萌長編オリジナルストーリー 第4部 前編

寒さ真っ盛りの2月を終えて3月の少し暖かい陽気の中。

桜が咲いたまま行われていた名物の卒業式もなく、いたって普通のどこにでもあるような卒業式始まった。

付属生の卒業と違い、進路の決まっていない学生も多く少しピリピリした雰囲気の中、本校生の卒業式が始まる。

付属生と時間をずらしての卒業式。付属生が卒パの方に移動してから本校生の卒業式が始まる。

基本的にほとんどの本校在校生は出席しなければならないが、卒パの関係上不可能な人については出席が免除されることになっている。

眞子は音楽部なので早くから行っているが、何も部活をしてない俺は当然ゆっくりと学園に向かうことになる。


今日の朝、俺は萌とともに学園に来た。

いつもは遅刻気味に来る萌を俺が水越家に迎えに行くのだが今日は反対だった。

家を出るとまだ結構早い時間だというのに門の横で萌が待っていたのだ。

「この道を学園に向かって歩くのも今日で最後なんですね」
学園までの道を半分くらい歩いたところで萌が急にそんなことを言った。

「そうだよな。こういうふうに萌と歩くのも今日で最後なんだよな〜」
人の目があるときは(この場合耳か?)萌には先輩として接するのだが、今は時間も早く人もほとんど見当たらないので堂々と恋人同士の接し方をしていた。

「そう考えると悲しいですよね」
本当に悲しそうに萌がため息をつく。

萌は頑張って勉強したかいもあり、私立の合格は決定しているのだ。
国立の方は自信は無いといっていたけど、センターも結構出来ていたし多分大丈夫だと思う。

「今日は卒業式なんだからもっと胸を張ってないとおかしいぜ?それに島を出ても会おうと思えばすぐに会えるしさ」
「でも、毎日って訳にはいかないですよ?」
「う〜ん。それは俺も出来れば毎日会いたいけどそんな訳にもいかないだろ?大丈夫、来年俺も同じトコに行けるよう頑張るからさ」
萌に付き合って勉強していたとはいえ、そんな簡単じゃないと思うけど・・・・・・

「そうですよね・・・・・・・・・」
とは口では言ってるものもなにか考え込んでいるようだった。

「結構早く着いちゃいそうだし卒パの準備でもちょっと見よっか?」
話題を変える為に適当なことを言ってみる。

「そうですね。そういえば今年もミスコンやるんでしょうか?」
「ミスコンねぇ。マンネリ化するかと思ってたらしつこいくらいに続くし、人気も衰えないし今年もやると思うな〜」
今回で8回目だったかな?
ことりが出れば1位は決定なんだけど2回目以来沈黙を守ってるしな・・・
そういや杉並は今回はなにするつもりなんだろうな?

「で、ミスコンがどうかした?」
「いえ、ただ杉並君に出ないかと誘われたんです」
「まさか出るんですか!?」
「い〜え。朝倉君と一緒に色々まわりたいですから」
「そ、そう」
なんのつもりで萌を誘ったんだ、あいつは?

頭の中にバカ笑いをするバカの顔が浮かぶ。

「着いちゃいましたね」
「えっ?」
萌に言われて前を見るともう校門の前まで来ていた。

「さぁ、色々と見てまわりましょう」
「そうですね」
周りに人が増え始めたので敬語を使い萌に対応する。

そう、萌先輩として。

「屋上で鍋をすることもできなくなるんですね」
「それはこの間、聞きましたよ」
「そうでしたっけ?」
「ええ。最後だからってみんなを集めて屋上で鍋したんじゃないですか。その時に。もう少しでバレそうになってあの時は焦りましたよ。さくらが誤魔化してくれたからよかったですけど」
グラウンドを横切り校舎の方へと向かって歩いていく。

「あ〜、はい。芳乃先生には感謝の気持ちで一杯です」
「先輩、受験の時に頑張り過ぎたせいで最近物忘れがひどいんじゃないですか?」
「・・・朝倉君、ひどいです」
「あははは、冗談ですよ。でも、ホントよく頑張りましたよ先輩は。絶対に無理だって言われてたのに合格したんですから」
半年前E判定で本当によく受かれたよなぁ。

