HRが終わり俺は萌と待ち合わせした中庭へ行く。

中庭にもいくつか店が出ているがすぐにベンチに座っている萌を見つけることが出来た。

「お待たせ」

「あ、朝倉くん。いつも待ってもらってますし、いいですよ」
相変わらずいつものペースで萌は俺に言う。

「さ、いろいろ見て回ることにしましょう」
周りに人が多いので俺はあくまで先輩、後輩として接する。

「はい」

さて、どこから回ろうか・・・

「天枷さんのお店に行ってみませんか?」
俺が悩んでいると萌が提案してくれた。

「う〜ん。別に腹もそこまで空いてないんだけど・・・そうしましょっか」

それはいいけど、どこでやってるんだ?

「先輩、美春はどこで店してるとか言ってましたっけ?」
「え〜っと・・・・・・どこでしょうね?何も言ってなかったと思いますけど・・・・・・」
全く。来いと言っときながら場所を言わないとは。
美春らしいといえばらしいんだけど・・・・・・

「まぁ適当に回ってれば見つかると思いますし、とりあえず校舎に入りましょう」
「そうですね」




それにしても店の多いこと。
文化祭はクラス、部活と出し物の数の上限があるけど卒パは違う。
友達同士で出すことが可能なので数の上限が無い。
そりゃ俺みたいに何もしないのもいるけど、やっぱり何かした方が楽しいということか多くの人がなにかに参加している。

「朝倉くん、お化け屋敷ですよ」
「えっ?」
萌が指差した先には確かにお化け屋敷があった。
でも、所詮は学校の出し物だしたかが知れてるんだけどな・・・。
眞子と違い萌はホラーとかは全く問題ない。
眞子の怖がり方は凄すぎるけどな・・・。

「入ってみましょうか?」
「萌先輩が入りたいなら付いて行きますよ」
「じゃあ、入りましょう」
     ・
     ・
     ・
「うふふ、おもしろかったですね〜」
「かなり痛い目にあいましたけどね・・・」
楽しそうな萌とは対照的に俺は酷い目にあった。
怖さが足りない分を補充する為に明かりがほとんど無く、しかも俺はご丁寧に机にすねをかなり強くぶつけてしまった。
理由は簡単。すらすら進む萌を追いかけて慌てて進んだ結果だ。
萌は眠りながら歩くのに慣れているせいか、暗闇だというのにやけに早く歩けたのだ。
それにしても予想通り、中の仕掛けは全く大したこと無かった。
でも、眞子ぐらいの怖がりだったらこんなのでもギャーギャーわめくんだろうけどな。
姉妹とは思えないくらいに違うな。

「朝倉くん?大丈夫ですか?」
萌が俺の顔を覗き込んで尋ねてくる。

「えっ?ああ、はい。さぁ、次に行きましょう」
「はい」

その後しばらく、俺達は輪投げやら射的やらという縁日にあるような店を中心に回った。




「あれって・・・・・・」
そろそろ腹も減ってきたぐらいの頃にタイミングよく視界の中に真っ黄色の店が入った。

「バナナの匂いがしますね」
「やっぱり、美春の店ですかね?」
「行って見ましょう」

店(クラス)の前には長蛇の列とは言わないがそれなりに人が並んでいた。

「こんなに人が並ぶなんて結構人気があるんですね」
「そうですね〜。私達も並びましょう」
バナナの匂いが廊下にまでしている。
多分これが人を寄せてるんだろうな。

「しばらく教室はバナナの匂いがしそうですね」
「美味しそうでいいじゃないですか。私はバナナの匂い好きですよ?」
「授業にならないと思うけどな〜」
そんな他愛の無い話をしながら俺達は時間を潰す。

「いらっしゃいませ〜」
それからほどなくして俺達は店内に案内された。
名前は分からないが案内にやって来た子はどこかで見た記憶がある。
美春が主催のはずだから、美春の友達だろう。

