D.C.P.S〜ダ・カーポ プラスシチュエーション〜                     作者 スズラン〜幸福の再来〜


                                                       キャスト
                                                       主人公     朝倉 純一
                                                       メインヒロイン 霧羽 香澄
                                                       サブキャラ    名無しの少女
                                                                  芳乃 さくら
                                                                  霧羽 明日美




霧羽香澄After story月と桜に込めた願い〜悲シキ恋ノ詩〜




第10話  メビウスの輪〜A spiral without the end〜



朝倉SIDE


四月一日風見学園中庭


「今日もお勤めご苦労さん、と」

誰に語りかけるわけでもなく呟くと、俺はいつもの定位置(中庭のベンチ)に腰を下ろした。
季節は春だといっても深夜の寒さは中々堪えるもので、上着の一つでも羽織って来ればよかったと後悔した。

ふと、空を振り仰ぐ。

雲ひとつ無い夜空は綺麗な星景色を見せてくれた。この初音島は割と田舎な島だ。

だからだろうか?

空気はそれなりに澄んでいて街灯も少なく、夜空を見上げれば何時だって、多くの星を見ることが出来る。

まあ、生まれてからずっと初音島育ち俺としては都会の'汚い空'という方に興味が沸く。
このような田舎の空が綺麗だというのなら都会の汚い空というのはどういったものなのか、そちらの方が気になるものだ。

「っと、あれ?」

夜空を見上げていてふと、何か違和感に襲われた。
今日はこんなにも空が澄んでいるのにどうして今宵の夜空には月が浮かんでいないのだろうと。

「うーむ」

どれだけ首を巡らせても空に月を見つけることは出来なかった。

「って、まあどうでもいっか」

さて、もう日付は変わってしまっただろうか?俺は半壊した携帯のディスプレイを見つめた。


AM12:45


とっくに日付は変わり暦も四月に変わっていた。

「もう四月になったんだな」

最近、時間が経つのが早く感じてしまう。折角の春休みが何とも勿体無いように感じるたのは、これで一度や二度ではない。

「ハハッ、本当に何をやっているんだろうな俺は」

可笑しくて笑いがこみ上げてくる。全く本当に可笑しい、こんなにも物臭な俺がここまで一つの事に没頭するなんて。

俺はいつから'イカれて'しまったのかな?

「ったく、お前のせいだぞ?香澄」

愚痴をこぼすように

その名をかみ締めるように

俺はその名を久しぶりに口に出した。たったそれだけの行為が俺の疲れきった心に一筋の光が差したように心地よい感覚になった。

何故だろう?

唯、思いを馳せている女の子の名前を口に出すだけでどうしてこんなにも心満たされるのだろうか。

答えは簡単だ、

俺はまだ、いや'まだ'というのは何かしっくりこないな。今現在俺は彼女、霧羽香澄に恋をしているからだ。

自分で言っててなんだが顔から火が出るほど恥ずかしいのだが・・・

(でも・・・)

この恋に終着点など無い。俺が自分勝手に思いを馳せてもその思いを伝える相手がもう居ないからだ。

なんて残酷な矛盾なのだろう。

悲しいまでにこのやるせない心は悲しみ通り越して滑稽と思うほか無い。


どうすれば君の元へ思いは届く?_______________


何処に行けば思いは届く?__________________



俺は何をすれば・・・__________________


「・・・この思いが届くんだ」


例えるのならそれは'メビウス輪'のようなもので・・・


俺は何時しか抜け出す事の出来ない葛藤の中に迷い込んでいて。


何処で生まれたのか?何処で消えるのかも解らずに


唯、その葛藤を繰り返すだけ


こんな現実はヤダ


何故だ?


どうして俺はこのぐるぐる回る'メビウスの輪'の中へ迷い込んでしまったのだ?


