D.C.P.S〜ダ・カーポ プラスシチュエーション〜 作者 スズラン〜幸福の再来〜
キャスト
主人公 朝倉 純一
メインヒロイン 霧羽 香澄
サブキャラ
名無しの少女
芳乃 さくら
霧羽 明日美
霧羽香澄After story月と桜に込めた願い〜悲シキ恋ノ詩〜
三月二十六日PM4:30
第9.5話 異変
さくらSIDE
風見学園への通学路
やれやれ、自宅でお嬢ちゃんと遊んでいたらもうこんな時間になってしまった。
日は当に傾き始め辺りはオレンジ色の夕焼け空に染まっている。ふと、空を見上げてみた。
空は例のごとく赤い。
それはとても鮮やかな色をしていて地上にいるボクに、炎に包まれた星は今日最後の光を優しく贈ってくれる。
空を超え、大気を超え、宇宙の遥か遠くから自分自身の命を燃やしながら・・・
「生命か」
生きるもの全てが持つ生命、命は皆平等という考えは正しいかどうかは解らないけど生きるもの全てが通らざる得ない道がある。
それは'死'という無慈悲なものだ。だが誰にでも平等に訪れるものでもある。
ボク達を当然のように照らし続けてくれるあの星にすら'死'はある。
死とは一体何か?人は必ず死ぬ運命にある。唯、そう言う'決まり事'にしか過ぎないのか?
それとも、そう簡単に割り切ってしまってよいものではないかもしれない。
「ハァ、ボク一体何やっているんだろう・・・」
家を出てからずっとこの調子だ。さっきのアルキメデスの話からずっと喉に突っかかるように'死'という概念について僕は思考を続けている。
初めは'死'隣り合わせな人生を長く送ってきたお穣ちゃんの気持ちを考える為にやってきたのだけど、
いつの間にか思考は大きくズレた方向に進んでしまった。
「生と死、これは人類の最大の謎かもしれないね」
そんな大それた事にボク一人で答を出す事はできる筈もなく唯、あれこれと思考を続けながらボクは歩いていく、目的地は風見学園。
ちょっとしか通わなかったこの通学路もなんだかずっと昔からこの学校へ通っていたような気分にさせる。
なんとも不思議な気分だ。ボクは一ヶ月もこの学園に在学してなかったのに。
「でも、いい学校だったな」
もしも、時が戻るのならボクはこの学園でお兄ちゃんと付属から本校までずっと通いたかった。それが今のボクの願い。
切実で絶対に叶える事が出来ない時間という現実。
ボクは自分の身体を見つめた。小学生と見られても仕方がないような僕の身体。ボクの身体はこの六年間ずっと成長していない。
この身体はボクのコンプレックスでもあり、過去に望んだ形でもある。
ボクは六年間ずっとこの島の桜の呪縛から逃れられずにいる。その証拠がこの成長しない体だ。
呪縛・・・
それは、何かのまじないで自由が利かなくなる事・・・
何時からそんな言葉を使うようになってしまったのか?
長い間、ボクを守ってくれたのに・・・
ボクの願いを叶えてくれたのに・・・
身体は成長しなくとも心は成長する。そのことは自分自身の小柄の身体を見れば一目瞭然だ。
昔の考えとはボクは大分変わってしまったらしく、幼い頃のように純粋な気持ちなんて持ち合わせていない。
今のボクは何よりも最低だ。
そう、呪縛なんて直に解き放つ事が出来る。
だがそれを解き放とうとしない。
まだ、ボクはこの桜に甘えている部分があるのか?