「注文が決まりましたらお呼びください」
案内されたのは窓際の席でグラウンドの店が一望できる場所だった。


「え〜っと、朝倉くんは何にしますか?」
いつのまにかメニューを持っていた萌が尋ねてくる。

「そうですね・・・・・・」
何だ?このメニューは?
美春の考えた料理だろうからある程度予測はしていたが、それを上回る物がメニューの半分から下を占めていた。
上の方のバナナパフェ、DXバナナパフェ、チョコバナナ、バナナカステラ、バナナクッキー、バナナまんじゅう、バナナワッフル、
バナナマフィン、バナナクレープ、バナナジュースetc
よくもこれだけバナナ料理を用意したもんだ。

でも、後半のバナナカレーとか、バナナうどんはな〜。
バナナ流しそうめんってなんだよ?しかも期間限定って・・・・・・。
誰が頼むんだ、これ?
さすがバナナ専門店。全てバナナ一色だ。

「私はバナナジュースとバナナどらやきにしますね」
悩んでいる俺を見て、先に萌がオーダーを決める。

「俺も同じのにするよ。すいませ〜ん」
「は〜い。あっ、朝倉先輩、こんにちは」
来た店員さっきと違った。美春にさっちんと呼ばれている子だ。

「こんにちは。結構人が来てるね」
「そうなんですよ〜。わたしもまさかこんなに来るとは思ってなかったんです」
「みなさん大変そうですね〜」
萌が言うと大変そうに聞こえないのは何故だろう?

「そんなことないですよ。人数が多いから休憩もちゃんと回りますし」
「美春の人脈も大したもんだな。っと、オーダーいいかな?」
「あ、はい。すみません」

オーダーしてから数分で美春がシルバートレイにどらやきとジュースを載せてやって来た。

「よくぞ来て下さいました、朝倉先輩、水越先輩」
「それはいいとしてなんだその帽子は?」
俺は美春の頭の上に載っかているコック帽を指差す。
フランス料理とかのシェフが被ってるアレだ。

「えへへへ〜。どうです、このコック帽?わざわざ作ったんですよ?」
「とっても素敵な帽子ですね〜」
萌に褒められてとっても自慢げな美春。

「似合ってると思うが何の意味があるんだ?」
「え〜っと・・・・・・なんでしょうね〜?」
照れ笑いをしながら美春はどらやきとジュースをテーブルに置く。

「では、ごゆっくりしていってください。美春は仕事がありますから」
「はい、頑張ってくださいね」
「こけるなよ」
「大丈夫ですよ。って、あわわ」
言った側からこけかけてるし。
まぁ、美春らしいっちゃらしいけど。

3時ごろに店を出た俺達は次にことり達の演奏を聴きに行った。
ことりの歌はなんていうか心が落ち着く気がする。
一昨年以来卒パでだけ聞くことの出来る風見学園の名物だ。

その次は漫才とか落語とかあって少しテンションが下がったけど、ラストの眞子達音楽部の演奏はとりにふさわしかった。
相変わらず眞子のフルートは素人の俺が聞いてもすごいもので、聞き終わった後は思わずため息がこぼれてしまった。

体育館を出た俺と萌は並んで帰り道を歩いていた。

「眞子の演奏は相変わらず凄かったな〜。賞が取れるのも分かるよ」
「眞子ちゃんは頑張ってますからね。でも、私は・・・・・・」
「萌?」
「ううん。なんでもないです。今日はここまででいいですよ」
萌がここまででいいと言ったのは俺の家と萌の家への分かれ道だった。

「でも、もう暗いし」
「大丈夫です。今日は1人で帰りたい気分なんです。それじゃあ」
「あっ、萌!?」
萌はそれだけ言うと走って行ってしまった。
追いつこうと思えばすぐに追いつけるだろう。
でも・・・・・・

「どうしたんだろうな・・・・・・」



萌の卒業式が終わって数日後、俺は水越家に呼ばれた。
こないだの卒業式以来萌とは会っていなかったので少し不安だった。
昨日、電話がかかって来て家に来て欲しいとのことだった。
なんでも、萌が話したいことがあるらしい。