_____(ならオマエは'そこ'から抜け出したいと思うのか?)______


「えっ?」


気のせいか?今何処からか声が聞こえたような、


(オマエは今の現実を否定しながらも、自ら作った'メビウスの輪'から抜け出そうとしない。なんたる矛盾だ、お前が理解できない)


「・・・・・・」


やはり声がする


というよりも声が、流れ込んでくる


聞き覚えの無いない声





・・・気が付けば俺の目の前は真っ暗で周囲を見渡しても何処も同じような闇が広がっていて、どちらが上でどちらが下なのか、
距離感も時間の間隔もなく自分の手さえ見えないし声も出せない。


そもそも自分の肉体はそこに存在するかもわからない場所に俺は確かに'居た'。


(・・・このままだとオマエは間違いなく破滅する)


「・・・・・・」


その声は言う。そいつはどうやら俺に話しかけているようで、その口ぶりが偉そうでどうにも気に入らない。


だが、反論しようとも声が出ない。


いや、声が'出ない'という表現は少々違う。


ここでは声が'響かない'のだ。


春夏秋冬、季節の理を無視し続け今なお咲き誇る'枯れない桜'の美しさを知ってなお


幾度と無く他人の夢に触れていてなお


この場所は今まで経験した事のない異界だった。


(止めておけ、この場所ではオマエは何も出来ない)


ソイツは悟りきったように語る。


おもしろくないな


この状況はおもしろくない


奴の言っていることが本当なら俺はこの場所で唯、奴の言葉にウンともスンとも言えず聞き耳を立てているだけだ。


(どうしてオマエはそこまであの少女にこだわる?)


'少女'とは誰の事を指しているのか?不思議と俺はそいつの言う'少女'の事を悟った。


(あの者はもうこの世のものではないのだ。それを知っていてどうしてお前は毎晩無駄な事を繰り返しているのだ?)


冗談ではない。何処の馬の骨かも解らない野郎の言葉をウダウダと聞いていられるほど俺は寛大じゃない。


よって俺の意識はこの瞬間、目の前に居るだろう'ソイツ'に断固抵抗する。


(たった一つしかない自らの肉体を削ってまで、少女を想って何になる?)


・・・耳障りだ


(少女はもうこの世のものではない、お前のしていることは無駄なのだ)


・・・黙れよ


(無駄と解ってなお、オマエがあの少女を想い続けるのは何故だ?)


カチリ、俺の中で何かが噛み合った。決定的にズレていた何かが合わさったような感覚。俺は静かに'口'を開いた。


「・・・オマエに何がわかる」


俺は怒気に満ちた口調で口を開いた。だが俺が声を出せたのはそれだけでこれ以上口を動かそうとしても上手くいかない。


(・・・・・・)


そいつは少し間を置くと静かな口調で俺に言った。


(オマエがその'メビウスの輪'から抜け出す方法は二つ)


(一つは'霧羽香澄'の事を完璧に忘れる事)


「!?」


(そもそもこの世の者ではなかった存在だ、あの日の事を無かった事として忘れれば良いのだ)


あの日の事を無かった事に?


(さすれば御主は救われるのだ。今の葛藤から、やるせなさから介抱されるのだ)


忘れる・・・


(霧羽香澄の事を)


忘れる・・・


(忘れてしまうのださすれば御主はこれから先、不幸には・・・)


ピシッ_______


っと、鋭い衝撃が体中を走り何かに亀裂が走った音が響く。


「ふ、ざ」


(ん?)


気が付けば


目の前の漆黒には白い亀裂が走っていて


俺はそんなことには眼を向けずに


キレた


「ふっざけるなあああっっっ!」


(な!?)


極限まで膨れた憤怒で俺は叫んでいた。だが俺が口を開けたのはそこまでなようで、段々と意識が遠のき始めるのを感じた。


(ふう、ったく筋金入りの馬鹿だなこやつは)


意識が遠のくなかそいつの声は俺の耳に届く。


(最後に教えておいてやる、'メビウスの輪'から抜け出す二つ目の方法だ)


(それは最後にして最悪の方法。だが、御主にとってはそれが最悪な方法ではないかもしれん)


(・・・御主が霧羽香澄と同じ存在になる事だ)


・・・・・・


・・・・・・


・・・・・・


「っつ?」

キリキリと頭痛がする。瞳を開くとそこには見慣れぬ光景を俺は見上げていた。

('見上げていた?')

