D.C.P.S〜ダ・カーポ プラスシチュエーション〜                     作者 スズラン〜幸福の再来〜


                                                       キャスト
                                                       主人公     朝倉 純一
                                                       メインヒロイン 霧羽 香澄
                                                       サブキャラ    名無しの少女
                                                                  芳乃 さくら
                                                                  霧羽 明日美




霧羽香澄After story月と桜に込めた願い〜悲シキ恋ノ詩〜




第9.7話 三日月の夜に(後編)〜月影の円舞曲(ワルツ)〜




「・・・どういうこと?」

アルキメデスはお兄ちゃんの事を'アレは一体なんだ'とボクに問いかけた。それはまるでお兄ちゃんを何かの異物と指摘するかのように。

「どうしてあの男は'霧羽香澄'と関わる事ができる?」

彼は続けて問う。その声は極めて真剣そのものだ。

「ど、どうしてって言われても」

アルキメデスの言葉の意味がわからない。どうして彼がココまで深刻な口調で話しているのか、ボクにはまるで見当が付かない。

「ふぅ、我輩の言っている事の意味が良く解っていないようだな」

アルキメデスは疲れたようにはき捨てるように言った。少し腹が立ったが彼の言い分はもっともであるので次の言葉をボクは静かに待った。

「さっきも言ったであろう?'あの手のモノ'つまり今回のケースでは霧羽香澄の事を指すが、
彼女のような存在は本来ごく普通の人間には視ることの出来ないものなのだ、と」

「あっ」

そうだった、彼の話だと死者の幽霊はその幽霊本人と深い関わりの無い者はその姿を見る事が出来ないと。
当然、お兄ちゃんと霧羽香澄との間には何も接点が無い。と言う事はお兄ちゃんは霧羽香澄の姿を視ることは普通に考えて不可能と言う事になる

「理解したようだな」

「う、うん。でもお兄ちゃんはこれといって霊感が強いってわけでもないし今回の場合、単なる偶然じゃ・・・」

「偶然?偶然など死神の生きる世界では存在のしない概念であり、全ては必然によって成り立っている。だからそんなことはありえないな。
・・・いくらこの島が'普通'でないでしろな」

最後に付け加えられた言葉にボクはビクリとした。もう既にこの島は普通の島で無い事を彼は悟っていたらしい。

「・・・そっか、君はとっくに気づいていたんだね」

「まあ、具体的にどのような力がこの島に働いているかまでは我輩には解らんがな」

「・・・気にならないの?」

「・・・気にならん、と言えば嘘になるが聞いても御主は素直に口を割らんだろう?」

「・・・・・・」

どうやら向こうはボクの心中何でもお見通しみたいだ。確かに部外者にこの島の力の事を話すほどボクも無防備ではない。
でも、何時かは口を割らなくてはならないのかもしれない。

夕方に見たあの真っ赤な花びらもまた何か異変を起こすような前兆なのかは解らないが、
それが今回の騒動につながると言うのならボクは話さなくてはならないだろう。

単なる偶然だと思いたい、でもあの真っ赤な花びらもなにか必然性が帯びているのなら自体はボクが思っているほど深刻なものなのかもしれない。

アルキメデスはボクが何も話さないことを悟るとため息交じりで言った。

「御主が何を考え込んでいるのかは知らん。だが御主も解っているだろうが今はこちらの問題の方が最優先事項だ。
では早速だがひとつ朝倉と言う男について再度、質問だ」

ボクは静かに頷く、質問の内容については多少の予想は出来ていた。ボクがこの島の力についての事について口を割らなかったら、
恐らくお兄ちゃんの事を聞かれると。

今回の騒動、ボクとしてはなるべくお兄ちゃんは巻き込みたくない。この島の異変はボクが責任を持って終わらせなくてはならない。

「奴は何か普通の人間にはない'力'の様な何かを持っているのか?」

普通の人間には無い力か、うーんそうきたか。'力'お兄ちゃんの持っている力といったら・・・

「手から和菓子を生み出せる事かな?」

ズバリお兄ちゃんと言ったらこれだろう。自らのカロリーを消費してそれを和菓子に変える魔法、
この魔法をお兄ちゃんが使えることはボクとお兄ちゃんとの秘密だった。

お兄ちゃんはその力を何の役にもならないつまらないものだと言っているけど、
あの魔法の本当の意味をわかっている上でワザとそういう風に言っていることはボクはずっと前から知っている。

