kissの味はお酒の味?
「あれ?」
俺は生徒会室の鍵を開けようとして違和感に気付いた。
掃除もなく、HRが終わってすぐに来たのに鍵が開いている。
昨日はみんなで戸締りしたので、閉じ忘れたということは無いハズだ。
もう誰か来ているのだろうか?と思いつつ俺は扉を開いた。

「まーりゃん先輩、何してるんですか?」
そこには水色の縞パンをこっちに見せてロッカーを漁るまーりゃん先輩がいた。
正確に言うと首より上は見えない。
だが、こんなパンツ丸見えの格好でいる人で俺のデータベースに該当するのはまーりゃん先輩だけである。

「いや〜ここにあたしが前に持ってきた鬼殺しを置いたハズなんだけどね、それが無いんだな」
そう答えつつも、まーりゃん先輩は引き続きロッカーの中のものを取り出して行く。
鬼殺しって・・・

「酒か!酒なのか!?」
「やだな〜たかりゃんはあたしが酒を飲むと思ってるのか?」
「ええ」
「即答!?酷い、あちしは永遠の14歳なのに!」
まーりゃん先輩の正確な年齢は正直言って分からないが、14歳は絶対に無い。

「はいはい。それで鬼殺しって何なんですか?」
「日本酒」
「やっぱり酒じゃねぇか〜〜〜!!!」
「酒と日本酒は別物だよ、たかりゃん」
そう言うとまーりゃん先輩はようやくロッカーを漁るのを止めてこっちを向く。
よく見るとすでに酒を飲んでいるのか頬がほんのりと赤い。

「しかもそんなもんを生徒会室に隠してた!?何考えてんだ、あんた」
「そんな減るもんじゃなしケチケチしなくても」
「スペースが減りますし、もし先生に見つかったらどうなってると思ってるんですか!停学処分ですよ!?」
「俺はこの学校の生徒じゃないし〜」
すでに卒業してるからって、して良いことと、しちゃいけないことくらいあるだろうに。

「関係無いです!」
「ケツの穴が小さいこと言うなよ〜。なんあらあたしが開発してやろうか?」
「開発!?何意味分かんないこと言ってるんですか?!」
セクハラトークもいいところである。

「あ、間違った。拡張してあげようか?だ。似た意味だから同じだろ」
「拡張しなきゃいけないのはあんたの頭の方だぁ〜〜〜!!!」
「それはそうと本当にたかりゃん知らないのか?」
俺の叫びを無視して、まーりゃん先輩は酒の話を続ける。

「知りません!タマ姉が気付いて処分しちゃったんじゃないんですか?」
「ええ〜!そりゃ横暴だ〜!」
「横暴なのは勝手にそんなもん置いてるあんただ〜〜〜!!!」
さすがに叫ぶのも疲れて来た。酔っ払いを相手にすることの大変さが良く分かった。
いや、まーりゃん先輩の場合は素面でもあんまり変わらない気がする。

「たかりゃんに言っても仕方ないな。タマちゃんに直接聞くとするか」
「タマ姉なら今日は家の用事があるから来ませんよ。もう帰ったんじゃないですか?」
「何ですと!?仕方ないな〜。まなちんはいるかな?」
「愛佳ですか?今日も書庫にいると思いますけど、何の用ですか?」
確か愛佳も掃除当番じゃ無かったハズだ。用事が無いなら書庫にいるだろう。

「それは好都合。んじゃ行って来る!」
「あ、ちょっとまーりゃん先輩!?愛佳に何の・・・」
オレが言い終わる前にその姿は扉の向こうへと行ってしまう。全く、人の話を最後まで聞いて欲しいもんだ。
愛佳にどういう用なんだ?何かとてつもなく嫌な予感がしてきた。

「うぃ〜す」
ちょうどいいタイミングで掃除当番だった雄二が来た。

「雄二、ナイスタイミングだ。あと任せた」
「は?お、おいちょっと待てよ貴明〜!」
オレは急いでまーりゃん先輩の後を追う。




「良いではないか、良いではないか」
「ふえっ?そんなのダメですよ〜」
「まなちんはお固いな。最近の子はみんなこれで気持ちよくなってるんだぞ」
「そ、そうなんですか?」
「そうなのだ。だから・・・グイっといけ!」
書庫に入ると何やら不穏な会話が聞こえて来た。
気持ちよくなる?愛佳の艶姿を少し想像してしまい、俺は頭を激しく振った。

「何で酒盛りしてんの〜〜〜!?」
「あ、貴明君。前会長さんが飲めって行ってきて・・・」
「お、たかりゃんもやっぱり飲みたかったのか。ささグイっと行け」
机の上にはビール瓶とチューハイ。ソファの横にはビールケースがある。

