D.C.P.S〜ダ・カーポ プラスシチュエーション〜 作者 スズラン〜幸福の再来〜
キャスト
主人公 朝倉 純一
メインヒロイン 霧羽 香澄
サブキャラ
名無しの少女
芳乃 さくら
霧羽 明日美
霧羽香澄After story月と桜に込めた願い〜悲シキ恋ノ詩〜
プロローグ想い人は既に亡く・・・
三月二十日 深夜 風見学園中庭
ざああああああああ_____________________
静かな闇夜に柔らかな風がだけが吹いている。三月中旬にしてはその風は妙に生暖かく、傷心のな俺を少しだけ慰めてくれているようだった。
中庭のベンチに一人佇み空を見上げる。今宵の空には星ひとつなく、厚い雲が空一面を覆っていた。
空は今にも雨が降りそうなくらい真っ黒な雲が俺を見下ろしていた。携帯のディスプレイに目を向けるとAM2:11と示されていた。
「今、この時間に音夢が俺の自宅不在を知ったら冗談抜きで明日の朝日は拝めないだろうな」
これは冗談抜きだ。恐らく数日は家には入れてくれないだろう。
本気でそうならないことを切実に祈りつつも俺は再度携帯に目を落とす。この携帯は最新機種カメラ付き携帯だったのだが、
その問題のカメラは‘とある事情’により大破されて使用できない。
今現在こいつが俺の携帯電話として機能できていることが我ながらかなり驚きだ。
「全く俺はなにやってるんだろうな」
そう空に呟いてみても、それに答えてくれる者は誰もいなくて・・・
でも俺は願っていた、こんな俺の独り言に素っ気無い感じで減らず口を漏らしてくれる少女がひょっこり現われてくれる事を。
その少女の名は霧羽香澄
五日前の夜に俺がこの場所で出会い、そして消えていった俺が一晩にして不覚にも心奪われてしまった女の子。
卒業式の日に俺が杉並の策略にまんまとハメられ、夜の学園に幽霊が出ると言う噂の真相を俺にルポライターとして確かめさせた事が
全ての始まりだった。俺がその日の夜に学園に忍び込んだ時に香澄と出会った。
見かけはショートカットの似合う月光に照らされた幻想的な美少女なのだが、眞子以上に強気でハッキリとモノ申す女で
初めはいささかカチンと来る事もあった。
でも、本当は恐いものがダメで馬鹿みたいに素直で自分の肉体が消滅しようと妹の事が心残りで、
三年間も学園に居着いていたぐらいの妹思いな優しい女の子だった。俺はそんな香澄の事をたった一晩で好きになってしまったのだ。
だが彼女はもうこの世には居ない。三年前に既に香澄の命は尽きていたのだから。
それでもおれの心は彼女に奪われたままだ。もう届かない場所にいる彼女を俺はこの地上で探している。考えてみればバカな事この上ない。
この場所で待っていれば香澄に会えそうな気がしかたら・・・
最後に香澄が俺と明日美さんに別れを告げたのもこの場所だった。
香澄はこの場所で妹の明日美さんの安否を確認すると本当に安堵に満ちた表情で、鈴の音と共に空へ消えていった。
香澄は成仏したのだ。二度と届かない場所へ行ってしまったのだ。
・・・もう二度と逢えるはずがない。その現実が俺のぽっかりと空いてしまった心を締め付ける。
俺の心はこの空のように厚い雲に覆われている・・・
チリン__________________________
あの時の鈴の音が今再び鳴り響く。
今思えばこれが始まりだったのかもしれない。
これから俺の周りで起こっていく様々な出来事の・・・
夢を見続けなくてはならない少年
金髪碧眼の魔法使い
そして出来損ないで優しい死神
この話はこの世に留まりきれなかった優しい幽霊の最後の物語だ。
そしてこの俺自身の叶えられなかった恋物語。
鈴の音が再び鳴り響く時。
砂時計の砂は静かに落ち始めた。
その向かう先、それは・・・・・・
第一話お嬢とアルキメデス
三月二十日PM3:00
「あ〜、かったりぃ」
いつもの様にぼやきながら俺は桜公園のベンチでふんずり返っていた。只今の時刻は午後三時、ちなみに一時間前まで俺は夢の中だった。
それもそうだ、昨日の帰宅が朝の三時過ぎで就寝できたのがその二時間後なのだから。
「っつうううううう、頭痛てええ」
これもまた当然と言えば当然だ、なにせよ朝寝昼起きの不謹慎な生活を何日も続けていれば体も悲鳴を上げる。
ちなみに生活リズムが狂うと同時に食生活のリズムも狂う訳で、一日二食という生活でもある。
「はあ〜、かったりい」
起床したときは家に音夢は居なかった、恐らく春休みを利用して美春の家にでも行っているのだろう。