「・・・なんだそれは?」

アルキメデスが間の抜けた声で答える。まあ当然と言えば当然の反応かもしれない。
でもボクの言った事は伊達や酔狂ではなくれっきとした事実なのだから仕方が無い。

「えっとね、これには突拍子な事情があるんだけど・・・」

「今更何を聞いても驚きはせん」

「あ、そう?」

「ああ、だから早く話してもらおうか」

ココから先は話してもいいだろうか?と思いとどまったが、ここまで話して隠し事も無いなと思いボクは話してしまうことにした。

「うん、わかったよ。お兄ちゃんは実は魔法使いなんだ」

「・・・ウム、それで?」

アルキメデスは'魔法使い'という単語に驚きもせずボクの話に耳を傾けている。それを確認するとボクは話を続けた。

「お兄ちゃんには魔法使いとしての血が流れている、だから魔法使いとしての素質があるんだ。
でも素質があるってだけでお兄ちゃんは本格的に魔法を学んだり研究している訳じゃないから、お兄ちゃんに使える魔法は
その手から和菓子を生み出すっていうそれだけなんだ。元々、無気力で欲も無い人間だからね」

まあそういう人だから魔法使いの素質がある訳だけど。

「・・・その血というのはお主にも流れているのか?」

アルキメデスの問いにボクは少し心を乱した。だがそのわだかまりをかみ殺すようにボクは頷く。

「・・・うん、まあね」

正確に言うとお兄ちゃんよりボクの方が魔法使いとしての血は色濃く受け継いでいる。
だからボクには生まれつき中途半端に'力'を持っていた。そのせいでボクは・・・

「どうかしたか?さくら殿」

まあ、そんな事はどうでもいい。今はそんな事よりもこちらの問題のほうが先決だ。

「ううん、何でもないよ。それで他に聞きたい事は?」

「うーむ」

アルキメデスは何か気難しそうな声を上げる。

「たかがその程度の力で外野側の人間が'死に近くない者'が実体化した魂、つまり'霧羽香澄'を見てしまうことが出来るだろうか?」

「それじゃ、理由としては足りないの?」

「いや、そういう訳ではない。何かしら'力'を持った普通の常人ではない者だからこそ、
'普通でない者'の事を視界に映すことができる可能性はある。だが、可能性は可能性でしかなくそれが事実ではない」

「何が言いたいの?」

「今回のケースではあの朝倉と言う男は'霧羽香澄'という霊体を完璧な姿でその目に捉えて、
事もあろうことに'それ'と会話まで出来てしまったときてはこれを異常な事態という以外何と言える」

「え?よく解らないよ。お兄ちゃんはその日、偶然の重なりで夜の学校で香澄ちゃんの肉体を持った具現化された魂に出会ったんでしょ?
それならそこに居る彼女を確認することだって会話をする事も簡単じゃないの?」

「そうだな、確かに特異性のある人間であれば何者かの肉体を持った魂がそこに'居る'という感覚は察する事は出来るだろうな。
だがどんなに特異性ある人間でも、出来る事はそこまでだ。唯、目に映らない存在をそこに'居る'と察する事が出来るだけ。
それ以上の行為、つまりその具現化した魂を視界に映したりその者と会話したり出来るのは、その者と深いつながりがある者だけだ・・・」

「ちょ、それってお兄ちゃんは本来視えない物を視てたって事?」

「まあ・・・言い換えれば'視えてしまってはならぬものを'視ていてしまったということだ。そもそも「魂」と言うモノは極めて象徴的な概念であり、
人の目には勿論、それを感じる事も、そこに在る事の確認など安易に出来るものではない。それを'モノ'として扱えるのは死神だけだ」

