§



私たちは保健室を後にして真新しい新鮮味のある本校の廊下を四人で歩いていました。数メートル前には工藤君と杉並君が二人で何か話しながら歩いていて、その二人を追うように私と朝倉君は隣りあわせで何を話すことなく歩いていました。

ホームルーム寸前なのか辺りには生徒一人見当たりません。

実はこの四人は一緒のクラスなのです。まあ私は朝倉君と一緒のクラスということはお姉ちゃんから聞いて知っていましたが。

ふと、私は隣に居る朝倉君の顔を見上げました。

「・・・・・」

朝倉君の顔は春休みに出会った時よりも重苦しく何か上の空でした。

(一体どうしちゃったのかな?朝倉君・・・)

すごく心配です。悩み事があるなら打ち明けて欲しい、そうすれば私だって何か力に成れるのに・・・

一体何が朝倉君をここまでブルーにしているのだろう?

音夢さんが家を出て行ってしまったこと?いやそれは違う気がする。

もっとこう、朝倉君の個人的な事で悩んでいるようだけどその内容までは視えない。

「ん?どうしたことり、ジッと人の顔みて」

「え?あ、いや、そんなことないってばっ」

「そうか?」

「そそそ、そうだよ、アハハ〜」

「ん、そっか」

そういって朝倉君は私に笑いかけた。何時ものような笑顔で・・・

(あ、)

私はその場で立ち止まってしまいました。



その笑顔に私の大好きな朝倉君の笑顔が空元気という事に築いたと同時に・・・



その目には私すら映っていない事に・・・



それは私が心を読めるという力が無くても何か女の子の直感で感じてしまうようなモノで、私は酷くショックを受けた。



「ん?どうしたんだよ、ことり」



辛い、



本当に辛い、



貴女が辛そうな顔を見るのが私は辛い、



貴女の心の苦悩を癒してあげられないのが辛い、




でもそれ以上に私の事すら見てくれないのが何よりも辛い。



「・・・・・・」

「ことり?」

「あ、いえ何でもないっすよ?さあ行きましょうか♪」

湧き上がってくるものを抑えて私はかろうじてそう言いいました。出来るだけ私は普通でいなくてはいけないのでしょう。

今の朝倉君に余計な気遣いをさせないためにも。

ああ、どうしてこんなにも上手くいかないのでしょう?朝倉君も私もどうして嘘なんかついているんだろう?

ああ、本当にどうしたものなんだろうな。

やるせないよ・・・

「ねえ、朝倉君?」

私は小走りで朝倉君に追いつくと耳元で杉並君と工藤君には聞こえないくらいの小さな声で

「何かあったら何でも相談に乗りますから、ずっと溜め込んじゃダメだよ?」

と、今の心境の精一杯の笑顔でそう言った。

やっぱり私は彼にどんな事情があるにせよ朝倉君にはあんな顔をして欲しくない。

過剰なおせっかいはうっとおしいと感じるかも知れませんが、それでも私は伝えたかった。



何時だって何かあったら私に寄りかかってもいいのだと、



だって貴女には何時だって笑っていて欲しいから・・・



そう願いを込めた言葉・・・



私からの精一杯のメッセージ



朝倉君はどんな顔をするのだろう?



朝倉君は少し驚いた様子でしたが、その後真剣な顔つきで



「ことり?」

「は、ハイ!」

「ありがとな、色々と心配かけて」

と、何時もの笑顔で私に優しい言葉をくれました。

もしかしたら朝倉君にも私の心境が少し伝わってしまったせいでこんな事を言ってくれたのかもしれない。彼は本当に優しいから。

(それでも・・・)

今の朝倉君はしっかり私を見てくれました。

「うん♪」

だから私も朝倉君の事をしっかりと見て心からの笑顔でうなずきました。なんだか入学早々私はそれはもう舞い上がってしまいました。



§



春休みの一件といい、またことりには余計な気を使わせてしまった。

どうしてこう、俺の周りにはお節介な人間が集まるのだろう?

