D.C.P.S〜ダ・カーポ プラスシチュエーション〜 作者 スズラン〜幸福の再来〜
キャスト
主人公 朝倉 純一
メインヒロイン 霧羽 香澄
サブキャラ
名無しの少女
芳乃 さくら
霧羽 明日美
霧羽香澄After story月と桜に込めた願い〜悲シキ恋ノ詩〜
第十一話 消せない違和感、偽りの笑顔
四月二日
芳乃邸縁側にて
AM:12:02
リリン____________________________________
「ねえさくらちゃん、まだダメ?」
その問いかけはもう何度目だろう?
お嬢ちゃんは目を輝かせながら縁側に座るボクの方を振り返りはその言葉を繰り返す。
「うーん、もうちょっと焦げ目が付いてからかな」
「早く焼けないかなぁ〜、ボクの焼きもろこし」
今日はお嬢ちゃんがしきりに食べたがっていた焼きもろこしをパチパチと網の上で焼いている。
醤油の掛かった香ばしい香りがなんとも食欲が誘う。
お嬢ちゃんは、金網の焼きもろこしをいつ食べれるか、今か今かと首を傾げて睨んでいる。
リリン_____________________________________
首を傾げるたびに帽子の鈴が庭に響く。
アルキメデスとの対談した夜から一週間、何の変化もない。時間は穏やか過ぎるほどに過ぎていった一週間だった。
一週間前の夜の話をお嬢ちゃんにしたのは今日から三日ほど前だっただろうか。
その時のお嬢ちゃんはやけに落ち着いていた事がやけに印象に残った。
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二人で向かい合い夕食を食べている時にボクはお嬢ちゃんに話をした。
霧羽香澄の未練の事、
死神についての事、
アルキメデスから色々と話を聞かされたこと、ボクの方から話をした事も全てお嬢ちゃんに話した。
だが、それに対するお嬢ちゃんの反応はなんだか冷めていた。
「ふーん、そうなんだ」
と、一言呟くとお嬢ちゃんはいそいそと夕食を食べ始めた。それ以降、その手の話が食卓の話題に出ることなく何時もどおりの食卓に戻った。
唯、一つだけボクは気になっている事をお嬢ちゃんに聞いた。
「これから...お嬢ちゃんは何をするの?」
いろんな意味を込めた質問だった。お嬢ちゃんの生業はもう既に理解している。
お嬢ちゃん(死神)の現れる場所に死者が出ると言う事、
死者の魂を運ぶのが死神の仕事でそれ以上の事は出来ないという事、
そしてその魂を運ぶ相手は誰かと言う事、
意を決してその質問をボクはした。
「うーん」
その覚悟とは裏腹にお嬢ちゃんの態度は余りにも何時もどおりでそれがちょっと不気味だった。
「とりあえず今の所は何もしないよ」
と、何時もの笑顔でお嬢ちゃんは言った。唯、‘今の所は’という言葉が嫌にひっかかった。
「ならいつか行動を起こす時が来るの?」
「......」
その時、その日初めてお嬢ちゃんの顔が悲しみの色に歪み
「...来るべき日が来るまで」
「え?」
「...その日が近づいてきたらボクから話すよ」
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一体‘その日’というのは何時なのかボクには解らないけど、その時が訪れるのは相遠くないだろうと思う。
でもその時が訪れるまでは...
(こんな穏やかな時間があってもいいかもしれない)
お嬢ちゃんの焼きもろこしに釘付けになっている後姿をを見ながらふと思う。この子は今まで極力、多くの人と関わろうとしなかった。
いや、出来なかったというのが正しいかもしれない。
だって、お嬢ちゃんのそばに死人が出るから...
だって、お嬢ちゃんは愛する人の魂の運び手だから...
だって、お嬢ちゃんは...
(死神だから)
だからだろうか?ボクが見る限りのお嬢ちゃんは本当に、本当に幸せそうに笑うのだ。
例えば何気ない朝、
例えば何気ない食卓で、
例えばこんな風に庭で焼きもろこしを食べている時、
皆、初めての経験だからなのだろう。何に対しても凄く感受性が豊かなのだ。
ボクはそんなお嬢ちゃんを何時までも見ていたいと何時しか思うようになった。
ボクはそんなお嬢ちゃんの笑顔を何時までも絶やさずに居させてあげたいと思った。
「ねえ、さくらちゃんもういいんじゃないかな?」
「うん、じゃあそろそろ食べようか!」
「やったー♪」
「うにゃあ〜」
「何?うたまるさんも食べたいの?」
「にゃん♪」
「そっか、なら一緒に食べよ!」
「にゃにゃん♪」
「アハッ、くすぐったいよ〜」
うたまるとじゃれているお嬢ちゃんを横目にボクは笑顔でお嬢ちゃんにと日々を過ごそうと思う。‘その時’が来るまでは...
◇
......
......
......
外から聞こえる無邪気な女の子達の声で俺の意識は覚醒した。幾分今日の調子は昨晩も律儀に学園へ赴いた割にはそこまで悪くないようだ。
「妹よ、俺は日々を有意義に過ごしているぞ」
今は亡き(聞いたら殺されるな)遠い空の妹へ向けそう呟き、窓を開けると
隣の家からさくらともう一人誰かの少女の声と共に、なんだか香ばしい香りが一緒に漂ってきた。
「これは...?」
寝起きにはなんとも食欲を誘う香りだ。
(朝っぱらから何やってんだか、アイツは)
「ま、どうせ暇だし久々にさくらの家にでも顔出してみるか」
そう呟くと寝巻きのまま俺はさくらの家へ向かった。
......
......
......