なるほど、そう言われれば全ての辻褄が合うというものだ。
しかし今聞いた話を全て事実とするとその夜お兄ちゃんは限りなく死に近く、危うい者と関わった事になる。

「どうしてお兄ちゃんがそんなものと関わってたのかな・・・」

「その心当たりを今お主に聞いておるのだ」

「あ、そうだよね」



・・・・・


・・・・・


ボクはその後もお兄ちゃんが普通の人とは違った'何か'について考えて見たのだがこれと言ってそれらしき事は思い浮かばなかった。

「もう、何も解らんか?」

「うん、悪いけど」

「・・・そうか」

アルキメデスは声を落として呟いた。

「・・・・・・」

「・・・・・・」


それから、どちらが声を発するまでも無くボクたちはただ月夜の元に揺られる桜を見つめていた。



桜・・・



月・・・



音も無く流れる柔らかな風・・・


なんて幻想的で美しい世界なんだろう。
優しい風にその身を任せ流れるように、自由に舞い踊る桜の花びらは'月影の円舞曲(ワルツ)'を奏でているようだ。

この景色を見てボク、'芳野さくら'はふと思う、何時しかこの幻想的な世界が跡形も無く消えてしまうのではないかと・・・

なんだろうこの悪寒は・・・

夕方の枯れない桜で感じた同じ感覚だ。

一体ボクの周り・・・いや、この島には何が'起ころう'としているのだろう?

お兄ちゃんの不調、死神を名乗る来訪者、そして夕方みた桜の異変なるもの、これら全ての問題は何か'つながっている'。
全ての出来事は必然として起こっているのだ。唯、一つ解っている事はその核となるものは'霧羽香澄'という少女の命・・・

「あっ」

ボクは思わず声をあげた。まだ聞かなければならない事を思い出したからだ。

「ん、どうした?」

「もう一つ聞きたいことがあるんだけど聞いてもいいかな?」

「む?なんだ言ってみよ」

「お兄ちゃんの不調については君は何か知らないの?」

「ああ、その事か」

ボクの質問にボソリと意味ありげに返事を返すアルキメデス。

「何か知っているの?」

「いや、悪いがその件に関しては我々にはあまり関係の無い事だ」

アルキメデスは愛想の無い言葉でそう吐き捨てた。

「・・・そっか」

「いや、まて、そういえば奴は数日前に・・・」

「何?何なのさ!」

「そういえばあの場所は・・・」

「ねえったら!一人で自己完結しないで!」

「ウム、そう考えれば一概に我々と無関係とは言えんな」

ボクはなお強く追求するもアルキメデスはしきりに独り言を繰り返し一人で何かしら思考を続けている。

「うぐぅ」

ボクとしてはこれは面白くない。と、いうより何かお兄ちゃんの不調について何か知っているのなら意地でも聞き出さなくてはならない。

これは極めて死活問題である。多少荒々しくなってしまうが仕方ない。ボクは静かに握りこぶしを作り・・・

「お嬢ちゃん、許してね」


ガンッ___________________________________________________________________


「おうっ!?」

言い捨てると躊躇無くアルキメデスの顔面に振り下ろした。手ごたえは・・・言うまでも無く会心の一撃。

「ま、間違いなく謝罪をする相手が違うと思うのだが」

「うーん、気のじゃないかな♪」

物凄い笑顔で答えてあげた。

「・・・鬼畜な」

「で、何かお兄ちゃんの不調について何か解ったの?」

「むう、'口は災いの元'とはまさにこのことだな」

「いいから、早く答えてよ」

「まあ待て、この件に関しては御主に話すことは・・・」

その言葉を言い終わる前に再度ボクは拳を作りそれをアルキメデスの頭上に振り上げた。

「御主、まだ我輩に狼藉を働く気か?」

「君がもっと素直でいい子ならこんなことしなくて済むんだけどなあ」

「・・・全く、お嬢と似て御主も人が悪いな」

「お嬢ちゃんに言いつけるよ?」

「む?それは勘弁だ」

「なら、教えてほしいな」

「・・・いや、どうあっても話すわけにはならん、ってコラ無言で拳を振り上げるんじゃない。
いいか、よく聞くのだ。今我輩の腹に収めていることを御主に話すということは我々の生業に反する行為にあたるのだ」