洗面台に立って自分の顔を見たときはかなり驚いた。まるで自分の顔とは思えないくらい酷い状態になっていた。
(まあ、酷いと言っても少々顔がやつれているだけなのだが)
そういえば最近、音夢の顔もロクに見ていない気がする。まあそれはそれで好都合でもある。
今の俺を正面から見られては世話好きなアイツは絶対に何か五月蝿く言ってくるに違いない。
唯でさえ、‘あの出来事’以来、音夢の俺への監視が普段の2倍ほど強くなっているのだ。
ちなみにあの出来事とは、香澄と出会った夜にその妹である明日美さんに、別れ際に俺のホッペに不意打ちのキスを音夢に目撃されたのだ。
それを見た音夢は俺が学園で不潔な事をしていたと認識してしまった為、その後の二、三日は家で音夢の取調べの日々が続いた。
なんとか俺のホラで誤魔化せたものの、音夢のヤツはまだ俺の事を疑っている。
「アイツの世話好きにも困ったもんだ」
ため息をつきながら、右手に適当な和菓子を生み出しそれを口元に持っていく。
(まあ、その世話好きのお陰で助かっているとこもあるんだがな。)
チリン_____________________
その聞き覚えのある鈴の音に辺りを見回してみる、
「音夢?」
後ろめたい事は・・・まあ、無いとは言えないが思わず体をビクリと反応させてしまう。イヤ、近くにそれらしき人影はない。
「となると‘うたまる’か?」
うたまるとはさくらの飼っている白い猫のような生命体である。暇でしょうがなかった俺はそのうたまるという猫?の散策を開始する。
「どうせやることもないのだ今日こそアイツが猫でない事を証明してやろうではないか!」
意味のない気合を入れてベンチの裏の草むらを散策する。普段物臭なのにこんな事には情熱を燃やしてしまう自分がなんだか悲しい。
周りから見れば奇異な光景だが気にしない、俺は何かに没頭したかった。
それがどんなくだらない事でも構わない、何かに夢中になっていればノスタルジックな気分にならなくて済むからだ。
「しかし、それはそうとなかなか見つからんなあ」
いつもなら直に捕獲できる標的は今日に限ってかなり手ごわかった。
いつもなら俺の目の前にひょっこりと現われ頭を揺らして居るのだが、今日は中々発見に至らない。
「・・・ねえ」
草むらを散策している俺の背後から聞き覚えのない少女の声が聞こえる。
だが今の俺は振り向いている暇はない!グランプリは厳しい世界なのだ。
「今の俺は世界の神秘を発掘しようと汗を流しているんだ、後にしてくれ」
「え?でもボクには‘へんしつしゃ’にしか見えないよお」
「我輩も同感ですな、お穣」
随分と本人前にして酷いことを言ってくれる、それでも俺は散策を止めない。むしろその手には以前より力が入った。
「うおおおおおっっ、何処だあああ?うたまるううう!」
草むらと言う草むらを掻き毟っていく俺、もう世間体なんて気にするもんか、俺自由だ!神だ!俺は俺だけのモンだ!
チリン__________________
っと、背後から聞き覚えの有る鈴の音、
「背後に回られたか?」
戦闘態勢を維持させ背後に向き直る。が、そこに居たのは俺の標的ではなかった。一人の少女が俺の事を不思議そうな瞳で見つめていた。
その少女の容姿を良く見てみる、めまいを起こしそうなほど綺麗な銀色の髪の毛と血のような赤い瞳が印象的だ。
俺がうたまると間違えた鈴は少女の大きな黒い帽子に二つ付いていた鈴の事だろう。
体つきはすごく小さい、もしかすると‘さくら’よりも小さいかもしれない。
そしてその少女の手には、なんとも可愛げのない鎌を持ったブラックのうたまるが抱かれていた。
俺としてはその少女よりその何とも他人?には見えない黒い猫のぬいぐるみの方へ目が行っていた。
何も言わず俺はその少女に近付き、少女の手から興味の対象であるブラックうたまるをもぎ取る。
「うーむ、おまえはうたまるの親戚か?」
「あ〜、返して!それはボクのだよ!」
自分の事を‘ボク’と差しているところ物凄くさくらとリンクする。
俺はそんな少女の必死の嘆きとは裏腹にブラックうたまるを逆さにしたり引っ張ってみたりする。
「な、何をする!離せ!」
どこから声が聞こえてきたがこの際気にしない。
「ウム」
どうやらコイツは残念ながら手触りからして唯のぬいぐるみのようだ。ブラックうたまるという新種を発見したという俺の興奮が一気に冷めた。
「しっかし、可愛げの欠片もないぬいぐるみだなあ」
「何を言うか、無礼者め」
「へ?」
またさっきと同じようにどこからか声が聞こえた。一体どこから?