それは俺自身がだらしないからという事は良く解っている。

でもことりがこんな俺の事を本気で心配してくれてる事は痛いほど感じた。誰にでも優しいからなことりは。

だからいつかことりには今俺が抱えている事を話したいと思う。俺のためなんかに心から気遣ってくれた彼女には。

特に理由なんてものはない。ただそうした方がいいと思っただけだ。その時が一体何時になるかはわからないけどいつか絶対に。

「ああ、そうそう知ってました朝倉君?私達のクラスに転校生が来ること」

「へえ、そうなん・・・」

「何イイイィィ!!」

俺がリアクションをする前に数メートル先を歩いていた杉並がいつの間にか距離を詰めてきたのか、俺たちの目の前で凄い形相を作って立っていた。

「ぬおっ!!」

「キャッ!」

突然の杉並の度アップに当然のように仰け反る俺とことり。

今の俺の視界七割半を占める杉並の顔の後ろで、工藤が隣にいた筈の杉並を見失ってアタフタしているのがイヤに印象的だった。

「何だよ、いきなり!!」

「白河譲よ!!」

俺の事はどうでもいいのか、この悪玉野郎の興味の対象はことりにあるらしい。

「何処でその情報を得たのだ?俺の耳にもそんな奇跡的情報は入ってこなかったというに!」

「え、あ、そのぉ・・・」

「何処で情報網が崩れたのだ?さては!この話はまだ大佐の耳にも入っていない事なのか?
そんな超A級な情報を得ているとは、やるな白河ことり!」

「あ、あのぉ・・・杉並君?」

「うーむ、今回の未知なる転校生は「胡ノ宮環」「芳乃さくら」に続く第三の台風の目となりそうだな。で、今回の未知なるサードチルドレンの詳細は?」

「その前に離れやがれ!!」

そう言ってとりあえず杉並の顔を鷲掴みにしてググッ、と前に押した。

「ぬおっ!!」

「全く何やってるんだよお前は!」

「ムグっ!!き、貴重な極秘情報かもしれんのだ離さんか!朝倉!」

「五月蝿せえ!!」



ゴン!!_____________



「なぐひゃっ!!」

この野郎の息が俺の掌に生々しくかかって少なからず気持ち悪かったのでとりあえず空いた左手で、頭を叩いてやった。

「お、おおおお・・・」

相当強く殴っておいたので暫くはこのまま大人しくはなるだろう。

「まったく何してるんだよ、お前ら二人は?」

さっきまで一緒に前を歩いていた工藤が呆れ顔でコチラにやってきた。

「いや別になんでもねー、杉並の何時もの発作だ」

「・・・こ、この俺がよもや貴様ごときに」

何か頭を抱えて蹲ってヤツがいるが気にしないで置こう。

「あ、朝倉君、ちょっとやりすぎだよ」

「ああ、平気平気こんなの眞子の鉄拳に比べたら生ぬるいくらいだしさ」

「ま、少ししたらまた何時ものようになるしな」

「お、流石元クラスメイト判っているじゃないか工藤」

「一年間一緒に過ごしてれば嫌でも判るって。でもことり、その転校生の話だけど俺もちょっと気になるな」

「なんだお前も聞いてたのか?」

「アレだけコイツが騒いでいたら嫌でも聞こえるって」

未だに頭を抱えてしゃがみ込んでいる生命体を指差す工藤。

「ああ、コイツな。で、ことりその転校生の事について何か知ってるのか?」

「ええ、実は春休み中にお姉ちゃんから少し話を聞いたんです。ほら朝倉君が学校に来たあの日に」

「ああ、あの日か」

「朝倉、春休みにまでお前学校に来させられるような事でもしたのか?」

「・・・人聞きの悪い言い方をすんじゃねーって、俺が学校に呼び出されることなんざ・・・まあ心当たりがありすぎて解らないくらいだけど」

例えば去年のクリスマスの事とか、まあそれ以前に学校事態には毎日登校はしていたんだがな、深夜に。

「ま、気にすんなよ。で、続き話てくれよことり」

「あ、ハイ。それでですね、その子に私その日に会うことが出来たんですよ」

「その子?その言いようだと、未知のサードチルドレンは女子なようだな?」

(ぬおっ!!コイツ何時の間に復活しやがった?)