「改めて合格おめでとう、萌」
家に入ってすぐに俺は萌にそう言った。
昨日発表された国立は不合格だったらしいが、萌は私立大学には2月のうちにしっかり通っていた。

「あの・・・そのことでお話があるんです」
やけに真剣な顔の萌に俺は少し緊張してしまう。

「え〜っと、なにかな?」
「こんなところでもなんですから私の部屋へどうぞ」
萌に先導されて俺は部屋に通される。


お茶が出てきて一息つく。
沈黙が嫌で俺は口を開いた。

「で、話ってのは?」
「あの、実は・・・・・・」
言いにくそうにしている萌を見てまさか別れ話?とかまで考えてしまう。
いやいや大学の話だよな。
悪い考えを振り払うため頭を振った。

「私、大学に行かないでおこうかと思ってるんです」
唐突に言われた言葉に俺は一瞬反応できなくなってしまった。

「えっ?え〜っと、それって・・・」
「1年浪人しようかと考えてるんです」
大学そのものに行くのをやめるのかと思ってしまった俺は真っ白になった頭を必死に元に戻す。

「浪人!?私立に合格したのに!?」
思わず俺は声をでかくして叫んでしまっていた。

しかし、そんな俺とは裏腹に萌は冷静に言葉を返してくる。
「はい。もう1年ちゃんと勉強して朝倉君と約束した大学に入りたいんです」
去年の夏休み、俺は萌と約束を交わした。

それは、本島の国立大学に入ることだった。
萌の父親は別に医者にならなくてもいいといってくれていた。
だが、萌先輩と同じ大学に行きたいという単純な理由から俺はそういう約束をした。
目標を私立にしなかったのは親にこれ以上の負担をかけさせないためである。
ただでさえ音夢と俺とが離れて暮らしていて付属時代よりも金がかかっているのにこれ以上迷惑をかけるのには気が引けたのだ。

もともと病弱な音夢の面倒を見たりするのは嫌いじゃなかったし、将来特にやりたいことが決まってるわけでもなかった俺には
都合がよかった。
子供が特に嫌いなわけじゃないので内科や小児科の医師を目指すことにした。

でも、萌があの約束にそこまでこだわってるとは思わなかった。
浪人してまで約束を叶えようなんて・・・・・・

「でも、2つの大学は近いし何も浪人しなくても・・・・・・」
「約束ですから。・・・・・・私は朝倉くんと一緒の大学に行きたいです」
そういう萌の目はいつもののほほんとした雰囲気と全く違っていた。


「・・・・・・眞子とか両親には話したの?」
しばしの沈黙の後、俺はぼそりと尋ねた。

「まだなんです。反対されるでしょうか?」
「・・・多分ね」
眞子の慌てる顔と怒る顔が同時に頭に浮かび苦笑いしてしまう。

「それでも、私は・・・・・・」
「わかった。俺からも頼んでみるよ。でも、来年はプレッシャーがかかるな〜。絶対合格しないと」
正直現役合格の自信はそこまで無かったが、この半年の成績の上がり方を考慮すれば不可能ではない。

「はい。お願いします。今年以上に一生懸命勉強しますから」
「うん。俺も一生懸命やるよ。萌との約束だから」



この後、この話をすると当然眞子は反対したが萌の父親は意外にも反対しなかった。
母親も好きにしなさいと言ってくれた。
弟君もお姉ちゃんの好きにするのが1番だよ、とか言ってたし。

さて、これから1年どうなることやら。





終わり

えらく遅くなりましたが萌の誕生日SS完成です。ななこよりは早かったかな〜?
ちょっと失敗したか?って感じでしたがどうでしょうか?
前編で書いたようにこの話は一応長編の真ん中らへんです。
完成するかも分かりませんが、長い目で見てやってください。
頼子の誕生日が迫って休む暇もありませんが、誕生日SS以外も絶対更新します。
(よくよく考えると、シスプリの人数より多いんだよな〜)
では、次回作で。



                                   
萌の卒業

萌長編オリジナルストーリー 第4部 後編

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