「どれもこれも朝倉君の励ましがあってこそですよ。朝倉君がしてくれた約束のおかげです」
「そう言われると少し照れますね」

そう言って俺は空を見上げる。
太陽が照ってはいるが風はまだ冷たい。

来年からは1人で来ることになるんだよな。

音夢もいない。萌もいない。そう考えると少し寂しいな。


校舎に着いたが付属生の卒業式が始まっているのか付属の校舎の方の人はかなり少なかった。
本校の制服がたまに目に付くくらいだ。

「ここら辺はこれからって感じだしあっちの方に行こうか?」
「そうですね〜」
と、歩き出そうとした瞬間。

「あさくっらせんぱ〜い!」
どこかで聞いたことのある犬の声が聞こえてきた。

「美春は犬じゃないです〜!!」
「あれっ?俺、口に出したか?」
「ハッキリと聞こえましたよ。水越先輩こんにちはです」
むぅ、口に出していたとは。

「こんにちは、天枷さん。天枷さんも何かするんですか?」
「はいっ」
「へぇ〜。何をするんだ?バナナコントでもするのか?」
「ちっ、ちっ。今までの美春じゃないんですよ〜。今回は美春の人脈を総動員してバナナカフェを開くんです!!」
人脈ね〜。

「それはすごいですね〜。後でお邪魔してもいいですか?」
「はいっ、是非。お待ちしてますから」
尻尾が付いてたら振ってるんだろうな〜、などと想像してしまう。

「ま、お邪魔するのはともかくお前はここで何してるんだ?なにか用事でもあったんじゃないのか?」
「あっ、そうでした!買出しに行かないといけないんでした。それでは失礼します!」
そういうと慌しく校門の方へと駆けて行った。

「うふふ、天枷さんは元気ですね〜」
「それだけが取り柄だしね。寒いし校舎の中の方でも見ようか?」



時間が来て萌と別れて教室へ向かうと、もうほとんどの奴が到着していた。

当然バカも到着している訳で、俺を見つけると嬉しそうに近づいてきた。

「おうっ、朝倉。どうだ、今回の企画に協力せんか?」
「かったるいから遠慮しとく。それよりなんで萌先輩をミスコンに勧めたりしたんだ?」
「別に不思議なことではあるまい?先輩も普通に美人ではないか?」
「言われればそうだな」
美人だから推薦する。至って当たり前だ。疑問に思うほどでもない。

「なんだ?美人だと思ってなかったのか?」
「そういう意味じゃねぇよ。ほら、席に着けよ。さくらが来たぞ」
杉並を席に押し返し机に突っ伏す。

「今日は卒業式だよ〜」
さくらがなんか続いていろいろと連絡事項を伝えているがどうでもよさそうなのばかりだ。

「来年は自分たちなんだから予行だと思ってビシッと決めて行こうね〜」
さくらの声を合図に廊下に並び体育館へと移動を開始する。



「・・・眠い」
卒業生には悪いがくだらない話をするPTA会長が悪い。

延々としゃべり続けるまさにマシンガントーク。

誰も聴いてないだろ、コレ?

「クソッ、こういう時に端っこてのは目立つから嫌なんだ」

朝倉では出席番号1番は当たり前であって、当然卒業式の席も端になる。
あくびをかみ殺し眠気と闘う。
眠い。なんで体育館の中はこんなにもいい温度に保たれてるんだ?



睡魔に負けそうになったところでやっとこさ話が終わる。

「と、やっとこさ終わったか」

下を見ていた顔を上げ卒業生たちに目をやる。
・・・・・・萌先輩、寝てないか?
あの頭のゆれ具合からいって寝てるよな・・・
あ、やっぱり寝てた。隣の人に起こされてるし。

校長もさすがに2回目の話と言うこともあって短く切り上げてくれた。

にもかかわらず、

・・・・・・場の雰囲気を読めよ市長。

PTA会長、理事長、市長と来て。

そのあと卒業証書授与。

そういえば、卒業式の正式名称は卒業証書授与式なんだよな。

送辞、答辞の後に、校歌やら国歌やらを歌い卒業式は終わる。

それにしても、この校歌誰が考えたんだ?

そう心の中で呟いて俺は校歌が書いてある板に目をやる。

作詞、作曲白河まゆってことりの親戚か何かか?

こんなまんまラブソングな歌詞考える方も考える方だけど、それを採用するこの学園って・・・

暇な卒業式がやっと終わって卒業生が退場していく。

遠くからでよく見えないが萌先輩達3年生が卒業証書を持って退場して行くのを拍手で送った。

さてと、俺も教室に戻るとするか。





続く

かなり遅くなった萌誕生日SSです。長編予定ですので気長に完結をお待ちください(いつ完成することやら)
他の作品をほったらかしにしたくはないんですが、最近忙しい上に誕生日が重なるのでしばらく他のSSの更新は無理そうです。
やけに期待されてる音夢とさくら頑張りますそれでは後編に期待してください。
ちなみに第4部なのはス○ーウォー○と一緒です。



                                   
萌の卒業
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