「ここにも置いてたんかいいいいいいいいいい!!!」
「前会長さんがいきなり来たかと思ったら、床下から取り出したの。床下に格納庫があったなんて全然知らなかったのよ〜」
「ここで雀荘して稼いだ金を工賃に改築したのだ!主にゆまりゃんとかりりゃんからのお金だな」
「一体いつの間に・・・」

確かにこの前まで、ってか今もここで賭け麻雀をしてたのは知っている。
神聖な学び舎で何を、と思うかも知れないがタマ姉曰く『まーりゃん先輩が大人しくしてくれているなら良い』
ってことで暗黙の了解になっていたのだ。雄二が参加してアイアンクローをくらったのはまた別の話だが。
そして結果的に全く大人しくしていないことが今分かった。

「まなちんにバレないようにするのは結構大変だったぞ。とは言っても授業中は誰も来ないから楽勝だったけどな!」
放課後だけでなく授業中にも学校の中を徘徊してるのか、この人は。

「呆れて声も出ないですよ。改築は今さらどうしようも無いですから黙認しますけど、ビールはサッサと片付けて下さい!
バレたら書庫を入室禁止にされかねません」
「ええ!?それは困るよぉ〜」
「何だたかりゃんは彼女の艶姿が見たくないのか?」
「見たくありません」
本当は見たいが、ここで肯定すると愛佳が酒を飲まされてしまう。

「そんなキッパリ・・・」
しょぼんと愛佳が落ち込むのが分かったが、ここは状況を考えてくれ。

「つまんないな〜。ん〜じゃあ一つだけお願い」
まーりゃん先輩はまだビールを飲みつつ、人差し指を立てて言った。

「・・・何ですか?」
「たかりゃんじゃなくてまなちんに」
「え、え?私ですか?」
「上向いて」
まーりゃん先輩が立てていた人差し指を上に上げる。

「上・・・ですか?」
俺と愛佳がつられて上を向いた次の瞬間、まーりゃん先輩がビールの入ったグラスを愛佳の口に注ぎ込んだのが見えた。
同時に鼻をつまんで塞ぐことも忘れずに。

「何してんの!?」
「ふっふっふ、これでまなちんも同罪だよ」
「愛佳、早く吐き出すんだ!」
「それは無理な注文だね。顔を上にして鼻と口を塞いだら飲むしか無いし」
止めさせようとまーりゃん先輩の手を掴んだ瞬間、愛佳の喉にビールが流れ込んだのが分かった。

「の、飲んじゃった・・・」
「何てことを・・・」
愛佳の頬がみるみるうちに赤くなって行く。
何となく想像は付いていたけど、酒に弱いのだろう。

「んふふふふ。ほれほれたかりゃんもグイッといけ〜」
「無理にお酒を勧めちゃいけないんですよ!」
「1杯なら死にはせんわ〜!!」
「それが酔っぱらいの常套句です!って愛佳!?」
まーりゃん先輩に気を取られているうちに愛佳がチューハイを飲んでいた。

「まなちんいける口だな」
「美味しいですねぇ〜これぇ〜」
「お、良いこと思いついたぞ」
この人の良いことが良いことであった試しが無い。

「たかりゃんを押し倒せ!」
「え!?うわっ」
愛佳がまーりゃん先輩に言われるがまま俺を押し倒そうとする。
が、元から非力な愛佳が押したところで、俺が倒れるわけが無い。

「愛佳しっかりするんだ。まーりゃん先輩に乗せられちゃダメだって」
「たかあきく〜ん。倒れて〜」
そんな潤んだ瞳で見られても・・・
あ・・・愛佳のすっごくいい匂いがする・・・

「秘技足払い」
「え!?痛っ!」
視界が天井に向いたかと思った瞬間、後頭部に痛みが走った。そして気付くと愛佳に馬乗りになられている。

「まなちんチューハイを口に含むんだ」
「はぁ〜い」
「愛佳飲んじゃダメだ!」
まーりゃん先輩は新しいチューハイを愛佳に手渡し、それを愛佳が口に含んだ。
普段ならゼリービーンズを頬張ってハムスターのようになる愛佳が、今はチューハイを口に含んでいる。

「そしてそのままチュ〜だ!」
「えええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!???」
「ふわい」
みるみる内に愛佳の顔が近付いて来る。俺は身体が麻痺したかのように動かない。