気が付けば俺の体はどうやら仰向けに寝転がっているようだ。

地面が堅い。これは土の上か?

段々と頭が覚醒してくる。どうやら俺はベンチに座った時に事切れたように眠りコケ、その際に体のバランスを崩したのか地面に倒れたようだ。

「それで俺はこうして土の上で夜空を見上げているわけか・・・」

それにしては何かオカシイ。なんというか、自分の体が自分のモノと感じない。


オカシイ・・・


これはオカシイ事だ。


でも何故かそれが自然な事のように感じている自分が居る。まるで他人の体を見ているようなそんな感覚。

最近の俺の体はハッキリ言って自分でも自覚があるくらい不調で、春休みに入ってからは日が経つことに酷くなって行っている。
だが、こんな感覚は初めてだ。なんだろうこの感覚は。コレは本当に俺の体か?

試しに右手の拳に力を入れてみる。ギュっと、拳が作れた。
目で見てそれが解る。でもそれだけだ、'拳を握っている'と言う事が眼で見て取れるだけ。握っているという感覚が余りにも薄いのだ。

「・・・そんな」

素直にその事実が怖いと思った。俺は更に拳に力を入れ続ける。


握る


ひたすら握る


強く強く握る


どんなに強く握っても手のひらが痺れているとしか感じなくて、これではまるで自分の体が・・・


(生きてない?)



・・・・・・


・・・・・・



・・・結局、俺が体の感触をまともに取り戻したのはそれから30分ほど経ってからだった。







自室のベットの上で天井を見ながら俺はふと思う。


その日、俺の記憶に刻銘に残った記憶は・・・


見上げていた空は、星空が本当に綺麗で。


そんな夜空にどうしてその日は月が出ていないのか?と、疑問に思った事と


(ん〜、何だったかな?すごくムカついた事があった気がする)


何か・・・


とてつもなく嫌な事があった気がする


(ああ、そういえば)


今日は四月一日で、一年で一度だけ嘘のついていい日という事を思い出した。


そこで俺は


『嘘でもいいから香澄と逢いたい』


と思ったがすぐに考えるのをやめた。

四月一日という一年で一度だけ嘘をつくのが許される日であるが、嘘は所詮嘘でしかなく唯'嘘をついてもいい'という日なだけであって、
嘘が本当になる訳ではない。嘘だとわかっていても、祈る事は出来るだろう。
だが偽りの中でたとえ香澄に出会えたとしてもそれは'ホンモノ'ではない。


(そんなモノで満たされるほど俺の気持ちはヤワなものじゃない。)


そう言い聞かせて、俺は布団の中で目を閉じ俺の視界は真っ黒になり今ある現実から俺の意識は遠のいてく。

(ああ、でも一つだけ思い出した。今日、空に月が見当たらなかったのは今宵の月は'新月'だったから空に月が浮かんでなかったんだ)


だがもう一つの疑問は思い出される事なく俺の意識は闇へと堕ちていった。





続く

スズランさんの後書き
このシナリオを思いついた時の事は鮮明に覚えています。映画「逆シャ○」のエンドロールを見て思いついたシナリオです。
朝倉の垣間見た空虚の世界と言うものを描いてみました。
その空虚は夢であって、夢の無い場所。現実であって、現実には無い場所。
そんな場所が存在するのならそこは冥土とでも言うのでしょうか?
人は人としての意識を持ったまま冥土というものを垣間見れるとしたらそれは'死ぬ'時なのでしょうね。
そんな哲学めいた事を考えさせられたシナリオで描写の方もかなり曖昧な表現を多く使ったような気がします。
自分で読み返してみると、なんともまあ解りにくい!自分の文章能力を痛感したシナリオでもありました。

管理人の感想
タイトルがもろに逆○ャアですねw
大学で哲学を履修したこともあり、こういう哲学的に考えるストーリーは結構好きだったりします。
こういう表現はやっぱり自分には到底出来そうにないですね〜



                                            
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