呪縛なんて、簡単に解き放てるんだ。
ボクが・・・
願って病まない'願い'を諦めてしまえば・・・
長年この胸に留めてきた‘この思い’を諦めてしまえば・・・
気が付けばいつの間にか'秘密基地'と呼ばれるその名の通り、幼い頃のボク達の秘密の場所へ足を運んでいた。
公園のわき道を少し行った開けた場所、それがこの場所だ。そこにはこの島一番の桜の木がある。
これこそがボクを束縛する鎖であり長年ボクを見守ってきてくれたおばあちゃんの最後の魔法の結晶。
その場所はボクに言わせれば聖域に近い場所であった。
見渡す限り映る巨大な桜の木、眩暈を起こすかのような美しい桜吹雪、この場所は言葉どおり聖域の様な場所だ。
普通の桜の木よりこの巨大な桜の木には色の濃い花をつける。それは何故かは僕にはわからない。
「・・・・・・」
ボクはそっと、その大木に手のひらをのせた。
「・・・・・・」
耳を澄ませば聞こえてくる。この樹に流れ込んでくる人々の願いの声が、その願いはどれも美しく清楚なものだ。
この声はボクだけが聞く事のできるもの。魔法使いだったおばあちゃんの孫であるボクだけが・・・
この桜の木はこの島の人々の小さな願いを集めて、本当に必要な人の願いを叶える力が込められた魔法の木。
そしておばあちゃんがボクが一人になっても大丈夫なように残してくれた忘れ形見。
この桜の木は二つの力が働いていて初めて花をつけることが出来る。一つは島のみんなの清楚な願い。
もうひとつはボクの捨てきれないなる大きな願い。この二つを元にこの桜の木を中心にこの島全ての桜は一年中花をつける。
ボクは桜の木から手のひらをそっと離した。そして静かにその場に背を向けた。
迷ってはいられない、ボクにはもう時間がない。
全てにケジメをつけなきゃ、そうしないとボクは・・・
「ボクはこの島をはなれる事が出来ない」
ヒラリ________________________
「ん?」
何かがボクの目の前を通過して'それ'はボクの丁度足元へと落ちてきた。
「?」
ボクは身をかがめて'それ'探そうとしたが、探すまでもなくボクの視界に直に入ってきた。
「っ!?」
'それ'は血のように真赤な桜の花びらだった。
確かにここの桜の木は普通の桜の木より色の濃い花をつけるが、それでも強いピンク色というぐらいだ。
でも、この桜の花びらは明らかに違和感があった。
「な、に?こんなのって」
桜の花と呼ぶには禍々しいくらい面妖な紅色をしていた。絶句するかのような色の桜の花びらはもう桜と呼ぶには相応しくない。
ボクはその花びらを見て何故か身体の奥底から恐怖を感じた。体中の汗という汗が引いてしまったかのように身体が冷たい。
恐い・・・
唯、ボクの心にその言葉が水が綿に染みるように広がっていく。
ボクは後ろの桜の木に寄りかかるように後ずさり、体をその大木に体を預けた瞬間それは聞こえた。
(苦しい・・・)
(寒い・・・)
(寂しい・・・)
「!?」
この桜の木を通して伝わってくる、それは一体何なのか?それを考えるまもなくボクの意識は極度の嘔吐感に支配され
「っつうう!」
声にならない声を上げ僕はその場から走り出した。今は唯、一刻も早くあの場所から離れたかった。
赤い桜の花びら・・・
桜の花びらが何故赤いかと聞かれればこう答えよう。
桜の木下には死体が埋まっていて・・・
その血を吸い上げているから桜の木は美しい赤色の花びらをつけると・・・
続く
スズランさんの後書き
次回はお嬢の来訪と霧羽香澄との関連性の暴露話になります。
基本的に「さくらSIDE」の裏サイドは真相解明&物語の補足ということで暗くなっちゃうんですよね。
それにしても、この9.5話は暗い・・・
つーか、やっぱしライトノベルっぽい文体で書いてないから読みずらいな、
「.hack 」の小説書いてたときの癖なんですけどね
次の話も少々、暗くなるでしょうが今回ほど酷いものではないかと思います。
管理人感想
今回はスズランさんのおっしゃる通り、かなり暗いさくらの独白でした。
まぁ、桜の木関連には暗いさくらが必須みたいなもんなんですが、見てるとさくらが可哀相になります。