「いや、ちょ愛佳!?」
そして愛佳は俺の顔を両手で抑え目を瞑った。

「ダメだってば」
俺はそう言いつつもほとんど抵抗出来なかった。

「GO!」
俺の唇に愛佳の柔らかい唇の感触が伝わって来る、と同時にチューハイが流れ込んで来た。
吐き出すわけにも行かず、俺の喉をチューハイが通って行く。




「ぷはっ」
全てを飲み干してようやく愛佳の唇が離れた。
10秒にも満たない時間だったのだろうが、1分くらいキスしてたような気がする。

「貴明君のキスってお酒の味がするねぇ〜」
それは俺じゃなくて、愛佳だと思うんだが・・・

「それじゃもう一杯だ、まなちん」
「はぁ〜い」
まーりゃん先輩はチューハイの缶を愛佳に手渡す。
相変わらず愛佳は俺に馬乗り状態。

「は!?愛佳駄目だってば」
「んふふたかりゃん、本気で嫌がってないよな〜?そんなにまなちんの唇は気持ち良かったか?」
確かに本気で嫌がってたら跳ね除けられる。しかしそれを認めたら負けだ。

「卑猥な言い方しないで下さい!」
「貴明君・・・嫌?」
そんな潤んだ瞳で見るなんて反則だ。

「その・・・だから時と場合が・・・」
「嫌・・・なんだ・・・」
愛佳の瞳に涙が浮かびあがって来るのが見えた。ここで嫌と答えられる奴がいるのか?

「嫌じゃないです・・・」
「じゃあもっとキス・・・しよ」
その後、何杯飲まされたのか記憶に無い。




「あの・・・貴明君、ごめんなさい!」
「ああ、うんいいよ。俺の方こそごめん」
ようやく愛佳が正気に戻った頃には、日が完全に暮れていた。

「貴明君が謝ることなんて無いよぉ〜。本当にごめんなさい」
俺としては愛佳にキスされて嬉しいだけなんだけど・・・
既に二日酔い気味なのは置いとくとして。

「貴明君、嫌だったよね?」
「そんなこと無いよ。愛佳にキスされて嫌なわけない」
「ふえ!?ええ〜と、その、あの」
わたわたと慌てる愛佳は見てて楽しいが、今は別にやることがある。

「それよりこれ・・・どうする?」
「どうしようか?」
俺と愛佳は未だに酒の匂いが漂い、酒瓶や空き缶が転がる書庫を見て溜息をついた。
ちなみにまーりゃん先輩はと言うと、ビール瓶を枕に大の字でいびきをかいている。

「さて・・・この元凶をどうしてくれようか」
「あ、それならいい案があるよ」
そう言うと愛佳は携帯を取り出して、まーりゃん先輩の写真を撮った。




翌日の昼、新聞部による号外が配られた。見出しは前生徒会長学校で酒盛り!
どでかい白黒写真も付いている。昨日愛佳が撮った写真だ。

記事の内容は
「二日酔いの状態で職員用男子トイレで発見され、現在も長い説教の最中!」と言ったものだった。
昨日俺が運んだんだが、まさか朝まで寝てるとは思わなかった。風邪ひいてないかな?

「ちょっとやり過ぎちゃったかな?」
「まぁこれくらいの方があの人にはいい薬なんじゃないか」
たまには痛い目を見た方がいい。

「コラー!まだ説教は終わっとらんぞ!」
「もう十分聞いたよ〜。勘弁してくれぃ、あたた、頭があああああ」
「・・・もう少し強い薬の方がいいみたいだな」
「そうだね。ね、貴明君」
「何?ん・・・」
愛佳の方を振り向いた瞬間にキスされてしまった。
昨日のに比べたらほんの一瞬のキス。

「昨日の余り覚えて無かったからやり直し」
「・・・・・・愛佳、周り」
「へ?」
「いいんちょ、やる〜」
「ヒューヒュー」
「ヒューヒューは古いだろ。ここはもっとやれだ!」
「もっとやれ〜!」
「ちくしょう!羨ましいぞ!」
一瞬だったが思いっきり周りに見られてた。

「はわわ。・・・う、うわ〜ん」
「あ、愛佳!」
「もうお嫁に行けないよ〜」
そんなことを言いながら愛佳は走り去って行く。
何かすっごい勘違いされそうなセリフなんだけど・・・
とりあえず事情を知らない生徒が誤解を生む前に早く愛佳を捕まえよう。

「ははは、ざまぁみろ!たかりゃん!いたたたた・・・」
「捕まえたぞ。さぁ説教の続きだ」
「きゃああああ犯される〜」
全く、この学校は今日も平和そのものだ。





終わり

ToHeart2SS第3弾はラブラブ愛佳SSでした。いかがでしたでしょうか?
ホントは郁乃SSよりもこっちの方が先に完成してたんですけどね。
こっちも麻雀の話がありますが、繋がってるようで繋がってません。
最初は繋げようかと思ったんですが、面倒になって止めました(ぉ
それでは次回のSSを楽しみに〜



                                      
inserted by FC2 system