アルキメデスの口調は何時に無く真剣で、ボクも握った拳を解いて彼の主張に真剣に耳を傾けた。

「御主もまだ隠している事はあるのであろう?それは恐らくこの島に関して無関係の我々が安易に聞いてはならぬことでもあろう?
それと同じように我輩たちも守らなくてはならない秘密があるのだ」

彼の言い分はもっとだ。確かにアルキメデスの言うとおりボクも彼らには話してはならない秘密を、胸のうちに締まってある。
それはこの島の正体についてだ。それは無関係な人には勿論、誰にも語ってはならないこと・・・

アルキメデスの言い分は良く解る、それでも、ボクはお兄ちゃんの事がやっぱり心配だ。
自分の思い人が危険に晒されているかもしれないのにどうして黙ってみている事など出来るだろうか?

(そんな事・・・出来るはず無い)

「でも」

「御主よもや忘れたわけでは在るまい、我々は普通ではないのだ。それは御主にも良く解っている筈だ」

「っ!」

これまでで一番強い口調でアルキメデスはボクに言い放った。それは想像以上に鬼気迫った声で。その後ボクは彼に何も言えなかった・・・






その晩ボクは布団の中眠れずに唯、天井を見上げていた。あの後アルキメデスは何も語ってはくれなかった。
アルキメデスの最後の一言を思い返してみる。
一端のぬいぐるみがあれほどの威圧感を放ったのだ、彼は多分ボクの何倍もの時を生きてきたのだろうと直感した。

彼の言う事は最善であると思う。

でも一概に彼の言葉を鵜呑みに出来ない自分が今あるもの紛れも無い事実。それは恐らく最近感じ始めた嫌な悪寒のせいだと思う。

そう、今起こっている全ての事柄は'つながっている'。


ボクがこの島に戻ってきたのも・・・


死神名乗る者の来訪も・・・


三年前の霧羽香澄という少女の悲劇も・・・


そしてお兄ちゃんのことも・・・


全てが必然的な出来事なのだろうか?


嫌な予感が頭をもたげる。何か頭に亀裂が走ったように感じた。

眼を閉じれば当然のようにそこには光のない闇の中。

その暗闇でボクは思う。

もし・・・

もしも、全てが必然的に事が起こっているのなら・・・

そうだとしたらボクは・・・

「・・・どうしたらいいのかな?」


そう呟いた声は暗い天井へと消えていった・・・





続く

スズランさんの後書き
うーん、ちょっと話を広げすぎちゃったかもしれませんね。
創作したのは私なのですが、何とまあ自分で言うのもなんですが、コレ本当にキレイに終わらせられるかなあ?凄く不安です。
当初の予定では10話前後で完結するかと思っていたのですが、私が思っている以上に無駄に長作になってしまったようです。
どんどんと暗くなってくし・・・(泣)

いやね、水夏とリンクって事でD.Cだけでなく水夏の方の世界観も取り入れようとですね、
押入れから誇り被った水夏のPS版を実に二年ぶりに起動させてプレイして見たりするうちに、アレもコレもって感じで広がっていきこの有様・・・

これも自分の実力不足でしょうね、本文読んでみてもわかりにくい部分多々あるし・・・
と、とにかく!これから何話かは、さくら、お嬢サイドで行きますのでそれではこの辺で。

管理人感想
今回は前回に比べると半分程度の長さでしたが、それでも自分が書くのよりは長い方ですね。
話を広げ過ぎると終わりになるほど詰め込み過ぎて余計訳が分からなくなるってのは良くありますね。
でも、何話使ってもいいわけですし、頑張って全部まとめ切って下さいw
終わりまでちゃんと掲載し、愛読させて頂きます。
水夏も出来たらプレイしたいんですけど、当分無理そうですので持ってる知識で読ませて貰いますね。



                                            
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