「返して、返してよお〜、ボクのアルキメデス」
「おおっ、悪い悪い。あまりにもミニマム過ぎて視界に入ってなかったぞ」
「む〜〜〜、ボクそんなに小っちゃくないもん!」
なんだか黒帽子の少女もご立腹な様子なのでぬいぐるみを返してやる。
(しかし、ホントにさくらに似ているな。)
だからだろうか?この少女を見ていると無償にいじめたくなってくる衝動に駆られる。
「大丈夫だった?アルキメデス?」
ぬいぐるみに心配そうに話し掛ける、どうやらあのブラックうたまるの名前はアルキメデスというらしい。
何とも奇怪な名前だ、しかし本当に大事なぬいぐるみなのだろう。
(少し悪い事をしたな)
「全く、なんで我輩がこんな目に」
「ん?」
おかしいな、今コイツから妙な声が聞こえた。それは気のせいではなく確かに。
「腹話術か?」
その可能性はゼロとは言えない、俺の後輩の女の子も人形をもってそいつで腹話術をしているし。流行っているのか?チビッコ限定で。
「え、ふくわじゅつ?」
「そうだ、お前が腹話術でこのブラックうたまるを喋らせていたんだろう?」
「え?よく解らないけど、ボクはアルキメデスを喋らせたりしないよ。勝手にアルキメデスが喋っているんだよ」
「・・・・・・」
「ちょ、なんでだまっちゃうの?」
「・・・・・・」
無言のまま俺はその身を翻す。
「え?え?どうして、何か僕あなたの気に障るような事でも、」
「悪いな、おいちゃんは子供の嘘には付き合ってられないんだ」
俺は躊躇なく歩き出す、どうもこの娘と居ると調子が狂う。一緒にいるのは別に悪い気はしないのだが、何か彼女を取り巻く空気が妙なのだ。
何か、他とは違うような不思議な感じ。
でも、その感じはどこか懐かしくて心地よくもあり寂しくもある。
「ったく、一体何なんだ?」
頭を描きながら俺は公園を後にした。
・・・・・
・・・・・
「ねえ、大丈夫だった?アルキメデス。」
「獲って喰われるかと思われましたぞ。しかしお穣、やはりあの男・・・」
「うん、ボクの姿も見えていたみたいだし間違いないと思う。でもどうして
かな?‘あの子’の魂はちゃんと行くべき場所へ運んだ筈なのに…」
黒い猫のぬいぐるみに‘お穣’と呼ばれた小柄な少女が先ほど純一が座っていたベンチに座り表情を曇らせる。
「いや、お穣は悪くないですぞ。あの者の魂はちゃんと行くべき場所へ運んだ事は我輩も覚えていますとも。
恐らく原因はこの島にあるのだと思われます。」
「この島に?」
「うむ、この島は何か不思議な力で溢れています」
「何?不思議な力って?」
「それは我輩にも解りませぬ。しかし、問題はこの島の力だけでは・・・」
「ん?何かいった?アルキメデス」
「いえ、なんでもないですぞ」
「そっか、それにしてもお腹減ったよお〜、焼きたての焼トウモロコシどこかに落ちてないかなあ〜?」
虚しく、少女のお腹がグウ、と鳴り響いた。
続く
スズランさんから頂きました。当サイトでは初めての香澄SS&水夏クロスSSです。
水夏とのクロスはさやか先輩がD.C.内に登場してますし、特に問題ありません。
香澄SSは書くのがかなり難しいので、すごく上手だと思います。
しかも、自分がもっとも不得意な長編。
本当は第4話まで一度に投稿して頂いたのですが、かなりの長編なので1話ずつ掲載することにしました。
近日中に2話を掲載したいと思います。
まだ完成してないそうなので、管理人も先が楽しみです。