「ん、ん〜、美味しい♪」
笑う門に福来たる、と言うがお嬢ちゃんの笑顔を見てるとあらん限りの福が今彼女にはもたらされているのだろう。
「すっごく、おいしいねさくらちゃん!」
「そ、そうだね」
「〜♪」
お嬢ちゃんは陽気に鼻歌を奏でながら五個目の焼きもろこしをかじり始めた。あの小さな体の何処に五つもの焼きもろこしが入るのだろう?
「ね、ねえアルキメデス」
「安心しろ、十個までは安全圏な筈だ」
「そ、そう」
アルキメデスがそう言うなら大丈夫なんだろうけど、何か体に悪そうだからボクとしてはそろそろ止たい。
お嬢ちゃんが六本目の焼きもろこしに手を伸ばそうとした時、聞き覚えのある声がボクの背後からした。
「よう、随分と朝から元気だなお前ら」
「にゃ!?」
「ぬ?」
「あう?」
予知せぬ来訪者の登場にその場に居合わせたボクたち三人?は三者三様の声を上げた。
その人は何時もの様にボクに片手をあげて眠そうに「おはよう」と言い縁側のボクの隣に座った。
その時のお兄ちゃんの格好といったら、寝巻きにサンダル姿でボサボサの髪。
「さっきまで思い切り寝てました」と言わんばかりの格好で、こんな人間が本当に幽霊とで出遭ったのかと新ためて疑問に思ってしまう。
なんだか、本当に何時もどおりなお兄ちゃんの対応を見てボクはため息を一つついた。
全く、自分が今どんな状況に居るかも知らずにのんきなものだ。
そんな所がどうしてか、おばあちゃんと少しダブって見えて暫くお兄ちゃんの横顔を見上げていた。
お兄ちゃんは頭をかきながら寝ぼけ眼の目をこすり大きな欠伸を漏らしていた。その何気ないしぐさにも少し違和感を感じる。
(やっぱり少し元気が無い...かな?)
「ん?なんださくら、俺の顔に何かついてるか?」
ボクの視線に気づいたのかお兄ちゃんはボクの事を見下ろす。
思いのほか近距離で視線が交わり、なんだかこそばゆくてボクは慌てて目をそらした。
「え?ん、いや、ちゃんと目と鼻と口がしっかり付いてるよ」
「何慌ててるんだオマエ?」
「そ、そんな事ないよ。ヘンなお兄ちゃん、にゃはは♪それよりおにいちゃん、この時間に起きて「おはよう」はないんじゃなかな?」
「ん?何だ、今何時?」
「もう、正午だよ」
「ん?そうなのか?俺にしては随分早起きな方だな」
その一言を聞いてボクは深くため息を漏らした。
「全く、音夢ちゃんがいなくなってからお兄ちゃんたるみすぎだよ」
「それ、暦先生にも言われた」
「暦先生にどうして?お兄ちゃん何か学校に行く用事なんかあったの?」
「え、あ、いや、まあ学年末の補習でちょっとな、ハハハッ」
何処かしおらしい態度でお兄ちゃんは目をそらして笑った。何かそのしぐさにもやはり違和感を感じる。
「お兄ちゃん、それホント?」
「ば、馬鹿だな。どうしてこんな事で嘘つくんだよ、変な奴だな」
「まあ、そうだけどさ」
「あ〜、そうそう本校に入学したら今度はオマエと一緒のクラスになるかもしれないな」
「えっ?」
その何気ないお兄ちゃんの一言はボクの心を大きく揺さぶった。
『一緒のクラスになるかもしれないな』
お兄ちゃんと一緒のクラスに...
それはボクにはありえない事だ。何故ならボクは既に風見学園の生徒ではないから。
もしも...
ボクがもう少し風見学園の退学届けを出さないでいたら...
そんな幸せな未来もあったかもしれない。
お兄ちゃんとの一緒の学園生活がまだ続いていたかもしれない。
でもやっぱりそれはありえない事で...
「えへへ〜、もしそうなったらボクはもっとお兄ちゃんと一緒に居られるようになるね」
心中を悟られないように笑うしかなかった。兄に甘えるようなそんな笑顔で、幼馴染としての笑顔でボクはお兄ちゃんに向けて笑顔を作った。
「あ〜それカンベンだわ」
「ぶ〜、どうしてそんな事言うかな!」
「ハハハッ悪い悪い、それよりこの焼きもろこし俺にも一つくれよ。起きてからまだ何も食べてないんだよ」
「ハイハイ、どうぞ」
...こんな何気ないやり取りももう少しで出来なくなると思うと、ボクの胸はこれ以上にないくらいに軋んだ。
少し、ほんの少し、希望に満ちた未来をチラつかされただけでこんなにも辛く苦しいなんて...
それほどに
ボクはお兄ちゃんの事が好きだった。
「......」
お兄ちゃんと久々に夢中に話していたせいで忘れていたが、お嬢ちゃんはそんなボクらのやり取りを唯、黙して見つめていた。
お嬢ちゃんの顔には表情が消えていた。表情を手操り操る糸が全て切れた人形のような恐ろしいほどの冷たい表情で...
続く
スズランさんの後書き
なんだか「初期型さくら改?」(さくら)の事が凄く好きになった話でした。(自分で言うのもなんですが)
どうしてこう、D.Cの中の女の子達は自分がその人の一番になれないと解っていても、その人のことを思い続けられるのか?
それは傍から見れば少々醜いかもしれない、未練がましいかもしれない、見苦しいかもしれない、痛々しいかもしれない。
それでもその思いをとめることのできない歯がゆさを、今回は表現しようとしたのですかちゃんと表現できたろうか?
なんとなく、「こうしたい」という形は頭に浮かんでいるのだがそれを文章や形に表すのは中々に難しいモノです。
私もまだまだ修行が足りませんね。