いつの間にか復活を遂げ何事も無かったかのように俺の隣に現れた杉並に、三者三様の驚きを見せた。

「で、そのサードチルドレンのその他詳しい情報は?」

「く、詳しい情報って言われても・・・とっても可愛らしい普通の女の子でしたよ?」

その後も復活した杉並はことりに質問の問い続けていた。

ことりの方は戸惑いながらもそれに律儀に答え、工藤が何時もの様に呆れ顔で相槌を打っていた。

俺は正直そんな話はどうでも良かったので軽く言葉を挟んだり、ヘラヘラと笑っているだけだった。



そう、どうでもいい。



転校生が一人来た所で俺には何の支障もないし影響もない。



ああ、いけないな



こんな時にアイツの事を考えてしまうなんて



そう、



もしもその転校生が香澄だったらなんてありもしないことを



・・・・・・



・・・・・・



・・・・・・



そんなこんなでようやく俺たちは自分達の教室のまでやってきた。

杉並はアゴに手を当てて考え事をし、質問攻めにあったことりはなんだか疲れているように見える。

工藤はそのことりの事を少し気遣っている。

俺はというと少々上の空で無く唯ボーっと窓の外を見てくだらない事を思っていた。


(あの雲、カマドウマみてえだな)


「ああ、そうだことり」

工藤が教室の扉に手をかけたところで振り返った。

「その転校生の子の名前って何ていうんだ?」


(お、蝶が飛んでる、ってありゃ蛾だな)


「おお、そういえば肝心な事を聞いてなかったぞ?」


(お、あの木に止まっている鳥はヒヨドリか?ああもう春だなあ、うん)


「ああ、そうでしたね。確か名前は・・・」


(今日は空が青いな。春の陽光が眩しい、絶好の昼寝日和だ)


「・・・すみさん」



ピシッ___________________



その言葉を聞いて一気に頭が覚醒した。

聞き違いか?

今ことりは何と言った?

わからない

気が付いたら俺は思いっきりことりに詰め寄っていた。

「おい、ことり!」

「は、ハイ!?」

「その名前、もう一度言ってくれ」

「え、な、名前ですか?」

いきなりの問いに酷くことりは驚いているがそんな事気にしてられない!

「そうだ!その転校生の名前、もう一度言ってくれ!」

「一体どうしたのだ?朝倉よ?」

「他のクラスの迷惑になるぞ?」

杉並と工藤が驚いた様子で俺を制止するが俺は止まらずことりに詰め寄った。

「あ、朝倉君?」

「いいから教えてくれ!」

「え、あ、ハイ。その子の名前は・・・」

さっきのことりの言葉が間違いじゃないのなら、答えるはずだ。



そう、



霧羽香澄と・・・



「あれ?朝倉さん?」



その声が・・・



俺の中に静かな波紋となって広がっていく・・・



静かにその声のした方へ俺は視線を向けた・・・



「!?」



その子をみた瞬間、時が止まった気がした。それはまるで蜃気楼を目の当たりしたような気分で



目の前にはあの夜見た少女が俺の前に不思議そうな表情を作って立っていた。そう霧羽香澄が。



・・・でもそれは俺の単なる錯覚でそこに立っていたのは香澄ではなく、



「明日美、さん?」



そこに居たのは香澄ではなくその面影を強く残した香澄の妹、霧羽明日美が暦先生と並んで立っていた。



「ええっ!朝倉君、明日美ちゃんの事知ってるの?」

「なんだ朝倉、明日美と知り合いだったのか?」

「おいおい、どういうことだよ?朝倉」



周りにいたやつ等が騒ぎ立てている中で俺の時間だけ止まっていた。



紛れも無く俺の目に映っていたのは香澄ではなく、明日美だったのだと・・・





続く

スズランさんの後書き
なんだかようやくココまで来れたというような感じですね(笑)朝倉と明日美がようやく合流させられました。
最初の構成では最後の最後に合流という感じだったのですが、何か物語を進めていったらこんな感じになってました。

この先はそうですね、明日美と杉並の意外な相関関係のようなモノも作中で表せたらいいなと思っています。
明日美が初音島にきたきかっけは杉並のオカルトサイトがきっかけだったので。

あとはそうですね、ことり・朝倉・明日美のちょっとドロドロした三角関係を描いてみるのも面白いかもしれませんね。



後近いうちにまた、この14話は書き直しをすると思います。読んでいて違和感のある場所がけっこうあるので。

しかし久々の更新だ。そして私は思うのです。「コレ一応ヒロイン香澄だよな?ヒロインがさくらに見えてきた」
多分14話は13話の改定が終わり次第、結構早く上がると思います。もうラストまで一直線ですし。
次回では明日美がようやく愛しの朝倉君に再会します♪ちなみにこの話のなかの明日美は既にことりと友達になっています。



                                            
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